WHITE ALBUM2〜幻想は雪に覆われて〜 作:ソナ刹那
俺たち三人が、
もっとも近くて楽しくて、
もっとも嬉しかった日。
そして…
俺たち三人が、
本当に三人でいられた、最後の日。
---三人中の一人---
♫綺麗で儚いもの
「悪いな、屋上なんかに呼んで。寒いだろ?」
「寒くない、って言ったら嘘になるけど、コート着てるから大丈夫」
「そっか」
夕日は沈み、あたりは黒くなっている。
校庭を見ると、後夜祭の準備をしている。
腕時計を見てため息を吐く。柄にもない。確かに今緊張している。鼓動が嫌でも聞こえてきて、若干のパニックになる。
「……どうだった?今日」
「すっごく楽しかったよ!」
途端に眩しい笑顔を見せてくれる。
「あんなに多くの人がわたしたちのライブを見て、音楽に合わせて手を叩いたり、身体を動かしたり、口ずさんでくれてたり、こっちから見ててもすっごく楽しそうで……癖になりそうだよぉ」
少し笑いながらそう言った。
「大学でそういうサークルでも入るか?」
「うーん…どうだろうね?そこまでガッツリやりたいとは思わないけど、悪くないかも」
正直、複雑だ。注目されるのは嬉しいことだが、なんか気にくわない。……まったく、痛々しくなったものだ。
「いろいろあったなぁ……この数日間」
「そうだねぇ……密度の濃い数日間だったよ」
「姫と喧嘩したこともあったっけ」
「そういえばあったね、そんなこと。……あれは、わたしが勝手に拗ねてただけだけど」
「けど、本気で心配したからな?」
「うん、分かってる。すっごく親身にわたしの話を聞いてくれたし」
姫の過去、俺の過去。さらけ出したあの夜。
「俺も、委員長たちにも言ってない秘密言っちゃったしな」
「え?そうなの?」
「あぁ。当時を知らない人に言ったのは、姫が初めてだよ」
委員長たちが知ってるはずもない。
この事実を持つ俺は、つい最近現れたばかりで、まだ委員長たちに言ってないのだから。
「なんで?」
「……それくらい腹割って話し合わないといけないって。隠し事はやだもんな」
「…そうだね」
「それに姫になら言ってもいいかなって。俺は話さないってのが不公平だって思ったのは本当だけど、ただ純粋に知ってほしかった。俺のことを。別に、哀れんでほしいってわけじゃないけど」
ただ自分について知ってほしかった。俺が姫のことを知りたいように、姫にも俺のことを知ってほしかった。
「……うん、聞けてよかった。わたしが特別なにか出来るわけじゃないけど、知れてよかったって、そう思う」
「……気分悪い話でごめんな」
「ううん。それならわたしもそうだから」
お互いの過去には深い傷が残っていて、その共有はきっと、二人の間になにか大きなものとなって繋いでる。そんな風に思う。
「……寒い、よな」
「……さすがに、ね」
凍てつく風は冬そのもの。長居は良くない。
「……本題に入るな」
「……うん」
少し深呼吸して、言葉を考えながら吐き出す。
「最初はさ……身勝手な親切心のつもりだったんだ」
「え?」
「軽音楽同好会に参加して、一回抜けて、また誘われて入って。けどメンバーいないから、最低二人は連れてこいって委員長に無理難題押し付けて、そしたら見事に二人連れてきて……しかも、二人ともこの上ない逸材。天才歌姫に天才ピアニスト。……めっちゃ興奮した。姫の歌声に惚れて、お嬢の奏でる旋律にも惚れて、こんな二人と演奏出来るんだって、すげぇ嬉しかった。……でもさ」
気付いた。知っていたとかそういうの抜きで、よく見てたらこの三人の形が歪だってことに。
「……危ないって思った。このままじゃいけないって」
「桜太くん…?」
「俺、知ってた」
分かってしまった。
「春希は冬馬のことが好きで」
「っ!」
「…冬馬も春希のことが好きで」
「………」
「雪菜も春希のことが気になってて、そんな雪菜にも春希は惹かれつつあって……まるで春希が見境ないみたいだけど、男である以上俺もまったくわからないってわけじゃないし」
「…そう、だね」
「……雪菜も知ってたんだろ?」
「……どうして、そう思う?」
確認の問い。その答えは至極簡単で、けど不確実で。
「さっき、春希に告白しに行こうとしただろ」
「!!……バレてたんだ」
「と言っても憶測だけどな。雪菜に会う前に音楽室から走ってきた冬馬にすれ違った。その時の顔見て、なんかあったんだって……。雪菜が姿現した場所からして、見ちゃったんだろ?」
「…全部見てたみたいだね」
「言ってるだろ?憶測だって」
実際はそれに近いものだけど。
「だから雪菜は春希に告白しようとした。このままじゃ、自分が仲間外れになってしまうから。二人と一人。蚊帳の外に、なってしまうから。あの時みたいになってしまうから……。春希が自分に好意を寄せてくれてたのは分かってたから、自分が恋人になれば繋ぎ止めておけるって考えた」
「……ほんと、凄いね桜太くんは」
罰の悪そうな顔をしている。俯きつつため息交じりに呟く。
「…ずっと変わらないままでいたかったんだ。関係なんかこのままで、ずっと仲良く……」
「ずっと、か……」
ずっと?このまま?……冗談じゃない。
「……ふざけんなよ」
「桜太くん……?」
なんだよそれ?変わらないまま?なんでそれが最善策になってんだよふざけんな。
「なんで…」
それ以外にないって?それが崩れかけたら先に自分から仕掛けて取っちゃえば離れることはないって?
……どう考えたってそれ、
「なんで……」
勝手に三人の場合で話進めてんじゃねぇか。
「なんで俺じゃないんだよ!?」
♫言葉にできない想い
「……え?」
「なんで春希なんだよ!?なんで俺じゃなくて春希なんだよ!?」
吐き出てるのは、どうしようもない身勝手な言葉の羅列。
「なんで春希と付き合う以外の方法が思い浮かばないんだよ!?それって三人の場合の最善策だろ!?春希と冬馬と雪菜の、三人だけの場合だろ!?」
「桜太くん……!」
「俺はどこに行ったんだよ!?」
「…っ!!」
消えている。俺が、俺の存在が、俺がそこにいたという証が。
一瞬、たとえ一瞬だとしても、雪菜の中から消えていた。
「……結局、俺はそこまでってことか?武也みたいに好意を向けるほどじゃないってか?所詮……ただのドラム担当だったってのかよ!?」
「そんなこと……」
「じゃあ、なんで俺っていう選択肢がなかったんだよ!?」
「………」
口を開けば開くほど、惨めで情けない。ただのイタい人になっていく。
「冬馬が春希を好きだって分かってたんだろ?じゃあ、俺と付き合えば二人と二人で釣り合い取れるだろ?……それが駄目だから春希を選んだんじゃねぇのかよ……」
ただ俯いてる。けど口が止まらない。
「……雪菜なら分かるんだろ?春希のことも冬馬のことも分かってたなら、俺のことだって分かってるんだろ?」
「それは……」
「……悔しいんだよ」
様々な記憶が頭に過る。どれも雪菜のことなのに、まるで空虚だ。
「春希の秘密の特訓のことを、悩んで苦しんで辛かったのに相談してくれなかったこと!リハーサルの時も、俺がいるだけじゃ雪菜の不安を取り除けなかったこと!冬馬が倒れて春希が付きっ切りだった時も、雪菜の心配そうな顔を心から笑わせられなかったこと!それら含めて全部がっ!悔しかったんだよ!
ナイトになるなんて大口叩いた後も、結局雪菜を安心しきらせることだって出来なかった!無力な自分が悔しかった!」
「桜太…くん……」
「何もかも駄目だった……!雪菜の力になれなかった……!」
「そんなことない!」
「っ!?」
突然雪菜が声を荒げてそう言った。雪菜の顔を見ると、目が潤んでいて、なにかが溢れていた。
「そんなことないよ……。いつだってわたしのために動いてくれた。……確かにいつもはいい加減にも見えるけど、心では真剣に誰かのために…わたしのために考えてくれてた!そんなに…そんなに自分のこと、卑下しないでよ…」
「雪菜……」
なんでお前が泣いてんだよ……。こんな気持ち悪いやつに涙流す必要なんか、何処にあるってんだよ……。
「それに今も、春希くんや冬馬さんのことを考えてわたしを……」
「違う」
「えっ?」
「……それは少し違う。確かにそれもあるけど、結局のところ後付けの理由にすぎない」
分かってるんだろ?ただの親切だけで、こんなにもみっともない姿晒すかよ。
「……はっきりと口に出して言う」
そうだ。俺たちは超能力者なんかじゃない。
いつだってこうやって言葉にしないと分からないことなんか、数えきれないほどたくさんある。
「勘違いしないでくれ。俺が雪菜のナイトになるって言ったのは、ただのお人好しなんかじゃない。俺は春希みたいに人間出来てないから、純粋なヒーロー精神なんか持ち合わせていない」
誰だって、なんて極凡人な俺には出来ない。手を差し伸べられる相手なんか、ほんの僅か。数えるのは両手で足りる。
だから、だからこそ、今度こそは手が届くものくらい、絶対に取りこぼしたくないって。
それが……。
「雪菜だから……守りたかった。俺が好きな雪菜だから、守りたかった」
惚れた相手なら、なおさらだ。
「俺は雪菜が好きだ。春希には悪いが、冬馬よりもずーーっと雪菜のことが好きだ」
勝手な願望だけど、好きな人は自分の手で守りたいって。ずっとそう思ってる。
「気持ち悪い、重い、イタい、キザ、ナルシスト。何を言われたって、俺は雪菜のことが好きだ。それで、守りたい」
「桜太くん……」
一歩一歩雪菜に近づく。その先はフェンスで、それ以上は後ろに下がれない。
数センチの距離。雪菜の背中に手を伸ばす。今はもう、逃がしたくない。
「雪菜……」
少し下にある雪菜の顔を、顎を持ち上げてこっちに向ける。
「嫌だったら、よけていいからな……」
目を閉じて、距離が無くなろうとした時、
「……待って」
雪菜の手が俺の身体を止めた。
「……勘違いしないでね」
「……?」
俺を見上げたその顔は、
「誰も桜太くんのこと、嫌いだなんて言ってないよ?」
「それって……っ!?」
俺が聞き返す間も無く、俺の唇を雪菜の唇が塞いだ。
♫Twinkle Snow Piano quartet
「ん……んぅ……」
それを拒む理由なんか、あるはずがなかった。
「んん……ん……っ」
柔らかい温もりが伝わってくる。
声が溢れて、滑らかな感触に身体が熱くなる。無意識に身体が欲してる。
「はぁ…ぁ…ぁぁっ…」
溢れる吐息も、なんとも言えない暖かさで、息苦しいのに止まらない。
「ふぁぁ…ぁ…」
「あ…はぁ……っ」
感覚というものが薄れていく。ただ一箇所、一箇所触れ合ってるだけなのに、全てがそこに集中して奪われていくような。
これほどまでに甘美なものだったかと、確認なんて口実で、ただその温もりを必死に感じていた。
「あ、あは……」
「はぁ…はぁ……」
精気を吸われるなんて、言い方が悪いのかもしれないが、もう果ててしまっていた。
「……慣れてるね?」
「はぁ…はぁ…え?」
ようやく俺が口を離すと雪菜はそう言う。
「そういえば、彼女いたんだっけ?……経験あり?」
「それは……そう、だけど……」
「やっぱり。……上手だったんだもん。わたし初めてなのに……」
「……なんて返事すればいいんだか」
「しかも、何人とも。……不安だなぁ」
なんて、本気で言ってるのか判断し辛い言葉を出す。……目は笑ってるようにも見えるけど。
「……俺は雪菜が嫌だって言うまで離れない。絶対にだ」
「……本当に?」
「あぁ。今までも、一度も俺から離れたことはない」
「全部フラれちゃったんだ」
「…改めて言われると結構来るものがあるな、その通りなんだけど。……約束する。気移りが多いとか言われても仕方ないけど、その分1人1人一途に想ってきたつもりだ。雪菜に恋してる中、誰かに惚れるなんてありえない」
「……なんでそう、恥ずかしい台詞スラスラと言えるかなぁ」
「だって事実だから。雪菜が恋人っていう状況以上に幸せなことなんて何もない」
「ほんっと、ズルいよぉ桜太くんは……」
「雪菜が言うなって」
互いに微笑んで、微笑も鳴り止む。
「なぁ、雪菜」
「ん?なぁに?」
「もう一度…いいか…?」
「……うん」
ちょっと照れたように俯きながら了承してくれる。
きっと俺も、雪菜くらい朱くなってるんだろうな。
「今度はちゃんと……言ってね?」
「今度はって……むしろそれは雪菜の方じゃ……いや、うん、なんでもない」
そんな拗ねたようにふくれっ面されたら、素直に従うしかないじゃないか。
「好きだよ、雪菜…」
「……うん。わたしも桜太くん、好きだよ……んぅ、んん…ぅ……」
「んん…は、ぁ……んっぅ……」
11月もまもなく終わる。そんな峰城大付属学園祭二日目の土曜日。
三人が四人になって、そして先に二人が抜けて……。
残る二人がどうなるのか?
ただ、どちらにしろ、俺たち四人が、本当にただの四人でいられた最後の日。
…………はぁ。
なんかこう、感無量です。
無事、ここまで書き終えました。
一番書きたかった部分でもあって、いつもよりも桜太くんに感情移入していました。その分、文章はいつもよりちょっと酷いかもしれませんが、優しく見守ってください。
さて、これからはイチャイチャしながら、イチャイチャして、イチャイチャをお送りしていくつもりです。
その最中に、春希&かずさとか、武也&依緒も書くかもしれません。未定です。
さぁ、ここから先はほとんどオリジナルになるので、多分執筆スピードは遅くなるかな?気長にお待ちください。
賛否両論あると思いますので、皆様からの多くの感想等あればよろしくお願いします。
そして改めて、
これからも「WHITE ALBUM2 〜幻想は雪に覆われて〜」をよろしくお願いします。