第四話のタイトル変更しました。
主人公はカスです。主人公はカスです。(大事なことなので二回言いました)
年長者として覚悟を決めたユメ先輩と涙のちょちょ切れる別れを終えた私は、その後様々なゲームを回っては、奇跡的な大勝利を重ねていた。勿論ただ運が良かったのではない、奇跡など私の手に掛かればどうにでもなるのだ。そしてラウンジ内を粗方回り終えて次はどこで一稼ぎしようか考えていた時のことだった。
「おや?」
ふと視界の隅に、小柄な桃色の少女を見かけた。なんだか随分と久しぶりにその姿を見た気がするその少女は、いつものような活発さは何処へやら、まるで燃え尽きた灰のように、部屋の端っこの椅子に座って呆然としていた。
「おやおやおやぁ〜」
その哀れな姿から目に浮かぶようにおおよその経緯を把握した私は、あまりにもそれが想定通りで面白かったものだから、これ幸いと態とらしい笑みを浮かべると、背後からそっと這い寄って彼女に話しかけた。
「休憩中ですか、ホシノちゃん」
「ひぇっ、そそ、そうですが何か?」
彼女は私に気がつくと一瞬嫌そうな顔をしたが、すぐさま表情を取り繕うと強気な態度でそう嘯いた。私は片方の飲み物を差し出すと彼女の隣に座る。
「いえいえ、もしかしたらああも威勢のいいことを言ったのにも関わらず、有り金全部失って途方に暮れているのかと思いまして」
「そんなわけ!⋯⋯⋯⋯ありますけど。あなた、分かって言ってますよね。何ですか、笑いに来たんですか!」
思いの外あっさりと負けを認めたホシノは、ヤケクソのように開き直ってそう言った。あんな醜態を晒していれば一目瞭然であることは彼女にも分かっていたのだろう、怒りと恥ずかしさでぐちゃぐちゃになった顔は真っ赤だった。本当は泣くまで揶揄ってやろうと思っいたが、心優しい私は引き際を弁えた。これ以上揶揄ったら手が出るのを恐れたのではない。ないったらない。
「やれやれ、大方負けず嫌いを発揮してムキになったのでしょう?ギャンブルは熱くなったら負けなんですよ」
「ぐっ、そう言うあなたはどうなんですか」
「ふふふ、聞いて驚きなさい。500万、大勝利ですとも」
「んなっ!」
丁寧な前振りに私は思わず笑みを浮かべ、お望み通り今日手に入れたお金を見せびらかしてやると、彼女はこぼれ落ちそうなほど目を見開き愕然としていた。打てば響く様に反応する彼女を揶揄うのは実に気分が良い。
「どうです、私がギャンブルの勝ち方を教えてあげましょうか?」
「よ、よろしくお願いします⋯⋯」
私が煽るようにして提案すると、ホシノ自身も思うところがあるのか、渋々といった様子で私の提案を受け入れた。しかし、プライドが邪魔をしてか頭は下げることはなく、苦々しい表情が私からは丸見えであった。
「それでは、次はどこで遊びましょうかね。どこがいいと思います?」
「一番人気のスロットでいいんじゃないですか」
「では、ポーカーにしましょう!」
「何なんですかあなたは」
そんなことを言いながらも、私達はポーカーのテーブルに着いた。勿論プレイするのは私だけで、素寒貧のホシノちゃんには私の隣で見学である。ポーカーとは5枚のトランプを使って数字やら図柄やらを揃えることで役を作るというゲームだ。配られたカードの中から好きな枚数交換するカードを選び、完成した役の強さで勝ち負けを決める。そして、賭け事においては難しい役を揃えるほど沢山のお金が貰えるという仕組みだ。
「基本的なルールはそんなところです」
「知ってますよ、それくらい」
「これは失礼、あなたが誰かとトランプで遊んでいるところが想像出来なかったものですから」
「うるさいですね。口じゃなくて、手を動かしてください」
「ふふふ、仰せのままに」
ホシノに急かされつつディーラーから配られたカードを見る。手札はワンペア。役のない残りのカードを交換してみるが、やはりワンペアである。ただ、先ほど交換したカードと同じ数字のカードがあった。本来なら役が出来る可能性を逃した悔しい場面だが、私にとっては好都合である。私が
「え?」
「どうかしましたか?」
「い、いえ。何でもないです……」
後ろで見ていたホシノがおかしな動きに気付いて声を上げるが、私がしらばっくれると彼女は出掛かけた言葉を飲み込んだ。ここでホシノが余計なことを言おうものなら、私は彼女を口封じしなければならなかっただろう。それは少々骨が折れる――物理的に私の方が。
それからポーカーで一通り遊んでそれなりに儲けたので別の場所に向かおうとしたところで、途中からずっとダンマリだったホシノがいつも険しい表情をより一層険しくして話しかけてきた。
「チカゲさん」
「おや、どうかしましたか?」
「イカサマ、してますよね」
私はホシノが
「ええ、何か問題でも?」
「犯罪ですよ、バレたらどうするんですか!」
「ホシノちゃん」
「何ですか」
「バレなきゃ犯罪じゃないんですよぉ」
「そんな訳ないでしょう!?突き出しますよ!」
「良いんですか?」
「何が──」
「アビドスの借金、返せるかもしれませんよ」
「──っ!!!」
私がそう耳元で囁くとホシノはハッとしたように固まった。きっと迷っているのだろう。多少手を汚してでもアビドスを救うのか、清廉潔白のまま困難な道を選ぶのか。
「ふふん。さっ、次に行きましょう」
私が手を引いても、彼女はされるがままであった。
「いやぁ〜勝ちましたねぇ」
「いつか痛い目にあいますよ」
「ははは、何とでも言えばいいですよ。ところで知ってますかホシノちゃん、この船では勝った金額に応じてランク付けされて待遇が変わるんですよ。私は今Aランクですが、噂では幻のSランクが存在しているのだとか。ところでホシノちゃんは何ランクでしたっけ?」
「ぐぬぬ」
それからさらに勝ちを重ねて、いよいよ億万長者まで後一歩といったとき、この後に及んでまだ小言を言い続けるホシノを煽り返していると、バニースーツを身に纏い顔の半分以上もの大きさがあるサングラスの集団――ゴールデンフリース号のスタッフ達――がこちらに向かってきた。
「少しよろしいでしょうか」
「ふふふ、噂をすれば」
「お客様、手荷物を拝見させていただいても?」
「はい?」
予想していたものとは違い、彼女達は物腰こそ丁寧だが厳しい眼差しであった。今度は別のスタッフ――ディーラーでもしていたのか、どこかで見た顔――が声を上げた。
「お前、イカサマしただろ!」
「何か証拠でも?」
「隣の奴の挙動が怪しかったぞ」
指を刺された方に振り向くと、ホシノは顔を真っ青にして自分はやってないとばかりに首を振っていた。馬鹿野郎、それでは私達は悪い事していますといっているようなものではないか。
「いやぁ、彼女はこういった場所が初めてみたいで緊張しているだけですよ。誰にでもあるでしょう?初めては。それよりいいのですか。少し儲けているからといって、難癖をつけて客に八つ当たりするなんて、そんな噂が広まればカジノにとって不利益になるんじゃないですか?ああ、そうそう――」
「つべこべ言ってないでさっさと見せろ!」
御託を並べて言い逃れしようとする私にしびれを切らしたのか、正面にいたバニーガードの一人が、実力行使にでようと手を伸ばす。勿論、私はその手から逃れようと後ろに身を引こうとした。しかし、私の後ろにホシノが立っていたせいで上手く逃れることが出来ず、それどころか不意にぶつかったせいでお互いに態勢を崩してしまう。そうなると当然迫りくる手から逃れることはできず、その手がかろうじてつかみ取った私の手荷物を盛大にぶちまけた。
「「「あ」」」
「トランプ、サイコロ、磁石、鏡⋯⋯、何だこれは!」
「お、落とし物ですかね?」
「嘘つけ!イカサマの証拠だろ!」
「私もですか!?私は見てただけです!」
「見て見ぬふりも同罪だ!」
「まずいです、逃げますよホシノちゃん!」
「あ――おい!待てっ」
私は咄嗟にホシノの手を取ると踵を返して走った。そのままなるべく人の多い方へと向かい、スルスルと人混みに紛れていく。後ろから銃を構えた兎共が追いかけてくるが、残念ながら我々の足には敵わない。
「逃げるって、どこにですか!」
「取り敢えず撒いて、先輩と合流してから考えましょう」
それから私達はプレイラウンジを行け出してゴールデンフリース号の船内を駆け回った。その間何度もオデュッセイアの生徒達が行手を阻んできたが、キヴォトス最高の神秘と謳われるホシノと私の多彩なアシストがあれば有象無象が束になったところで相手にならない。
「とは言え、いくらでも湧いてくるのは鬱陶しいですね」
「先輩とも合流できませんし、そもそもここどこですか?」
「私が知るわけないでしょう、とにかく追手を撒きますよ」
「何だか嫌な予感がします。まるで追い詰められているような⋯⋯」
「何言って――」
「いたぞ!」
ホシノが不穏なことを言い出したその時、私達を見つけたオデュッセイアの生徒が声を上げた。私達は同時に発砲してその生徒を気絶させるが、複数の足音が段々と近づいてくる。船上の追いかけっこはまだ終わりそうになかった。
梔子ユメはこの日、自分は本当に幸運な人間であるということを身にしみて感じていた。とある後輩の提案により、人生で初めてカジノという場所に来て賭け事に挑戦してみたのだが、彼女は自分でも目を疑う程の幸運に見舞われていた。端的に言えばギャンブルで大儲けしたのだ。件の後輩が教えてくれた色々なコツを実践しているというのもある。しかし、それだけとは思えないくらい運が良かった。
思えば、現在親しくしている後輩二人との出会いも本当に幸運であった。ユメがアビドスの生徒会長に就任した時、他の生徒が誰一人生徒会役員として立候補しなかったことは流石に彼女も心に来るものがあった。それで焦っていたのだろう。何とかしようとして立て続けに失敗したが、そのおかげで二人の後輩と仲良くなることが出来た。強くて頼りになる小鳥遊ホシノと、賢くて明るい奇星チカゲ。先輩として自分が情けなく感じるくらい優秀なこの二人が協力を買って出るようになった時、ユメは希望の星が見えたような気がした。今はまだ、二人は手伝いをしてくれているだけに過ぎないが、いずれは生徒会としてアビドスを任せたいとユメは思っている。そうなればアビドスは、今よりもっと賑やかな場所になるだろう。勿論、彼女達が生徒会に入ることを望んでくれるのならの話だが。ただ、もしそうでなかったとしても、あの一癖も二癖もある後輩達は先輩として面倒みてやらねばなるまい。
「うーん。ホシノちゃんもチカゲちゃんも見当たらないし、どうしようかな?」
そこでふと、ユメの目に留まったのはプレイラウンジ内でも一際賑わう場所、スロットマシンであった。ギャンブルについて何も知らないユメに色々な事を教えてくれた後輩のチカゲは、運だの博打だのと言って嫌煙していたが、ユメ自身にはどれもこれも同じように思えた。チカゲ曰く運が良ければ億万長者になれるらしいが、だからこそあれ程人気なのだろう。そんなことを思い出しながら、彼女の足はスロットマシンの一角に向かっていた。別にユメも一攫千金を狙っている訳ではない。彼女としてはすでに充分すぎるほど稼いでいた、だから本当なら先程のゲームで終わるつもりだったのだ。しかしそこで、たまたま目について興味が湧いてしまったものだから、経験として一度挑戦してみようと端金を数万円賭けてみたのだ。
「お知らせします。只今、本船で重大な校則違反が発生しました。こちらの顔を見かけたお客様は――」
モニターに映っているのはよく知る後輩達の顔。そして――、
「続いてお知らせします」
「うそでしょ……」
私はこの冗長な鬼ごっこにいい加減ウンザリしていた。襲いかかってくるバニーガール達をちぎっては投げちぎっては投げていく(主にホシノ)が、先程からずっと倒しては逃げるといった同じことの繰り返しで、その上ユメ先輩と合流することもかなわない為、苛立ちを抑えることが出来なかった。
そんな時、今までは精々4、5人程度で向かって来たバニーガール達だったが、今度はまだ遠くではあるが数えきれない足音が聞こえてきた。
「どうします、今度は多いですよ」
「チッ、こっちです!」
いくら私達が強いとはいえ、流石にこの数は相手していられない。なかなか上手くいかない状況に舌打ちをしながらも私が扉を破って飛び出した先にたどり着いた場所は。
「ここは⋯⋯、甲板?」
「ちょっと、止まらないでください!追手が来てるんですから!」
「しかし、逃げ場が──」
「よし、追い詰めたぞ!」
戸惑っている間にもオデュッセイアの生徒達が次々と集結し始める。後退るようにして彼女等から距離をとっているとあっという間に私達は船首へと追い詰められていった。
そうして見えてくるのは何十何百もの銃口。私達を追いかけて来たショットガンやアサルトライフル。甲板で待ち伏せしていたのであろう
「⋯⋯やれますか、ホシノちゃん」
「出来るわけないでしょう、私を何だと思っているのですか」
そう話しながら私達は距離を詰められまいと船頭を背にジリジリと後退していったが、当然それが解決の糸口になるはずもなく、私達に向けられる銃口の数は段々と増えていった。
「年貢の納め時だな」
そう言ってバニー服の生徒の中から一歩前に出てきたのは、他の生徒よりも真っ当な制服をきっちりと着込んだ生徒だった。
「あなたは⋯⋯」
「この船の船長だ。大人しく金を返して投降すれば楽になるぞ」
「許してもらえるのですか?」
「そんな訳ないだろう。しっかり落とし前はつけてやる」
どうやら痛い目に遭うのは決定事項らしい。ならばこちらには無抵抗で捕まる義理はない。一縷の望みに賭けて私達は銃を構えた。
「どうしますホシノちゃん、泳いで逃げますか?」
「冗談じゃない。海のど真ん中ですよ、ここ。まだ全員倒す方が現実的です」
「どうやら、大人しく捕まる気は無いようだな」
船長はやれやれと溜息を吐くと徐に片手を上げた。するとバニーガール達が一斉に引き金に指を掛け直したせいか、カチャリという音がやけに大きく聞こえた。そして、船長の掲げられた片手が勢いよく私達に向かって振り下ろされる。
「わわっ!まって、まって――」
「撃てっ!」
合図の瞬間、張り詰めた空気の中慌てた声をが響きわたる。しかし、時すでに遅し。無慈悲な船長の号令と共に一斉掃射され、まるで雷のように鳴る銃声。その無数の一撃で気を失わないように固く身構えていると、突然ターコイズブルーの影が私とホシノちゃんの前に躍り出た。金属同士がぶつかる甲高い音が響き渡ると予想された痛みは無く、目の前には大楯を構えて私達の前に立つユメ先輩の姿があった。
「「先輩!?」」
「何だ貴様は」
「二人の先輩だよ」
「つまり助けに来たという訳だな」
「その前に、なんでこうなったか教えてくれる?」
「コイツ等は不正行為、つまりイカサマをしたんだ。イカサマはカジノの品格を貶める行為だ、絶対に見逃す訳にはいかない」
「それは本当なの?」
船長の話を聞いて確かめようとこちらを見る先輩は、普段の雰囲気とはうってかわって険しい表情をしていた。そのあまりの落差に私は息を呑み、いつものように誤魔化すことも出来なかった。逆に、ホシノは焦った様子で私を指差して弁明し始める。
「ちがう!私はやってません、コイツです!」
「あなた友達を売るんですか!?見て見ぬふりだって共犯ですよ!」
「ふざけるな、頼んでない!」
「はぁ!?大体、負け犬の分際で――」
私達がそうやって罵り合っていると、ユメ先輩は構えていた盾を放して私達の所まで詰め寄ると、私達二人の頭を上から押さえつけて尚且つ彼女自身も頭を下げた。
「この度は、うちの後輩がご迷惑をお掛けしました」
「⋯⋯謝れば済む話ではない。もちろん不正で得た金は返してもらう。だがな、今回のような問題をそう簡単に許しては、ゴールデンフリース号、ひいてはオデュッセイア海洋高等学校の面子に関わる」
「そんな⋯⋯」
私はこのとき、ようやく事の大きさを理解した。キヴォトスにおいて学校は国家のようなものである。それだけの相手に喧嘩を売ったのだ。
「⋯⋯⋯⋯学校の問題なんだね」
「そうだ。お前達はアビドス高等学校の者だろう。馬鹿にする意図はないが、今のアビドスに交渉材料があるとは思えない。大人しく引き渡すなら、個人の問題で解決するが、庇い立てするならそうはいかないぞ」
「なら、これならどう?」
もう如何にもならないと私が絶望する中、ユメ先輩は一歩前に出るとある物を取り出した。それは夜の海のおどろおどろしい暗闇でも燦然と輝く、金色のカードであった。
「「「「「Sランクカード!?」」」」」
誰の声かは分からない。もしかしたら私を含む全員だったかもしれない。ユメ先輩が掲げたそれが何であるか認識した瞬間、辺り一面に驚きの声が上がった。相対する船長も少なからず驚いたようで目を見開いていたが、ややあって深く頷くと先輩に対して取り引きを持ち掛けた。
「いいだろう。それを引き渡すなら、今回そいつ等が起こした事は不問にしてやろう。ただし、どちらにせよ金は返してもらうがな」
「駄目です先輩!これは私の問題で、それに、そのカードがあればアビドスの借金だって――」
「チカゲちゃんは黙ってて!」
「⋯⋯それで、金と後輩どちらを選ぶ」
「そんなの、考えるまでもないよ」
そう言うとユメ先輩は一瞬も迷うことなく金色のカードを手渡した。その様子を見ることしか出来なかった私は、まるで殴られたような衝撃で酷い目眩に襲われた。理解出来ない状況に頭の中が真っ白になって、いっぱいいっぱいで、苦しかった。
「確かに。今すぐ荷物をまとめて出て行け、帰りの船くらいは用意してやる」
「ありがとう」
「大切な後輩ならよく見張っておくんだな、問題児なら尚更だ」
「本当にご迷惑をお掛けしました。⋯⋯行くよ二人とも」
こうして私達はユメ先輩に手を引かれながらゴールデンフリース号を後にした。その時の私といえば茫然自失の状態で船を降りるまでどうしたかなど全く覚えていないが、気付いたときには海岸から黒い水平線を眺めていた。
「⋯⋯どうして見捨ててくれなかったのですか」
思わずそんなことを言ってしまったが、そう言ってから自分でも酷い責任転嫁だと思った。ただ、せっかくのチャンスをふいにした申し訳なさと、助けてあけるつもりが逆に助けられた恥ずかしさを八つ当たりせずにはいられなかったのだ。
「あのカードがあれば、アビドスの借金も返せたかもしれないのですよ!」
そう詭弁を弄する私に、ユメ先輩はあの時ほど険しい表情ではなく、とても困ったような苦笑いでをしながらも珍しくハッキリと言い返してきた。
「⋯⋯チカゲちゃん。私がアビドスを復興させたいのは、アビドスを良い学校にしたいからだよ。でもね、悪い事をしたお金で成り立つ学校なんて、私は良い学校とは思えないな」
「だったら尚更、私のことなんて放っておけば良かったじゃないですか」
「ううん、それは違うよ。困っている人がいて、そんな人を放っておくようなアビドスが良いアビドスとは思えないな。たとえそれが自業自得だとしても」
「甘いですよ」
「ふふっ、そうかもね。でもね、間違えてもやり直せるのが学校で、それを教えるのが先に生まれた者の役目でしょ」
本当に侮れない先輩だと思った。私はようやく先輩と面と向き合った。前がよく見えないのは、きっと彼女が眩しいからに違いない。
「おや」「まあ」
「先輩、ホシノさん、ごめんなさい。この度は私のせいで、ご迷惑をお掛けしました」
「全くですよ────」
「チカゲちゃん、チカゲちゃんが悪い事したのは私の為だよね。でもね、私あんな事されても嬉しくないよ」
「ごめんなさい⋯⋯」
「あのね、良い事も悪い事もきっと返ってくると思うんだ。だからね、チカゲちゃんが悪い事して傷つくのは嫌だな」
「はい⋯⋯」
「もうこんな事はしないって約束出来る?」
「えぇ、えぇはい、勿論です!」
「じゃあ、そんな良い子のチカゲちゃんにはご褒美をあげないとね」
そう言って先輩はバニースーツの胸の隙間(どこにそんなスペースがあるのか)から何かを取り出した。この日、散々追い求め、沢山弄び、全て失ったと思われた懐かしの札束である。
「先輩、それは⋯⋯」
「100万円。最初勝ってた時にね、もし皆んなが上手くいかなくてもこれだけはと思って、大事にとっておいたんだ!」
「そんな、どうして⋯⋯」
「だってほら、落ち込んでいる時に出した方が喜びもひとしおでしょ?」
そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべるユメ先輩に堪らなくなって、私はその言葉にならない気持ちをぶつけるように飛び込んだ。
「先輩!」
「うわぁ」
「ありがとうございます!私、先輩の為なら銀行強盗だろうと世界征服だろうと何だってしますから!」
「ねぇ話聞いてた!?」
「先輩、やっぱりコイツは甘やかしたら駄目ですよ」
私の宣言に対してホシノが呆れたように水を差す。しかし、この日私は生まれ変わったのだ。心機一転
「いえ、私はもう心を入れ替えました。ギャンブルはもうしません。賭けてもいいですよ」
「「反省しなさい!!!」」
堕ちたな(確信)
○奇星チカゲ(オリ主)
本作の主人公。お調子者で多弁で天邪鬼で人を揶揄うのが趣味な女。性格は黒崎コユキと羽沼マコトを足して割ったようなド級のカスである。よく世界征服や危険な儲け話を口にするが、支配欲や金銭欲があるわけではなく、大きな楽しみの為に大きな目的を選んでいるという、つまり目的と手段が逆転しているだけである。梔子ユメを死なせないというのもその為だった。大きな挫折とユメ先輩の言葉を受け、外付けの善性を手に入れた。「ν奇星チカゲは伊達じゃない!」
→小鳥遊ホシノ
本当は普通に仲良くしたいが、本人の性格とホシノの意地っ張りな性格が足を引っ張って喧嘩ばかりしている。好きな子に意地悪したくなる男子小学生とみたいなもの。「ホシノ、私はアコギなことをやっている。近くにいるのなら感じてみせろ」
→梔子ユメ
実は無意識に下に見ていたが、接していくうちに彼女の善性に脳をやられた。所謂光堕ちというやつである。チカゲに外付けの善性を与えたのはキヴォトス滅亡エンドを回避するレベルの功績。(知らんけど)「梔子ユメは私の母になってくれるかもしれなかった女性だ」