WHITE ALBUM2〜幻想は雪に覆われて〜   作:ソナ刹那

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人生史上最も長文。
若干のキャラ崩壊があるかもしれませんが、どうか優しく見守ってください。



18 届かない恋が届く時

ピンポーン

 

 

♫いつか見た景色

 

 

「······なにかようか?」

「夜分遅くにすみません。自分、北原というものですが···」

「夜分遅くに来てすみませんって思ってるなら、さっさと用件済ませて帰れ」

「夜分遅いんだから、お客さんが来たらお茶の一つは出すものじゃないか?別に、菓子まで出せとは言わないから」

「…図々しいにもほどがあるだろ」

 

日曜日の夜。後夜祭が終わり、その後生徒たちが余韻に浸りつつ、向き合わなければいけない現実から目を逸らす時間。…目を逸らすどころか、チャレンジしようとしているのがここに一名。

 

「お前ずっと家にいたのか?今日の学園祭に来てなかったみたいだし。……もしかしてぶり返したか?」

 

なんせこんな寒い時期にステージの上で、あんなに涼しげな格好で演奏し、その後も1人ピアノを弾いていた。ぶり返すには十分な環境だった。

 

「二度と何処かのお節介な学級委員長に看病されるわけにはいかないからな。意地でも風邪なんか引くものか」

「···それを聞いて安心したよ」

 

可哀想にな、何処かの学級委員長。

 

「わざわざそんなことのために、こんなはた迷惑な時間に来たのか?」

「そんなこととはなんだ。大切な奴のことを心配するのは、至って当然だろ?」

「···ふ、ふ~ん」

 

なんだその気の抜けた返事は。

 

「それより、そろそろ中に入れてくれないか?立ち話し続けるには、今の季節は辛すぎる」

「お前が勝手に来ただけだろ。しかも女独り暮らしの家に」

「その言い分は今更だ」

 

ライブまでの間何度この家に来たと思ってる。それどころか泊まっていた。

 

「というかお前どうしたんだ?やっぱりなにかあったのか?」

 

何でそんなによそよそしいんだ?こっちの…事情なんて知らないはずなのに。はず…だよな?

 

「なにかあったってことは、お前には何もなかったんだな?」

「なにもって…お前なにが聞きたいんだよ?」

 

本当に分からない。なんでこんなふわふわした感じを醸し出しているのか。

 

「いつものお前なんだよな?昨日までと同じ…同じお前なんだよな?」

「俺は、変わらないよ。何も変わってない」

 

正確に言えば、変わりたくても変われないだけで、叶うのなら変わりたいと。そう思ってるからここに来たんだ。

 

「そ…か…」

 

冬馬が俺に聞きたかったこと。それは分からないけど、例え冬馬が今のままを望んでいたとしても、この想いくらい自分のエゴを突き通させてほしい。その結果、もう元には戻れなくなったとしても、後を押してくれた奴らがいる以上、ここで退くわけには行かない。

 

「……あ」

「お茶だけ…な」

 

第一関門は突破。本番はここからだ。……別に今日中じゃなくてもいいよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「………」

「……なぁ」

「なんだ?」

「…お前の舌がいくら甘味に寛容だとしても、それは入れすぎじゃないか?」

「…変わらないだろ」

「……そうか」

 

砂糖6杯じゃなくて5杯だったはずだが…。

 

「なんで…」

「ん?」

 

黒いお湯を口に含みながら冬馬の声に反応する。

 

「なんで今日は来たんだ?」

「冬馬に話があって」

「っ…さ、さっき様子見に来ただけだって言ってたじゃないか!卑怯だぞ!」

「だけだなんて言った覚えはないし、卑怯呼ばわりされるのも心外だ」

 

さっきからこんな感じの繰り返しだ。

やっぱりなにかおかしい。俺がじゃなくて、冬馬が。

 

「話ってのは…?」

 

妙に不安な声音でそう聞いてくる。

 

「それは私に聞きたいことか?それともお前が話したいことか?」

「俺が話したいこと…かな?」

「なんでそんなあやふやなんだよ!」

「なんでそんな怒られるんだよ…」

 

さっきから何故か過敏になっている。俺の言葉一つ一つに、ビクビクしたりホッとしたり、オーバーリアクションだ。

 

「少なくとも冬馬に聞きたいことではない」

「そ、そうか…。……ん、じゃいいや。好きに話せ」

「なに急に吹っ切れてるんだよ」

 

いきなりリラックスして、こっちに話を促してくる。

こっちは……言わずもがな、あれこれ考えながら話を続けるので手一杯なのに。

 

「そういえば今日の学園祭はどうだったんだ?小木曽や南条たちと回ったのか?」

「あぁ。ついでに大学の方にも。後夜祭もな」

「よくもまあそんな元気に騒げるな。完全燃焼してなかったのか?」

「あれでしてなかったら、自分で自分のタフさ加減に引くわ。…それはそれ、せっかく高校最後の学園祭だぞ?楽しまなきゃ損だろ」

「それはお前で言う損したあたしに対する嫌味かなにかか?」

「嫌味になんかなっていないくせに…」

 

というか冬馬が完全燃焼という方が、俄かに信じ難いんだが…。

 

「あ、そういえば…後夜祭でミス付属の発表があったんだよ」

「一位は小木曽だろ?言われなくたって分かってる」

「それはまぁ、そうなんだけど。今年の結果は面白くてな」

「面白い?」

「無効票が過去に例を見ないくらい多くてさ」

「ふ〜ん…結果見えてるから、ネタに走ったのか」

 

 

♫Dear Friends

 

 

「あはは、まぁ確かにネタだな」

「…なに笑ってる」

 

だって無効票になった原因が、当の本人が目の前でボンヤリしてるんだから。

 

「無効票扱いされた人ってのは、冬馬かずさっていう生徒」

「…は?」

「正確には、軽音楽同好会のピアノの人、サックス吹いてた三年生、ベースも引いちゃう黒髪ロングの子、小木曽雪菜じゃない方の女の子」

「………」

「冬馬、冬馬かずさ、冬馬先輩…などと言った票を含めたら5位だってさ。良かったな」

「な、なんでそんなことになってる!」

 

番狂わせ、と言うと実際結果に反映されてないから違うのだろうけど、親志は「これは予想以上だ」と言っていた。

 

「実際、ライブが終わった後に握手とか求められたんだろう?」

「それは…」

 

音楽科の後輩から握手を求められて、一緒に写真を撮って欲しいと頼まれたと、親志が言っていた。知らないところでは、尊敬の対象になっていたということだ。

 

「結果として、俺の…桜太も言ってたけど、冬馬の凄さを知らしめるという目的は見事果たされたわけだ。大いに満足」

「ただの自己満足じゃないか…」

 

自己満足ついでにコーヒー(?)を片手に持ち上げて、勝手に祝杯とする。

 

「冬馬も来れば良かったのに。軽音楽同好会の思い出作りにさ」

「そんな輪の中に入っていけるか」

 

ずっとその輪の中で、精一杯悪ふざけしてたのに何を今更言ってるのか。

 

「……なぁ」

「なんだ?」

「…3人で回ったのか?」

「え?」

「ずっと、小木曽と南条と…3人で回ったのか?」

 

なんで確認するかのように聞くのか?考えてることは分からない。けどそう聞かれて気づいたことがある。

 

「……正確に言えば、2人と1人かな」

 

 

♫綺麗で儚いもの

 

 

「…え?」

 

俺の言葉に、意味が分からないと言ってるみたいに、ポカンとした表情を浮かべて声を漏らす。

 

「桜太、雪菜に告白したんだってさ。二日目、俺たちが完全燃焼した後に」

「………」

 

黙ったまま、小さく口が開いたまま、唖然としたままだった。それほどに衝撃だったのだろうか?

 

「それで雪菜もオーケーの返事をして、その日から恋人に。それ聞かされたの、後夜祭始まる直前だったんだぞ」

「それついさっきじゃ…」

「そう。だからこうやって来たわけ。もう1人の仲間にも伝えておかないといけないだろ?」

 

事実その目的はあったけど、所詮後付けの理由、ついでに過ぎない。仮に本当にそれを伝えるためなら、直接あいつらを行かせた。それが正しい形だろって。

 

「じゃあなんであいつらは来ないんだ?普通当の本人が来るんじゃないか?ましてや、北原に言ったなら」

 

そういう俺の性格も、さすがの冬馬でも理解していて、

 

「それはそうなんだけど…その、カップルはやっぱりカップルに相応しい場所があるというか…、後夜祭で手繋いで踊りたいものだというか…」

「要は北原の居場所が無くなったわけか」

「仰る通りです…」

「それで同じく独り寂しいだろうあたしのところに来たってことか?」

「仰る通り、です…」

 

だからあらかじめ言い訳を考えておく。あの2人と一緒にいるのは、多少なりとも堪えるものがあったし。

 

「…都合いいな、あたしという存在は」

 

そうやって自分を卑下するだろうと思ってた。

 

「…あたしはお前にとってなんなんだよ」

「……え」

 

けれど、からかうように言うと思ってたのに、そんな風に重々しく呟くとは思ってなかった。

 

 

♫言葉にできない想い

 

 

「なんで今なんだよ?」

「冬馬…?」

「なんで後夜祭が始まるまで、あたしのところに来なかったんだ?」

 

なん…だよ、それ。冬馬の質問に俺は何も考えられない。まるで意味が分からない。……いや、違う。

 

「それまで楽しく小木曽や南条たちと祭を回って、2人が2()()になって居心地が悪くなったら、あたしの家にこんな時間でも気軽に来られるのか?」

「それは……」

「仮にそれを友達だって言うなら、あたしはごめんだ。そんなの、ただ一方的に都合よく使われてるだけじゃないか…」

 

分かってて分からないようにしている。冬馬が本当に、今寂しがってることに。

 

「なぁ答えろよ。いつまでもこのメンバーでって言ったのは、お前だろ北原?」

「…だって、今までも1人だったから……」

「独りには慣れてるだろうから、わざわざ呼ぶ必要がないって?もう終わったから、これ以上迷惑はかけないようにしようって?それ、思いっきり矛盾してるだろ」

 

矛盾。それが意味していること。それは他ならぬ今の俺と今までの俺のこと。

 

「北原春希ってのは、周りにただの善意で、嫌がられてもお節介を焼くようなウザったいやつだろ?じゃあなんでそんなところで遠慮してるんだよ。お前らしくない」

「俺らしいってなんだよ…」

 

なんで喧嘩してるんだ?いや喧嘩にもならないくだらない言い争い。女の子が駄々こねて、身勝手に男の子が怒られてるだけの、よくあるくだらない言い争い。

 

「じゃあ誘ったらお前来たのかよ?」

「行くわけないだろ、そんな子供みたいなこと」

「なんだよそれ…」

 

無茶苦茶だ。言ってることに統一性がない。誘えって怒って、誘われても行かないって。なんだよ…ただのかまってちゃんじゃないか。

 

「どうして欲しかったんだよお前は。一体何が正解だったんだよ」

「そんなの……お前が考えろ」

「分からないから聞いてるんだろ!」

 

自分でもよく分からないスイッチが入る。こんな不毛なこと言うために来たんじゃないってのに、歯止めが効かなくなる。

 

「来ても駄目来なくても駄目。じゃあどうすればいいんだよ!身勝手じゃないか!」

「身勝手で何が悪い!あたしがあたしの気持ちのこと、よく分からなくなって何が悪い!」

「なんで分からないんだよ!お前自身が分かってないのに、俺が分かるわけないだろ!」

「でもあたしだって分からないんだよ!」

 

混乱している。お互いに。特に冬馬が。

 

「お前が来るさっきまで別になんとも思ってなかった!いつも通りピアノ弾いて、甘いもの食べて、ぐっすり寝て、何もいつもと変わらなかった!なのに…なのに…!」

 

俺を見る目は怒りで震えてて、それでいてどこか寂しそうで。……俺を見てるのに俺を見ていなかった。

 

「お前が来てくだらない話をして、小木曽たちの話を聞いて、なぜか急に怒りが込み上げてきた。お前なら分かるだろ北原?あたしより頭いいじゃないか…!」

「そんな精神的問題まで手伸ばしてるわけないだろ!?むしろそういう方向は馬鹿なんだよ俺!」

 

現に今だって、なんでこんなことになってるのか分からない。自分の気持ちも分からない。冬馬の気持ちなんてまるで分からない。

 

「…そりゃそうだよな。友達ですらない、ただのクラブ仲間でしかないあたしたちなんかに、互いに意思疎通なんか無理だよな……」

「…友達ですらない、だって?」

「違うのか?お互い思ってることも好きに言えないのに、友達でなんかあるもんか」

「……それは」

 

確かに言いたいことは言えていない。言うためにここに来たというのに。

 

「……あぁ」

「……北原?」

「俺たちは友達なんかじゃない」

「…っ!」

 

冬馬の言う通りだろう。所詮俺たちは、ライブを成功させるために一時期協力してただけの仲なのかもしれない。

 

「学園祭でのライブを成功させるために、無理言って参加してもらったただの助っ人。お前の思ってる通りだろう」

「あ、あたしは…」

「隣の教室でピアノで俺を導いてくれた頃のこと、夏休みの時に俺にギターを教えてくれたこと、初めてお前と会話した時のこと……冬馬にとっては、ただの気まぐれだったのかもしれない」

「それは…」

「でも俺、嬉しかったんだ」

「え……」

「お前がやっと俺の声に反応してこっちを向いてくれたこと、厳しいこと言いながらなんだかんだ親切に教えてくれたこと、俺の下手なギターに合わせて弾いてくれたこと。そのどれもが嬉しかったんだよ」

 

紛れもない事実。俺の本心。

 

「けど諦めてた。向こうは俺とは違う、俺よりも遥かに高い舞台に立ってるんだって決めつけて、俺じゃ適さないって勝手に諦めてた。…実際、十分そっちの舞台は高かったわけだけど」

 

見てたのはその後ろ姿ばっかだった。横顔は何度も見たことあるけど、そういう文字通りの意味じゃなくて、ずっと俺の憧れの存在だった。

 

「カッコいいんだよ。憧れてたんだよ。…人それぞれで、カッコいいや憧れの基準って違うんだろうけど、俺にとってのカッコいいと憧れは冬馬、お前だったんだよ」

「北…原…」

「そんなお前が俺と同じ舞台まで降りてきてくれて、俺の前ばかり歩いていたお前が、俺の隣で馬鹿みたいなお祭り騒ぎに付き合ってくれて、そうやって当日まで走りきってくれたことが何よりも嬉しかった」

 

今更ながら、あれ程密度の濃い日々はそうそう無いのだろうな。真面目な委員長のイメージじゃないって、確かにそうかもしれない。別に後悔してもいないし、イメージがなんだって話だけど。

 

「……俺は」

 

だからこそ、そんな日々を一緒に過ごしていたからこそ、強くなったものというのがある。

桜太が言ってたみたいに振れて、自分ではそんなつもりなくても、冷静に見つめ直してみたらそうなのかもしれないって。

言い訳じみてて自分でも情け無いけど、もう違う。選ぶ勇気は出したんだから、告げる勇気を出さなければ、今日俺がここにいる意味を無くしてしまう。

 

「ずっとお前を見てた」

 

一目惚れに始まり、不良生徒を更生させようなんて、いかにもな理由をつけて何度も話しかけて、その度に滅多打ちにされて、俺にギターを教えてくれた時には少しは心を開いてくれて、今回その凄さを嫌というほど見せつけられて、やっぱり俺はそうなんだって自分の気持ちを確かめて、周りに背中を押されてやっと動き出せた。

自分の小心者っぷりに悪態をつきつつ、少しだけ、そう少しだけなんだよ。少しだけの勇気を…。

 

「……ずっと、お前が好きだった」

 

 

♫聖夜

 

 

「………」

「………」

 

沈黙に空気が染まる。聞こえるのは僅かな息遣いの音と、激しく鳴り響く自分の鼓動。

 

「…今、なんて………」

 

止まった時を動かしたのは、冬馬の魂が抜けたかのような、無意識に発せられたような小さな呟き。

 

「……冬馬のことが好きだって言った」

 

もう一度自分に確かめさせるように強く、はっきりと想いを口にする。

 

「なん…で…」

「理由なんて……いくつかあるけど、言ってっていいのか?」

 

それは単純に、俺のことを気持ち悪いと思うんじゃないかという不安から出た言葉。今更かもしれないが。

 

「…ピアノやギターをカッコよく弾いてしまうところ、なんだかんだ言って面倒見がいいところ、甘いものを口にすると無防備に笑顔になるところ、実は寂しがり屋なところ、俺たちととことん付き合ってくれた優しいところ、いざって時は…」

「やめろやめろやめろやめろやめろ……!」

 

まるで俺の言葉をかき消そうとでもしてるかのように大きく手を振って、俺が冬馬を誉め殺すのを止める。

 

「…き、北原!そんなこと言ってて恥ずかしくないのかよ!?」

「恥ずかしいけど、全部嘘偽りない俺の気持ちだ」

「〜〜っ!」

 

気のせいか顔が紅くなっている……?どちらにしろ落ち着きがなくなっている。

 

「……ごめん」

「……なんで北原が謝る?」

「いや、いきなり…だったから。それに、ムードとかそんなの皆無だったし」

 

ただの告白でそこまで考えてること自体、イタいのかもしれないが。

 

「一応流れとか考えてたんだけど、何故か自分が思うままに喋ってたら、いつの間にかこんなことに…」

「…いや、別に……。元から北原にそんな高等なことができるとは思わないし……」

「……そうか」

 

いや、分かってたことだけど。そんな性格だって自分でも分かってたけど。

 

「…なぁ?」

「…なんだ?」

「それって……北原の冗談か何かか?」

「冗談なんかじゃない。第一、俺がこんな盛大な嘘をつくと思うのか?」

「北原の性格の悪さはよく知ってる」

「おい」

 

本当、こいつは俺のこと……。

……俺のこと、どう思ってるのだろう?今思えば、脈があるとか何も考えずに、勢いに身を任せたけど…。

 

「……本気なのか?」

「あぁ」

「……本当に?」

「あぁ」

「本当に…あたしのことが好きなのか?」

「あぁ、好きだ」

 

冬馬から何度も出る確認の問い。その真意はわからないけど、何度聞かれようともう揺るがない。

 

「……あたしは」

 

ボソッと、俺から目を逸らすように床を見ながら、口を開いた。

 

「……お前の気持ちなんて知らない」

「っ…」

「…だから……だからあたしは、自分の気持ちに従う。自分の気持ちだけ…信じる」

 

何が来ても、そう覚悟していた。

 

「北原……」

 

だから俺は、

 

「……あたし、は」

 

その言葉を

 

「…………お前が好きだ」

 

受け止めるのに時間がかかった。

 

 

♫Twinkle Snow Piano quartet

 

 

「……え」

 

冬馬の返事は、俺が求めていたもので、同時に予想していないものだった。

 

「…最初はただ鬱陶しかった」

 

そして言葉を紡ぎ始める。

 

「何度こっちが無視しても、何度こっちが怒鳴り散らしても、何度こっちがお前を蹴り飛ばしても、何度もお前はあたしの世界に堂々と踏み込んできやがった。その上いつの間にか、あたしのことは北原に任せとけばいい、そんな雰囲気がクラスで出来てた。それに理由も分からずイラついてた。お節介な委員長に、その周りの連中に」

 

俺がクラス委員になって初めて冬馬に声をかけた頃のこと。クラス委員になれば堂々と冬馬と話が出来る、なんとも不純な動機だ。

 

「それくらいの頃、音楽室でピアノ弾いてると下手くそなギターが聞こえてくるんだ。いつまでも上達しない下手くそなギターが」

「…下手くそで悪かったな」

「…けど、そんな音色が楽しみだったんだ。いつもだったら余計イラつくはずなのに、不思議とその音を聞くのが楽しかったんだ」

 

あの頃、武也に勧められてギターを始めた。ギターは女を口説くための道具。なんともあいつらしい台詞だけど、あの時の俺はそれを素直に聞き入れてしまった。

 

「けどあまりにも上達しないから、直接教えようと思ったんだ」

「…冬馬が?」

「…悪いのか?」

「悪くないです」

「……それで隣を覗いてみたら、あろうことかあのウザいクラス委員だったわけ」

「………」

「よくわからない怒りが込み上げてきて。よりによってなんでお前なんだって。お前なんか一生下手くそのままでいろって、そう思った」

 

出来ればそのまま閉じ込めていて欲しかった。

 

「…そう思ったはずだった」

「…え?」

「…気づいたら目で追いかけてた。勝手にだけど、気にかけてたやつだから。…今思うと、あの頃からもう気になってたのかもな」

「…そ、そうか」

「…夏休み。同好会が夏休みも練習するっていうのは聞いたから、暑い中夏休みなのに、わざわざ偶然を装って学校へ来てやったんだ」

「……その俺を見る目はつまり、俺に感謝しろと?」

「加えて謝罪もな。熱中症で倒れたらどうするつもりだったんだ?」

「……ありがとうございます。そしてごめんなさい」

「ん」

 

あまりにも理不尽だと思ったが、いちいちここで口出していると話が進まないと思ったから、必死で自制する。

 

「…あの日は一日中愉快だった。今でもあの時の北原の顔を思い出すと笑えてくる、ふふ」

「あぁ……」

 

フラって現れた冬馬は、いかにも簡単にギターを弾いて見せて、俺はその腕にすぐさま教えを請うたんだった。確かに、あの時の俺にプライドなるものがあるかと考えたら、あると断言出来ないだろう。

 

「それでもだ」

「うん?」

「あたしが直々に教えてやったっていうのにだ。全く上手くなる気配がない。さすがにあたしも焦ったぞ?」

「そこまでか…」

「もう一度直接教えに行くのはあまりにも不自然だし……」

「…?」

「…何よりも、恥ずかしかったし」

 

なんて俯きながら、照れながら小声でそう口にする。

 

「だから考えたんだ。お前がギターを弾いている時、一緒にピアノで正確な音で弾いていれば、こっちに合わせてだんだん弾けるようになるんじゃないかって」

「それで…」

 

名前もわからない。ただこっちに合わせてくれていたお隣さん。冬馬だったって分かってても、なんで付き合ってくれたかは分からなかった。でも今は……。

 

「それって…」

「……自分でも気づいてなかった。…いや、気づかないふりをしてただけなのかもな。お前がどんな人間なのかって、観察してただけのはずなのに、いつの間にか興味に変わってたこと。お前からかけられるお節介が、最初はあんなに嫌だったのに、いつの間にかそれに慣れて嫌じゃなくなっていたこと。こんなあたしでも、誰かの為になるかもしれないって思ってやってたことが、相手がお前だって分かった後も変わらず……むしろ、もっと真面目になって考えてたこと。多分…どれも認めたくなかったんだよ。でも…」

 

視線をあちらこちらに移しながら言葉を紡いでいた冬馬は、一度口を閉じてこっちを向いて再び開いた。

 

「今なら言える。認められる。自分に…素直になれる」

 

その目は確かに俺の目をしっかり捉えていた。真剣な想いが伝わってくる。いつもとは違う、『女の子』な冬馬だった。

 

「あれは、恋…してたんだ。ずっと気になってたんだ。……あたしも北原のこと、好きだったんだ」

「………」

 

同じ頃。正確に言うなら、俺が意識してコミュニケーションを取り始めた結果。

やがてそれが冬馬の心のなにかを変えて、今、俺が思い描いてた先に辿り着いた。

届かないと思っていた恋が、届いた。

 

「……なぁ」

「な、なんだよ…」

「今俺たちって、なんなんだ?」

「なんなんだ、って…?」

「いや、その、今俺たちさ?いろいろカミングアウトしたわけでさ?」

「………」

「その…友達、ではない…よなぁって……」

「……これだけお互いに恥ずかしい話しておいて、ただの友達とかなんの罰ゲームだ。というか願い下げだ」

「それは俺も激しく同意するところではあるんだけど…」

「……まだ」

「え?」

「…まだ、お互いにお互いへの想いしか言ってない」

「………」

 

俺が冬馬に告白して、冬馬も俺に告白した。告白だけした。つまりただ相手の想いを知っただけということ。そこから何をすれば俺が…俺たちが望む形になるのか?そんなの…分かりきっている。

 

「…冬馬」

「…なんだ?」

「……俺、お前のこと好きだ」

「……あたしも」

「……俺と…付き合ってくれますか?」

「………うん」

 

沈黙が再びこの空間を染める。けど、この静かさが心地いい。

 

「……なぁ」

「……ん?」

「……して…いいか?」

「……ん」

 

俺の抽象的な問いに、冬馬は短く返す。

こっちを向いて、目を閉じて、唇を少しだけ突き出して。

 

「…んぅ……」

 

俺は初めて口づけを交わした。

初めての感覚、柔らかくて暖かくて、とても愛おしくて。

背中に回した腕に力が入る。

 

「…んん、うぅ……んっ…」

 

けど今は許してくれ。

こんなにも誰かを抱きしめたくなったのは初めてなんだ。

こんなにも誰かを離したくないって思ったのは初めてなんだ。

こんなにも、誰かを愛おしいって思ったのは、初めてなんだ……。

だから、もう少しだけ……このままで……。

 




……はい。
2人が若干アクティブな気もしますが、そこは優しく見守ってください。大事なことなので2回言いました。

今回このSSを書く上で、一番描きたかったのはこの2人です。勿論、桜太と雪菜のところも気合入れて書きましたが、それは桜太という存在が異端要素だから、比較的スラッと書けました。
けど原作では上手く結びつけなかった2人であるぶん、どうやって『2人』に持っていくか、凄く悩みました。結局いつも通り、その場その場でキャラに入り込んで、自然と頭の中で彼らが会話してきた内容をそのまま文字に起こしただけですが。
桜太はオリジナルなぶん、自由にこっちで動かせるんですよ。けど既存している春希やかずさは、原作の中の彼らを壊さないように、僕の頭の中で物語を語ってもらわないといけない。
多分、実際はこんなこと言わないんじゃないか?などと思う部分もあるかもしれませんが、そこは自分の表現力不足です。すみません。
けど少しでも楽しんで貰えたなら幸いです。

さて、次回からは基本イチャイチャでアマアマでラブラブなWHITE ALBUM2 上手く書いていく予定です。
今回みたいに長くなることはまずないと思います。むしろ短くなるかと。
そこはいろいろ考えながら進めていきます。

よろしければ、これからもよろしくお願いします。
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