賢者は使い魔   作:超高校級の切望

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異邦の魔法使い

「セザル王国のぉ………聞いたことないのぅ」

「つい最近帝国となったがね。戦勝続き、うれしい限りだ」

 

 学園長室にて、オスマンはケントの言葉に髭を撫でる。

 決闘騒ぎの後慌てた様子でやって来たコルベールに促されるまま、異邦として対面する。

 

「それも仕方のないことだ。こちらに始祖ブリミルの威光が届いていないように、そちらにも『原初の賢者』の名が響いていない。我々はそれだけ隔てた場所に居たのだから」

 

 具体的には世界が隔てている。オスマンはふむっ、と考え込む。

 メイジであると言うだけで、この世界において貴族の可能性が高まる。もちろん爵位を失った貴族や傭兵となった貴族、その子孫など様々な理由で平民のメイジは存在するが……。

 

 コルベールはジッとケントを見つめる。彼は、自分の上位互換だと、そう認識している。

 高い知識を持つ()()。街一つ焼いたことすらあるだろう、死の気配。

 

「そんな君が、ミス・ヴァリエールの使い魔になってくれた理由はなんだね?」

「訳あって、あの国から逃げたかった。その折に現れた召喚ゲートに呼ばれ、これ幸いと飛び込んで」

「逃げる? 何か犯罪でもしたのかね?」

 

 オスマンの警戒した視線に、まさか、と肩を竦めるケント。

 

「仕事が嫌になった」

「ほぅ…………」

 

 一瞬コルベールを見るオスマン。すぐに視線を戻すと暫しケントを見つめる。

 

「あい解った。君が生徒に危害を加えない限り、我々は君と敵対することはない」

「よろしいので、オールド・オスマン」

「我々がこうして生きている。信用するには、それで十分じゃろうて」

 

 どうやら実力差を見抜かれたらしい。中々見る目がある。流石はメイジ集団の長。

 

 

 

「良い学園長だな、ルイズ様」

 

 ルイズの部屋に向かいながら、ケントはオスマンを思い出しながら呟く。

 

「その様っていうの、やめて。貴方も貴族なんでしょ?」

「この地でその肩書に意味はないだろ」

 

 それに、何の後ろ盾もないこの世界で貴族では。

                         「貴族は貴族であることに意味があるの」

「良くわからんね。というかそうすると、他国の貴族を床に眠らせたことになるが」

「うっ………」

 

 めちゃくちゃ国際問題なことしてた、と固まるルイズ。いやでも、自分だって公爵令嬢だし…………。

 

「あ、貴方の貴族としての立場は?」

「大公」

 

 ルイズは気絶した。

 

 

 

 

「シエスタ、いるか?」

 

 翌日、厨房に顔を出すケント。声をかけられたシエスタは顔を青くして駆け寄ってきた。

 

「き、昨日は申し訳ありませんでしたお貴族様!!」

「ん?」

 

 シエスタは昨日の笑顔は何処へやら。顔を青くしてカタカタ震えている。

 

「お貴族様と知らず、あのような態度を!! 配膳の手伝いまでさせて!!」

「貴族様、その辺で勘弁してやってくれませんかねえ」

 

 と、厨房の奥から恰幅のいい男が出てくる。敵意と嫌悪が混じった瞳でジロリとケントを睨む。

 

「お貴族様の食事でしたら、どうぞ薄汚い厨房ではなく食堂で食べてください」

「そう卑下するな。多少の煤汚れは仕事の証だろう」

 

 貴族が嫌いのようだ。まあ、たった2日でも理由は察しがつくが。

 

「かしこまる必要はない。この国と俺の国がつながっていない以上、真実俺は平民と変わらない」

「………はぁ?」

「魔法を使うのが貴族じゃねえさ。俺の国じゃ、平民だって使うしな。民より税を受け取り、見合った仕事をするのが貴族。民も居ないここじゃ、俺はただの人だ」

 

 そう言って席に座る。

 実際、領地も捨て仕事もほっぽりだしたケントに貴族の責任はない。同時に資格もない。

 

「貴族ってぇのは、もっと俺達を見下してくるもんだと思うんだがなあ」

「俺は元々奴隷だ。地位で見下しはしねえよ」

「奴隷!?」

 

 ギョッと驚く男。それもそうだろう、トリステインでは平民が貴族になるなど考えられない。隣国ゲルマニアなら別だが、そこだって奴隷から貴族になる奴は居ないだろう。

 

「つまり俺は偉そうじゃなく偉いのさ。ま、何の関係もないこの国で偉ぶるほど傲慢じゃないさ。こちらの金は持ってないのでな、手伝いか、取り敢えずこれを換金してくれ」

 

 そう言って地金を渡すケント。

 

「………目利きは出来ねえが、まあ一食分以上はあるだろう。その、なんだ………すまなかったな。いけすかねえ貴族と同じかと」

「気にしなくていいさ。シエスタも、昨日と同じように接してくれれば助かる」

「ですが………いえ、はい。わかりました」

 

 貴族になるなんてどんな事をしてきたのかとコック長のマルトーに尋ねられ、ケントは人体改造とかその辺り隠し魔法使いに弟子入して、その後国に士官しモンスター、盗賊、敵国などとの戦いについて話した。

 

 隠し事はあるが、嘘は言ってない。

 例えば死にかけの王国を見つけ、4人で王城に乗り込み半ば脅したこととか、王族の生き残りの弟の方の暗殺者の才を目覚めさせたとかは隠してるが、誓って嘘ではない。

 

 マルトー達料理人やシエスタ達メイドも目をキラキラさせていた。

 

 

 

「えー、皆さんも知っての通り、ミス・ヴァリエールが召喚した方は異国の貴族です。それも、砂漠を挟んだロバ・アル・カリイエの。お互い相手の文化が解らぬことがあるでしょうが、トリステインの貴族として相応しい対応をするように」

 

 国名も知らぬほどの国出身のケントを、取り敢えず遥か東の土地出身ということにしたらしい。これなら調べようがないからだ。

 

 また、エルフと争う彼の国では様々なものが発展していると聞く。色々誤魔化すのに都合が良いのだ。

 

 

 

 

「それで、数日ってどのくらい?」

 

 夕方、授業が終わると足早に裏庭に向かったルイズは早速ケントに問いかける。

 

「系統魔法はまだ無理だが、コモン・マジックだけなら今すぐにでも使えるように出来る」

「ほほう、それは興味深いですなあ」

「つまりルイズの魔法の失敗の原因は、系統にあるということだね」

「……………なんでいるの?」

 

 当り前のように授業に参加しているギーシュとコルベールを見て目を細め尋ねるルイズ。

 

 コルベールはまだ解る。彼は教師で、研究者。異国の魔法文化に興味があるのだろう。でもギーシュはなんで? これが分からない。

 

「申し訳ありません。遠く離れた東方の魔法に興味がありまして」

 

 こちらは予想通り。

 

「ふっ。僕とケントは決闘で己の理解を深めた友だからね。決して、女の子に無視されるようになって寂しいとかじゃない」

 

 要は暇なのか。四六時中女を口説くような男だったから、女が寄りつかなくなるとする事がないのだろう。

 

「まあいい。邪魔しなければ」

「ええ。ミスタ・コルベールはともかく、ギーシュまで?」

 

 と、不満そうなルイズ。とは言え自分は学ぶ立場なので、教える立場のケントがそういうのなら仕方ない。

 

「まずルイズが系統魔法に失敗するのは、ストーブを………ああ〜。まあ、属性を無視すれば魔力過剰と思えばいい」

「魔力過剰?」

「基本的に魔法は込められた魔力が少なすぎれば発動せず、多すぎれば自壊する。当然魔力で構成された術式はその分強固になるがな………トライアングルとドットで同じ魔法の威力に込められる魔力の違いだ。因みに術式ってのは、詠唱を唱えると組み上がる魔法の方向性を定めるものと思ってくれ」

 

 ふむふむ、とギーシュが頷きコルベールがメモを取る。

 

「ところがルイズは自壊する前に込められた魔力が多すぎて、霧散する前に破裂する。それがあの爆発だな」

「成る程。つまり、ミス・ルイズの術式の構成が脆いということですか」

「いいや。術式の強度はむしろ高いほうだろ。ライン以上は間違いない」

「うん? しかしだね、ケント。それはルイズの魔力がライン以上と言うことになるよ?」

「そう言ってるからな」

 

 と、ギーシュの質問にあっさり応えるケント。え、と固まる一同。

 

「むしろ魔力量だけならトライアングルの教師どもですら足元にも及ばない。それがあの爆発の正体だ」

 

 

 

 

 ()()()。タバサは任務を受け、学院から飛び立とうとしていた。

 彼女は他国の人間で、騎士団に所属する騎士爵(シュヴァリエ)であり、汚れ仕事専門の北花壇騎士所属の騎士でもある。

 

 まずは宮殿で詳細を………。

 

「こんな時間にお出かけか?」

「!?」

 

 即座に振り向いて杖を向ける。しかし、そこには誰も居ない。

 

「こっちだ」

 

 再び声。振り向く前に見ていたはずの窓の外から。

 見れば使い魔のシルフィードの背に見知った男が座っていた。ルイズの使い魔。ケントだ。

 

「…………何のよう?」

「お前が学生にしては纏う空気が現役の戦士のそれだったんでな。これは見張っていれば面白いことになるぞ、と」

「面白いこと?」

「魔法使いと殺し合ったり、人間とは別系統の魔法使いと出会ったり」

「…………………」

「ああ、その反応は別系統の魔法使いか」

 

 顔には出さなかったつもりだが、読まれた。

 

「キュイキュイ! そうなのね、これからお姉様は危険な仕事なのよ」

 

 タバサはポカンとシルフィードの頭を叩く。

 

「危険。吸血鬼」

 

 と、タバサは言う。ケントは吸血鬼? と首を傾げる。

 

「それは両腕を巨大なコウモリの翼に変えて山を切ったり、体を霧に変え国民全員に吸わせ国そのものに寄生したり、森の獣全てを眷属に変え討伐軍を殺し取り込んだりするあの?」

「どこの吸血鬼なのね!?」

「俺の居た国近く」

「吸血鬼はそこまで恐ろしくないのよ! それ絶対別の生き物なのね!」

 

 シルフィードはキュイキュイ叫ぶ。

 

「彼奴等は人に紛れたり、屍人(グール)を作ったり、精霊の力を操るしか出来ないのね」

「拳で山を割ったりは?」

「出来ない!」

「そうか。まあこっちの精霊魔法にも興味がある。連れてけ」

「出来ない」

「……………一個貸し。ここで返せ」

 

 と、ここで借りを持ち出すケントにタバサは暫し考え込む。

 

 剣の腕はメイジ殺しと称えられる剣士の中でも最上位だろう。杖無しの異国の魔法も使える。

 実力はラインのド・ロレーヌを手玉に取れるほど。

 

「…………………………………………………わかった」

「めっちゃ間があったな」

「キュイ? お兄様も行くのね!」

「おう。よろし………お兄様?」

「キュイキュイキュ〜♪」

 

 楽しそうに歌っていて、理由を聞けそうにはない。

 

「詰めて」

「おう」

 

 タバサもシルフィードの背に乗る。しかし吸血鬼か………。

 実験動物全滅済み(ペットロス)だったし、新しく使い魔にしてみようか。

 


 

四大公

セザル王国の復権に貢献した4人の大貴族。帝国の国土の半分近くが実質的に彼等の領土。他貴族に領地を貸してその金で暮らしてる。

彼等の領地で不正を行えば錬金術か魔法の実験、あるいは首を切られるか殴られる。

四騎将が動き出した! 相手は死ぬ。

 

 

吸血鬼

一匹一匹が災害級の夜の王の一角。賢者や四騎将ですら、()()()()()()()苦戦する。これを単騎で倒せるのが英雄と凡人の区分けに使われる漫画で例えるなら強さを示すために絶対死ぬ最強的な立場。

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