生存報告。
アビドス生徒会長誘拐事件の翌日、しかし廃校寸前のアビドス高等学校には過ぎたことにかまけている暇など無い。生徒会であり、かつ全校生徒である三人はいつも通り廃校対策に取り掛かろうとしていたが、小鳥遊ホシノは未だに先日の憤りを引きずったままでいた。
ホシノ自身も何に怒っているのか分からない、というよりは何になら怒っていないのか分からなかった。荒廃する自治区を何とかしたいと思いアビドス高校に入学し生徒会にまで入ったのは良いものの、改善するどころかむしろ悪くなっていく一方の現状に苛立ちは募るばかりだった。
それだけではない。アビドスを捨てて転校した元アビドス生、自治区を荒らす不良、自分の利益ばかりの大人。そして、ふざけてばかりの同級生と理想だけで無力な自分。そういった世の中のありとあらゆるモノがホシノの苛立ちを加速させていく。それに例外はなく。
「じゃーん!」
アビドス高等学校生徒会長、梔子ユメは一枚の古ぼけた紙を得意げに見せびらかしていた。
「ホシノちゃん見て見てー!アビドス砂祭りの昔のポスター!やっと手に入れたよー!この時はまだ、オアシスが湖みたいに広がってたんだよねー。あ、このポスターは記念にあげる!」
勢いで渡されたポスターをつい受け取ってしまったが、ホシノはユメの気持ちに共感することはおろか、苛立ちは増すばかりであった。昨日ホシノが生徒会長としての責任を注意したばかりだというのに、彼女はこんなものを探すことに無駄な時間と労力を使って、いつものように夢物語を語るのだ。
「えへへ、すっごく素敵でしょー?もし何か奇跡が起きたら、またこの頃みたいに人がたっくさん集まって──」
「奇跡なんて起きっこないですよ、先輩」
ホシノがユメの言葉を遮って否定すると、ユメはまるで鳩が豆鉄砲を食ったようであった。彼女からすれば水を差すような行為であるが、ホシノは彼女のためにも言わなくてはならない。
「そんなもの、あるわけないじゃないですか。それよりも現実を見てください!」
「は、はう⋯⋯」
「こんな砂漠のド真ん中に、もう大勢の人なんて来るはずがないでしょう!?夢物語もいい加減にしてください!」
「うえぇ、だってホシノちゃーん⋯⋯ご、ごめんね?」
「⋯⋯っ」
いつもよりホシノが強く言って聞かせるとユメは困惑していたが、次第に彼女はホシノの言っていることが正しいと理解したのか申し訳なさそうに謝った。その様子を見て思わずホシノの方が気後れしてしまう。こんな人の良い先輩が報われないことも、自分がその先輩を傷つけていることにも気に食わなかった。
「そうやってふわふわと、奇跡だの幸せだの何だの⋯⋯。もっとしっかりしてください!あなたはアビドスの生徒会長なんですよ!もう少し、その肩に乗った責任を自覚したらどうなんですか!」
そう言ってホシノは諸悪の根源たる古ぼけたポスターをビリビリに破いてその場に捨てた。あまり良い行いではないことは自覚していたが、この生徒会長の根拠のない希望を断つためにも必要なことであるはずに違いなかった。しかし、チラリと見えた驚きと悲しみの入り混じったユメの表情にホシノは居た堪れなくなり、逃げるような勢いで生徒会室を飛び出した。
生徒会室を飛び出してどこか遠くに行ってしまいたいと廊下を走っていると、思いがけず直ぐそこの曲がり角で何かにぶつかった。
「おっと」
ホシノとユメ以外に唯一アビドスに残っている生徒、奇星チカゲだった。ホシノにとってチカゲは、一言で言えばよく分からない奴である。入学してから少なくない時間を一緒に過ごしてきたが、友達か?と聞かれてもホシノは答えを窮するだろう。それくらい掴みどころのない人物であり、何を考えているのか分からない奴であった。
こと頭の良さに関してはホシノも一目置いてはいるが、その才能を謎の奇行と人を揶揄うことにばかり使うため宝の持ち腐れである。たまにやる気を出しても、必ずどこかに遊びを入れたがり、それでもホシノが考えるよりはそこそこ良い結果を持ってくるものだから文句も付けられない。そんな葛藤を抱えるホシノを見て彼女はいつも誇らしげにニタニタと笑うのだ。
そしてまた、彼女が何を見て何を思ったのか計り知ることは出来なかったが、ほんの一瞬だけ困ったような表情を浮かべたかと思えば、すぐさまいつも通りの笑みでホシノに語りかけてきた。
「今謝らないと、きっと後悔しますよ」
それは何もかもを見透かしているようで、ホシノはドキリとした。しらばっくれようか無視しようかと思ったが、バレている事を隠した所で恥の上塗りをするだけである。ただ、ホシノには気持ちを整理する時間が必要だったし、ユメには考えを整理する時間が必要だった。
その点、今のホシノにとってチカゲの存在は非常に有難かった。殊の外ユメに甘いチカゲは、ホシノが傷つけたユメをフォローするだろうし、ホシノが何とか言うよりもマシな助言が出来ると思えた。
「⋯⋯ユメ先輩を頼みます」
ホシノはそう一方的に告げると、引き留める間も与えずに再び走り出した。
ついに『あの日』がやってきてしまった。ホシノが去って行った方向を見つめながら、私はやれやれと首を振った。失敗してばかりのユメ先輩と怒ってばかりのホシノ。そして、らしくない自分に対して。ユメ先輩を死なせないために万全を期するなら、私はホシノを止めて二人を仲直りさせるべきであった。しかし、上手くいかないことに憤る彼女の気持ちも分からないわけではない。だから彼女に仲直りを強要するのは憚られたし、そのために阿るのが面倒くさかった。
そもそも、ユメ先輩を生き残らせるだけなら彼女を生徒会長の座から蹴落として、私が生徒会長になってしまえば良かったのだ。そうすればユメ先輩は生徒会長の責務から解放されるし、私はアビドスでいくらでもアコギなことができる。手段を選ばなければ滅びゆくアビドス自治区をどうにかする方法などいくらでも思いつくのだ。ホシノに対してにしろ、ユメ先輩に対してにしろ、私が中途半端な事ばかりしているのは、まあそういうことなのだろう。
私は気持ちを入れ替えようと胸いっぱいに息を吸って、大きく吐いた。あそこでああすれば良かったな、なんてタラレバの話をしても仕方がないし、柄じゃない。くよくよタイムなんて5秒でじゅうぶんなのだ。
それに私はたった今ホシノからユメ先輩を
「ホシノちゃ──あっ、⋯⋯チカゲちゃん」
扉を開く音に釣られて振り向いたユメ先輩は満面の笑みでこちらを出迎えたが、しかしそれが私であると認識すると、ほんの一瞬だけ落胆したような表情を見せてすぐさま取り繕った。それは私の所為であるというよりも、ホシノが戻ってこない所為であることは分かってはいたが、少しだけ嫉ましく思ってしまうのも仕方のないことだろう。
しかし、ホシノが居ないことに対する気持ちは私も同感であった。それは主観的に考えてもメタ的に考えても、ホシノが着いていてユメ先輩が死ぬような事はあろう筈がないのだから。ユメ先輩一人ならともかく、しっかり者のホシノがいて砂漠で迷子になるとは考えられないし、なにより良くできた物語には謎がつきものだからだ。その点、私がいればユメ先輩の面倒は見られるし、いざとなれば『
「何かあったんです?」
「⋯⋯ううん、何でもないよ」
「まったく、そうやって当たり散らして問題が解決するわけでもないでしょうに」
「あはは……」
ユメ先輩は一丁前に隠そうとするので、さも名推理のように言い当ててやると彼女は誤魔化すように笑った。とはいえ逃げ出したホシノと破れたポスターを拾うユメ先輩、何が起こったかなど知らなくても分かる。下手な嘘など吐くものだからつい口を出してしまった。そうしているとユメ先輩は拾い集めたポスターの破片を適当に机の上に纏め、いそいそと一人で出かける準備を始めた。
「おや、何か用事でもあるんですか?」
「あ、うん。この後セイント・ネフティスと取り引きをする予定があって」
「おお、あのネフティスグループと!すごいじゃないですか」
セイント・ネフティスはキヴォトスでも有数のグループ企業である。昔アビドス自治区が栄えていた頃、ネフティスグループは地元であるアビドスに本社を置く一流企業であった。しかし、度重なる砂嵐の被害によってアビドス自治区が衰退していくとネフティスグループも経営難に陥り、会社を立て直すためにアビドスを
「うん、アビドスの復興のためなら砂漠横断鉄道をとっても良い条件で売ってくれるっていうから、お祭りもそのためにどうかなって思ったんだけどね⋯⋯」
ユメ先輩の言葉に私は頭を抱えた。ネフティスもユメ先輩も良かれと思ってやっているのに、結果的にユメ先輩の死とホシノのトラウマになるのだからツイてないどころの話ではない。対岸の火事なら数奇な運命だと笑うだろうが、渦中にあってはそうもいかないのだ。
「その話、私もついて行っていいですか?」
「え、でも⋯⋯」
私が取り引きについていこうと申し出ると、ユメ先輩は意外なことに難色を示した。私やホシノに対して秘密にしていたことからも、先輩として少しでも良いところを見せようと自分一人でやろうとしていたのだろう。
「もちろん余計な口出しはしませんとも。なんでしたら、ホシノちゃんに先輩の目覚ましい活躍を証明してやってもいいですよ」
「き、気を使わせちゃってごめんね⋯⋯」
別に気を使ったわけではなく何としてでもついて行く口実が欲しかっただけなのだが、都合がいいので黙っておく。すでに私がついて行くことに嫌がるそぶりを見せていないということは、了承したということでいいのだろう。そしてユメ先輩は荷物の準備を終えると、思い立ったように付箋に何かを書き込み、生徒会室の中でも一等見やすい机の上に貼り付けた。
「『いつもありがとう、ホシノちゃん!!お元気でね!』⋯⋯何ですかこれ?」
「ちょっとしたドッキリというか⋯⋯ほら、失って初めて大切さに気付くって言うでしょ?」
意味深長な書置きに私が首を傾げると、ユメ先輩は少しだけ恥ずかしそうに、珍しく悪戯っぽい笑みでその真意を語った。それが意外というか驚きというか、普段見せない一面が見られたというのが可笑しくて、私は思わず笑ってしまった。
「ふふっ、くくくっ、ユメ先輩も案外イイ性格してるんですね」
「わっ、私だって悔しくない訳じゃないんだからね!」
笑われていっそう恥ずかしくなったのか、頬を赤らめて言い訳をするユメ先輩に、私は大いに同意するように深く頷いた。可笑しいのはユメ先輩の珍しい一面もそうだが、彼女に辛く当たって報復されるホシノもである。対人関係が下手くそな彼女には良い薬だろう。
「ええそうでしょう、そうでしょうとも。折角ですし、私も何か書いておきましょうか」
そう言って私はユメ先輩と同じように
「なになに、『楽しかったですよ。ホシノちゃんとの友達ごっこ』えぇ?」
「この世で最も人の心が無い言葉です」
この言葉を告げられた者は、思わぬ裏切りに脳が破壊され(私たちにそれほどの信頼関係が存在するのか不明だが)、情緒不安定に陥る。いくら強がりのホシノといえど、いきなり一人ぼっちになればそれは大慌てすることだろう。そんな滑稽な姿を想像すると自然と笑みが深まる。
「そうかな⋯⋯、そうかも。って、こんなことしてる場合じゃないよ!約束の時間に遅れちゃう!」
「待ってください、40秒で支度しますから!」
ふと時計を確認したユメ先輩が慌てて飛び出そうとするのを制止して、私は地図やコンパス、万が一の保存食やリュック型水筒など、用意していた『ユメ先輩救済セット』を持って彼女を追いかけた。
「ねえチカゲちゃん」
「何ですか先輩」
「いつもありがとうね」
アビドス高校を出発してまもなくの頃、砂に埋もれて人気のない住宅街でユメ先輩は突然そんなふうに声を掛けてきた。それがあまりに前振りのようであったため、思わず動揺してしまう。
「な、何ですか、藪から棒に」
「ふふ、ごめんね驚かせちゃって。でも、ありがとうって気持ちは本当なの。チカゲちゃんはいつも私を助けてくれるでしょ」
「はて、何のことでしょう?まぁ、感謝されて悪い気はしませんがね。でも、何だって急にそんな事言うんですか」
「だってチカゲちゃん、ホシノちゃんの前でこんな事言ったら、恥ずかしがってはぐらかそうとするでしょ?」
「それはまぁ、そうですけど」
要領を得ない会話が途切れたかと思えば、またすぐにユメ先輩はついさっきと同じように話しかけてきた。真意を隠された歯切れの悪い会話にモヤモヤとする。
「ねえチカゲちゃん」
「何ですか先輩」
「私が卒業して、ホシノちゃんが生徒会長を継いだとき、ホシノちゃんのこと助けてくれる?」
ここにきてようやく合点がいった。つまりユメ先輩はホシノのことが心配なのだろう。最近はずっとイライラしっぱなしで、つい先程喧嘩したばかりとなれば尚更だ。とはいえ、はいそうですかと素直に認めてやるのも何となく癪に障る、私は少しだけ意地悪をすることにした。
「私では、生徒会長になれませんか?」
「ち、違うよぉ。勿論チカゲちゃんが生徒会長になってくれても嬉しいけど、チカゲちゃんはあまり興味無いんじゃないかなって」
私がさも不機嫌そうなふりをしてそう言うと、ユメ先輩はハッとした表情で振り返って慌ててフォローを入れる。しかし、興味が無いとは一体どういうことだろう。私は生徒会長になるだとか、アビドスの支配がどうだとかと常日頃から
「興味無いとは?」
「違ってたらごめんね。チカゲちゃん生徒会にも入ってくれて、今までアビドスの為にも一緒に色々やってきたけど、実はそんなにアビドスの復興に興味無いんじゃないかなって」
「!?」
慎重にこちらの反応を伺いながらユメ先輩が口にした言葉に今度は私が驚く番であった。
「でっ、でも、チカゲちゃんアビドスの外から来たばかりだからアビドスにそこまで思い入れが無いのは当然だし、大砂嵐のあと残ってくれたのも嬉しかったし、むしろ私より活躍してるし」
それがユメ先輩にも分かったのだろう。彼女は早口で、何故か慌てた様子で私の言い訳をし始めた。その様が面白くて、可笑しくて、私は堪えきれずに腹を抱えて大笑いしてしまった。
「ふふっ、ふははっ、わはははっ!」
「な、何で笑うの!そんなに変な事言った?」
「いえいえ大当たりです。まさか、ユメ先輩にバレるなんて思ってなかったものですから」
「その、責めてるわけじゃないからね」
彼女の言う通り、私はアビドスの復興なんかにさほど興味はない。あくまで私が執着しているのは『梔子ユメの救済』である。たまたま私の目的の舞台となった場所。私にとってアビドス自治区とはその程度なのだ。さて、そんな心の内などおくびにも出したことはないはずだが、殊の外そういったことに鋭いか、あるいは勘が良いのかもしれないこの先輩は薄々気づいていたらしい。正体がばれてしまったからには仕方がない。ホシノならともかく、ユメ先輩の反応からして隠す必要もないため私は正直に応えた。
「ええ、分かっていますよ。でも、私はそれが楽しくてお手伝いをしているだけで、アビドスの復興にお二人程興味が無いのは事実ですから」
「それでも、居てくれるだけで嬉しいよ」
嬉しい、言う割にその表情はあまり浮かないものであった。何を思っているのかは分かりきっている。大いに笑わせて貰ったお礼に、多少は気を使ってやってもいいだろう。
「⋯⋯そんなに心配ですか、ホシノちゃんのこと」
「えっ、うん、そうなのかも」
「分かりますよ。あの人、無愛想ですし、頑固者ですから。それで先輩と喧嘩したばかりですしね」
「喧嘩って訳じゃ⋯⋯」
「喧嘩ですよ、喧嘩!あれはホシノちゃんが悪いです。あんな事してたらいつかきっと後悔しますよ、ユメ先輩は許すでしょう、私も許します。だが、こいつが許すかな!」
頑なに喧嘩であることを認めないユメ先輩の言葉を遮って、私は愛銃である『silver key』を構えて彼女の前に躍り出た。
「あはは、私たちじゃ束になっても勝てないでしょ」
「むぅ、仕方がないですね。帰ったとき泣いて謝れば許してあげましょう」
今頃ホシノは私達が居なくなって焦っていることだろう、一人で、孤独に、罪悪感を抱えながら。そんな中、私たちがひょっこり帰ってくれば泣いて喜ぶに違いない。そしたら少しはあの頑固者もマシになるだろう。
「ふふっ、チカゲちゃんはふざけているように見えて、案外気配りが上手だよね」
「人を揶揄うコツは、相手の弱点をよく観察することです」
「うん、やっぱりホシノちゃんにはチカゲちゃんが必要だよ」
「どこをどう聞けそうなるのですか」
思いっきりズレた会話で強引に話を続けようとするユメ先輩は、私とホシノにどうしてでも末永く宜しくやってほしいらしい。
「ほら、ホシノちゃん責任感強いし何でも出来ちゃうから、一人で抱え込んじゃって後輩のこと置いてけぼりにしちゃいそうでしょ」
「あぁ、容易に想像できますね」
想像できるというか、そうなることを私は知っている。しかも何度も同じ過ちを繰り返すものだから、それはもうあちこちに迷惑をかけまくるのだ。
「だから、もしそうなった時はチカゲちゃんがホシノちゃんを止めてほしいの」
「私に止められるとは思いませんがね」
「大丈夫、二人は友達でしょ!」
「私、あの子に友達だと言われたこと無いのですが。まあ、私も言ったこと無いんですけど」
「えぇ⋯⋯」
人間関係というのはそう上手くなどいかないのだ。初めは普通に仲良くするつもりだったんだが、いつの間にかこんな形になってしまった。一体何が悪かったのだろうか、いやちょっと揶揄うだけで大げさに反応するホシノが悪い。
「私とチカゲちゃんは友達だよ?」
「いえ、ユメ先輩は先輩です」
「ひぃん。それ冗談だよね?わざと言ってるよね?」
縋りつく様に聞いてくるユメ先輩に私はニヤリと笑って誤魔化した。さて、話を戻そう。確かに小鳥遊ホシノの無鉄砲さは本人が悪い訳ではないが最悪キヴォトスを滅ぼしかねない。それでは寝覚めが悪いし、まったくもって傍迷惑な話である。止めてやるのが
「まあ、分かりました。元よりユメ先輩が卒業したからといって、アビドスを辞める気も生徒会を抜ける気もありませんから。任せて下さい!私が影の支配者として、アビドスをキヴォトス一の学校にしてみせましょう!」
「うん、よろしくね」
はてさて、この先どんな面白いことをしてやろうかと、まだ見ぬ未来に思いを馳せていたところで、私はふとユメ先輩に対してある疑問が湧いてきた。
「ところで、ユメ先輩って卒業後はどうされるのですか?」
「私?私ね、先生になりたいと思ってるの」
「先生?」
彼女が口にした予想外の言葉に不意を突かれ、私は思わず聞き返してしまった。勿論、『先生』というものを知らないわけではない。しかし、このキヴォトスで先生という役割は『主人公』で『救世主』なのだ、それだけ大きな意味を持つ。まさかそんな言葉が出てくるとは思えなくて、少し驚いてしまった。そんな私の様子を見て先生とは何かを知らないと思ったのだろう、ユメ先輩は得意げに先生とは何たるものかを話し始めた。
「チカゲちゃん知ってる?キヴォトスの外には先生って言う仕事があって、子供達に勉強を教えたり、困っている生徒を助けたりするんだって。私たち、アビドスがこんな状態だから色々大変だったでしょう?だからね、今の私たちみたいに困っている生徒がいたら助けるお仕事がしたいの」
私はその言葉を聞いて、なんだか無性に嬉しくなった。それによく考えてみれば、彼女が『先生』というのは中々お似合いなのではないだろうか。
「いいじゃないですか、先生!んふふ、なら知ってますか先輩。先生っていうのは寝ている生徒の頭の匂いをかいだり、一緒にお風呂に入ったり、首輪をつけて散歩させたり、足を舐めるのも仕事なんですよ」
「それは、流石に嘘だって分かるよ……」
冗談