未知なるキヴォトスを夢に求めて   作:きらきら虫

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第三話 宝物は日常というオチ

 

 アビドス高等学校に転校してから数日が経った。如何に治安の悪いキヴォトスといえど、そう毎日事件が起きる訳ではない。初々しい学園生活は春の日和の様に穏やかだった。

 

「あの」

 

 どうやら隣の少女にとっては平穏無事ではなかった様だが。人見知りな彼女の方から珍しく対話を図ってきたので、私はなるべく人好きのする笑顔で応えた。

 

「はい何でしょう」

「ずっと聞きたかったことがあるのですが」

 

 彼女はいつになく躊躇っているようで、言葉は辿々しく、視線は私の手元辺りまで下がっている。この表情を見れただけでも態々アビドスまで来た甲斐を感じられた。良いだろう君のその顔に免じて何でも答えて見せよう、答えられないこと|(夢の話)以外はな!

 

「良いですよ、何でも答えてあげます」

「じゃあ聞きますが、あなたが手に持っているソレ何ですか?」

 

 私はホシノちゃんが睨みつける視線に釣られるようにして自分の手を見る。その両手には折れ曲がった金属の棒がそれぞれ握られていた。

 

「良かった、やっと突っ込んでくれましたね」

「突っ込み待ちだったのですか」

「いえ、大真面目です」

 

 私がその棒について聞かれた事を喜ぶと、彼女は心底聞かなければよかったという後悔の表情に変わった。だが、彼女がせっかく話しかけてくれたのだ、最後まで答えてやらねばならない。

 

「これはダウジングというもので、宝探しに使う道具です」

「宝探し?」

「はい!かつて栄華を極めたアビドスなら、とんでもないお宝が眠っていると思いまして」

「例えば?」

「宇宙戦艦とか移動要塞とかですかね」

「馬鹿じゃないですか」

 

 彼女はとうとう呆れた様で、付き合いきれないと私を置いて早足で歩き始めた。それにしても、まるで呪いのように伝えるが出来ない青春の物語|(禁則事項)の内容も、与太話としてなら喋ることが出来るらしい。意味深長な話で人々を操るフィクサー、カッコいいではないか。

 

「ま、待ってください、一緒に探しましょうよ古代兵器!そして私とあなたの力を合わせれば、このアビドスがキヴォトスを征服出来る筈です。世界の半分はあげますから!」

「探しませんし、要りません!そんな事するより、割りのいいバイトを探す方が賢明です!」

 

 残念ながら人を唆すのはそう簡単には行かないらしい、一体何がいけなかったのだろうか。ほぼ小走りで進むホシノちゃんを慌てて追いかけていると、私達はすぐに目的地に辿り着いた。

 

「失礼します。あれ⋯⋯」

「おや、居ないですね。ユメ先輩」

 

 私達が向かっていたのはアビドスの生徒会室(在籍人数一名)。連日ユメ先輩は私達にお昼ご飯のお誘いをかけに来てくれていたが、それを恥ずかしく思ったのか、昨日ホシノちゃんは自分達で生徒会室に行くので態々来ないで下さいと言ったのだ、素直じゃない奴め。

 

「⋯⋯」

「そう心配しなくても、まだ学校の時間ですから厄介事に巻き込まれたりなんかしませんよ」

「別に心配なんてしてません」

「なぁにその内、偉大なるキヴォトス征服計画を引っ提げてやって来ますよ」

「ありませんよ、そんな計画!全く、好きですねキヴォトスを征服するの」

「そりゃあ、夢はデカい方がいいですから」

 

 そう言い合って私達はお昼ご飯を広げていた。流石にまだユメ先輩の身を案じる時ではないし、その通り廊下からドタドタと慌ただしい音が聞こえたと思ったら、勢いよく生徒会室の扉が開いた。

 

「ごっ、ごめんね。ちょっと考え事してたら遅くなっちゃった」

「別にそれ程待ってませんよ」

「ええ、私達も今来たばかりですから。ところで先輩、何かいい事ありましたか?」

 

 いつもいい笑顔のユメ先輩が今日は一層輝いていたものだから、私は出会い頭にそう先輩に尋ねた。彼女はいそいそと定位置に座ると、よくぞ聞いてくれましたとばかりに語り始める。

 

「ふふん、実はねアビドスが抱えてる借金を解決する方法を思いついたの!」

「「な、なんだってー」」

 

 ユメ先輩がいきなりそんなことを言うものだから、私とホシノちゃんは二人して仰天した。勿論、私はふりである。先輩があまりに得意げであるから、乗ってあげるのが筋というものだろう。ただ、ホシノちゃんの方は分からない。今の彼女がそういった冗談を言える程器用には思えないし、彼女は大概ユメ先輩に対して甘い。案外、本気で信じているのかもしれない。

 

「ふふっ、二人とも良い反応してくれたね。その方法は、お宝探しだよ!」

「お宝、探し⋯⋯」

 

 ユメ先輩がアビドス復興の一手を声高々に宣言すると、ホシノちゃんの顔は見る見るうちに落胆へと変わっていった。それはそうだろう、つい先程厄介な同級生が言っていた事と同じ事を愛しの先輩が言い出したのだ、彼女からしてみれば絶望物である。おい、何故恨めしそうな目でこっちを見る。

 

「ええっ、どうしたのホシノちゃん!ちゃんと当てはあるから最後まで聞いてよ」

「はぁ、いいですよ。オチが宇宙戦艦とかでなければ」

「宇宙戦艦?えっとね、砂漠化する前のアビドスは凄い学校だったでしょ。だったらお金になる物も沢山残っているんじゃないかって。一応、色々目星は付けてるよ。とりあえず今日は、廃線になったアビドス鉄道だね。やっぱり、人も物も集まる所にはお金も集まると思うから」

「おぉ、凄いです先輩!行きましょう、私も手伝いますから」

 

 ホシノちゃんは感動に打ち震えたようで、食い気味にユメ先輩を讃える。賛同を得た先輩共々とても楽しそうだ。しかし、私としては非常に不服である。

 

「ちょっと待って下さい」

「どうしたのチカゲちゃん?」

「放っておきましょう。きっと、先輩の計画が凄すぎて嫉妬してるのですよ」

「ちーがーいーまーすー」

 

 私が待ったをかけると、ホシノちゃんはやれやれといった様子で私を揶揄い始めた。悔しい⋯⋯悔しい〜っ!

 

「ホシノちゃん、私が宝探ししましょうと言った時、馬鹿にしましたよね!何で先輩のは良くて私のは駄目なのですか、依怙贔屓です!」

「依怙贔屓って、当たり前です!聞いて下さいよ先輩、コイツ、アビドスに眠る宇宙戦艦を探して世界征服しようと言ってたんですよ」

「チカゲちゃん⋯⋯、流石にそれは無理かな」

「ぐう」

「そうやって適当ばかり言ってると、人から信用されなくなりますよ。もう、私は信用してませんが」

「⋯⋯」

 

 ホシノちゃんの言葉で深く傷付いた私はぐうの音も出せなかった。違うのだよホシノちゃん、適当なことを言うのは本気で夢の話をすると死にかけるからなんだ。それはそうと、そうやって人を揶揄うのが楽しいというのもあるのだが。ただやられっぱなしのも気にくわない、どうやってこの恨み晴らさでおくべきか。

 

「ううっ、先輩、ホシノちゃんが私が余所者だからって虐めてくるんです」

「先輩、コイツ一回締めていいですか。二度と適当なこと言えないようにしてやります」

 

 私が意地らしくユメ先輩に助けを求めると、ホシノちゃんはいきり立って私に銃口を向けた。おいこら止めろ、実力行使で問題は解決しないと、君は先日先輩から教わったばかりだろう。蜂の巣にされては堪らないので、私は先輩に泣きついた。

 

「よよ」

「コラ、ホシノちゃん。あんまり意地悪しちゃ駄目だよ」

「ち、違います。私はただ⋯⋯」

 

 私が先輩に飛び付くと、先輩は私をその柔らかい胸に抱きとめると優しくホシノちゃんを叱りつけた。ただ叱られたホシノちゃんの方は、まるでこの世の終わりの様な顔で狼狽え始めた。ハハハ、愉快愉快。

 

「ぷぷっ、先輩に注意されたぐらいで、こんなに狼狽えるなんて素直で可愛らしいですよホシノちゃん」

「ね、可愛いでしょ」

「────!」

 

 このあと、先輩の居ない所で滅茶苦茶ボコボコにされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユメ先輩、何も見つかりませんよ」

「見てください先輩、いい感じの棒見つけましたよ!」

「⋯⋯こっちもハズレみたい、うぅ」

 

 日が沈んでそれなりに時間が経った頃、私達三人は明かり一つ無い廃駅を物色していた。放課後より始めた宝探しであったが、しかしこれといった成果は未だ無く、幾つもの廃駅を巡っては落胆を繰り返していた。

 

「ごめんね、ホシノちゃん、チカゲちゃん。もう、ここまでみたい⋯⋯」

「そんな、ようやくいい感じの棒を手に入れたのに!」

 

 長い時間砂漠を歩き回った疲れからか、ユメ先輩はとうとう倒れ込んでしまう。そんな先輩に私は駆け寄り、何とか元気づけようとその手にいい感じの棒を握らせる。

 

「⋯⋯良いから立ってください」

「私のことは置いていって良いから⋯⋯今までありがとね、ホシノちゃん、チカゲちゃん」

「先輩!せんぱ〜い!」

 

 しかし願い叶わず、先輩はその棒を握ることなく二人の後輩に感謝の言葉を告げると安らかに瞳を閉じた。私は力尽きた先輩に寄り添って、ただ悲嘆の声で彼女を呼び続けていた。

 

「ああ、もう!なんの真似ですか!」

 

 そこでとうとう我慢の限界が来たのか、身長とケツの穴が小さい少女、小鳥遊ホシノが怒りの声を上げる。すると今まで倒れ伏していた先輩がケロッとした表情で起き上がり、憤慨する後輩の様子が面白いのか笑っていた。

 

「ふふっ。ごめんねホシノちゃん、冗談だから。次の駅には何かあるかもしれないし、行ってみよっか」

「ええ、私達の冒険はここからです」

「それは終わりの決まり文句では?⋯⋯はぁ、どこも同じだと思いますよ。高価な展示品があったとしても、とっくに前生徒会が売り払ってますから」

「う〜ん⋯⋯」

 

 尤もらしいホシノちゃんの言葉に私達は閉口してしまう。そんな事は薄々気付いていたし、なんなら知ってすらいた。しかし、良い意味でも悪い意味でも万が一があるかもしれない、だから態々こうやって着いてきたのだ。

 

「もう帰りましょう。宝探しなんて、時間の無駄です」

「「えっ!?」」

 

 あまりにもあんまりなホシノちゃんの発言に、私と先輩は同時に驚きの声を上げた。私の提案をこき下ろして、大して変わらない先輩の提案を手放して褒め称えるというダブルスタンダートを決めた癖に、更にトリプルスタンダードを決めるとは開いた口が塞がらない。

 

「ホシノちゃんも、最初はすっごいノリノリだったよね?」

「そ、それは⋯⋯!」

「アレじゃないですか、ホシノちゃん先輩に甘いですからノリで乗っただけなのでは?」

「ち、ちがわい!大体、あなたこそ何ですか!ゴミばかり集めて」

 

 ホシノちゃんが話を逸らそうと矛先を向けたのは、私がここまでの道すがら集めた多種多様な物であった。

 

「ゴミじゃないですよ、いい感じ棒は探検には必要ですし、綺麗な石はお守りになりますし、この変な手帳は⋯⋯多分ゴミですね」

「それはゴミじゃないよぉ!」

 

 一つ一つ取り出して拾った物の説明をしていると、その中にバナナの中から鳥がヒョッコリと顔を出すという独特なセンスの絵が描かれた学習帳が出てきた。つい先程、ユメ先輩が落とした物を興味本位で拾ったのだ。

 

「おや、ユメ先輩のでしたか。どうぞ、大事な物は落とさないでくださいね」

「ありがとう!って、分かってて言ってたでしょ」

「ハハハ」

「冗談は程々にしてそろそろ帰りますよ。もうこんな時間ですし」

 

 私はとユメ先輩が戯れ合っていると、ホシノちゃんはいい加減付き合うのにも飽きたのか、さっさと帰り支度の音頭を取り始めた。

 

「はぁ、結局何も見つかりませんでしたね。奇跡でも起きなければ、お宝なんて見つかりませんよ」

「本当の宝物は、私達の過ごした何気ない日常というオチはどうです?」

「わぁ、素敵」

「やめて下さいよ、気味が悪いです」

 

 失礼だな、本心だよ。いや、本心だから気味が悪いのだろう。いきなり現れてさも当然のように這い寄る私は、このヤマアラシの様な少女には恐ろしくて仕方がない、おかげで私の身も心も傷だらけだ。まぁいいさ、その分私はそんな彼女を揶揄うのだから。

 

「まあまあ、そう言わないで下さい。それなら私が奇跡をお見せしましょうか」

「何ですか、まさか宇宙戦艦でも出すつもりで?」

「そんなまさか、ほんのささやかなものですよ」

「なになに、気になる!」

 

 私がとっておきの隠し玉を仄めかすと、意外にも二人揃ってその話題に興味を示した。そんな彼女達の様子に私は大変気分を良くする。

 

「フフーフ、どうしてもと言うなら教えてあげないこともないですよ」

「じゃあいいです。帰りましょう、先輩」

「あっ、あ!待ってホシノちゃん。お願いチカゲちゃん、何があるのか教えてくれない?」

「仕方がありませんね、ユメ先輩の顔に免じて特別に教えてあげましょう」

 

 プライドの高いホシノちゃんは教えを乞うのがそれ程嫌なのか、ユメ先輩を連れて踵を返そうとする。しかし、当の先輩は踏み留まって素直にお願いをしてきた。先輩に乞われたことに満足したのでとっておきの話をしよう、意地を張っては事が進まない。

 

「お二人とも、これを見てください」

「何これ、駅の⋯⋯看板?」

「オークション、これ売り物なんですか?」

「えぇそうです。こういった駅のグッズというのはマニアには人気があって、それなりの値段で取引されているのですよ。この駅にも残っていましたよね」

 

 私が視線を促すと、二人は釣られて辺りを見渡し、ハッとした表情になった。

 

「凄いよチカゲちゃん!うぅ、ありがとう。おかげで今日のお宝探しが無駄にならずに済んだよ!」

 

 ユメ先輩はよっぽど感激したらしく、飛びつく勢いで私を胸に抱くとクルクルと踊るように喜んだ。うむ、苦しゅうない、苦しゅうない。いや、やっぱり息が苦しい。

 

「先輩、苦しいです」

「あ、ごめんね」

「いえいえ、先輩に喜んでもらえて何よりです。どうです?案外、奇跡というのは身近にあるものでしょう?」

 

 私はホシノちゃんに向かって如何にも得意げな表情で語りかけた。これは意趣返しだ、流石の私でもあまりに冷たくされると傷つきもする。気に入らない私が活躍するというのはさぞ悔しいだろう。そう思ってホシノちゃんを煽ったのだが、思いの外彼女は真剣な表情をしていた。

 

「⋯⋯⋯⋯そうかも、しれませんね。正直あなたのことは、何しでかすか分からない、口だけの変な奴だと思っていました。それは謝罪します」

「えっ、まあ、それはあながち間違いじゃないですし⋯⋯」

 

 私としては売られた喧嘩に憤慨するか、先輩を取られたことに拗ねると思っていたのだが、計らずも行われた彼女からの謝罪に私はひどく動揺した。だからか珍しく素直な彼女に釣られて、私も素直に彼女の指摘を認めてしまった。

 

「いいですよもう、これからもよろしくお願いします」

「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

 ホシノちゃんが差し出してきた手を、多少困惑しながらも握り返し、私達は固く握手をした。この日この時、私達はようやく友達になれたのかもしれない。そう明言するのは素直でない私達にとって恥ずかしかったが、この手の温もりは確かにそう感じられた。

 

「わぁ、雨降って地固まるだね!⋯⋯それにしてもチカゲちゃん、駅のこと知ってるなら最初から言ってくれれば良かったのに」

 

 私達の青春を見届けたユメ先輩はふと思ったのだろう、当然の疑問を投げかけてきた。そう、これには深い訳がある。複雑で難解でやむを得ない理由があって私はこうする他なかったのだ。

 

「だって持ち歩けないじゃないですか。それに、何も見つからなくて落ち込んでいる時に言った方が喜びもひとしおでしょう?」

「一瞬でも、信じた私が馬鹿でした!」

「痛ったい手がぁぁぁ〜!!!」

 

 ホシノちゃんはしばらく口を利いてくれなかった。

 

 

 





○小鳥遊ホシノ(一年生)
おじさんを自称している姿からは想像出来ない程、尖っていたあの頃。本人曰く、何もかもに憤りを感じていたらしい。危なっかしい先輩に加え、本作では頭のおかしいぽっと出の転校生が増えたので悩みの種も増えた。

→梔子ユメ
放っておくと何に巻き込まれるか分からないので放っておけない存在。先輩のことを頼りない人だと思っているが、良い先輩像として彼女の真似をするくらいには、彼女の温もり(意味深)に脳を焼かれている。

→奇星チカゲ(オリ主)
放っておくと何をしでかすか分からないので放っておけない存在。頭が良いとは薄々感じているが、すぐに意味不明な言動をするのでやっぱり馬鹿だと思うことにする。成り行きでよく一緒に行動する為、周りからは仲良しだと思われているが、お互い素直な性格じゃないので絶対に認めない。
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