この作品の更新ペースとしては週に1,2話程度のペースになると思われます。
というわけで今回のお話もお楽しみください!
「……!」
「……っ!」
幸哉と静香、2人の目線が合う。しかし、先に静香が目線を外す。そんな静香を星梨花が心配そうに見る。
「静香さん、たこ焼き食べないんですか?」
「……っ、ええ!星梨花、一緒に食べましょう」
「俺も食べてもいいかな」
慶一が聞くと、未来が一緒に食べようとばかりに手招きをした。
「いいですよ!これ、幸哉くんも作ったんです!」
入ってきた4人と慶一が手を洗い、席についた。
「それじゃ、いただきます」
「いただきます!」
後から来た人々が手を合わせてたこ焼きに手をつけた。
たこ焼きをつまみながら慶一が話しかけてきた。
「美味しいな、これ。みんなが作ったからだな」
「でしょ~?子供たちが頑張ったんだよ」
鈴葉もたこ焼きを称賛して頬張る。
「姫柊もありがとうな。みんなのこと見てくれて」
「どーいたしまして。大人として先輩と一緒に面倒見てたんだ」
「そうか……でもなんで歩は顔が辛そうなんだよ」
慶一が質問し、やや呆れたような表情で鈴葉は答えた。
「あゆが中身にわさび入れたから責任もって処理させてる。そんで奈緒が引っかかった」
「私の心配はしてくれへんのですか……」
奈緒が慶一の方を見る。
「災難だったな……大丈夫か?」
「まあ……まだ口ヒリヒリしてますけど」
どうやら辛さは収まったようである。それを聞き歩に注意する慶一。
「自分が好きだからってわさびは入れちゃだめだろ」
「うん……、わかった……。辛いよぉ……」
目に涙を浮かべてたこ焼きを食べている歩。
どうやら好物であっても大量に食べるのは良くないようだ。
未来と幸哉たちの囲むテーブルの椅子に可奈と静香が座る。それを見た幸哉は静香に声をかける。
「ひ、久しぶり。しず……、じゃなくて最上さん」
「ええ。久しぶりね。『今永くん』」
にこりともしないで返事を返す。その表情を見てまた何か不機嫌になることでもしてしまったのかと考えてしまう。もしかして以前レッスンに来たことが彼女をそうさせてしまったのではないかと思案していると、
「静香ちゃんって幸哉くんのこと、嫌いなの?」
不意に未来が口を開いた。発言を聞いた静香が一瞬動揺した表情を見せるが、それを否定するように言葉を返す。
「嫌いとかじゃないわ。興味がないだけよ。第一、プロデューサーの親戚ってだけで深く関わることなんてないでしょう」
続きの言葉を幸哉に向かって放つ。
「そもそもの話、あなたは部外者のはずよ。なんでここにいるのかわからないわ」
「静香!」
静香の言葉を途中で遮るように慶一が声をあげる。和気藹々とした雰囲気が一瞬で静まった。
「さすがに今のは聞き逃せないな」
「プロデューサー……!」
「いいか、まず部外者なんて言い方はだめだ」
教え諭すような口調で話を始めた。鈴葉もそれに乗るように言葉を向ける。
「静香、今のあんたってめちゃ感じ悪いことしてるってわかってる?」
「でも……」
「でもじゃない。幸哉はここにいる皆を応援するって言ったみたいだ。応援してくれてる人にその態度は失礼だろ」
「……っ」
「だからまずは、幸哉に謝ることから始めるんだ」
慶一の説教に反論することをすっかり諦めたのか、観念したように静香は口を開いた。
「あの……さっきはごめんなさい。少し言い過ぎてしまったわ」
抵抗していた割にあっさり出た謝罪の言葉。
「いいや、別に気にしてないよ。言い過ぎることは誰にでもあるから」
「この間はお話しなかった分、今日はいっぱいおしゃべりしようよ!」
未来が明るく場を和ませようとする。静香も反省したようで、
「そうね。少し気を張りすぎてたのかもしれないわ」
場が元の和やかな雰囲気に戻るが、そこでオレンジ色の髪の少女ー可奈がおずおずと口を開いた。
「あの〜……自己紹介、していいかな?」
未来がはっとした顔になる。
「星梨花も志保も可奈もそういえば初めて会ったんだった!自己紹介?しようよ!」
可奈が明るく自己紹介を始める。
「私の名前は〜♪
「本当に歌が好きなんだね」
「あれっ?知ってくれてるの?」
「最近、よく765プロの動画を見てて、歌声が心に響くなあって見てたのが矢吹さん……可奈だったんだ」
「ほんとに〜!?うっれし〜な〜♪」
楽しそうに歌っている可奈。それを聞いた別のテーブルで食べている志保がぼそりとつぶやく。
「『心に響いた』ね……可奈の歌が……?」
「志保ちゃん?」
「なんでもないわ」
「それでこっちの子が
唐突な紹介にも冷静さを崩さずに対応する。
「勝手に紹介しないで。私は北沢志保。14歳です」
「ああ、そういや同い年だ。僕も同じ14歳」
「そう……。どこかの14歳と違っておとなしいわね」
「……っ!」
「静香ちゃん、さっき怒られたばっかりでしょ。嚙みつこうとしないの」
「志保も煽るのやめな」
静香が志保の方を見るが、このみが止めに入る。志保には鈴葉が発言をたしなめた。それを聞いた幸哉は質問を投げかける。
「あの二人って、もしかして仲が悪い感じ?」
「まぁ……、仲が悪いというよりか意見が食い違うことが多いかな」
その質問には百合子が答える。話の種にされた二人は今もそっぽを向いた状態であった。
「あの……わたしもお話したいです!」
「いいよ!」
「わたし、
星梨花が自己紹介をする。それに「おお」と納得するように幸哉が話し始める。
「動画を見ててとてもかわいいなと思ってたんだ。会えて嬉しいよ」
「ほんとですか!?わたしのこと、知っててくれたんですね!えへへ…♪」
とても楽しそうに喜んでいる。
「ねえ、もしかして口説いてる感じ?」
「いや、別に口説いては……」
「姫柊、余計なこと言うなよ。純粋に応援してくれてるんだからさ」
「ごめん。まぁそうだよね。でも運がいいのかな?アイドルと仲良くなれるなんて」
確かに、鈴葉が言うようにアイドルたちと知り合いになれたということは、宝くじに当たるより難しいことかもしれない。ただ、幸哉はこの出来事に大きな運命を感じずにいれなかった。
話題は話せなかったことや前回いなかった可奈や星梨花といったメンバーの話になる。
「百合子さんたちを助けたんですか!」
「そうだよ。あの時は本気で命の危機を感じた」
「ほんとにやるねぇ。百合子と杏奈にとって幸哉は助けてくれた王子様って感じ?」
「姫柊さん!?何言ってるんですか!?」
百合子が驚いた声を出す。それにのり子が反応してきた。
「まあ、確かに百合子は『お姫様』って感じだよね!」
「せやな~。さっきからずっと幸哉のこと目で追ってるしなあ」
「ちょ…ちょっとのり子さんたちまで……!」
余程恥ずかしかったのか、頬を朱に染め、顔を手で隠す。なぜか杏奈も同様の表情をしていた。
話題を変えるように、可奈が話を振る。
「幸哉くんって、私たちのことどれくらい知ってるのかな?」
疑問に思ったようで、首を傾げている。
「そういえば、名前ぐらいしか……。何してるかは奈緒さんから聞いたけど」
「じゃあ、この機会に教えるわね」
静香が説明を買って出た。
「私たちは765プロの『ミリオンスターズ』というユニットのメンバーよ。全員で39人いるわ」
「39人!?」
「そりゃびっくりするよな。ここのメンバーでも氷山の一角って感じだし。最初39人募集するって何の冗談かと思ったよ……」
「マジでメンバー集めんのしんどかった……」
プロデューサー2名が苦労を偲んでいた。途轍もない大変さが伺える。
「そう…なんですね」
「その中でも3つのユニットに分かれているの」
話を未来が引き継ぐ。
「私とか百合子、可奈たちが入ってるのが『プリンセススターズ』だよ!」
確かに、プリンセスの名にふさわしい、元気かつ可憐な少女たちが所属するチームだとわかる。
「次に、私たちが『フェアリースターズ』よ。私や志保、歩さんや恵美さんがこのユニットに入ってるの」
この場にいる静香や志保は、傍目から見ると近づき難く神秘的な、まさに妖精のようである。
「杏奈たちは『エンジェルスターズ』だよ!このみさんと星梨花ちゃん、後ここにいないけど翼も一緒なんだ!」
アイドルということでスイッチが入ったのか、テンションのあがった杏奈が紹介を始めた。
天使らしい、無邪気さを感じるメンバーである。
「他にも私たちの先輩の『765プロオールスターズ』もいれて、全員で52人いるんだよ」
「52人……」
相当な数のアイドルが在籍していることがわかる。プロデューサーたちの負担も相当大きいものになるだろう。疑問を解決しようと質問を慶一たちに投げかける。
「52人もいるんだったらさすがに大変じゃないですか?スケジュールの管理だったりとか」
「まぁ、その点に関しては分担してるから大丈夫。大人組も手伝ってくれるしね」
大人組、とはこのみや莉緒、風花たちのことを言うのだろう。
「どこかの後輩が仕事をサボってたりするからよね」
「ちょっ!先輩それ言わないでくださいよ〜!」
このみが横槍を入れ、鈴葉が図星を突かれたとばかりに慌て出した。
話題が移り変わり、今度は幸哉に関する話題となる。
「最近、アイドルたちの動画とか出てる番組は見るようにしてるんだ」
「もうそこまで来てるんだな。プロデューサーとして嬉しいよ」
「プロデューサー!出てるのは私たちですよ?」
「そうだよな。出てるのは皆だったな」
「そうですよ〜!ねえ、見ててどうだった?」
「いつも元気をもらえてるよ。応援してるからね」
「ありがと〜!」
未来が嬉しそうな表情を見せる。
続いて奈緒が質問を投下する。
「幸哉は普段何してるん?答えられる範囲でええで」
「学校とかお家のお話、聞いてみたいです!」
星梨花が興味津々といった具合に聞いてくる。その瞬間、
幸哉は凍りついたように動かなくなった。
「おーい、どしたの?」
「あれ、聞こえてるのかな?」
周りの心配をよそに、黙りこくったまま時間が過ぎる。
「どうしたんだよ…、何かあったのか?」
慶一も心配そうに見てくるが、やがて何かを決意したような目つきになり、その場の全員を相手するように口を開いた。
「みんなには言っとくべきかもしれない。―僕のことを」
全員の視線が幸哉に注がれる。意を決して話を始めた。
「実は僕、学校に行ってないんだ」
第一の告白。慶一以外のメンバーの表情が驚きに変わる。
「それってもしかして…不登校ってこと!?」
「学校に行ってないって……勉強はどうしてるの?」
「転入先の学校に事情説明して、課題を送らせてもらってる」
理由を説明することで、どうにか落ち着きを取り戻した後に、二つ目を明かした。
「そもそも、僕は転入前の学校でいじめられてて、自殺しそうになったところで慶一さんに助けられた」
簡潔に事実を伝える。その場の全員の表情がどうしたらいいのかわからないという表情になる。
「あの時、怖がってたのって……」
のり子が確信を得たようにつぶやき、言葉を拾って返事する。
「そうです。あの時、掴まれて叩かれるかと思ったんです」
「まさか……それが伝えたかったこと……?」
静香が驚愕したように口を開く。意に介さずに幸哉は続ける。
「本当はみんなに伝えるべきじゃなかったかもしれない。でも言わないと前に進めないと思ったんだ」
「みんなが自分の事を話してくれるのに、自分の事を話さないのは失礼かもしれないからね」
話を終える。誰も笑ったり、話を茶化す者はいなかった。
「……」
「そう、だよね…こんな話聞いてもがっかりするだけだと思って」
「思ってないよ!」
途中で未来が遮るように大声を出す。その後、幸哉と一対一になり、顔を見て思いの丈を思いっきり吐き出した。
「幸哉くんが私たちのこと、応援してくれるって言ってるから、私も幸哉くんのこと応援するよ!!」
そう言い切り、その場には一瞬の静寂が流れた。その直後、堰を切ったようにこの場にいる者たちが声をあげた。
「幸哉くんは私たちを助けてくれた…、だから私も力になりたい!」
「杏奈も…、同じ…。だから……応援するよ!」
「こんなこと聞いたらもう、応援するしかないやんか!よう頑張ったで、ほんまに!」
「いじめのこと知らずに触ろうとしてごめん!でも乗り越えようとしてるの、すごいよ!」
「今日知り合ったばかりだけど、立ち上がろうとする姿勢、いいと思うわ」
「怖い思いをしたはずなのに前に進もうなんてすごいです!頑張ってください!」
「すごいよ…!アタシも応援してる!」
「がんばれ~♪ファイッ、お~♪」
「悩み事だったら、お姉さんに相談していいわよ」
「嫌なことあったらここ来てよ!あたしらで聞いたげるから!」
「最初から知ってたけど…俺も味方だからな!」
口々に励ましの言葉を贈る。
一連の流れを聞いた静香が最後に伝える。
「あなたのことを知ろうともしなかった…けど、今のでわかったわ。私もアイドルとして前に進むから、あなたも今の言葉を忘れないで!」
はっきりとした激励。その言葉はまっすぐに幸哉へと向かっていった。
「みんな……本当に、ありがとう!」
皆に対する感謝の言葉。それは以前のような絶望の表情ではなく、前を向いて立ち上がろうとする、希望に満ちた表情から放たれた言葉だった。
昼食のたこ焼きも材料が切れ、おかわりも無くなったところで
「「ごちそうさまでした!」」
食後の挨拶を行い、皆で片付けに取り組んだその後、未来が誘ってきた。
「今日もレッスン見に来る?」
しかし、その誘いに対して幸哉は、
「いいや、今日は帰るよ。その代わり、本番のステージで見させてもらうよ」
それに静香が反応してくる。
「ライブ、見に来るのね」
「うん、そういう約束なんだ」
「なら、感動するようなライブにしてみせるわ」
「絶対見に来るよ。あと、励ましてくれてありがとう。『静香』」
名前を呼ぶ。未来たちにしたような、ごく自然な形だった。
「……名前呼びなんて…、まあいいわよ。絶対見に来てよね。『幸哉』」
互いの名前を呼び合う。
「おやぁ~?もう名前呼びなんか。今まで興味ないとか散々言うてたくせに~」
「奈緒さん!?これは違うんです!彼が勝手にそうして来ただけで!」
静香の後ろから奈緒がニヤニヤした表情を見せていた。
「とか言うて、ライブのお誘いとかやるや~ん」
奈緒が静香をいじる。
「静香ちゃん、素直じゃないな~」
「未来!?」
「二人とも仲良くできそうでよかった~♪」
未来も嬉しそうな表情を見せる。一方で静香は恥ずかしかったのか、顔がほのかに赤くなる。そして幸哉の方を見て言った。
「いい!?絶対来なさいよ!わかった!?」
「わかったよ!静香、今日は本当にありがとう!それじゃあまた!」
そして入口へと向かう幸哉を見て、未来たちが見送る。
幸哉の姿が見えなくなるその瞬間、
「…もう!絶対にすごかったって言わせてみせるから!!」
静香が大きな声で幸哉に向かって叫ぶ。その言葉に反応したのか、振り向いて手を振っていた。
両者を隔てる心の壁は、もう消えたも同然だった。
だいぶんお待たせしました。ここまでくると一気に書かないと話数がかさみがちになりそうなので、気合入れました。
次回のお話も楽しみにお待ちください。