WHITE ALBUM2〜幻想は雪に覆われて〜 作:ソナ刹那
嬉しいくせに。わたしみたいに素直になろうよ冬馬さん。
---キュートな
♫一途な心
「おい、歌姫。見てみろよ。すっげぇ客いるぞ!」
「どれどれ〜……わぁすっご〜い。春希くんも冬馬さんも見てみなよぉ」
俺の下から、顔を覗かせ後ろ2人に状況伝達を行う。
「だから、さっきから言ってるだろ?大学からも結構来てるって。……後、雪菜のお母さんと弟も」
「うっそ、やだ。絶対に後からいろいろ言われるよ〜」
「大丈夫だって。ご家族に歌姫の凄さを見せつけてやろうぜ!」
伊達に空気読まずに歌いっぱなしじゃないんだって。
「あんたらテンション高すぎ……」
「お嬢のその落ち着きっぷりの方が普通じゃないんだっての。やっぱり経験者は違うってか?」
「…嫌味たっぷりな言い方だな」
小さい頃から、たくさんのコンクールに参加してきたような奴に言われたくない。一緒にするなっての。
「それじゃあ、大ベテランの冬馬さんから一言」
その姿には、昨日の面影は既になく、楽しみで仕方がないとでも言うように目を輝かせている俺たちの歌姫がいた。
「じゃあ、一言……」
そして変わらず冷めてるお嬢。けど、そのクールさが頼もしくて、妙な確信を覚える。
「まず、準備不足すぎる。これで上手くいくなんて、とんだ絵空事だ。この原因は、一度同好会を崩壊させた部長と、自己満足のために強行して再結成した北原のせいだ。…ついでに南条も」
「うわぁぁ…」
「ぐはぁぁ…」
「ついでにってなんだよ!?」
始まる前から、既に失敗宣言。というか日に日に、俺の扱いがぞんざいになっていく。
「音楽をなめすぎだ、あんたたちは。本番前日にもう一曲やろうなどと、正気とはとても思えない発言をするどっかの誰かさんなんて、まず論外だ」
「一理ある」
「確かに」
「酷い話」
「ちょ、ちょっと……」
手の平を返したように一斉放射。
「じゃあ、わたしも正気じゃないね。春希くんのしたこと、正しいって思っちゃってるし。ねぇ桜太くん?」
「ん?あぁ、まぁ今でも無謀なこと考えたなぁとは思ってるけど」
「おいおい……」
「けど、無謀だけど間違ってるとは思ってない」
「え?」
「……ということで、ここには誰も正気なやつなんていないから、まぁ、なんとかなるんじゃない?」
お嬢の発言に腑抜けた声を出す委員長。
「遅かれ早かれ、ここまで来ちまったんだ。やることは一つ」
「うん。皆、いっ〜ぱい楽しも?」
「迷ったらあたしの音を聞け。導いてやる」
「〜♪頼もしいねぇお嬢。けど、俺はミスらないから」
スティックを回してお嬢を指す。
「けど、最後の曲だけは、観客なんか気にせずわたしたちだけで盛り上がろう?」
「いいねぇ。俺たちだけの曲だ。観客には俺たちの舞台を盛り上げる舞台装置になってもらうか」
「あたしは構わない。……北原は?」
前のステージに大きな拍手が起こる。
♫聖夜
とうとう来た。すぐに俺たちの番になる。
「………あぁ楽しもう!周りなんか気にせず俺たちだけで!」
「うん!じゃあ行こう、冬馬さん、春希くん、桜太くん。…超満員にしちゃってごめんね?」
「小木曽のそういうところ、本当に苦手」
「余裕があっていいんじゃね?…ほら、行くぞ春希」
俺たちを見上げる委員長に手を伸ばす。
「あぁ!…俺がソロ外しても笑うなよ!」
「絶対に笑うよ〜」
「指差しながら笑ってやる」
「腹かかえての爆笑だな」
「お前ら……」
さぁ、舞台は整った。
今宵の祭りを締め括る、最高のフィナーレを飾ろうじゃないか!!
♫WHITE ALBUM
イントロが流れて、俺たちの姿も光が差すと共に明らかになり、そして巻き起こる歓声。
それは、ここ数日で急いで作った即席バンドに送られるようなものではなく、明らかに過度な期待がそこにあった。
それを助長しているのが、中央に立つ一人の女の子。観客の視線のほとんどを集めている学園のアイドル。
『超満員にしちゃってごめんね?』
まったくだ。人数がいたことは知っていたが、改めてここまでとはな。
そして姫は歌い出す。
再度巻き起こる、加え先程よりも大きな歓声。
おそらく、ほとんどの人々が歌声に期待はしていなかっただろう。
人気だから、話題作りのため、お互いの利害が一致したから、なんて考えてるやつらもいるんだろう。
だが、あえて言ってやる。
俺たちは、雪菜の『歌』に惚れて、雪菜も俺たちと『歌』いたいと思ってくれたから、今こうやって一緒にいる。
『ヒトカラの女王』をなめるな、と。
(何を心配してやがる、委員長…)
歌姫に視線をやって何を考えているのだろう?どうせ、俺と似たようなことなんだろう。が、お前がそんなことしていいとでも思ってるのか?馬鹿が。
コッチを見てきた委員長を思いっきり睨んでやると、慌てて自分の手に目線を落とす。
(お嬢は……うわぁ)
こんなことなんでもない。
そう言ってるかのように、涼しい顔でキーボードを叩いている。
『迷ったらあたしの音を聞け。導いてやる』
本当に体現しようとしているんだな。まぁ、出来るだろうし、余裕だろうが。
歌の雰囲気上、盛り上がる曲ではないということは、観客たちも把握しているだろう。
だんだんと熱気は収まっていき、歌姫の声に聴き入る人が増えてきた。
それは、観客が姫の歌を聴きたいと思っているという証拠。
そして、それは同時に一つのサプライズパフォーマンスが間近だということ。
「冬馬、そろそろ……!」
「本当にやるのか?」
「今さら何言ってんだ。やらなきゃ逆に白けるだろ」
既にそれを見越した編集になっている。
「絶対ウケるって!」
「大注目間違いなし、心配するな!」
「……知らないぞ、あたしは」
あくまで自分はやらされていると、そう言いたいんだろうけどな。
俺たちを見る目は、呆れていて、軽蔑していて、それでいて奥では笑っている。
(……楽しんでるんじゃん)
「行け、冬馬/お嬢!」
「やればいいんだろ!」
俺たち……かは置いておき、思いっきり舌を出してキーボードから離れて、舞台の前に出る。
「……やっぱすげぇ」
見たことのないお嬢のサックスの演奏姿に、思わず声が溢れる。
それでいて、余裕そうにこっちを見てくる。けどそれは、どこか自慢気で誇らしいように見えた。
「ほーら見ろ!」
本人よりも嬉しそうな委員長に、呆れて、そしてちょっと嬉しそうな顔をするお嬢。
歌姫も気持ちテンションが上がったようで、チラチラこっちを見ては喜んでいる。
「もういいや……」
呆れた顔の中に嬉しそうな表情をしているお嬢がいた。
(あぁ、これが……)
俺が見たかった景色。俺が望んだ光景。
(俺、今すっげぇ幸せ……)
その後もステージは順調に進んだ。
WHITE ALBUMが終わった後の司会も、姫は余裕たっぷりで、ミスコンのアピールまでした。リハーサルの時の姫はどこにもいなかった。
SOUND OF DESTINY も、みんなが心配する中、委員長は無事ソロを弾き終えた。さすが春希、やる時はやる。
ともかく、楽しい時間は一瞬だと改めて実感しつつ、俺たちのステージは終わった。
そして……、
「……あっ、姫!!」
「…桜太、くん……?」
「…話……が、あるんだ……」
ここが相違点。
物語が、変わる場所。
はい、久しぶりです。
気づけばお嬢の誕生日も過ぎ、もうすぐ夏休みです。
だからと言ったって、更新ペースが速くなることはありません(断言)。
何卒、気長にお待ちください。