一年生編最終話です。それと、今回は後書きが少し長めです。本文もですが。
「……さっむいなあ」
ピアノの前にいる間は、時間は外で流れている感覚がある。張り詰めない神経、指先から身体に連なる慣れ、曲によっては楽譜要らずな理解、だからなのか疲れも感じない。一通り打鍵を終えて気がつくと、三時間近くが経っていたりする。
「あーいたいた委員長。カタツムリみたいに縮こまってるけどそんなに寒い?」
「んー、リハの時は暖まってたんだけど待ち時間がな。後、和歌山じゃここまで寒くなかった。絶対」
「近畿でもそんなに変わるかな……寒いならもう一度合わせとく?別にプログラムは押してもないよ」
「いや、止めとこう。あの頃よりは上手くなってる自信ならあるけど、少し落ち着く時間も欲しいし」
「オッケー」
廊下の窓枠で切り取られた長方形の空を眺める。日差しは薄い雲でろ過されて、太陽が寝坊している気配が窺える。人よりも目覚めるのが遅い星がこの世界にはあるらしい。軽く目を閉じ、冷えた手を摩擦熱で暖めようと数回擦り合わせた。
「なあ井上さん、本当に俺なんかが呼ばれて良かったのか?一言も喋ってねえ同級生とか先輩の方が多いぞ」
「それなんだけどほら、去年ウチでじわじわと文化祭の事が広まっちゃったじゃん?あれが相当評判良いらしくて。ナックル先輩とか沙希先輩以外にホルン隊の友達とかにも聴きたいってせがまれちゃって……定演で忙しいからって言ってたらこう……じゃあ卒部会でやるのはどう!?な感じで話が進んじゃって」
「話持ちかけてきた時の井上さん、滅茶苦茶恥ずかしがってたもんな」
「当たり前じゃん!今でもその件を振られたら恥ずかしすぎて死にそうになるのに!」
そんな世界の下にある北宇治高校の卒業式まで、残り数ヶ月だった頃。生徒会にすら加入してない俺には縁はないとばかりに、進級までの期間を緩やかに過ごそうと贅沢な時間が過ぎていた所で……その母校の吹奏楽部から推薦に近い形で卒部会での演奏依頼が舞い込んだ。文化祭で披露したメドレーをドラマーと共に先輩達に聴かせて欲しいという。
有志からの熱いメッセージを断るつもりはなく、二つ返事で快諾。久々の舞台とあれば、断る理由がない。休み時間に触れるピアノは卒部会向けの曲目重視で、定期演奏会の合間を縫った井上さんと幾度か空き教室でセッションも重ねた。
「あの様子だと、北宇治以外でも知ってる連中いるだろうなー」
「や、止めてよ委員長!それを言うなら委員長だって色んな人に知られてるでしょ!」
「まあ起きちまった事は気にしても仕方ねえ、俺と井上さんが首突っ込んだ結果なんだから受け入れねえと」
「はぁ……本番前なのに違う意味で緊張してきた」
手を団扇みたいに扇いで照れていると主張するドラマー。そして制服のポケットに両手を突っ込んで暖を取るピアニスト。季節が二つ混じっている変な廊下だ。
「今は音楽室で何やってんだ?」
「丁度合宿の振り返り動画の上映会。そこから先輩達のマジックショーがあって……その次が私達。卒業生側と在校生でお互いに演奏するんだけど、実質出し物としてはラストかな」
文化祭でのトラブル対応は、突発的な対応で出張った以上は下手な真似は出来ない。そういう強迫観念があっただけに危うい演奏ではあったけど、今は不思議と肩の力が抜けている。
その頃とは違い持ち込んだキーボードとドラムセットでリハを重ねられたのが大きい。尤も、井上さんはまだしも俺がトリに相応しいかは分からない。
「なんか、不思議なもんだな」
「何が?」
「いやほら、俺からすれば単にピアノ弾いてただけだからさあ」
「吹部目線で言わせてもらうと、委員長は最早ピアノを弾いてただけじゃない気がするけどね〜」
記憶に間違いが無ければ、中世古先輩には他の皆にも聴かせて欲しいと頼まれた。川島さんからもまた聴きたいです、と。あの手の口約束は所謂リップサービスだと捉えてたが、どういう巡り合わせなのかこんな形で約束を果たす日が来るとは思いもしなかった。
その約束に、きちんと応えられるだろうか。
「悪い、冷静に考えたら緊張してきた」
「ちょっと!さっきまで普通に受け入れてる感じだったじゃん!」
「いや、楽譜ど忘れしたとかって感じじゃなくてさ。期待に沿うかどうかっていう不安、みたいな?」
「それなら大丈夫でしょ、練習でもリハでも良い感じだったし!文化祭のセッションより絶対上手くなってるって!」
「……そっか、そうだな」
そう、俺は頼まれた。だったらその期待に応えるだけだ。窓際にもたれ掛かった身体を勢いよく引き剥がして、両手を突き上げ大きく伸びをした。さっきまでリハーサルで暖めた身体が再び血流で暖まっていく。
「なあ、『つばなれ』って知ってるか?」
「つばなれ?何それ」
「十を超えたらそう言うらしい。日本語で数字を数えるとひとつふたつみっつ、って数えるだろ。それが十を超えると『とお』ってなって『つ』が取れるんだと。だから『つばなれ』なんだよって釜屋さんから聞いた」
「つばめが出典って事は、お笑い用語かな?」
「かもな。今日の観客も言わばつばなれだし」
「じゃあ平気だ、私はコンクール以外でもつばなれの中で演奏してきたし。委員長だって文化祭で飛び入りでやってたもんね!」
「だな、それに──」
ふと、駅ビルで宝島と今日と同じメドレーを弾いた事を思い出した。宝島もそのメドレーも、黒江が聴いてくれていた。メドレーだけなら黒江の友達も一緒だった。あの広かった場所に打ちっぱなしのコンクリートなら、見えてない場所にまで聴こえてたかもしれない。学校の昼休みに至っては噂話になる程度には聴かれている。自分でも知らない内に、何かを積み重ねてきた証だった。
「それに?」
「いーや、なんでも。お互いに準備万端、って事で良さそうだな」
「勿論!」
『それでは続きまして……パーカッションの井上さんと滝先生のとこの委員長、矢田明宏による文化祭ジャズメドレーでーす!』
「言ったそばから呼び出しとはなあ」
「でも、何時でもいけるんでしょ」
「おうよ。副委員長、のんびり叩いてたら置いてくぞ」
「委員長こそ。文化祭の時みたいにブレブレの演奏してたら恥かくからね!」
矢田明宏、余程間違いがなければ十六歳。引き取られて京都で住み始めてから一年が過ぎた。そんな京都での生活で今俺は、先輩達の卒業という一つの節目を迎えようとしている。
「やっぱりまだ寒いなあ」
ゲストとして腕前を披露した吹奏楽部の卒部会からほんの数日。外を吹く風は冷たくて、三月の上旬にしてもまだ気温が低い。暖冬になるって予報が覆ったのかと思ってしまった。雲がうっかりして、紐を緩めたお陰で朝から雪が降っている。コンビニの軒先で立っていただけで、靴先が白く染まっていた。
そんな今日は、母校である府立北宇治高校の卒業式。雪だから延期なんて話もなく、予定通りに三年生達が巣立つ日を迎えた。
「今頃、卒業証書でも受け取って退場してんのかな……」
捲りたくはない左の袖を捲って腕時計を見る。遅めに登校してたとしても、そろそろ体育館からは立ち去る頃合いだろうか。早めに終わって教室で最後の挨拶、もしくはグラウンドや回廊で談笑する時間帯。
「冷てっ」
捲った左腕に雪が触れた、その気温差でボーッと眺めていた頭が冴えてしまい捲った袖を急いで戻す。当事者でもないのに想いを馳せても仕方ない、そう言い聞かせて身体を温める為の飲み物でも買おうと財布をポケットから取り出した。
そんな時、ここ暫く耳にしていなかった人物の声が聞こえた。
「──お、矢田じゃん!卒業式に来てないと思ったらこんな所で油売ってたんだ〜」
その声は懐かしくもありそうでなんだか久しぶりという気もしない、田中先輩の声。首元にチェックのマフラーを巻き、制服の上に暖かそうな紺のコートを羽織ってる。
「ども、先輩。卒業式の日にしては早くないっすか?」
「式自体は終わったよ。でもああいう雰囲気って苦手だからさ」
「ああいうってのは?」
「ほら、なんかあるでしょ。『先輩、お元気でー!』とか『卒業してもしっかり!』とかそういうの」
今生の別れと呼ぶには大袈裟だけど、在校生と卒業生が最後の交流を惜しむ時間。目の前の先輩はそんな空間にベッタリと居座る様な性格をしてないのは、見れば分かる。
「苦手そうっすね。確かに」
「矢田こそなんでこんな所にいるのよ、ナックルや沙希にでも会いに来た?多分まだいるよん」
「二人へは卒部会の時にもう挨拶を済ませました。今日はどうせ、この後バイトなんで」
「そっか」
田邊先輩や加山先輩とは、卒部会終わりに言葉を交わした。練習前にピアノを弾かせてくれたお礼とか、メドレーの感想なんかも貰った。今から会いに行けなくもないけど、二人は俺以外とも交流がある。そこに水を差すつもりはない。
「先輩。わざわざ一人で抜け出して来たんですから時間、ありますよね」
「そりゃああるけど。何々、もしかして愛の──」
「卒業祝いにしても質素ですけど、温かい物奢ります。んで、公園とかでちょっと喋りませんか。散々俺に付き纏って来た訳ですし……一度位俺から付き纏っても良いっすよね」
「──わかった。その卒業祝い、元副部長が受け止めてしんぜよう」
ほぼ通学路沿いにある隠れた公園まで、先輩を連れて来た。まだ卒業式の余韻が残ってるのか雪の積もる遊具で遊びたくないのか、北宇治の生徒はおろか近所の子供すらいない。
「まさか来た道を戻るなんてね」
「すんません、この辺りで公園って言えばここしか知らなくて」
連れてきた先輩に何を言うでもなくブランコの方へ赴いて、軽く座板の雪を払って座る。田中先輩は気付けば隣でハンカチを引いて漕いでいる。座るだけならベンチもあるのにブランコに座ってしまうのはなんでだろうか。引力?
「今思えば、あんたとこうして腰を据えて喋るのは初めてかも」
「そっすね。部活で会わないし、会っても立って話すだけだったんで──はい先輩これ、ささやかながら卒業祝いっす」
「コーンスープって矢田……本当にささやかじゃん。まぁ、あんがとね」
「質素ながら一年間の感謝を込めた一品っす」
「もっと色々施したつもりだったんだけどなー、矢田の好感度が足りなかったか〜」
「先輩が貯めたポイントで交換出来る景品なんてたかが知れてるんすよ」
ビニール袋から取り出したささやかなスチール缶を、先輩は苦笑いで受け取った。そのパッケージを見つめながら軽口を飛ばす先輩を見て、俺の分のコーンスープも取り出しタブに指を引っ掛ける。
「その代わりに……どうせ今日限りなんでこういう事、しましょうよ」
隙間が大きくなる程に大きく立ち昇る湯気は段々、冷えた空気と混ざり合って消えていく。その湯気が立ち昇る間にと思って、タブの付いている方を先輩に向けて差し出した。
「……特別だからね。なんだかんだ、あんたには世話になってたし」
「んじゃそういう事で──乾杯」
スチール缶同士の、乾いた音が響く。飲み物が入ってる分シンバルには遠く及ばない音ながら、今の気分にピッタリの小気味よい金属音だった。
「缶のコーンスープなんて久々に飲んだな〜」
「これ割と好きなんすよ。何時も底に何粒か溜まって取れないんすけどね」
「あんたもこんな事で悩むんだ、可愛いとこあるじゃん」
「割と真剣に悩んでるんすよーこれ」
メトロノームよりは不規則な振り子の運動で、他愛のない会話を重ねながらブランコを漕ぐ。錆びた鉄の鎖が擦れては揺れる。聴こえる音なんて、この周辺にはそれしかない位の静かな空間で先輩と会話をしているこの状況が、不思議と愛おしく思える。
「先輩、色々あって言いそびれてましたけど……」
「何々?」
「全国大会お疲れ様でした。銅賞とはいえ、全国に行っただけで快挙っすよ」
「あーそう来るんだー、それじゃあ私も。卒部会の演奏……カッコ良かったぜ!もう会えないだろうし、パーカッションの井上ちゃんにも伝えといて」
「了解っす」
「てっきり誰も見てない所に呼び出した上で、私への愛の告白!なのかと思ったのにな〜」
「寝言は寝て言ってください、せめて卒業おめでとうございますとの二択にして欲しいっす」
卒部会を除けば、田中先輩と去年以来会っていない。吹部の全国大会があっても尚遭遇すらしなかった。銅賞に終わったという報せも、パーカッションの皆から聞いただけで先輩からは一言も聞いていなかった。
他に聞かされたとすれば、塚本や学校の垂れ幕位だろうか。
「先輩が大会に出られるかどうか、みたいな話で持ちきりだった時以来っすよー対面するの。そりゃあ言う機会を逃すってもんです」
「あーあの頃ね……懐かしいな」
「去年は俺も内心ヒヤヒヤしてましたけど、無事出場出来て良かったっすよ」
「……そうね。あの頃は私も年貢の納め時かと思ったもん」
「先輩に納める年貢とかあったんすねー、貯めたポイントがコーンスープ一缶分なのも納得っす」
「あははっ、ほんと──あんたは何処までも生意気な後輩だよ」
ちょっとした嫌味のつもりだったのに、髪を揺らして軽い笑顔で受け流される。こういう飄々とした所はどう取り繕っても敵わない。俺が卒業した頃に再会したとしても、先輩は先輩のままだろう。
「……全国大会前の話なんだけどさ」
そんな飄々としている先輩が、雪の降る空を見上げながらブランコをゆっくり軋ませて語りかけてくる。
「私のお母さんの事、覚えてる?」
「まあ、はい」
「本当はさ、お母さんに私が説得しようと思ってたの。模試で結果を出すから部活動に口出ししないでって」
「じゃあ説得出来た、で良いじゃないんすか」
首を黙って横に振っている。先輩がコンクールの舞台に立てたのは知ってるけど、当事者としては事情が違うらしい。
「結果的にはね。でも、そうじゃない──私が説得しようとする前に、お母さんから持ちかけてきたの」
「何を?」
「『全国大会であの楽器を吹きたいなら、吹いても大丈夫な事を結果で示しなさい』って、模試の結果が返ってくる前日にね。正直こっちが驚いちゃった」
互いの鎖が軋む音が増えていく。その振れ幅も少しだけ大きくなる。
「あの人の事だから、ユーフォの話をしたらまたビンタの一つでも飛んでくると思ってたもん。自分からその話は避ける人だし」
「そんな人を説き伏せようとしたら、逆にあっちから持ちかけられたと」
「そうね。お母さんの中には私の理想像があって、そこに吹奏楽は入ってない、そういう人だったのに向こうから来たら驚くでしょ」
「まあ、確かに」
「正直ね、私はちょっと諦めてた。夏紀と黄前ちゃんに託して、このままフェードアウトするのが一番って思った日もあった。でも、諦めなくて良くなった。私が説得するよりも前にまるで──別の誰かが説得してくれたみたいな」
ブランコを漕いでいた足で振り子を止めて、先輩がこっちを見ながらそう呟いた。そんな先輩に一瞬気圧されて、少しぬるくなった缶を口元で傾けてコーンスープを粒毎飲む。先輩の母親と遭遇した事は誰にも話していないのに、これじゃあまるで……。
「……職員室で会った先輩の母親は、その誰かに説得されたって意志を捻じ曲げる人とは思わないっすよ」
「私だって今でもそう思うよ。それでもあの人から、あのお母さんが、娘に道を示してくれた。何かあったとすれば、私にとってはそれだけで伝わる」
敢えて先輩の母親と何を話したかまでは聞いてこない。そもそも、先輩自身は俺がその母親と遭遇したのを知らない筈だ。あの母親なら、わざわざ後輩と喋った事を話そうとも思わないだろうし。でも、それすらも見通している気がする。
「だからありがとね、矢田」
「俺よりもお礼を言うべき人達は沢山いますよ、きっと」
「ふふふ、やっぱり。やっぱりあんたは──私にとってのデスティニーだ!」
「そりゃ……どうも」
無邪気に喜ぶ先輩が、今はなんだか眩しかった。
「先輩。卒業祝い、まだ欲しいっすか?」
「くれるのなら貰おっかなー」
「卒業祝いというか呪いというか、どうせ最後なら押し付けてやろうと思って。何か知らないんすけど、今日憑き物を落としたみたいな顔してるのが気に食わないんで」
「高校生活最後の日なのに面白そうじゃない。乗った!」
そんな無邪気な今の先輩なら、打ち明けても構わないと思ってしまった。これが卒業祝いの餞別になっても、呪いになってもいい。呪いってのは、元々災いを取り除く為の物だと本で読んだ事がある。誰かを呪うって事は、その逆も出来る。これは俺からの……呪い返しだ。
「俺、先輩の事が羨ましかったです」
「どうして?」
「なんというか自由で、自分本意で、それなのに人望もある。そんな自分さえよければって感じなのに、将来を本気で考えてくれる親までいた。そういう家庭があるってのは、俺からすれば羨望の対象でした」
「あんたなら分かると思うけど、ウチは羨むような家庭じゃないよ」
「いいや、羨ましかったです。施設で育ってきた孤児の俺にとって、そういう家族がいるってだけで」
先輩と俺の周囲を渦巻く景色が暗くなる。それを打ち消そうとする白い雪が降る。その相反する色彩がぐちゃぐちゃになって、空よりも鈍色になっていった。
「……今も孤児じゃ、なさそうだよね。和歌山から京都に引っ越したって話だったし」
「はい、今は里子として引き取られたんで。でなきゃ今もあっちの高校に通ってたっす」
「家の都合って言って勧誘を断り続けたのは、建前じゃなかった訳ね」
黙って先輩の言葉を肯定する。どのみち里子として引き取られなくても部活に入るつもりはなかった。先輩であれクラスメイト達であれ、その姿勢を一年間貫き通して今がある。
「親とか家族って概念を知らなかった俺にとって、知ってからの人生は毒に溺れてるみたいでした。心にぽっかり穴が空くって言いますけど、実は最初から空いてたんすよ。そんな感覚を埋め合わせようとした俺は良い奴と思われたくなって、頼られたくて、必要とされたかった。麻痺してた感覚を無自覚に埋め合わせようとしてたんです。そうして育ってきたのが矢田明宏でした」
「……さっき呪いを押し付けるって言ってたけど、それがこれ?」
「そうっすね。先輩に末代まで呪うって言われたんで、俺も先輩を呪ってやろうと。最後にこんな話を聞かされたら、少しは薄暗くなると踏んだんで」
そう言うと先輩は、漕ぐのを止めていたブランコを再び漕ぎ出した。どう見てもその横顔には呪いで苦しむ人の表情なんて浮かんでいない。
「ふふふ、そっか、そうだったんだ、やっと分かった。卒業する日にやっと掴めた────矢田、あんた呪うって言ったけど寧ろ逆だよ、それ」
「はい?」
「あんたがここまでずっと、吹部や周りに力を貸してた理由、原動力の見当たらなかった好奇心、そんな底知れなさの正体がやっと掴めた!それをやーっと種明かししてくれたんだから、呪いじゃなくて祝福だよこれは。残念だけど私はそれを、卒業祝いとして受け取ります」
「こういうの、普通は面白がらないもんだと思ってました」
「幾ら私だって、出自の話を面白がりはしないよ。こっちも苗字が一度変わったし。ただあんたのそれを呪いと呼ぶには、打ち明ける動機が優しすぎるかな」
「…………」
「だから私は、優しさに免じてその呪いを貰ってあげる。何処まで持って行くか私にも分からないけど、その呪いはきっと、あんたが誰かを救ってきた証でしょ」
雪が、降っている。傘も差してない。フードも被っちゃいない。ただ雪にしては、目尻に当たる雪は暖かかった。コーンスープの缶程暖かくはない。ただ、暖かかった。
「……そういう所をずっと出してりゃ、もうちょい好感度高かったんすけどね」
「私的にはずっと出してたつもりだったのにな〜」
「まあ、先輩の来世に期待っすね」
一瞬火照った顔も、曇りな外気が包んで冷やしてくれる。お陰で頭も冷えて出自を打ち明けた頃よりは冷静に台詞が練れる──。
「最後だろうから聞いておきたいんだけど矢田。あんた去年の駅ビルのコンサート前に会ってた清良女子の超可愛い子、あれってナンパ?それとも知り合い?」
──筈だった。斜め四十五度どころか死角からの口撃まともに喰らって、漕いでたブランコから滑り落ちた。
「っててて……な、なんでそれを……!」
「その反応……何々何々!?まさか遠距離恋愛的なあれ!?」
「違う!!」
「私こっそり見ちゃったけどさ、あの距離感はそういう事でしょ!?何時何時、出会いはいつ!?」
何時どこで見てたんだよ!?何処から嗅ぎつけた!?あの場は黒江と再会した嬉しさで周りが見えて無さ過ぎたか……!
「そ、そんなんじゃないっすよ!あいつとは別に、偶々中学の頃に転校してきただけで……」
「それなのに京都で再会してたの!?最早運命って次元じゃないじゃん!」
掘り進められればられる程、墓穴になる予感がする。危険信号が脳内で鳴りっぱなしだ。
「……もう一度言いますけどあいつは別に、そんなんじゃないっす」
「じゃあなんなの?もう私は教える相手もいないんだからさ、お姉さんに教えてご覧なさいよ。ある意味一番の卒業祝いだよ〜これは」
完全に、他人の話を興味本位で面白がるモードに入ってる。出自の話は面白がらない癖に、他人のこういう話には首を突っ込みたがる先輩だ。なんだかんだ言って、俺からの呼び出しを愛の告白だとか抜かせる人間、それが田中あすか。
さっきの度量の大きな先輩も、噂話が好きそうな先輩も、どっちも田中先輩なんだろうな。だからこそ、今まで振り回されてきた。
「別に、惚れた腫れたとかそういう訳じゃ……」
「そんなに否定したい訳?」
「……切れて欲しくない縁なんすよ。時間で疎遠になるより、強烈な楔を打ち込みたい。それに、対等にも見てやりたい。男子とか女子で対応を変えたくなくて、転勤族なそいつにとってクラスで仲良く出来る環境が作りたかった。校舎で怒られるまで鬼ごっこしたり、机を並べて弁当を食べたり。それが正解かは今も分かりませんけど」
「ふーん…………これは女の勘だけどそれ、大正解かもね。だからこそ、駅ビルの広場で会えたんだと思うよ」
「だと、良いんすけどね」
「その子があんたを好きになってたらどうする?」
考えてもみなかった難問だったものの、頭を捻るまでもなかった。黒江は、様々な男子をその振る舞いで勘違いさせては、告白を断ってきた。それでもママだなんて渾名で呼ばれる程度には卒業までずっと、高い好感度を保っている世渡り上手。黒江がそういう感情を抱いていたとして、何時か向こうから、そんな告白があったとすれば──。
「……そいつに当たって砕けた男子、結構いるんすよ。母性的なの振りまいて勘違いさせて。それが万が一、億が一にでもそういう気持ちがあったとして、それを伝えてくれたとしたら、全力を以って応えます。男として、く……そいつの告白に応える義務があるんで」
「矢田も矢田で、大概じゃん」
「恋愛感情を宿さずそいつと触れ合えた事、一生かけて思い出します。今でもそれが正しかったって信じたいんで」
今なら公園一帯に積もる雪が溶けそうな位、恥ずかしい。それはもう、恥ずかしい。
「そんな矢田に、私からもプレゼントあげよっか」
「ぷ、プレゼント?」
「正確にはまだないけどね。今度吹部の卒業生で卒業旅行に行くの、スキー場にね。そこであんたにお土産を買ってあげる」
「どうせもう会えないでしょうに、買ったって意味ないっすよ」
「あんたが北宇治にいる内は幾らでも会えるでしょ?でもその為に態々来校したりしないから……ちょっと回りくどい渡し方をしてあげる」
「本当にくれるんすか?」
「お姉さんを信じなさい!……って言っても、半信半疑な目だね」
「好感度足りてないんすよ、だから信用出来ないっすね」
「あー生意気!まっ、楽しみにしときなさいよ」
別に俺は本気で先輩を嫌ってはいない。多少、鬱陶しさから来る煙たさを感じるだけで。それに、本当に鬱陶しかったとしたらこんな風に先輩を連れて公園で駄弁ったりなんかしてない。卒業祝いなんかも渡してやらない。
「俺なんかより、先輩の母親に買ってあげてくださいよ。唯一の肉親なんすよね」
「……そんなに買ってあげて欲しい?」
「少なくとも、俺なんかよりは。本当に嫌ってるなら手切れ金みたいにしてもいいですし、今後も親子として縁を繋ぎたいなら、早めの母の日って感じで」
先輩はそんな俺からのお願いに対して少し口を閉ざした。その間に振り子が数回往復しては鎖が軋む。それもそうだろう、今のは他人が家庭に干渉する類いの我が儘だ。聞く道理がない。
「…………荷物、増えちゃったな」
「お土産ってそういうもんすよ」
これは買うのを承諾した、と捉えていいんだろうか。でもきっと、それでいい気がする。だってこんなに柔和な微笑みの先輩なんて、もう二度と見られないから。
「やっぱり今日の先輩、憑き物落ちてますよね。何かありました?」
「憑き物かぁ……そう見える?」
「はい、とても」
今日コンビニ前で遭遇した時からそうだった。今の先輩はまるで長年掛けられた呪いを取り払ったみたいな、昔からのしがらみから解き放たれたみたいな、とても清々しい感情が滲み出てる。隠す気がまるでない。
「んー、憑いてたってのはちょっと違うかな。落ちたってのも違う」
「どう違うんすか」
「色々と託したの。欲しがってた後輩に」
「へえ」
なんというか、物好きな後輩がいたもんだ。どんな憑き物かまでは分からんが、厄介事ばかりだった先輩のそれを欲しがるなんて。
「受け取ってもらえて良かったっすね」
「──うん」
願いか、祈りか、どういう種類の憑き物なのか。当事者にしか知り得ない事だとしても、ここまで清々しくなれるものなんだろうか。
俺としてはその託された何かが抜け落ちた先輩は、ほんの少し物足りなく写ってる。
「……先輩、俺がピアノを引き続けてる理由、なんだと思います?」
「何ー藪から棒に。聞かせて聞かせて」
「周りが楽しんでくれるとか、ピアノが面白いからってのは勿論っすけど、原動力を辿ればただ一つ。施設の隅で膝抱えて泣いてたガキの頃の俺の為っす」
「なーんか私利私欲っぽいのに、あんな風に弾けちゃうんだ」
「アーティストなんて大層な肩書きじゃないしこれは俺の主観っすけど……音楽ってのは、オーディエンスに向けて弾く必要なんかないんす。何処までも、自分の為であるべきです。準備段階のワンツースリーが巡り巡って拍手に変わるとしても、楽器に触れる指も息遣いも全部、泣きじゃくる自分を宥める為の音なんです。未来の俺は大丈夫だから、隅で縮こまらなくても平気だぞって言い聞かせるみたいに」
この言葉も正直な所、誰に向けた言葉でもない。雪を降らせる雲へと飛ばす。強いて言えば自分に言い聞かせて俺で在り続ける為の言葉だ。それを先輩が隣に居るこの空間で呟いている。
「だから、だから先輩も、ユーフォを吹き続けるべきっす。コンクールの為じゃない、これまでみたいに自分の為でいい。小さな頃の自分を放ったらかしにするのが、一番やっちゃ駄目な事っす」
「ふふふ、何それ。それこそ──」
「呪いっすよ。さっきの施設や孤児だったって話よりずっと、先輩にとっては呪いになるでしょう」
二人で、言葉を飛ばした先の空を見上げる。見渡す限り灰色に染まる空はとても、卒業を祝う天気には見えない。先輩みたいに、何処までも自分勝手で、先輩らしい空だ。
「──別に私、大学で音楽系のサークルになんか入らないよ。置き場には困るし香織とルームシェアするんだけど、その下宿先では学校みたいに吹いていられない。吹けても休日の昼間だけ」
「それ位で良いっすよ、何処までも自分の為にあるべきって呪いなんすから」
「……ある意味、北宇治の誰よりも物好きな奴かもね。あんた」
先輩の笑い混じりに少しだけ漏れた白い息が、空気中を漂う雪と混ざる。やがて有耶無耶になって空間に溶け込んでは消える。元の天気と変わらない景色が再び広がった。
「そろそろ帰りますか。時計の針が半分は回ったんで」
「ふーん、結構喋ったね。それじゃあ私は帰るよ、あんたはバイトもあるんでしょ」
「まあ、そうっすね」
揺れるブランコを止めた足で、そのまま勢いよく立ち上がる先輩。それを俺はまだ座ったまま見届ける。
「矢田!」
「なんすか」
「あんたはさよならって言ってほしい?それともまたね?」
「……正直どっちも違う気がします」
「何よ、別れの挨拶は要らねぇ!とかそういうタイプ?」
「もっと、もっとこう相応しい奴を知ってます」
何時だったか、英語で分からない所があって質問に行った時、英語の先生が教えてくれた。使い道の分からなかったそれを、今なら言える気がする。
「何?」
「アロハ、とかどうですか」
最後の最後で、先輩の呆気に取られた顔が拝めた。今日引き留めた理由を後付けで埋めるとすれば、この顔を引き出す為だったのかもしれない。
「矢田、あんたそれ意味分かってる?ハローとグッバイ、それから──」
「アイラブユー」
ラブにも色んな愛がある、これは親愛を込めたアロハだ。ライクでもラブでもない、単なる挨拶としてのアイラブユー。来世で繰り返したとしても先輩に対して愛の告白なんてしない。
もし、もしも俺の口から本当の愛の告白が出てくるとすればそれは……それは恐らく、たった一人への。
「────矢田、アロハ!」
破顔した田中先輩が、振り返らずに積もった雪に足跡を付けて立ち去っていく。やがて先輩の姿も、靴で雪を踏み固める音も聴こえなくなって、公園に一人取り残された。その先輩の足跡にだんだん新しい雪が積もって足跡を埋めていく。花冷えの季節の雪が、先輩の軌跡を守ってくれる。
大丈夫っすよ。もう誰も、先輩の付けた足跡を荒らしたりなんか出来やしないんで。先輩は、一番先に足跡を付ける様な人だから。
「────アロハ、先輩」
矢田明宏、余程手違いがなければ十六歳。こうして京都での一年間に幕を降ろす。初めは引き取られたばかりで不安がずっと渦巻いていた心も、今は昔。過去にメッセージを送れるなら、大丈夫だって伝えたい。これからもきっと、大丈夫。
なあ、黒江。こんな所で言っても届かないけどさ……黒江ともう一度会うのに相応しい男に俺、なれたかな。
「ただいま、お母さん」
先輩達が卒業して三年生が学校からも部活からもいなくなって、暫くが過ぎた頃。雰囲気と指導方針をそのままに座奏もマーチングにも熱が入るコーチの指導は、去年の全国金賞に憧れた新入生の子達にとって新しい刺激になっていた。
それは清良女子高生二年目の私にも、一年生だった私にとってまた違う楽しさが生活の一部として根付きつつある。
「おかえりなさい。今日の学校はどうだった?」
「楽しかったよ!お勉強はちょっと難しくなってきたけれど、マーチングは去年より上手にやれてる気がするの」
「そうなの、それは良かったわ!お母さんも去年みたいに応援に行くからね」
「楽しみにしてるね!」
キッチンで良い匂いをさせながら迎えてくれるお母さんに、今日あった楽しい事を喋る。矢田君に話す前に学校であった事を聞いてくれる穏やかなお母さんは、彼に出生を打ち明けられてからはより大切な時間になっていった。
「おお真由、おかえり」
「ただいまお父さん、今日はお仕事早いんだね」
「ああ、今日は何時もより早く片付いたからな。久しぶりにみんなで外食しようか」
「うん!じゃあ早速着替えてくる!」
お部屋からまだワイシャツを脱いでいないお父さんが、わざわざ出迎えてくれた。そんなお父さんも私が体験した出来事をじっくり聞いてくれる、とても穏やかな人。内緒だけれど矢田君に話す前の会話の準備運動を、何時も手伝ってくれている。
「その前にちょっとだけ、いいか?」
「どうしたの?」
そんなお父さんが少し神妙な面持ちで向こうから話し掛けてきた。ユーフォニアムの入ったハードケースをフローリングが傷付かないようにそっと置いて、お父さんに向き直る。
でもこういう時のお父さんから出てくる言葉は、何時も決まって──。
「なあ真由、今までずっと転勤が続いてきたのは分かってるよな」
お父さんの勤める会社で数年周期で行われる、転勤の話。
「……うん」
「それから真由は、来年には高校三年生だ」
「……そうだね」
「そんな時に本当は伝えたくないけど、内示が出たんだ。上の人が真由を気遣ってくれて早めの内示になった」
ゆっくりと、息を吸った。そろそろかもと分かりきってはいたけれど、この話をされる瞬間だけはどうしても慣れそうにない。それでも、お父さんやお母さんと離れるのは嫌だった。家族みんなで仲良しな事が、何より大切。
「…………そう、なんだ。でもそういう時期だもんね、大丈夫。気にしてないよ。お父さんの仕事が一番大切だもん」
「ありがとう、真由は優しいな。これまで真由もお母さんも転勤に着いてきてくれたけど、もうすぐ高校三年生だ。だから真由とお母さんが福岡に残って、俺だけ単身赴任してもいいんだぞ」
「ううん、着いて行くよ。お母さんも言ってたけれど、家族一緒じゃないと寂しいよ。その方がみんなで幸せになれるから」
お父さんが、キッチンで晩ご飯を作っているお母さんと顔を見合わせてる。お互いに慈愛と引け目に溢れた視線を交わしている。この視線を浴びて、私はここまで大きくなれた。
「……本当にいいのか?引っ越す度に聞いてるかもしれないけど友達がいるんだし、遠慮しないで居てくれて良いんだぞ」
「平気だよ。だって、三年生になるまでは清良女子に居られるんだよね」
「まだ辞令になるまでも時間はあるから、気が変わったら何時でも言ってくれ。お父さん、真由の為なら頑張れるからな」
「ありがとう。お父さん、お母さん」
転校を繰り返した私には、全国に友達が出来た。『あけおめ』のメッセージすら交わせなくなった子もいるけれど、ずっと付き合いのある子もいる……矢田君とは、その中でも一番濃密な繋がりが続いている。清良女子で出来た友達だっている。そんな繋がりがあるから、何処に居ても平気。
だからこれまで通りに、何気なく次の転勤先を尋ねた。
「……ねえ、お父さん。次は何処へ異動するの?」
「次?まだ転居先は探してないけど──京都だよ」
息を、忘れた。
呼吸のやり方を、忘れた。
何気なく尋ねたせいで心の準備が出来てなくて、息を吸ったのか吐いたのか、一瞬分からなくなった。
浮かんで来たのは、その来年引っ越す場所で偶然再会出来た矢田君との会話、彼のピアノ。
胸に手を当ててみる。記憶と経験に心を撫でられて、鼓動が早くなる。
「────」
「真由は部活の遠征で行った事あるんだったな。会社で新しく支店が出来るみたいで、その支店に配属されるんだよ」
「────京都」
「そうだ……無理もないよな。こうやって日本中を行ったり来たりするなんて普通じゃないし、嫌だもんな」
お父さんの言葉を否定したくて、首を振ろうとした。それでもどうしてか、首が動かない。言葉も出ない。地名をなぞる声だけが上ずった。
「転校先の学校を探すのも、大変だし辛いよな。しかも一番大事な時期だしな……ごめんな真由」
動きにも言葉にも出来なかった感情が、私の中で溢れ出した。愛おしさが胸を突き上げてくる。その感情が潤滑油みたいになって、お父さんの謝罪に首を振った。腰まで降ろした髪が、フリルのドレスみたいに舞う。
転校だけなら慣れている。新しく出来た友達と離れるのも慣れてしまった。それでも、そんな私でも、大切な絆で繋がっている人と再会出来る上に、同じ学校に通えるかもしれないと思うと──。
「……お父さん着替えてくるから、ちょっと良いレストランに行こうな。真由は部活で疲れてるだろうしのんびりしてくれていいぞ」
「お母さんも、外食前に家事済ませちゃうね。真由はゆっくり……」
「お父さん、お母さん」
呆気に取られていた私を時間で宥めようとしてくれたお父さんにお母さんを、しっかりとした声で呼び止めた。
肩の力を抜いて、目を閉じてみる。心音が私を包む。落ち着く音だった。身体の中で血液が爆発するみたいな速さで送られているけれど、その鼓動が心地良い。絶え間なく続いている血液の循環。彼とお話すると巡るこの音に、この温度に私はずっと守られてきた──未来で此処を離れる決意はもう、固めている。
「どうしたの?」
「京都に転校するなら……どうしても行きたい学校があるんだ」
「もう、決まってるのか?慌てなくてもいいんだぞ、一番大切な一年間になるんだからな」
「うん、決めてるよ。私ね、京都に行くなら吹奏楽部の強い──北宇治高校って所に行きたい!」
ねえ、矢田君。こんな時に呟いても届かないけれど……京都の駅ビルで再会した日の事、覚えてる?私の事を責めたりせずにピアノで励ましてくれた。これまでもそれからもずっと、お手紙や電話で元気をくれたよね。今度は私から、矢田君へ元気をあげる番。やっと、やっと貴方に恩返しが出来るよ──だから京都で、待っててね。
巷ではあすか先輩がユーフォを辞めたかどうかという話が語られたりしますが、本作ではこういう形で帰結しました。それと話したい事も全部詰め込みました。出自の話はプロット中でも打ち明けるか悩みましたけど。最後の一節はちょっとだけ先の時間軸というイメージなので、付け足すか悩みました。
1話投稿から1年と半年、消した短編から数えるとおよそ2年も掛かってしまいましたが一年生編はこれにて完結です。本来なら去年にはもう完結させる予定だったんですけどね……色々あったとはいえお恥ずかしい限りです。短編の時点では長編になる予定はなかったんですが不思議なものです。
少し先の話をすると、二年生編は文章量はともかく話数だけなら一年生編より短くなると思います。アンサンブルコンテスト辺りも含めるとまだありそうですが、それでも短いと思います。三年生編は出だしのシーン以外はどうするか本当に未定です。それでも良ければお待ち下さると幸いです。
何度か話した番外編の話ですが、
・矢田明宏、定期演奏会を見守る
・黒江真由、誕生日プレゼントを貰う
・吉川優子、お礼に悩む
・塚本秀一、恋愛相談をする
・釜屋家の妹(もしくは新南宇治カルテット)、矢田明宏に遭遇する
の5本が書いてきて浮かんだ番外編となります。ただ本作自体が原作の番外編みたいな位置付けの二次創作なので、番外編の番外編となると本筋に絡むかどうかも怪しい以上投稿するかは未定となります。ですのでこのまま二年生編が始まったら無かった事にして下さると有難いです。本編にてこれらを結びつける描写が挟まるとしても、上記に関しては二年生編よりプロットを組めてすらいないので……。