転生した現代人に異世界は辛すぎた 作:抹茶好きの紅茶
早朝、まだ日が出てすらいない卯の刻(適当)
エイリル アタデア6歳の朝は早い。
未だ夜が明けきっていない時間
恐らく4~5時辺りだろうk「小僧ー!仕事の時間だぞぉー!」
……とタエフの爺さんに叩き起こされる
こんな朝から、よくもまあ毎日毎日迎えにくるものだ。
瞼が重く感じ、目を擦る……が、眠いもんは眠いのだ。
正直、起きたくない。
しかし、もしここで二度寝をかましてしまえば、面倒臭い事になるのは既に経験済みである。
人は学ぶ生き物だ。ムクリと固いベッドから身を起こし、身支度を整え、マザーの元へ挨拶をしに行く。
「マザー、おはよー、行ってきまーす」
「……んー」
うむ、どうやらグッスリのようだ。
完全に八つ当たりであるが、若干の殺意すら覚えるレベルである。
しかしまあ、日頃から疲れているのだろう、しょうがあるまい。
そして、私が早起きをする元凶……元い、タエフの爺さんが待っている正面玄関まで移動する。
ああ嫌だ嫌だと思いながら扉を開けると、バスケットを持ったタエフさんが待っていた。
「おはよぉー……」
「おう、おはよう、今日は大人しく出てきたか
そんじゃさっさと行くぞ、そら朝飯代わりのパンだ、歩きながらだが沢山食えよ、じゃねぇと持たねぇぞ?」
「うーっす……」
と、バスケットから取り出された直径20cm程の丸いパンを受け取り、モソモソとかじる。
うん、美味しい。
クルミや干し
甘いイチジクと、クルミの食感のお陰で飽きが来ないのもプラスポイントだ
そうして、パンを3つほどペロリと平らげ、水革からパンにもっていかれた口の中の水分を補給するようにゴクゴクと飲む。
また、食べるのに気を取られ過ぎず、遅れないようにと早歩きでタエフさんについて行く。
そんなこんなで50分ほど歩き、畑へと辿り着いた。
そこからは手慣れた作業だ。
草刈り、土寄せ、中耕、害虫駆除etc……
たまに来る鹿や2本の角が生えたヤギなどを追い払ったり、壊れかけた柵を補強、修理したり……
そんな作業も大体2~4時間のスパンで休憩に入る
そして、日が暮れてきた辺りで、作業を終了し、マザーの迎えが来るのを待つ時間になる。
……作業を纏めると、大分あっさり気味だが、その実やるとなると超辛い。
特に足、腰、腕、手、その全てが夕方辺りには悲鳴をあげている
「疲れ、たぁ……」
そうして作業が終わると、タエフさん宅で毎度のごとく机に突っ伏してダウンしている。
おかしい、ここは剣と魔法のファンタジー世界、私はいつから牧○物語の世界に迷い込んだのだろうか、もっとこう•••あるだろう!!
「フハハ!お疲れさん、最初の頃と比べりゃマシになってきたじゃねぇか」
そんでもって御年78歳のこの腰痛めた(笑)爺さんはなんでこんな元気なんですかねぇ……!
「そりゃまあ手伝い始めて2ヶ月は経ったから……これを後3ヶ月か、3ヶ月かぁー……」
「フハハハハ!なぁに、3ヶ月なんてあっという間だぜ?そら、コイツでも食べて元気だしな」
と、干し
「ええい、年寄りと年齢1桁の子供が一緒の時間感覚だと思うなぁ……!それに、
……まあ、甘いし美味しいから食べるけどさ
モグモグと干し
「……ブフ、あー、わーってるよ」
おい、なんだその笑い堪えてる顔は、言いたいことがあるのなら聞こうじゃないか
とまあ他愛のない話をしつつ、いつも通りマザーを待っているのだが……ふむ、どうやら今日は随分と迎えに来るのが遅い
タエフさんも迎えが遅いのに痺れを切らしたのか
「なんだ、今日はやたら迎えが遅いな。しょうがねぇ、坊主、今日は俺が送ってやる」
と、此方へ声を掛けてきた。
まあ、ずっとここに居るわけにもいかないし、ここから孤児院までの道は一直線、すれ違うということも無いだろう。
特に準備することも無いので、よっこらしょと椅子から降り……あっちょっと待って足すっごいプルプルしてる。
なんとか疲れ果てた身体に鞭を打ち、生まれたての小鹿のような足で、田舎道を早歩きで進み孤児院へと向かう。
大体40分ぐらい歩き続けると、ようやく孤児院が見えてきた。
孤児院には明かりがついている為、どうやら中には人が居るようだが……取りあえず足がもう限界なので、さっさと身体を休めるためにも玄関の扉をバンッと勢いよく開ける。
「ただいまー!」
と、少し大きな声を出しながら中に入ると、食堂のある奥の部屋からゴンッと鈍い音が聞こえた
突然の事でビクッと身体を震わせ、一体何事かと思いながら、タエフさんの後ろに隠れつつ奥の部屋に近づくと、部屋の扉が勢いよく開き、中から頭を右手でさすりながら、涙目になっているマザーがよろよろと部屋が出てきた。
あー、まあ、取りあえず、言いたいことは色々あるが、取りあえず一言
「大丈夫?……あ、ただいまマザー」
「……ちょっと痛むけど大丈夫よ、おかえりなさいエイリル。それと迎えに行けなくてごめんなさいね。ちょっと、その、立て込んでて……すみませんタエフさん、エイリルを連れてきてくれてありがとうございます。」
「なぁにいいってことよ、それにマザーに何事も……あー、まあ大事がなくてよかった。そんで立て込んでるってぇのは?」
「それが……いえ、見てもらった方が早いですね。ちょっと奥の部屋まで来て下さい」
『?』
思わずタエフさんと顔を合わせ、頭の上にクエスチョンマークを浮かべつつ、マザーに連れられ
食堂に入ると、嗅ぎ覚えのある甘い匂いが漂っており、匂いの元を辿ると、そこにはミントの乗った甘い麦粥を勢いよく食べ続ける幼い少女の姿が……ん?
黒曜石のように綺麗な黒い髪と目をした、
突然の情報量に思わず部屋を出て扉を閉める。
そして、もう一度、扉を開け中に入る。
入り直しても、状況は大して変わらず、麦粥をマザーにおかわりしている黒髪黒目の幼い少女が、再び入ってきた私達を不思議そうに見ていた
そして、もう一度部屋を出ようと扉に手をかけ
「流石に三回はくどいぞ、幻覚でも夢でもねぇからさっさと受け入れろ」
「ハハハ、私は受け入れてますよタエフさん、想定外の情報に対応しきれず思考放棄しているだけです。」
「駄目じゃねぇか」
うん、目の前には初対面の少女が麦粥を……おい、なんでちょっと目を離しただけで今さっきおかわりしたばっかの粥が空になるんだよ
「マザー、詳しく、説明して、今、私は、冷静さを欠こうとしている」
「安心しろ、既に冷静じゃねぇ」
「え、ええと、そうね、といっても、そう簡単には信じられないと思うけど……」
マザーは少し困惑気味に、説明をしてくれた。
簡潔に纏めると、私を迎えに行こうと部屋を出ると、この少女が廊下で倒れていた、とのこと
だが不思議なことに、今日はずっと孤児院に居たのにもかかわらず、玄関の扉が開いた音どころか、物音すら聞こえ無かったらしい。
つまり、スニーキングミッションに成功した訳じゃないのなら、突然そこに現れた、ということになる。
そして、少女に事情を聞こうとしたら、なんとまあ面倒な事に記憶喪失だというのだ。
少女は自身の事をシクリィと名乗り、マザーが色々と事情聴取していたところ、彼女の腹の音がなり、おやつとして麦粥を作り食べさせていた、と。
「記憶喪失に身元不明、その他諸々不明と……えぇと、そんなことある?」
「実際本人がそう言ってんだ、そこは俺達が話してもしょうがねぇだろ。そんで、どうすんだ?養うにしろマザーの負担が増える、貯蓄も有限だろう。見ろあれ、あんだけあった粥が全滅したぞ」
うっわ、五人前はあった粥全部無くなってる……その小さな身体の何処に消えたのか、コレガワカラナイ。
実際問題、どうするのかの決定権はマザーにある。正直、私としては受け入れても良いのだが、マザーが心配だ。
主に心身+マネー的な意味で
「……それなんですけど、シクリィには身寄りも無いようですし、この子の親が見つかるまで、此処で預かろうと思います。既にシクリィとは話をつけてますし、彼女もそれで良いと言ってくれました。
それに元々複数人の子供の面倒を見るのなんて昔からやってますし、貯蓄に関しても問題ありませんからね
エイリル、突然の事で受け入れがたいかもしれないけれど、今日からシクリィと一緒に暮らす事になるの、難しいかも知れないけど、"お兄ちゃん"らしく仲良くしてあげて欲しいわ」
わ、ぁ、いや、本当に突然の事で実感が正直わかない。というか兄妹なんて前世含め経験がないので、どう接したら良いのか……
改めて、シクリィの方へ視線を向ける。前世では飽きる程見ていたが、この世界では初めて見る黒い髪に黒い瞳。整った顔立ちをしており、年は……身長や見た目から察するに、2、3歳程だろうか?
……あー、まっずい、前世からのコミュ障引きずりそう。
大体初対面の時は上手くいかないのが前世だが、人間そう変わるものではないことは理解している、一回死んだとて変わらぬのが人の常だ。
ファーストインプレッションは大事だぞ、落ち着け、落ち着いて、慎重に言葉を選……いや、そもそもファーストインプレッションと言うなら、扉を開けたり閉めたりしていた時点で割りとアウトでは?ああ、前世からそうだがいっつもその場のノリで失敗するよなぁ、あー、ヤバイヤバイ沈黙がいっちゃんキツいんだから、ええい頭を回せ、考えろ考えろ、イメージするのは常に最強の自分だ、いや、私は何を考えているのだろうか、いやそもそもだが……
「ねぇ」
キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!
「アッハイ、ナンデショウカ」
アーーーーー!カタコトー!コミュ障拗らせた男とか誰得だよキツいキツいキツいキツいキツい!発狂しそー!死んで環境リセットしてやり直す機会貰ってもこれとか救いようが
「なまえ」
……名前?
「わたし、シクリィ、あなたの、なまえは?」
……そうか、そういえば、まだだったか、あぁ、全く、前世含めて■■歳が何やってんだか、そうだ、なに簡単なことじゃないか、変に緊張して空回る事なんて無かった、伝える言葉は簡潔に
「エイリル、エイリル・アタデア。これからよろしく」
「うん、よろしく」
シクリィに近づき、互いに右手を差し出し握手をする。
そうだ、最初から、名前を言って挨拶をすれば良かった。変な行動をしたり、考えすぎるのは悪い癖だな、反省反省。
最初の出会いは決して最良とは言えないものの、概ね好印象であった……と思いたい
まあ何はともあれ、一緒に暮らす人が増えたのは私としても嬉しく思う。個人的に静かな時よりも、賑やかな方が好みだ。
それに、マザーには子供らしい対応を片手で数える程しかしていない。
迷惑は……まあ、あまり掛けていない、しかし、きっと、私はどこか、他の子供と違って、多少不気味にうつっていただろうから
っと、いけないいけない、シクリィがマザーに向かって歩いて行くのが目に入り、思考の海から顔を上げる
シクリィはマザーに近づき、口を開く
「……おなかすいた」
は?
思わず目を丸くして、シクリィを見る。
恐らく、この場に居るシクリィを除いた3人の心の声が合致する
(((お前まだ食うのかよ!?)))
マザーの額に汗が浮かぶ。
本当に、本当に貯蓄に問題は無いのだろうか。
少なくとも予想だにしない出費として孤児院のエンゲル係数は爆発的に上がるだろうことは分かる。
頑張れマザー、負けるなマザー、孤児院の明日はどっちだ