ワルツは昏き闇の中で   作:あまてら

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The Princess of the Black Family

 

 

 

 ホグワーツ初日の夜──、

 

「真ん中が良い」

「じゃあその隣」

「私、これ!」

 

 上から順にネリダ・ロバーツ、レイエス、アン。

 部屋に入って直ぐ、わたし以外の3人がベッドを指差す。

 

「あなたはそれで良いわよね?」レイエスが鼻で笑いながら選んだベッドに腰を掛ける。

「別にどのベッドでも良いわよ」

 

 ドアから近いし気になんない。わたしが最後に残ったベッドに近寄ると、出入り口付近に置かれていた荷物達が、ゆっくりとそれぞれのベッドの脇へと移動した。

 

「ねえ! 今から何する? ホグワーツの中を探索とか? それかゴブストーンでもやる?」ベッドの上で跳ねていたアンがわたし達に訊く。

「正気? 明日から授業が始まるのよ? それにまだ荷解きが終わってない」わたしはトランクからパジャマを出しながら呆れて言った。

「私も遠慮する」

「私も」

 

 わたし達のノリの悪さに不貞腐れたアンは、仕方ないとばかりに周りに合わせて荷解きをし始めた。

 荷解きの全ては明日からにしよう。ある程度の荷物を出してワードローブやライティングビューローに持って来た物を仕舞い込むと、わたしは1人部屋を出て、トイレもあるシャワー室へ走った。今日の疲れを流したくて。清潔にするのは好きだ。

 清潔になった体で部屋に戻れば、ぺちゃくちゃと話しながらパジャマに着替えるロバーツとレイエス。これじゃないあれじゃないとトランクの中身をぶちまけてるアン。わたしは急いでパジャマに着替えてベッドに潜り込む。気分が良かったのに、この部屋に戻った瞬間、特にレイエスが目に入った時、ドーナツを食べ損なった事を思い出して叫びたくなった。鎮める為にも明日に備えて寝ておこう。

 

「ちょっとブラック! ランプの灯り消して!」

「無理。後、その名前で呼ばないで」

 

 その日の夜、わたしはいつもと同じ夢を見た。『過去』だ。お洒落な女の子はパサついてごわごわになった髪に、油みたいなものをつけてしっとりとさせていた。

 朝。わたしは誰よりも早く目覚めた。『過去』を見た日には必ず日記に内容を記すから、羽ペンを使って細かい事を忘れないうちに書いた。顔を洗って歯を磨いて。爆発した髪をアンティークなブラシでとかす。あの女の子が使っていた油、わたしも欲しい。それに────。

 制服のポケットから小さな小瓶を出す。これは、あの匂いに少しだけ近づけたもの。サシェだ。

 あの匂いを知ってから、わたしはそれを探していた。母が使う化粧品、香水。うちの家に来るご婦人達に挨拶がてらこっそりと何を使用してるか聞いたりもした。でも同じ匂いには出会えない。

 ある日、ハウスエルフにまで説明して似た匂いを聞いたところ、『ジャスミンやミュゲ』と返ってきた。直ぐには手に入らない花だけど、フランスに親戚がいて良かった。母宛に届かれる花の中にそれらもあったので、わたしはこっそりと拝借して集める。

 刻んだり、潰したり、揉んだり混ぜたり。学校に入る前まで、なんとか似た匂いに近づけようと色々した。

 この小瓶に入ってるのは、柑橘系の甘酸っぱさと爽やかさが抜けた匂い。ここまで近付けたもの。サシェ本来は小さな布袋に入れるけど、長く保つ為に小瓶にいれてる。

 わたしはあの匂いを身に付けたくて、ホグワーツに入ってからでもそれを探し続けようと持って来ていた。

 

「ねえ、ほらあの子……」

「イーリス・ブラックよ」

「ブラック、イーリス!」

「ブラックだ」

 

 朝食の為に寮を出て大広間へと向かう最中、わたしとすれ違った学生達の囁き声が聞こえてきた。初日にわたしが校長の姪だと学校中の生徒に知られたからだろう。スリザリンの寮でさえ数人に囁かれた。

 

「ブラック家のプリンセス!」

「確かに! プリンセス!」

「シッ! ブラック校長にチクられるぞ! 気をつけろ!」

「プリンセス、プリンセス、プリンセス!」

 

 何がブラック家のプリンセスだ。どう聞いても揶揄してる。わたしは非常に苛立った。こうなる事はわかってた。ブラック家は有名だから嫌でも目立つ。だけどわたし個人ではなく、"ブラック"の名と、大人気の我が伯父によるもの。

 

「おはようイーリス! 早いのね!」

 

 1人で朝食の卵料理を食べていたら、アンがわたしの隣へと座った。向かいのテーブルにはセバスチャンとオミニスも席に着く。

「早寝早起きは脳にも体にもお肌にも良いの。どうせあなた、1人最後まで起きていたんでしょう?」分厚いベーコンをナイフで切り、それをフォークで刺してわたしは言う。

「それはそうだけど、昨日はなかなか眠れなかったの」アンはセバスチャンから渡されたパンを皿の上にのせて口を尖らせた。

「あら、大きなリボンしてないの? イーリス・ブラック?」

 

 いやらしく笑うレイエスだ。ロバーツも一緒。わたしの今日の髪型は、ただ丁寧に髪を下ろしてふわっとさせてるだけ。シンプルよ。

 というかレイエスは何でわたしの隣に座るの?

 

「捨てたわよあんなの」

「待って、捨てた?」レイエスは信じられないといった表情をする。

「とても高価そうなのに」蜂蜜をたっぷりとかけたパンを一口かじりながらアンが勿体無いと言う。

「趣味じゃないもの。此処はホグワーツよ。わたしの好きなのにする」

 

 家では人形の様に母に決められた服や髪型を守って来た。今わたしが気になるのは、『過去』でのあの女の子の自由な服装や髪型や油よ!

 コップに入ったオレンジジュースを一気に飲み干し、わたしは先に席を立って大広間から出て行く。

 はあ、朝から疲れる。

 ────そうだわ。玄関ホールに出て来て直ぐ、気づいた事がある。

 ホグワーツに来てからわたし、同じ歳の子達と普通の会話が出来てたんじゃないのかって。多分、だけど。

 

 スリザリン生としての初めての授業は、魔法薬学だった。この教室は涼しいより寒い。暖かみなんてゼロ。小さな窓はあるけど、基本暗い。臭いも独特。壁に備えられた棚には、魔法薬学で使用するであろう様々な道具や瓶やら本が飾られてある。

 教室に1番乗りしたわたしは、入って左奥にある生徒用の広めな調合台へと進み、その席の1つに腰を下ろして待った。そういう魔法の仕組みなのか、座ったと同時に目の前に自分の大鍋等の道具が現れる。持って歩かなくて良いからとても楽だ。

 

「もう教室に来てたの?」教室に入って来たアンが、待っている間に教科書を読んでるわたしを見つけて同じ調合台の席に着く。

 

 1、2年生の必須科目になる魔法薬学はみんな一緒に受けなくちゃいけないけど、全員は入りきらない。他の授業の教室も同じ。だから交互に受ける。わたしは最初に魔法薬学を選んだ。アンもそうしたようで、おまけの様に一緒だったセバスチャンとオミニスが1つ隣の調合台の席へと着いた。

 

「座っても良いかな?」黄色と黒が見えるローブ、ハッフルパフ生の女の子が少しだけ緊張しながら、同じ調合台のわたしの隣の席を指した。

「別に、どうぞ」好きに座れば良いのに。そんな事を思いながら答えた。

「ありがとう。私、ポピー・スウィーティング。よろしくね」スウィーティングはニコニコとしながら、あなたの事は知ってるよ。って言ってから席に着いた。

 

 あらそう。わたしは軽くあしらうように一言返し、スウィーティングから教科書へと目を向けた。

 この授業に出る1年生が全員席に着いて少し経った時、扉が開かれて誰かが入って来た音がした。わたしの両親とあまり変わらないくらいの年齢の男性だ。その人は長めの茶色の髪とあごひげのある人で、顔には深い傷が。不自由なのか左足を引き摺るように歩いてる。

 

「おはよう1年生の諸君、本日より君達に魔法薬学を教えるイソップ・シャープだ」

 

 シャープと名乗った教授は、この授業に参加する生徒達全員の出席を取った。ひとりひとり、顔をちゃんと見ながら。

 

「魔法薬学は杖一振りで全てを終わらせるものではない。自らの手で目の前にある道具を使用し、魔法特性を持つ動植物を利用して魔力を持つ薬品を作る。面倒だからと言って適当に作るなどもってのほか。繊細に扱わなければならない。手順を守り、正確な分量の材料を的確に煮込む。忘れるな」

 

 シャープ教授は先ずわたし達にペアになるように言って、そのペアで1年生が魔法薬学で最初に習う、『おできを治す薬』を調合するように言った。効果や用途はその名の通りだ。

「イーリス、ペアになろう」アンが側に寄って来る。断る理由も無いのでわたしはアンとペアになり、スウィーティングは同じハッフルパフのアデレード・オークスとペアになった。

 

「材料に必要なのは山嵐の針2本と──、Ms. ブラック?」不意に教授から質問が飛んで来て少しだけ焦ってしまったけど、冷静を装って「はい。ゆでた角ナメクジ4本です」って答える。ギリギリまで暇つぶしに教科書を読んでいて良かった。教授はわたし以外にもランダムで質問を飛ばして材料を訊く。きっとみんなも不意打ちされて心臓が跳ね上がったと思う。

 正解を褒めた教授は、答えれたスリザリンとグリフィンドールに5点ずつ得点をくれた。

 

 あらかじめ完成している薬が入った小瓶が順番に回されて、中身の臭いを嗅がされると、「さあ、始め」開始の合図と共に調合がスタート。

 先ず蛇の牙6本を粉にする為にすり鉢に入れてすりこぎで砕く作業から。これはアンと交互にやって粉にした。次に大鍋に4計量の砕いた蛇の牙を入れ、250度の温度で10秒熱し、アンが10秒ぴったりに計ってわたしが杖を振る。醸造。30分から45分後まで放置。これで第一段階が終わった。

 

「時間まで待ちましょう」第一段階が終わってホッと一息。立って作業していたわたし達は席に着いた。

 待つ間暇だったわたし達は、鍋の様子を気にしつつ教科書を見返したり、材料がちゃんと揃ってるかもう一度確認したりした。

 

「第一段階は私達が一番最初ね!」アンが周りに目を向けてからわたしにこっそり耳打ちしてくる。彼女はとっても楽しそうだった。わたしは少しも楽しく思えてない。冷静に見せてるだけで失敗しないかって、内心とてもビクビクしてるくらいだ。

 

「え、え、わあああ!!」

 

 わたし達の向かい側にある調合台から、驚いた声と何かが弾ける音がした。まだ第一段階だというのに、調合の失敗で大鍋の中身があんな弾け方するのかっていうくらい、鍋から調合途中のものがぶくぶくと溢れてた。

 

「なんてこった! 予想ではこうならない筈なのに!」癖毛がやや強い赤毛の男の子が焦ってる。同じペア組んだ子は迷惑そうな表情で男の子に怒ってるみたい。

 

「Mr. ギャレス・ウィーズリー! 一体何をしたらそうなる! グリフィンドール1点減点だ!」教授に減点されたグリフィンドール生はそれを聞いて「マジかよ」って不満を漏らしてた。

 そんな騒動をよそに、わたしとアンは第二段階に入る。

 角ナメクジを4本を大鍋に入れ、鍋を火から下ろす。忘れちゃいけないのが、次の材料を入れる前に、って事。

 わたしが山嵐の針を2本入れて、アンが鍋の中身を時計回りに5回かき回す。最後に杖を振れば────。

 ピンク色の煙が上がった。完成、したのかな?

 アンとわたしは完成した『おできを治す薬』を小瓶に入れてコルクで栓をした。

 

「シャープ教授、完成しました」わたし達が手を挙げると、周りからの視線が飛んで来た。

 

 教授はわたし達のいる調合台に来て小瓶を手に取り、コルクの栓を開けて薬の臭いを嗅ぐ動作をする。

 

「初めての調合にしては上出来だ。スリザリンに10点」

「わあ! やったねイーリス! 私達1番だ!」アンが喜びを表すようにぴょんぴょん跳ねてわたしに抱きついて来た。恥ずかしいからやめてほしいと思ったけど、薬がちゃんと成功した安堵感が勝ったのと、緊張の糸が切れてそれどころじゃない。

「Ms. ブラック。君のお母上も大変優秀であった事を思い出したよ」教授の言葉に我に返る。

「は、母を知っているんですか?」

「学年は私が上だったが、同じスリザリン生でね」

「そ、うですか……」

 

 確か母はスリザリンで首席監督生だった、って自慢気に言ってたっけ。両親もホグワーツのスリザリン生だったんだから遅かれ早かれ耳にするかもって嫌だったんだけど。折角薬が成功したのに、母の顔が頭の中にチラついて気分はとても最悪だ。

 気づいたら魔法薬学の授業は終わりを迎え、教室から去ろうと席を立つ。

 

「ねえプリンセス?」耳障りな呼びかけが聞こえた。わたしは無視をして教室を出る。

「待ってよプリンセス!」背後から呼ばれるけど知らないフリをして歩く。同じ教室を出た1年生がみんなして立ち止まってわたしに視線を向けた。

「待ってって!」わたしの前に立ち塞がる様に出て来たのは、さっき減点された張本人、赤毛にそばかす、目の色が緑のグリフィンドールの男の子だ。

「何? もしかしてわたしの事を呼んでたの?」わたしより頭ひとつ分背の高い男の子を睨み上げる。

「そうだよ! だって君はブラック家のプリンセスでしょ?」間違ってないよねって言う男の子に、わたしの怒りは爆発しそうだった。悪意があるのか無いのかわからない。

「馬鹿にしてるの? その呼び方止めて」

「違うよ! ごめんプリンセス、じゃない。あ、僕はギャレス・ウィーズリー。君にとても親近感が湧いちゃってさあ。僕もさ、名前のとおり伯母さんが副校長なんだ」

「それで?」

「君も校長が伯父さんなんでしょ? みんなが言ってたからさ」

「だから?」

「僕もさ、伯母さんが副校長だからやりにくいって気持ち凄くわかるなって。ほらさ、校長と副校長だし。この気不味さ1番理解出来る。同じだから────」

「止めて!!」自分でも吃驚するくらいお腹から声が出た。

「何が同じ? あなたとわたしは同じじゃない。一緒にしないで!!」怒り任せでウィーズリーの肩にぶつかりながらわたしはこの場から立ち去る。

 むかつくむかつくむかつく。次の授業に向かう前に、一旦寝室へ戻ろう。わたしは早足で戻った。

 

「はあ……」

 

 寝室へ戻って即、自分のベッドの上にうつ伏せに倒れる。あんなに怒るつもり無かったのに。しつこいウィーズリーと母の事でついキレてしまった。

 

「イーリス!」寝室のドアが乱暴に開かれる。アンだ。わたしを追いかけて来たらしい。

「大丈夫? 具合悪いの? お腹痛いとか?」

「違う。少し、腹が立っただけ」

「そうだ! 良い物があるよ!」アンは何かを思い出して自分専用のライティングビューローを漁って何かを取り出した。

「はい、これあげる」ベッドにうつ伏せ状態のわたしに、アンが五角形の手のひらサイズくらいの青い箱を渡す。

「何これ?」上半身を起こして受け取った箱を見つめると、「蛙チョコレート」って教えてくれた。お菓子なのかこれは。

「もしかしてイーリス、蛙チョコレート知らないの?」魔法界で人気のお菓子の1つだってアンは言う。

「お、お母様が、甘いお菓子は身体に毒だからって……」

「だからあなた、あんなにも甘い物を食べてたのね」アンは妙に納得してた。自然に母のしつけの1つをアンに告げてしまったせいで、わたしは恥かしくなる。

「さあ、甘いチョコレートを食べて元気だして」促されて箱を開けようとする寸前、「魔法で動き出すから直ぐに捕まえて口に放り込むのよ」って言う。意味がわからない。

「わ!」

 

 確かに蛙チョコレートは本物のアマガエルのように動いた。なのでわたしは慌てて鷲掴み、そのまま口の中へ放り込んで噛み砕いた。

 

「……おいしい」思ったよりも甘くて胸の中がスッとした。

「良かった」嬉しそうにアンは笑った。

「これは?」箱の中には1枚カードが入ってた。それには威厳に満ちた表情で立つ魔法使いが描かれてて、『ゴドリック・グリフィンドール』って名前が書かれてる。

「偉人カード! レアよ。蛙チョコレートには有名な魔法使いと魔女のカードが付いてるの! セバスチャンも集めてる」アンが言うには、このカードをコレクションしたりトレードするのが魔法界の子供達の間で流行ってるらしい。

「はい」わたしはカードを差し出した。

「え、何で? それはあなたにあげたんだから、あなたのものよ」

「わたしはカード集めてないし、蛙のチョコのお菓子の方が嬉しかった。ありがとう。だから」セバスチャンにでもどうぞってする。こういうのは、カードが好きな人の手元にある方が良いと思う。

「わかった。じゃあ、もらうね」

「うん」

 

 ベッドから離れて制服に皺が寄らないように手で払って直し、次の授業の変身術の教科書を手に取る。アンも同じようにそれを取った。

 

「じゃあ一緒に行こう」とアンが寝室出入り口の扉を開けた。わたしはそれを嫌だとは思わず、彼女の後ろをついて廊下に出る。

「あ、次の変身術の教授って、……副校長だ」アンがわたしに気を使うように、あえて名前は出さなかった。

「別に。気にしてない」わたしは真っ直ぐ見据えて答える。さっき食べた蛙チョコレートで落ち着いたからかも。

「そう、良かった。あのグリフィンドールのウィーズリー、私でも腹が立ったわ。あなたにまた何か話しかけたら全力で阻止する」

「大丈夫。取り合うだけ無駄よ」

 

 アンと並んで廊下を歩く。談話室に出ると中央にセバスチャンとオミニスの姿が見えた。アンは2人に駆け寄り、セバスチャンがアンからわたしを見る。彼らもさっきのウィーズリーとのやり取りを見てる筈。何か気不味いと思っただろうけど、今のわたしは平常心。特に気にもせず3人の横を素通りし、螺旋階段を1人上がって行く。アンが私の名を呼んだけど、わたしはそれを無視した。

 スリザリン寮から出て変身術の教室へ向かってる途中、他の寮生達から「プリンセスだ」ってまた囁かれた。でも気にしなかった。

 変身術の教室ではウィーズリーがわたしの隣に座って来て「さっきはごめん」って話しかけてきたけど勿論無視だ。永遠と「悪気は無かった」とか「親戚がホグワーツの教授って嫌だよね」とかってずっと何かを喋ってて、「魔法薬学得意? 僕もなんだ」みたいな事を永遠と隣で言ってくるから、腹が立つより呆れが勝った。

 流石にと思ったグリフィンドールの女の子が「いい加減にしなよ」ってウィーズリーに注意してたけど、それでもウィーズリーはずっとわたしの隣で話してくる。わたしはこの状況下、ずっと彼を無視して教科書に目を通す。それから徐々にみんなが教室に入って来ると、セバスチャンとオミニスと入って来たアンが血相を変えてわたしとウィーズリーの間に無理矢理座り込む。

 

「しつこい!! あっち行ってウィーズリー!」アンはウィーズリーを突き飛ばすように押し退けた。

「イーリス、またね!」ウィーズリーは全く悪びれた様子も無く、離れた席に座った。

「あんなにしつこい奴だって思わなかった」

「本当、そうね」頭が痛くなるくらいとても疲労した。まだ授業始まってもないのに。

 

 取り合うだけ無駄だと思って無視したのにあのしつこさはある意味で尊敬に値する。

 やがて彼の伯母の副校長が教室に入って来て順調に進んで変身術の授業は終了した。内容はマッチ棒を針に変える魔術で、最初にクリア出来たのはたまたまだと思う。教授を出る時にまた寄って来ないか内心ビクビクしてたけど、ウィーズリーは副校長に呼び止められてたから、その間に去る事が出来て心底安心した。

 呪文学ではスリザリン生だけで行われ、ウィーズリーがいなくて気持ち的に楽だった。教授はエイブラハム・ローネン。スリザリンの寮監でもある。呪文学は少し興味があった。なんかかっこいいって安易な理由だけど。

 O.W.L. 試験に合格すると無言で魔法を発動する無言呪文を学ぶみたいだから、O.W.L. 試験の為に勉強はサボらないで頑張ろって、この時ちゃんと思った。

 今日の内容は『ルーモス(光よ)』。ホグワーツに来て1番に習いたいと思ってたやつ。杖の先が光って辺りを明るく照らすランプの様な役割をする魔法。家で何度も呪文を脳内で唱えて覚えたから、実際杖を振って出来た時はとても高揚した。

 お昼に大広間で昼食をとった後、湖が見える側の庭に出て1人で備えられたベンチに腰を下ろす。ホグワーツは基本涼しいけど、外は心地良い自然の風が吹いててとても気持ちが良い。ロンドンの街並みには無い美しい景色が広がって目にも優しかった。中庭と違って此処はあまり人も通らないしお気に入りの場所にしよう。

 午後からは魔法史でほぼ寝そうになった。教授はゴーストのカスバート・ビンズ。誰かが「恐ろしくつまらないらしい」って言ってたけど、本当だった。びっくりしたのは黒板をすり抜けて教室に現れた時。その時だけは意識がはっきりしてた気がする。

 1日目の授業が全て終わり、夕食時にはややぐったりした。

 

「プリンセス」

「プリンセス」

「プリンセス」

 

 大広間から出る時また囁き声が。むかつきはしたけど、甘いドーナツで気分を良くしていたわたしはさっさとスリザリン寮に戻ってシャワーを浴び、髪を乾かしてアンやレイエス達を放置して眠りについた。

 

 

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