転生した現代人に異世界は辛すぎた 作:抹茶好きの紅茶
まてまて、コイツ今なんて言った?
突然の情報量に理解が追い付かない、ああくそ、酸素が足りないのか考えが纏まらん。
取りあえず今は息を整える事に集中する、幸い目の前の蝙蝠……フェーレスといったか、奴は相変わらずニヤニヤとした顔で此方の様子を見ており、危害を加えるつもりは無いようだ。であれば、今するべきは情報の整理だ。
取りあえず大まかに、気になる点は三つ。
まずは一つ目、封印について。まあ十中八九、地面に描かれた魔方陣的なやつと札の貼られた壺なんだろうが、封印されてるくせにあの重圧だ。間違いなく解いたらアウトだろう、頼み事というものもコレか?
次に二つ目、フェーレスの持つ謎の力について。恐らく魔法なのだろうが、魔法について今のところ分からないことだらけなので憶測で語るしかない。少なくとも、魔法を使って此方に危害を加えるつもりは今のところ無いのだろう。もしくは出来ないか、しかし、どういう原理かさっぱりだがアレを消したのだ、警戒するに越したことはない。
そして三つ目、人生2周目の異世界人……まあ、言葉の通り受け取れば私の事なのだろうが、
『(何故バレた?)ねぇ、まあ及第点ってとこだな』
……ああ、そういうことね。"読心術"、心理学とかそういうのじゃない、本当に心を読む系のヤツか。
『ありゃ、なんだ驚かねぇのか……つまらねぇなぁ、こっちは久々に面白ぇリアクション見れると思ったのによ』
それは失敬。まあ読心術自体、ファンタジーでは珍しい話でもない。近年はそういった作品も多数あるし、なんなら古来より世界中の伝承にそういった例は出てきている。
それこそ有名な伝承の中には、なんでも、"神"様は心を知り、"お釈迦"様は心を読むことが出来たと言われているらしい。確か日本でも心を読める"覚"という妖怪が江戸時代辺りから伝えられていた筈だ。うろ覚えだが、ソロモン72柱の中にも心を読める悪魔がいたという。まあ、ありふれたといってはなんだが想定の範囲内と言えるだろう
『ほーん、中々に物知りだな……って、喋れよ!ほら、もう息は整い終わってるんだからよ、会話を楽しもうぜ?心を読むってのもわりと疲れるんだからったく……』
へぇ、つまり心を読むにも限界があるということか。これは良いことを聞いた。ああそれで、出来れば私の質問にも答えて欲しいな、封印とかフェーレスの持ってる力とか。
『……あのー!話聞いてるー?人様に心読ませて自分だけ喋らねぇのはやめねぇか!?こう……会話を!会話を楽しもうぜ!?わりと俺様悲しくなっちゃうから!』
わりとノリ良いなコイツ、ふむ……反応面白いからこのままで進めよう。ほら、はよ教えてくれ
『ひっでぇ!人の心はどこに置いてきたんだ!?』
ハハッ、悪魔に人の心云々言われるとか、笑える
まあ、おちょくるのもほどほどにしておいて、質問に答えてはくれやせんか、あっしも次から喋りますんで
『ホントだな?本当に信じて良いんだな!?……ああ、今回はマジか。あー、それで……なんだったか、ああそうそう、封印と俺様の使う魔法についてだな?』
「んな身構えんでも……取りあえず封印について教えてくれない?あ、封印解くのはNGで」
『安心しろ、元から頼む気なんてちょびっと程度しかねぇよ』
「あったんじゃねぇか」
『ま、それはそれとしてな?』
あ、話逸らした
『俺様が封印された理由だが。それは、この"俺様が悪魔だから"この一点に尽きる。つっても何がなんだかさっぱりだろうから、今から軽く悪魔について話させて貰うぜ。
すっげーざっくりに言うとだな、悪魔ってーのは、性格がひん曲がった奴に造られた"契約に則って願いを叶える存在"だ』
「……願いを叶える、ね。造られたってのも気になるけど、契約ってのは?」
『ん?ああ、コレだよコレ』
フェーレスは洞窟の壁へと翼を伸ばす。視線を壁へと移すと、そこには確かに文字が掘られていた。
ああ、魔方陣に目を奪われて気がつかなかったか、それにしても文字汚なっ……ええとなになに?
契約において、悪魔は嘘を言ってはいけない。
願いの価値は、悪魔の本心から思う価値を基準とする。
対価の価値は、契約者の本心から思う価値を基準とする。
悪魔は願いと同等の価値を徴収する義務がある。
悪魔は願いと同等の価値を徴収した場合、願いを叶えなければいけない。
「……なんだこれ、お値段はお客様次第ですって感じ?」
『まーその解釈で良いんじゃねぇかな。価値ってのは疎らでな、人によって価値が変わるもんなんて挙げりゃキリがねぇ。だからこそお互いフェアにいこうぜって感じだと思うぜ、まー今適当に思いついた事だから合ってるか分からんが。つーかそこまで真剣に考えたこともねぇしな……話が逸れたが、この契約と俺らの習性、つーか性質だな、それが合わさって大変なことになったのわけよ』
「……というと?」
『そもそもの話だが、俺様達悪魔は寝る必要もなければ、栄養を取り入れる必要もねぇ。だがな、"肉体か魂を取り込む"か"生物が発する一定以上の感情を視る"事で快楽を得るようになってんのよ』
「あー、嗜好品的な感じか。魂だの感情だの引っ掛かる所多いが……後で聞くわ、続けてくれ」
『おう、そんでな?何でも願いが叶うとして、わざわざちっぽけな願いを叶える奴はそう居ないだろ?そして願いの価値がデカければデカい程、対価も比例してデカくなるって訳。
そんでもって契約には穴だらけときたもんだ。極めつけには"契約に則れば、なんでも願いが叶う"んだぜ?
長々と説明したが、結局なんで俺らが封印されちまったかってのの一番の要因はだな……上位階級の奴らが、そこら辺の浮浪者に命令して契約を行わせるっつーのが横行しちまったのさ』
「うわぁ……」
『それが仲間内だけで済むんならまだ良かったんだが……とある一件で俺らの存在が大々的にバレてな。国々が連盟組んで悪魔絶許キャンペーンを始めちゃったわけよ』
「そりゃ、まあ、御愁傷様で……」
『あ、勘違いしてるところ悪いが、俺様達が嫌なら契約も断ることが出来たからな、契約は互いに利があっての契約だ。それと、とある一件っての引き起こしたの俺様だし』
「は?」
『だーかーらー、俺様が引き起こしたことが原因で悪魔の大半が封印or消滅しちまったのさ☆』
「お前のせいなのかよ!?」
『欲に溺れる人間が頂から転落する瞬間を視たくなっちまってな。契約する時に軽い精神操作と、力が欲しいか的なセリフ言っただけなんだが……いやぁ都市一つ消し飛んじまった時は腹抱えて笑ったわ』
「ハハハハハ帰って良い?」
わりと切実に
『そう言うなって。あ、それと帰るんならせめてあの札だらけの壺開けてから帰ってくれや』
「へぇ、因みに開けるとどうなんの?」
『俺様が完全復活する☆』
「ハッハッハ、今の話聞いて開けるわけねぇだろ」
『だよね~同じ状況だったら俺様だって嫌だもの』
「よし、話は以上だな。んじゃ俺はこの辺で帰るわ、達者で暮らせよ。できれば俺が生きてる間は絶対に出てこないでくれ」
『辛辣~……さて、おふざけもほどほどに、ちょっくらマジな話をさせてくれねぇか?お前さんを此処に連れてきた事に繋がる話だ』
「……OK、ただし次ふざけたらマジで帰るからな」
まあ、コイツが素直に帰らせてくれるか分からんしな、さっきの息苦しさを取り払った魔法っぽいヤツの詳細も分かってない今、下手に動いてゲームオーバーとか洒落にならん。
『センキュー、それじゃあ端的に用件を伝えるが……俺様と契約をしねぇか?』
「え、ヤダ」
『………………』
「………………」
──完──
『完、じゃねぇよ!勝手に終わらすんじゃねぇ!せめて最後まで話を聞こうぜ!?』
「さっきの話を聞かされて、はいそーですかと返事が返ってくるとでも?それに悪魔と契約とかいう厄ネタ抱えて生活したくないし……」
『まーまー、断るのは内容聞いてからでも遅くはないから、な?』
「……で内容は?」
『さっすが旦那話が分かるゥ~
で、本題だが、契約つってもマジのヤツじゃねぇ。破っても別に構わねぇし、デメリットもねぇから安心しな。
そんでな?俺様は封印されて以来3000年もの間ずっーと独りでなァ、それはもう暇で暇で……あいや、1200年ぐらい前にちょっくら色々あったが……まー、それは置いといてだ。ぶっちゃけ暇なんだよ。すっげー暇。独り言垂れ流すぐらい暇』
「はぁ、まあそりゃ何もない洞窟の中で一人は暇だろうけど」
『そう、そこでだ。暇な時で良い、お前さんここまで会いに来てくれねぇか?勿論、そっちにもメリットは用意するぜ』
「メリットってのは?」
『お前さん、随分と魔法に興味があるみたいだな?その魔法をこの俺様自らご教授してやろうじゃねぇか』
「OK、契約成立だ」
『はっや、変わり身の早さにビビるわ』
そりゃおめぇ、魔法だぞ?ファンタジーだぞ?オタクの夢だぞ?会いに来るだけで良いなら幾らでも会いに来るがな
『お前さん、変な壺とか進められても絶対に買うんじゃねぇぞ?』
誰が騙されやすいだ油で揚げてやろうか蝙蝠野郎
『ちょいと情緒不安定すぎねぇ!?』
当たり前だろう、なにせずっと気になっていた魔法を教われるのだ。気分はまるでクリスマスプレゼントを待つ子供である。
「んで、契約云々の話は終わりで良い?正直、魔法以外にも色々と聞きたいことがあるんだけど」
『おう、全然答えるぜ。
と言いたい所だが、今日のところはやめときな』
「なんでさ」
『お前さん、そろそろ帰らんと大目玉食らうことになるぞ』
………………あ
急いで洞窟から外に出ると、空は橙色に染まっていた。
そう、私は留守番を抜け出してきているのだ。無論、孤児院に盗みに入る人は居ないと分かっての行動ではあるのだが、それはそれ。バレたら雷が落ちる程度では済まないことになる。というか既に経験済みだ。
「……OKフェーレス、魔法で私を帰してくれ」
『すみません、よく分かりません。
つーかな、俺様封印されてるせいで魔法も万全に使える訳じゃねぇのよ。つーわけでほれ、走って帰れ』
「使えねぇー!」
しょうがないので森の中を走り……アッマッテ、キンニクツウガッ、アーーー!
……その後、なんとか孤児院へ帰れた私を待ち受けていたのは、笑顔のまま青筋を立てたマザーであった。
案の定というべきか……その晩私には、絶えず雷が落ち続けたのでした。