WHITE ALBUM2〜幻想は雪に覆われて〜 作:ソナ刹那
---ここではない場所の住人---
♫Dear Friends
「わたし、怖じ気づいちゃってた」
「そっか……」
「まぁ、そうだよな」
いくら歌姫と言っても、ということか。
「……一言も言葉が出てこなかった」
「何も出来なくてごめん」
「俺も、気が回らなかった……」
いつもの歌姫は自分から舞台の上に立ったわけじゃない。ただ、成り行きで。
「汗びっしょりで、足が震えて、周りの音とかも聞こえなくて……」
「あぁ……」
「うん……」
ただ歌姫は舞台の上に立ってただけだから。
「逃げたくても、足が動かなくて……。このまま本番が来ちゃったら、わたしどうなっちゃうんだろうって」
「ホントごめん。側にいたのに」
「俺も、コッチから電話してれば…」
それでも、自らこっちに来てくれた。本当に歌姫の意識なのかは分からない。もしかすると、誰かさんたちの為に。
「でもね、でも…」
「「ん?」」
「少なくとも、今の状況よりはマシだったよ!」
「あまり騒がない方がいいって」
「そうそう。その明らかに時代を間違えた格好を、『その他大勢』に含まれるであろう見ず知らずの方々に見てもらいたいっていうなら、それはまた別の問題だけどな」
「今まさに、そうじゃないって意味を伝えたばっかじゃない!」
「けど、大声で叫んでると余計注目されるよ?」
「なんで春希くんはそんなに余裕なのよぉ!」
「ほら歌姫、シーッ。電車の中ではお静かに。これ、マナーだから」
「分かってるよぉ!ああもうっ!二人とも頼もし過ぎて、憎らしいよぉ!」
女給さんの強奪に成功した一行は、来たるべき時に備える為に修行場に向かっていた。平日の10時過ぎは、それこそ朝と夕方のラッシュに比べれば人数は少ないものの、買い物に向かう主婦の方々がそれなりにいる。つまり、人は決して少なくはないのである。
「あぁもう恥ずかしい死にそう……。こっちを見てる視線をたくさん感じるよ……」
「そういう歌姫の顔を見れただけでも、俺は十分満足です」
「……桜太くんの変態」
「Yes!あ、ごちそうさまです」
「もうっ…!」
「けど雪菜、それで接客しようとしてたじゃないか?」
「TPOというのがあるの!春希くん分かる?TPO。少なくとも今はそれ、わきまえてるって絶対言えないから!」
「そう気にするなって。学校の連中に見られるか、知らない人に見られるかだけの違いじゃん?」
「だけじゃないから、だけじゃ!しかも桜太くん、分かってて言ってるよねぇ!」
さすがに分からなかったら、精神科医を紹介してもらっているよ。
「とりあえず落ち着いて。あとでいくらでも謝るから。向こう着いたらすぐに練習始めるから、今はあまり声出さないようにしてさ、なぁ?あ、発生練習は周りに迷惑にならないくらいでな?」
「…それほどまでに具体的だと、春希くんの中にどれだけ謝る気があるのか、すごく疑っちゃうよね」
「所詮、委員長も同じなんだって。俺と同じ、心の中では『眼服眼福』って思ってるんだから」
「…そうなの?」
「……まぁ、否定は…しないけど……」
「そこは嘘でもいいから否定しようよぉ!」
可愛いものに可愛いということの何が悪いというのか?
「そんなに恥ずかしいなら、俺たちの陰に隠れてなって」
「言われなくたって、巻き込んじゃうんだから……」
そう言って、俺ら二人の胸を掴んでちょうど間にすがりついてくる。
「これで二人も注目の的だよ…ふふ、ふふふ」
「見事に悪役の笑い方だな」
そうは言いつつも、結構キツイものがある。
歌姫が完全に俺たちで隠れたちゃったから、電車の中の視線全てが俺と委員長の背中につき刺さる。
「……学生さん?」
「はいっ?」
♫いつか見た景色
こっちを見てそう呟く歌姫。うぅわぁ、これやっば。
「あなたはいつも、わたしの側にいてくださるというのに、まるであなたのことが分かりません」
「え?あ、ああ。え?」
「わたしにいろいろな表情を見せてくださいます。いったい、どれが本当のお顔なのですか?」
「いや、その、っと…え?」
近い近い近い近い近い近い。
「それとも、わたしの前ではどのお顔も偽りの仮面を被ったものなのですか?」
「……それは、私にも分かりません」
こうなったらヤケだ便乗だ。
「あなたの前では、いつもただの私でいられなくなる。あなたの顔に見惚れるたび、あなたの声に魅了されるたび、あなたとこうやって触れるたび……。平然といられなくなる」
「……そ、それはどうしてなのですか?」
「どうしてと尋ねられ、すぐさまに相応しい言葉が出るのであれば、今こうしてこの胸に霧がかかることはありますまい」
……いったい何やってんだ?というか何言ってるんだ?
「あなたの言う通り、私の真実の顔というのは、おそらく今までのあなたには見せたことがないでしょう。なんせ、私自身それがどんなものなのか分からないのですから。ただ…」
「…ただ?」
「あなたと過ごすその時は、どれも掛け替えのない幸せな
「……!!」
こっちの世界に来てから、ただ三人が誰一人も傷ついて欲しくない。そう思ってて、そのために動くつもりだった。けど、そんな客観的に見れない。もう、自分のことを異端者などと割り切れない。
「……女給さん?」
「は、はい?」
「私の隣に立っている、私の学友にも話しかけてあげてください」
「おい桜太!?」
「……そうですね。ね、学生さん?」
「っ!?」
委員長が慌てるのが、あからさまに見える。少しだが、息遣いも荒くなっているように感じる。歌姫のああいうことはホント様になっている。
『岩津町、岩津町です。……』
「あ〜あ、残念。いいところだったのになぁ。降りよ、二人とも?」
「明らかに狙ってやったよな!?タイミング謀ってやったよな!?」
「歌姫、恐ろしい子」
「ざまぁみろ〜」
本当に恐ろしいわ、いや本当。俺は一矢報いてやったからまだいいけど、委員長は完全に歌姫の餌食になってた。
「喉乾いた汗かいた足震えた心臓止まるかと思った!」
「いやぁ、いい経験だった」
「なんでそんなに余裕なんだよ!?」
「余裕じゃないって。俺も言われてた時はそんな感じだったもん。ただ、委員長がイジメられてるの見て、冷静になっただけ」
側から見ると面白いんだよな、側からだと。
「俺、雪菜になんかで勝てるのかな?」
「冬馬さんには?」
「………」
「おいおい、なんで黙ってるんだ?」
「学生さん学生さん?」
「…さ、さっさと行くぞ!24時間ぶっ通しだからな!」
「「は〜い」」
歌姫が待って、学生さん〜とか言いながら逃げる委員長追いかける。
「…仲睦まじいな、ホント」
ちょっと複雑ながらも、今はこの景色を目に焼き付けることにする。
「……っておい、ちょっと待て!」
委員長マジで走ってんじゃねぇよっ!ガチ逃走じゃんかよ!
♫穏やかに過ぎゆく時
「…………」
「冬馬さん!良かった〜、元気そうで!」
「お嬢。悪かったな、力になれなくて」
「大丈夫?体力落ちてない?」
「立てるか?歩けるか?何なら支えようか?」
「…誰が足を骨折したなんて言った……」
久々の生天目さんボイス。
「けど、あんまり動いてないよね?わたし、料理作るから。スタミナつくやつ」
「いや、まず説明するべきことがあるだろ?」
「え?なにが?」
「目の前に、明らかに生まれてきた時代を間違えたのか、タイムスリップでもしてきたかのような、非日常なやつがいるだろ?」
「そうか?ただ俺と委員長と歌姫がいつも通り、こうしてお嬢の前に立ってるだけだろ?」
「……お前の生まれが大正時代だなんて知らなかったよ、あたしは」
それは俺も初耳だ。
「これはね?春希くんと桜太くんが、どうしてもって……」
「…………」
「狙ってやってるよね!?明らかに言葉足らずだって言ってるよね、雪菜!?」
「すごいな。簡略化して結論だけ言うと、ここまで酷い内容に聞こえるものなのか」
勉強になったよ。これから気をつけます。
「随分思い切ったことしたな、あんたたち。A組のブラックリストに乗ったな、間違いなく」
「ドラマみたいだな、花嫁強奪って」
「そんな感傷的になってる余裕は無かったって」
「騎士二人に導かれて、小木曽も喜んでたろ?」
「そんなわけないだろ?」
「そうそう。騎士は俺一人で十分だ」
「いや、否定箇所はそこじゃないから。……思いっきり怒られたって」
あれ?そうだっけか?あの電車内のことは、怒りに身を任せてなのか?…絶対楽しんでたな。
♫聖夜
「何これ?」
「……新曲?」
そういえば、そうだったな。
「そう。ラストナンバー」
「え……」
「ごめん。あたしが倒れちゃったから、24時間しか練習できないけど」
「冬馬のせいだけじゃない。俺だって、ギターソロ弾けるようになったの朝だし」
「え?え?」
楽譜とお嬢たちの間を、歌姫の視線が動いている。
「これって……委員長のやつか?」
「……分かった?」
「あぁ。この内容、前に会長に教えてもらってたし」
「あの野郎……」
委員長の願い。もし、自分がライブにギターで参加できなくても、自分が作詞した曲を歌ってほしいという、なんとも面映ゆい願望。誰かに想いを届けるために…。
「そう。北原が作詞してあたしが作曲した、小木曽のための歌」
「わたし、のため……オリジナルなの?」
「そう、まぁありきたりに言えばだけど。冬馬が3曲目を作ってたんだ」
お嬢が英語の小テスト中に書いてたことは、つまりこれということか。
お嬢はどうでも良かったなどと言っているが、あの時教師にあんな暴言を吐いた様子から察するに、割と真剣に考えてたらしい。素直じゃないな。
「もしかして、またわたし蚊帳の外?」
「いやいや、それはむしろ俺の方だろ?話から察するに俺はメンバーにすら含まれていないみたいだし」
「それは……」
いいよ、お前ら三人の後ろでおとなしくドラム叩いてますよ。
「南条は結果として知ってたわけだし、そうだね、小木曽にだけ秘密にしてた」
「っ!?」
「冬馬!?」
……いや、そういう反応さ、俺いないみたいじゃんか。結局は、そういうことなのかな……。
「小木曽たちをびっくりさせたいからって、北原に口止めされてた。まぁ、南条はただ言う機会が無かっただけだけど」
「正直だな、おい」
「さっきも言ったでしょ?小木曽のためだけの歌だって」
「……結構、恥ずかしいこと言ってるぞ、冬馬?」
「う、うるさい。お前がちゃんと説明しないからだ」
「そういう年頃なんだよ、お嬢は」
「あんたも黙ってろ」
「え?態度違わない?」
これは、俺と委員長に差が出来たってことなのかな?
♫あの頃のように
「元々、俺が同好会に参加したのは、こうやって曲を作って、歌ってほしいってのがあって…」
「だいぶ恥ずかしい動機だな」
「俺自身よく理解してるけど、言う必要ないよな。……元々俺なんかがライブに出るなんて考えてなかったから、少しくらい馬鹿やってもいいかなぁって。……やってることはどうしようもないけど」
「そうでもないと思うぜ?」
「え?」
「お嬢、これって委員長が書いたまんまか?」
「あぁ。手のつけようがなかったから」
つまり、委員長の想いそのままということか。
「歌詞は別に問題ないと思う。確かにちょっとくすぐったくなるけど、ラブソングなんてみんなそんなもんだし。内容自体は、取って集めた感じだけど、プロじゃないし」
「痛いとこつくな……」
「けど、いいでしょ?これなら俺、気持ちよくドラム叩けるよ」
「本当か!?」
「あぁ。けど、それよりも……」
「…………」
さっきから黙りこくっている歌姫。
「雪菜……?」
「ちょっと黙ってて」
もう集中しているのだろう。
「冬馬さん、弾いてみてくれない?わたし楽譜読めない」
「うん」
「雪菜?」
「時間ないんだよ!……成功させよう、わたしたちのオリジナル!」
「……あぁ!」
こうして、残された24時間という短い本番までの練習という名の幕が切って落とされた。
お気に入り50件ありがとうございます!
自分自身初の経験です。これからもよろしくお願いします!
さて、次回はいよいよライブ本番!
佳境です。ここから先をどうしようか。必死になって考えます。
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