賢者は使い魔   作:超高校級の切望

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微熱のキュルケ

「ほう、転移魔法事故………」

 

 オスマンはケントの背後に隠れる幼女を見て呟く。どうやら彼女はケントの知人らしい。

 ケントの祖国では魔法技術が発展し、その一つである瞬間移動という移動手段がある。

 

 戦時中、避難経路として使っていたそれに敵国の魔法が当たり暴走。多くはランダム転移を起こしたが、唯一行方不明だったのが彼女らしい。

 

「何とも大変な話じゃね。本当なら」

 

 オスマン以外でこの場にいるコルベールはエルザへの一切の警戒を緩めない。なかなか鋭い感性を持つ炎のメイジにエルザは顔を青くしている。

 

「そういうことでいいでしょう? 少なくとも、この国に迷惑をかけることはないと約束しましょう」

「…………ふむ。まあええじゃろ」

「オールド・オスマン!」

「ええやん。可愛いし」

 

 何故関西弁? コルベールははぁ、と息を吐く。

 

「彼がこう言う以上、私は異論を挟めません。ですが、もし生徒に危害を加えようとするのなら、相応の覚悟を持ってくださいね」

 

 種族についてはバレてないだろうが、相当数殺した事は完全にバレてるようだ。

 ケントの場合は軍人だから弁えていると思ったようだが、エルザは軍人じゃないのに多くを殺しているから完全に警戒対象。

 

 とは言えひとまず()()()

 エルザを知るタバサとシルフィードに口裏を合わせてもらえば後は大丈夫だろう。

 

 

 

「私の修行って、今日からやるの?」

 

 異世界の吸血鬼であるエルザがどれだけこちらの魔法を覚えられるかの実験。それがエルザを飼う理由だ。後ついでに改造もしてみようかと思ってる。

 

 とは言え………とケントは壁を見る。ササと隠れる赤い大きな蜥蜴。

 まあ異国の魔法と言えばそれまでだが、現状エルザが使えるのはこの世界の精霊術。口頭を行わず出来るようになるまで隠すか。

 

「あのサラマンダー、お兄ちゃんになんのようなんだろ?」

「さてね。尋ねてもそれは言えないとしか言ってこない」

「……………言葉、解るの?」

「使い魔だしな」

 

 ハルケギニアの使い魔召喚で呼び出された使い魔は会話を理解する程度に知能が発達する。主人の命令を即座に理解できる所以だ。

 

 犬猫のように人に近い環境で過ごした動物に至っては話すこともできる。

 相手に知能があるならケントは彼等の言葉を理解できるのだ。

 

「………お兄ちゃんは、どうして私を許したの?」

「許すも何も、自分の行いは悪じゃないと言ったのはお前だろ。自分は悪くないって言う奴程、自分が悪いことしてると思ってるのなんなの?」

 

 エルザは黙り込む。

 

 

 

 

「付いてこいって?」

「きゅるきゅる」

 

 エルザがルイズを着替えさせている間部屋の外に出ているとフレイムが付いてきてほしいと話しかけてきた。

 

 ずっと見られていて面倒だし、そろそろ話し合ってみるかとフレイムの後についていく。

 

 キュルケの部屋は明かりがついておらず暗かった。

 

「扉を閉めて?」

 

 ケントは扉を閉める。

 

「ようこそ、こちらにいらして」

 

 暗闇の中でもケントにはキュルケがベビードールを着ているのが見えている。同級生の中でも一番肉感的なキュルケが艶めかしい体のラインを晒している。

 

 彼女が指を鳴らすと床に置かれていた蝋燭に火がついていく。

 

「ここ最近フレイムを通して俺を探っていたのは何でだ?」

「バレていたの? なら、解るでしょ?」

 

 目を細め、クネリと身を捩る。己の美貌と色気、男の誘惑の仕方を熟知した動きに、ケントはああ、と納得する。

 

 そのままキュルケを押し倒した。

 

「………え?」

 

 何時押し倒されたのか。キュルケには時間を切り取ったかのように感じる速さだ。

 

「こっち来てから娼館にも行ってねえから溜まってたんだ。相手してくれんなら、相手してもらおうか」

 

 と、胸の間に挟んでいた杖を奪い、顎に手を添える。

 ケントとて男だ。永劫の寿命を手に入れて子孫を残す必要がない上位の魔法使いだって、不要なれど欲は存在する。

 

 特にケントは自称魔法使い一の常識人。常人の頃から持っていた欲求はそのまま。

 

 しかし自分で誘っておきながら、キュルケは不満げそうにケントを見つめる。

 

「わたくし、娼婦ではありませんことよ?」

 

 キュルケに愛を囁く男達と違い、火遊びですらなく、そういう行為のみが目的のケントにそう言うとケントは笑いながら離れた。

 

「恋の駆け引きごっこがしたいなら、そう急くな。俺は貴族と違って、恋人でもない相手ならやれれば過程とかどうでもいいし」

 

 逆にトリステイン貴族はやれ絆だやれ愛の証明だと詩だのデートだのと愛を育む事を優先する。キュルケの恋人になって、そこまでいけるのは果たして何人いるのやら。

 

「そうね。トリステインの男ばかり相手して、火遊びばかりに目を向けていたわ。燃えるような熱い夜を過ごしませんこと、ジェントルマン」

「この状況でジェントルマンねえ。ま、良いか」

 

 キュルケの片足を持ち上げるケント。

 期待と情欲に塗れた瞳で彼を見上げるキュルケだが、不意にケントは窓を指差す。

 

「ところであれはお前の友達?」

 

 そこにはイケメンが一人、恨めしげに部屋を覗いていた。

 

「キュルケ! 待ち合わせの時間に、君がこないから来てみれば………!」

「ペリッソン! ええと、2時間後に」

「話が違う!!」

 

 キュルケはケントにより枕元に置かれていた杖を手に取ると面倒くさそうに炎を放つ。大蛇のように蠢き窓ごとペリッソンを吹き飛ばした。

 

「まったく、無粋なフクロウね」

 

 キュルケはケントに向き直るが、ケントは楽しそうな顔で窓を見続けている。悲しそうな表情を浮かべる精悍な顔をした男が居た。

 

「キュルケ、その男は誰だ! 今夜は、僕と過ごしてくれるはずだろ!」

「スティックス! ええと、4時間後に」

「そいつは誰だキュルケ!」

 

 吹き飛んだ窓から入ってこようとするスティックスは、再び放たれた炎で吹き飛び落ちていった。因みにここは3階である。

 

「彼は知り合いよ。さあ、夜は短いわ、有意義な時間を過ごしましょう?」

 

 足を肩にかけ、ベッドにケントを押し倒すキュルケ。今度は彼女が上だ。ケントはやはり楽しそうに窓を指差す。

 

「「「キュルケ! そいつは誰なんだ! 恋人はいないって言ったじゃないか!」」」

「マニカン! エイジャックス! ギムリ!」

 

 ケントは賢者の中で特に好色な『堕婬の賢者』を思い出す。彼女も毎日毎日いろんな男を連れていた。

 

「ええと、6時間後に」

 

 面倒くさそうに言うキュルケに、男達は叫んだ。

 

「「「朝だよ!!」」」

 

 3人仲良く唱和し、キュルケはうんざりした声でフレイムに命じる。

 

「フレイムー」

 

 3人で押し合い結果として入ってこれない三人に火球が襲いかかる。3人仲良く落下していった。

 

「今日はもう来そうにないな」

「あら?」

 

 キュルケが振り返ると何時の間にやら窓から地上を覗き込むケント。キュルケが押し倒していた筈なのに、どうやって?

 

「楽しめたから帰る」

「え? いってしまうの?」

 

 キュルケは悲しそうな顔になる。計算もあるだろうが、本音でもある。熱しやすい性格のようだ。

 

「娼婦なら兎も角貴族相手はな。使い魔だし、俺」

 

 一応はヴァリエール家三女の所有物なのだ他の貴族とにゃんにゃんするのはあまり褒められた行為ではないだろう。

 

「お遊びなら付き合ってやるが、冷めやすくとも熱があるならお断りだ。幸いモテるんだ、他の男を探すといい」

 

 そう言って本当に部屋から出ていってしまう。結局最後まで子供扱いされていたキュルケは、ほおを膨らませ枕を殴った。

 

 

 

「街に行こう」

 

 翌日、虚無の曜日。その日は学業も休みなので朝からケントが提案する。

 

「宝石類換金して金に換えて、エルザの服とか剣を買いたい」

「服は兎も角、剣? エルザ、剣士なの?」

「ああ、有名な剣の一族だ。おもちゃより先に剣が与えられる」

「う、うん。そうなの」

 

 本人もそう言ってることだし、本当なんだろう。

 

「ルーンのコピーの実験にも丁度いいし」

「何か言った?」

「こっちの武器はどんなものかと」

「うーん。貴方の剣には劣ると思うけど…………」

 

 ギーシュとの決闘の際に抜いた剣を思い出すルイズ。質のいい剣はそれだけ高価となる。高価なものは、当然貴族が多い場所に売られている。となると………

 

「そうね。じゃあ、王都に行きましょう。今から馬借りれるかしら?」

「それなら俺がいいものを持ってる」

 

 

 

「私、剣なんて握ったことないけど?」

「訓れ………改造してるから問題ない」

「今改造って言った? え、待って、してる? 既に過去?」

 

 

 

 

 

 キュルケはめげずにケントを口説きに行くことにした。ケントが言うように冷めやすい彼女だが、逆に言えば燃えてる間はとても積極的なのだ。

 

 ルイズの扉をノックする。ケントが出てきたら、抱きついてキスをしよう。ルイズが出て来たら、流し目を送れば向こうから来るだろう。

 

 キュルケは昨日のあれがあるのに自分の求愛が断られるとは思っていない。

 

「…………」

 

 返事がないので扉を開けようとするも鍵がかかっていた。彼女は何のためらいもなく『アンロック』の呪文で鍵を開ける。ちなみに校則違反である。

 

 ツェルプストー家の家訓は恋の情熱は全てにおいて優越する、なのだ。

 しかし部屋の中には誰もいなかった。

 

 鞄がない。出かけたのだろうか?

 

 窓から外を覗くと門から出ていくケントの後ろ姿が見えた。見たこともない乗り物に乗っている。

 

「なによー、出かけるの?」

 

 つまらなそうに呟くキュルケ。少し考え、ルイズの部屋から飛び出した。

 

 

 

 

 タバサは本を読んでいた。

 吸血鬼退治が終わったと思えば、今度は不登校の息子を学校に連れて行けと面倒な依頼を受け、なんやかんやありはぐれメイジと戦うことになったり面倒くさい仕事だった。

 

 帰ってみたら何故かエルザがいたし、彼女こそが吸血鬼だったし、なのに太陽の下を歩いていたし色々あって疲れた。

 

 今日は本当の意味で休み。何もせず、外にも出ず、本の世界に浸ると決めた。が、キュルケが突撃して本を奪い竜を貸せと言い出す。

 

 キュルケじゃなかったら魔法で吹き飛ばしてやるところだ。親友である彼女は自分が虚無の曜日をどれだけ大切にしているか解るはずなのに、と不満に思うも、また何時もの病気。

 

 聞けばケントに恋をしたが、そのケントはルイズと共に出かけていった。馬ではない、妙なマジックアイテム。馬より速く、追い付くにはタバサの風竜の力が必要。

 

 親友が自分にしかできないことを頼みに来た。ならば応えてやるのが彼女だ。

 口笛を鳴らしシルフィードを呼び寄せる。

 

「ケントを追って」

「キュイ!」

 

 一鳴きすると、シルフィードは高空に昇りその視力でケントを確認するとそちらの方向に向かって速度を上げた。

 

 

 

 

 ケントが前にいた世界は科学と魔法が一体化した世界。魔法があるのだから、という理由で科学技術が廃れたりしない。むしろ、生まれ故郷の地球より遥かに発展していた。

 

 そんな中存在するエンジンは、基本的に発電か循環機に使用される。何故か? 細かいパーツとか必要なのに、街道に出ればモンスターに破壊されたりするからだ。

 

 だったら回転の術式を刻んだ馬車の方が遥かに低コスト。しかし、ケントはあえて内熱機関式のバイクを作った。完全な趣味だ。

 

「速いわね」

 

 サイドカーにてエルザを膝に乗せながら流れる景色を見るルイズ。ガタガタと少し揺れるがそれでも馬より気にならない。なんなら座席も柔らかいし。

 

「お兄ちゃん! もっと、もっと速く!」

「え、エルザ? これ、結構速──」

「任せろ。スピードの向こう側を見せてやる」

「おー!」

「きゃああああああああ!?」

 

 ルイズの悲鳴はドップラー効果を残しながら風に流されていった。

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