賢者は使い魔   作:超高校級の切望

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虚無の曜日

 トリステインの城下町。白い石造りの街は、まさしく白の街と言えるだろう。

 物売りの声が響き、忙しくなく歩く者、のんびり歩く者など様々。休日だからか老若男女、所狭しと歩いている。

 

 エルザはその正体ゆえに人の多い街には訪れたことがないので、少しだけ怯えケントの服を掴んでいる。その背後の男が急に何かに殴られたように吹き飛んだ。

 

「え、な、なに?」

「人攫いの鼻が砕けただけだ。気にするな」

「いや気にするでしょ」

 

 困惑するルイズとエルザを他所にケントは宝石類を売る為に店を探す。ああいった高級店は大通りにあるものだが。

 

「まさか、この狭さで大通りとはな」

 

 ブルドンネ街。5メートルもない、トリステインで一番大きな通り。セザル帝国が王国だった時代の大通りでもここまで狭くない。

 

 

 

 

「スリには気をつけてよ」

 

 宝石類を換金して金貨を手に入れた。ルイズが持ってきた金よりも多い。

 

「さて、まずは服か」

「武器を先にしましょう。彼処、汚いもの。せっかく買った服が汚れちゃう」

「ああ、武器って平民向けだからか」

 

 貴族御用達は大通り。それ以外は裏へ押し込む。そういう事だろう。

 

 裏路地は悪臭が鼻につく。ゴミや汚物が道端に落ちている。

 

「汚い………」

「取り繕ってんのは見た目だけか」

 

 少し裏に潜っただけでこれだ。不衛生は疫病を生むことを知らないのか、知ってても燃やせばいいとでも思っているのか、トリステインの王都が管理するのは表通りだけらしい。

 

「この辺りのはずだけど………」

 

 ルイズもとっととこんな場所から出ていきたいのか、目的の店を探してキョロキョロ辺りを見回す。

 

「あ、あった」

 

 なので見つかって嬉しそうな声を出した。剣の形をした看板がぶら下がっている。彼処が武器屋だろう。

 

 中に入ると薄暗く、ランプの明かりが所狭しと並ぶ武器を照らしていた。

 店主はやって来た客に面倒くさそうな視線を向け、しかし紐タイ留めに描かれた五芒星………始祖の残した五系統を示す貴族の証を見てドスの利いた声を出した。

 

「貴族様、うちは真っ当な商売をしてまさあ。お上に目をつけられるようなことなんて、これっぽっちもありませんや」

「客よ」

「こりゃおったまげた! 貴族が剣を? おったまげた!」

 

 腕を組み言い放つルイズに、大げさに反応する店主。

 

 坊主は聖具を振り、兵隊は剣を振り、貴族は杖を振るう。そして陛下はバルコニーからお手を振る、なんて相場で決まっていやすと戯ける店主。

 

 ケントは無視してメイスを一本軽々持ち上げる。

 

「持ってみろ」

「ちょ!?」

 

 突然投げ渡されたメイス。牛の首でも圧し折れそうなそれが投げられ驚くエルザ。ルイズが小さな悲鳴を上げる。怪我をすると思ったからだ。

 

「…………あれ、軽い」

 

 左手から発生した熱がジンワリと全身を覆い、エルザはメイスを片手で持ち上げる。

 それどころか効率的な振り方まで頭の中に入ってくる。

 

「成功か………まあコピペだからそこまで自慢することでもねえが、頭パーにならなくて良かった」

「ねえお兄ちゃん。今とても不穏なこと言わなかった? ねえ?」

 

 店主やルイズが驚く中、ケントはふと無造作に積まれた剣の束を見る。ほぼ全てに錆が浮いている。中古品だろう。

 

「お客様。大剣がご入用でしたら、丁度業物がございますぜ、はい」

「業物?」

 

 店主はスリスリと手を擦り、店の奥に引っ込む。

 立派な剣を油布で拭きながら持ってきた。

 

「へえ」

 

 ルイズが感心したように声を漏らし、エルザも目を輝かせる。

 見事な剣だった。1.5メイルはある大剣。柄は長く、両手で握るようだ。所々宝石が散りばめられ鏡のような刀身が光っている。

 

「綺麗」

「ん〜………ああ。いや、俺が欲しいのは斬れる剣だ。儀礼用は要らねえ。ペッ……知人の娘への初めてのプレゼントって事なら。欲しいか? この鈍ら」

「言い方………欲しくなくなるよお兄ちゃん」

 

 速攻で鈍ら扱いされプルプル震える店主。だが、確かにこの剣は飾る為の物で斬るためのものでは無い。鉄でも斬れる、なんて豪語しようとしたが、しなくて良かった。目利きが出来るとは。

 

「うはははは! あっさり見抜かれてんなぁ、ザマァねえや!!」

「うるせえ、デル公! 黙ってやがれ! 客がいるんだよ!」

 

 突然聞こえた声にギョッと驚くエルザとルイズ。店主は頭を押さえ、ケントは驚いた様子はない。2人が見るのは中古品。

 

「インテリジェンス・ウェポンか………」

 

 そう言って、ケントが指をくいっと動かすと無造作に引き抜かれ手元に飛んでくるのは錆だらけのボロボロの大剣。

 

「なんだよ、魔法使いが何だって剣なんて求めてるんだ?」

 

 声は、その剣から発せられていた。

 

「精霊や他の魂が入ってる訳じゃなく、純粋な人造魂魄………これは、術式自体は精霊の………」

 

 こちらの人間が先住魔法と呼ぶ力が使われている剣。完全にゼロから造られた魂とは、向こうでも珍しい。精霊入れるとか罪人とか赤子の魂を使えばいいのに、一々ゼロから作るとか面倒じゃん、と思う奴等が多いからだ。

 

「んん? おでれーた! お前『使い手』か! しかも、彼奴と同じで、魔法も使える!!」

「彼奴?」

「彼奴だよ。ええと………忘れたや。昔のことだからなあ」

 

 物語とかでは重要な伏線だったりするのだが。ふと、ケントはエルザを見る。

 

「握ってみろ」

「ええ?」

 

 困惑しながらも剣を受け取るエルザ。剣は困惑したように唸る。

 

「ん? んん〜? こっちも『使い手』? どういうこっちゃ!」

「そのまま写しただけだからな。てか、やっぱこのルーンか。お前、名前は?」

「デルフリンガーだ。『使い手』なら俺を買え。どっちでも良いから。退屈なんだ、6000年も生きてると人生刺激が欲しい」

「人、生?」

 

 エルザは首を傾げた。剣なのに人生とは。

 

「6000、ねえ………」

 

 ケントはその数字に目を細める。

 

「とは言えこんな錆びた剣じゃなあ…………ん? いや、まてこの術式。ふむふむ、へえ………ちっと改良もして、ここがこうで」

「お、おいおい何すんだ相棒?」

 

 ケントはブツブツ呟きながらデルフリンガーに指を這わせる。何かを描くようにも、或は剥がすようにも見える。

 

「よし」

 

 そう言うと背中の剣を抜きデルフリンガーと合わせる。

 そしてデルフリンガーを元の場所に戻した。

 

「買ってあげないの?」

「錆びた剣は要らねえ。気分はどうだ、デルフリンガー………長いな。デルフ」

「どうって言われても何がなんだか………ん? おお!!?」

 

 今度はケントの剣からデルフの声がした。

 

「おお〜。そういやあったな、そんな力。忘れてたぜ……でもこれ、壊れた時用だった気がするんだがなあ」

「細けえことは気にするな。機能も足しといたぞ。後、許容量も、前より上がってる。これは術式というより剣の性能の違いだがな」

「おお。至れり尽くせりじゃねえか! ありがとよ、相棒!」

「んじゃいくか」

「私の武器は?」

「…………あ」

 

 

 

 短剣と投げナイフ数本。それがエルザの武器だ。

 買ってもらい、ルンルン気分のエルザ。次は服。

 

「貴族用の服より平民の服だな。シエスタから場所は聞いてる」

 

 と、地図を取り出すケント。

 

「服は………詳しそうな奴に見繕わせるか」

「え?」

 

 大通りに出たケントが振り返ると、赤髪と青髪の見知った人影が見えた。

 

「ダァ〜リン! 待ってくれたの?」

「此奴の服を見繕ってくれ」

 

 抱きつこうとしてきたキュルケを避けエルザを見せる。キュルケはあらかわいい、と微笑む。

 魔法の事故でハルケギニアに来たケントの同郷を拾ったとは聞いていたが、こんなにかわいい子だったとわ。

 

「そうね、行きましょう。エルザちゃんだったわね? ついでにタバサ、貴方の服も選んであげる」

「必要ない」

「殿方を誘惑するのには必要よ。ほら、行くわよ! あ、ヴァリエールも来る?」

「どんな店に連れてく気か知らないけど、お断りよ!」

「じゃ、私達4人で行きましょう」

「え………」

 

 ケントまで付いていくので、ルイズは仕方なく付いていくことにした。

 

 

 

 

 その後着せ替え人形にされたタバサとエルザ。2人揃っておそろいの、されど色違いの服を着せられたりしながらキュルケは全部買った。エルザの分はケントが払った。

 

 帰りは全員でシルフィードの背に乗って学院を目指す。

 

「…………貴方の授業」

 

 ふと、タバサが呟いた。授業と聞いて、ルイズが反応する。

 

「出てみたい」

「あら………」

 

 ケントの授業。異国の魔法理論………とは言っても、魔法の心構えや成り立ちだけだが………参加者はルイズとギーシュ。時々コルベールなのだがキュルケも存在は知っていた。

 

 フレイムを通してその光景だけは見ていたからだ。

 生徒の一人として扱われるだけだから避けていたが、タバサも出るなら出てみても良いかもしれない。

 

「………それにしてもタバサがねぇ」

 

 その胸の奥に熱を持つ前に好みのタイプなのか尋ね、その時は結局違うと言われたしタバサもそれ以来ケントと関わってなかったが、もしかして心変わりでもしたのだろうか?

 

「負けないわよ、タバサ」

「なんのこと?」

 

 親友と男を取り合う。本来なら避けるだろう。熱してもすぐ冷める男との時間より、タバサとの友情の方がキュルケには大切だからだ。それにキュルケは命のやりとりが面倒だから一番には手を出さない。

 

 タバサはまだ強い炎にはなってないようだが、これで積極的になるかもしれない。

 

 或はキュルケがタバサの過去を知れば彼女の幸せのためにサポートするのかもしれないが、今はただ親友同士。恋のライバル(こういう)関係も悪くないと思っている。

 

「そう言えば、エルザちゃんはどうなの? お兄ちゃん取られるのは、やっぱり寂しい?」

 

 キュルケは女の勘で、エルザが見た目より精神が大人びているのに気付いている。流石に本当に見た目以上の年とは思っていないがとてもませた子だとは思っているので、興味本位で尋ねる。

 

「…………お兄ちゃんは………ご主人様、かな。私、お兄ちゃんの従者の剣士一族だし」

 

 ということになっている。実態はペットだが。

 ただ、とエルザは夕焼けに染まる草原を見る。闇に生きる者として、本来見ることの叶わない筈の景色。

 

「………まあ、感謝は、してるかな」

 

 

 

 

 暫くして学園が見えてきた。だけど、妙な影がある。

 

「………?」

 

 そして、轟音が響く。

 

「「「!?」」」

「でっけえ土人形」

 

 三人娘が驚く中ケントは呑気に眺める。妙な影の正体は巨大な土の塊。人の形を象る土塊の巨人は、恐らくギーシュのワルキューレと同じゴーレムなのだろうがサイズも込められた魔力も桁が違う。

 

 円錐状の手は錬金で鉄に変えられ、貫通力を増しているようだ。

 

 壁にかけられた『固定化』は、化学変化や魔法の影響を防ぐのだったか? 物理攻撃には弱い。とは言え、分厚い壁はそう簡単に壊せないようだ。

 

 ゴーレムの背に乗った人影は此方に気付いたようだが、特に反応しない。無視して問題ないと判断されたのだろう。実際、生徒だけならまともに相手になるのはタバサぐらいか。

 

 生徒だけなら。

 

「あれは賊だな」

 

 ケントがスッと手を横に薙ぐと現れる無数の魔法陣。光が、炎が、雷が、風が、水が、氷が、闇が……多種多様の魔法が放たれゴーレムを消し飛ばす。

 

「!!?」

 

 咄嗟にゴーレムから飛び降りた賊は浮遊の魔法を使い地面に降り跡形も無く消し飛んたゴーレムが立っていた地面を見る。

 

「お前、希少生物(トライアングル)だな?」

 

 後ろから聞こえた声に即座に振り向き礫の雨を放つ。中々の反応速度だが、全て空中で止まる。

 

「まあ落ち着け。殺したりしねえよ。タバサやキュルケと違って、希少な人権のない犯罪者だ」

 

 此奴今めちゃくちゃ不穏なこと言わなかった?

 

「三食ちゃんと与えるし、頭がパーになっても直してやろう。命に関わる実験も週に1回にしてやるから、大人しく投降しろ」

「!!」

 

 返答は呪文。ケントの足元を油に錬金し、発火の魔法。続いて土を操り閉じ込め鉄に錬金。

 即席の竈は一瞬で凍り付き、砕ける。

 

「よし、好きにしていいな(捕まえるか)

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