君と奏でる幸せの音   作:賀茂川泰伸

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前回の感想を見てとあるアイドルの正体がもうバレてたことに驚愕してます。やっぱ「わた…春香」とか「◯◯ですよ!◯◯!」みたいなワードを突っ込んだのが大ヒントになってたんやね……
今回は大きくお話が動き出します。幸哉の運命は如何に。
それでは第13話をどうぞ!


第2章 新たなるメンバー
第13話 ターニングポイント


 

劇場から駅へと歩いて、電車に二人は乗り込んだ。遊びから帰る家族連れや学生が混じり合う車内で二人は会話をしていた。

 

「ってわけで、もっとアイドルのこと知りたいんだな?」

 

そう言って柊太は幸哉の方を見る。

 

「うん。もっと知っておきたいから今日の公演にも行ったんだ」

「まぁそうだよな。じゃあ昔のライブ映像とか持ってるから、今度家来てくれよ」

「ほんとに?持ってないとか言うのは無しだぞ」

「絶対持ってっから!見せてやるよ、約束だからな!」

 

ニッと笑いながら拳を突き出す。差し出した拳をやや弱弱しいながらもコツン、とぶつける。

二人の友情を確かめ合うサインだった。

 

「っ!」

「ふふっ」

 

少年二人は、互いに笑みを浮かべた。

 

電車内でアイドル談義を交わしていると、遂に電車は幸哉の自宅の最寄駅に到着した。

 

「それじゃあな。今日は楽しかったぜ。あと、未来ちゃんたちに感想言っとけよ!」

 

「はは…連絡先のこと、まだ根に持ってたんだ……」

苦笑いを浮かべていると、柊太が詰め寄る。

 

「羨ましいよ。連絡先持っててライブもタダで見れたんだからなぁ?」

 

まだ根に持ってるようである。確かに抽選で当たった者だけが帰るチケットを無料で手に入れるということはとても珍しいことなのだろう。苦笑いを浮かべて対応する。

 

「連絡先の件は根に持ってるからな……」

 

「まあ、持ってしまったからには仕方ないよ。感想伝えなきゃ。それじゃまた明日」

 

「おう!それじゃまた明日!ちゃんと言っとけよ!」

 

そう言って柊太と別れ、解散となった。

――――――

別れた後、自宅に帰ってメッセージアプリを開く。出演者の一人だった未来のアイコンをタップして開き、

 

『今日、ライブに来たよ。とっても輝いて見えた』

 

このように当たり触りない感想を送り、アイドルたちにも同様の文章を送信する。送信を確認し、アプリを閉じて明日の授業の準備をしている最中のことであった。

スマホから着信音が鳴っている。即ち誰かが幸哉に電話をかけてきたのである。画面には「春日未来」の文字が表示されていた。慌てて作業を止めて電話を繋ぐ。

 

「もしもし?」

 

「こんばんは!幸哉くん…だよね?」

 

電話口の相手は本当に未来であった。感想ならメッセージを送ったはずなのに、余程嬉しかったのか電話までかけたのだろう。

 

「うん、そうだよ。こんばんは。実は今日のライブ、見に来てたんだ」

 

素直にライブに来訪したことを伝える。

 

「わぁ〜!嬉しいな!ステージから見えてたよ。来てくれてありがとう!」

 

「え!?」

 

驚いたような声が出た。ライブ前で忙しいだろうと踏んでいたため、あの日から劇場へは足を運ぶことは当日までなく、連絡も最低限に留めていた。感想も事後に伝えようとしていたため、全く知らせないサプライズのような形でライブに参加していたのである。何故来訪したことを知っているのかを、未来に問うことにした。

 

「どうして、知ってたの?」

 

「席の方から赤いライトが見えたんだ。そっちの方を見たら幸哉くんだってわかっちゃった。あと、プロデューサーさんに幸哉くんが来るって教えてもらったの」

 

「あぁ…!」

 

確かに気付いてもらおうとペンライトを振ったことは覚えている。しかし、無数のファンの中からたった一人を見つけ出すのは至難の業であるはず。そう考えていると未来が次の言葉を発した。

 

「だからね、こっち見てって気持ちに応えたかったから、思わず手振っちゃった」

「そういうことか…。そういえば最後の『Thank you!』、すごく感動したよ。本当に見てて気持ち、伝わってきた」

 

素直に感謝を述べると、未来が食いついてきた。

 

「うん!本当にありがとう!その曲はね、私たちにとって大切な歌なんだ」

「大切?」

「とっても大切なんだ。応援してくれるファンの人たちや私たちを支えてくれるプロデューサーさんやスタッフさんだったり、そんな人たちに『ありがとう』って伝えるための曲なんだよ」

「なるほど…!」

「だから、今日のライブ―」

 

 

「―来てくれて、ありがとう!」

 

嘘偽りない感謝の言葉。幸哉はその言葉に思わず胸の中が温かくなるのを感じていた。こちらからもお礼を返そうと口を開いた。

 

「こちらこそ、最高のライブを見せてくれてありがとう。見に来れてよかった」

 

「―っ!」

 

一瞬、未来が静かになったが、すぐに返事が返ってきた。

 

「わっ、あ、ありがとう!どういたしまして!」

 

何故か慌てたような返事を返してくる。お礼に対して何も慌てることはないはずであるが、慌てたような声が電話から聞こえていた。

 

「あはっ、どうしたんだよ。慌てたりしちゃってさ」

 

「うう~…急に言われたからびっくりしちゃったんだもん」

「あはは。『ありがとう』の気持ち、受け取ったから。こっちからのお返しってことで」

 

そう笑いながら返す。

 

「今日はありがとう。疲れてると思うからここで切るよ」

「まだお話したいよ~」

「たくさん踊ったり歌ったりで疲れてるでしょ?また見に来るから」

 

一瞬黙っていた未来だったが、やがて返事が返ってきた。

 

「うん、それじゃあ切るね。また劇場に遊びに来てね!おやすみ!」

 

疲れてるはずなのにそれを感じさせない声が聞こえてくる。幸哉はそれを聞いて優しく労わるように

 

「お疲れ様。今日はありがとう。おやすみ、未来」

「おやすみ!またね!」

 

そう言って、未来も返事を返して電話は切られた。

 

「寝るか……」

 

明日の準備をするため、本棚をあさりはじめた。

 

――――――

定期公演から数日、幸哉は代わり映えない日常を暮らしていた。授業を聞き、級友と交流し、帰ってからは勉強や765プロの番組や映像を見る毎日だった。

そんな日々、学校の放課後のことであった。

部活の勧誘を躱し、一人で帰宅していたときのこと。目の前に灰色のセダンが止まっていた。中から男性が出てきて一言言ってきた。

 

「今永幸哉さんですね?」

「えっ?はい。そうですけど……」

 

男が表情を変えずに言った。

 

「人違いじゃなかった……。霧生さん!見つけましたよ!」

 

車内の人間に告げると、車の窓が開く。一人の男が顔を出し、その人物の顔には見覚えがあった。

 

「やあ!久しぶりじゃないか勇者くん!」

「霧生さん……ですよね?」

 

765プロのプロデューサーである霧生が助手席の窓から顔を出していた。思わぬ再会に驚き、質問を投げかけた。

 

「なんでここがわかったんですか?ここ、僕の学校の近くですよ?」

「それは相河くんが言ってくれたのさ」

「でも、何の用で来たんですか?」

 

確かに、わざわざ出向いて来るとは相当の目的があると推察できる。ドアを開けて車から降り、お辞儀をして口を開いた。

 

「君に話があって来た」

「だったらここで聞きますけど…」

「人に聞かれたくないんだ。今から君を乗せて向かうことにしてるのだよ」

 

もはや誘拐の手口のように話す霧生を見て困惑する。今すぐ逃げるべきか、大事な話があるので聞かなければならない、と心の中で迷っていると運転席の社員が言った。

 

「彼が困ってますが…」

それを聞いた霧生はふっと息を吐き、にやりと笑う。

 

「危害を加えようとは思っていない。それよりもまずは君の家族に伝えなくては。ご家族をお借りしますとね」

「ええ…?」

 

意図が読めず困惑する。霧生もそれを感じとったのか頷きながら言う。

 

「まずは君の家まで案内して、説明してから向かおう。乗りたまえ」

 

そう言って後部座席のドアを開けてきた。

 

「分かりました……」

 

意を決して乗り込む。助手席に霧生が乗り込み、運転手に指示を出していた。

 

「さあ、君の家の近くまで行こう。案内よろしく」

「はい……」

 

エンジンがかかり、車が動き出した。十分とかからず、相河家の近辺に到着する。

 

「ここで止めてください」

 

幸哉がそう言って車を止めさせる。

 

「了解」

「いいかい。765プロの人がお礼をしたいという風に伝えるんだ」

「はい」

 

車から幸哉と霧生が降りることとなり、まずは幸哉ひとりで玄関のドアを開けて、外で霧生を待機させる形になった。

数分後、幸哉が外に出てきて言った。

 

「お礼と大事なお話ならうちですればいいって…」

「ううむ、困った。色々必要なものがあるんだが…。よし、交渉させてくれるかな」

 

霧生がインターホンを鳴らし、来訪の意を告げると、母代わりの雅恵が出てくる。

 

「どちら様ですか?」

 

「急に押しかけて申し訳ございません。私、765プロダクションでプロデューサーをしております霧生という者です。今日はあなた方のご家族たる幸哉くんにお話があるのですが、少しお借りさせてもよろしいでしょうか?」

 

そう言って名詞を渡す。渡された名詞を見て雅恵が怪訝そうな顔をする。

 

「はあ。うちの幸哉がお世話になったそうですけど…どのようなご用件ですかね」

 

いきなりの来訪者を怪しむ雅恵に向かってさらにたたみかける。

 

「いえ、幸哉くんと話がしたいので、少しだけ預からせていただけますでしょうか。お話が終わり次第、ご自宅までお帰しいたしますので」

 

未だ理解のできていない様子だったが、なおも続く霧生の説得に折れたように、とりあえずといった調子で了解をしてくれた。

 

「交渉成立…、さあ行こうか!」

 

荷物を家におき、制服を着替えて二人は車に乗り込んだ。

 

――――――

 

車を走らせること30分ほどたち、ビルの並ぶオフィス街に到着した。今から行く場所は駐車場がないということで、近隣の駐車場に車を止め、しばらく歩いて目の前には4階建ての雑居ビルが見えた。上の方の窓に「765」とテープで貼られているのが見える。

 

「さっ、ここ入って」

 

ビルの階段を上り、ドアを開ける。そこには机に書類棚、応接用のスペースといった、以前来訪した劇場の事務室と似たような内装となっていた。

 

「霧生さんお帰りなさい!あら?その男の子は……」

 

事務員とみられる女性が出迎えてくれた。霧生が事務員の女性に話しかける。

 

「ただいま、小鳥さん。彼とはここで話をするために連れて来たのさ」

 

にこやかに話をしていると女性が何かを思い出したように幸哉を見る。

 

「あなた、名前は何て言うの?」

「今永幸哉です。今日は霧生さんが大事な話があるというので来ました」

 

丁寧な紹介に感心したように女性が微笑み、こちらを見て自らも名乗った。

 

音無小鳥(おとなしことり)です。765プロで事務員してます!」

 

同じ事務員でも、劇場にいたフレッシュな美咲と違い、落ち着いた大人の女性の雰囲気をしていた。

 

「それで今日は何をしに連れて来たんですか?」

 

小鳥が目的を聞き、霧生が手振りを交えて大袈裟な所作をしながら言った。

 

「今日は彼にお礼とこれからのことについて話す予定ですよ」

「そうなんですか!だったらお茶の準備をしなきゃ」

 

そう言うなり小鳥はさっさとこの場から抜け出し、お茶の準備をしていった。

 

「どうぞ、座っていいよ」

「ありがとうございます」

「お茶とお菓子置いときますね」

 

 

淹れたての緑茶入りの湯吞みと菓子入りの皿が置かれ、霧生が椅子に座るよう促し二人は相対する形になって座る。

 

「改めて、私は霧生敦成(きりゅうあつなり)。765プロでプロデューサーをしている者だ」

 

そう言って名刺を取り出して幸哉の手元に渡す。名前と顔写真が載った普通の名刺である。

 

「しっかり自己紹介してなかったので、言います。今永幸哉です。年齢は14歳。よろしくお願いします」

 

「あぁ、今永……」

「どうしたんですか?」

「気にしなくていい。こちらの話だ」

 

名前を聞いた霧生は何かを考えているような表情を見せる。気になって質問するも、躱された。

 

「どうして、僕をここに連れて来たんですか?」

 

目的を問う。それが一番状況を理解する手段だと踏んでいた。

 

「そうだ。君を引っ張り出してまで連れて来た理由、それは―

 

 

 

 

君を獲得するためだ」

 

「え……それは、どういう……」

 

質問の意図を読み取れずに聞き返す。それに対して霧生は表情を変えずに返事をした。

 

「つまりだ。君を765プロに加入させる」

「は……?」

 

放たれた言葉に、目を丸くし、口が開いたままになる。少しの間が開いてようやく言葉を絞り出した。

 

「加入させるって……僕は中学生だからアルバイトできないし、どういうことですか?」

「ううむ、わかってくれないか。正直に言おう。()()()()()()()()()()()んだ」

「―っ、えぇぇぇぇえ!?」

 

「アイドルになれ」。その言葉の意味を理解できずにびっくりしたような大声をあげる。

 

「いや、どういうことなんですか!?アイドルになれって!何かの冗談ですよね!?」

「冗談?こちらは本気だ。プランだって用意してある」

「だからって……」

 

騒ぎ続ける幸哉をよそに、クッキーをつまみながらあくまで淡々と答える霧生。両者の話が並行線を辿りそうなその時だった。

 

「やあ、霧生君!ご苦労様だね」

 

それを聞いた霧生が立ち上がりお辞儀をする。

 

「社長、お疲れ様です」

「社長…?」

 

二人の目の前には高級そうなスーツを着た中年男性が立っている。

 

「彼が我が社を変えうる人物です」

 

霧生は幸哉を指して社長と呼ばれた男性に伝える。男性は頷き、霧生に向かって話しかけた。

 

「成程、それなら私も話に混ぜてもらえないだろうか」

「はい。社長から説明なされた方が、彼にも届くでしょうから」

「……?」

―――

霧生が椅子を社長と呼ばれた男に譲り、幸哉の横に座る形で対面した。

 

「自己紹介をしなければ。私は高木順二朗(たかぎじゅんじろう)。765プロの社長をしている者だ」

「今永幸哉です。よろしくお願いします」

 

相手に頭を下げた。それを見た高木社長は納得いったように幸哉を見て声をかけた。

 

「君が七尾百合子君と望月杏奈君を助けてくれた少年か。劇場の定期公演は楽しんでくれたかな?」

「はい。とても輝いてて、みんなから元気をもらえました」

「それは何よりだ。喜んでもらえて社長として嬉しく思うよ。我が社のアイドルを助けてくれてありがとう」

「こちらこそ、ライブに招待させてもらって…ありがとうございます」

 

二人が互いに礼を述べていると、霧生が切り替えるように言ってくる。

 

「本題に入りましょう。今回は彼についてのお話をしに来たのですから」

「おお、そうだったね。何の話をしていたのかな」

 

「彼を、今永幸哉くんを我が社に迎え入れるという話です」

 

社長は驚いたような表情を見せたが、すぐに幸哉に向き直った。

 

「それはどういうことかね?」

「はい。僕にアイドルになれと言ってきたんです」

 

それに関しては幸哉が説明した。社長はううむ、とうなり、幸哉と霧生を交互に見る。

 

「わかった。話をしようじゃないか!」

「そうしてもらえたらありがたいです」

 

社長が霧生に問う。

 

「しかし、なぜ彼にアイドルになれと言ったのか、そこだけ聞かせてくれないか」

 

了解したように霧生が頷いて答える。

 

「私が彼に可能性を感じた、というのが表向きの理由ですが、彼の境遇にも理由があります」

「ほう……」

「彼は引っ越して来る前に、学校でいじめを受けていたそうなんです」

「なるほど……辛かったろう」

 

社長も境遇を哀れむように幸哉を見る。それに対して幸哉は言葉を返した。当時のことを思い出したのか、表情は暗い。

 

「はい。本当に辛くて……一度は自殺しようとしました」

「なんということだ……」

 

 

そこからは幸哉が説明を始めた。

 

「慶一さん…いえ、相河さんに助けてもらってその人の家で住むことになったんです」

「なるほど…これでは両親に何も言わず出てきたことになる。そこはどうなのかな?」

 

霧生が聞いてくるが、俯いたまま答えない。深くは追求されず、次の言葉を待つ。

 

「それで、引っ越してから未来たちと出会って、アイドルのことを知るうちに、自分でもう一回立ち上がろうって決めたんです」

「ライブを見た時も、ステージに立ってるのを見て、すごく輝いてると思いました」

 

だんだん表情に暗さがなくなり、言葉に力が入る。

 

「まだ、人が怖いとか思ったりすることはありますけど……でも今の僕がいるのは、アイドルたちのおかげでもあるんです」

 

前を向いて答える。この場にいる社長、霧生、小鳥が拍手をしていた。

 

「えっ!?皆さん……なんで…?」

 

「よく話してくれた!ますます欲しいと思えるようになった!」

霧生がそう言うと、社長が称賛を贈り、小鳥は涙を拭きつつ言葉を紡ぐ。

 

「傷ついてもなお立ち上がろうとする姿勢、素晴らしく思うよ!霧生君が推薦するのもわかるね」

「うっ……ぐす…頑張ってるのね…すごいわ…」

 

「ありがとうございます…!話を聞いてくれて……」

 

周りのムードが盛り上がる最中、小鳥が口を開いた。

 

「えっと……何の話でしたっけ?」

「今永君をアイドルにする…という話だったね?」

「そうです。聞いたでしょう。彼が立ち上がれた経緯を」

 

続いて霧生は幸哉に問いかけた。

 

「アイドルたちは、なぜこの765プロにいるか解るかな?」

 

その問いに対して、幸哉は恐る恐る答える。

 

「注目されたい、とかステージで輝きたいって想いがあるからだと…僕はそう思います」

 

回答に対して、霧生は頷いた後に口を開く。

 

「そうだ。彼女たちはそういった『夢』や『希望』といったプラスの動機を持って事務所の門を叩いた。だが君の場合、『苦渋』や『絶望』といったマイナスを経験し、未だ囚われているように見える。アイドルとしてファンが見たいのはもちろん前者だ」

 

そして続けるように、

 

「しかし人生、プラスの出来事ばっかり起きるものじゃない。挫折や敗北、負の出来事もある。そういったマイナスから立ち上がり、立ち向かった人間は大きく成長し、称賛を得る」

 

椅子から立ち、幸哉を見て言い放つ。

 

 

「挫折や絶望を味わったからこそ、アイドルにふさわしいと考えた。これが君を加入させたい理由だ」

 

霧生の発言が終わり、幸哉は顔をあげて相手の方を向く。そして意を決して口を開いた。

 

「そこまで言ってくださるなら、アイドルとしてやりたいと考えています。けど僕は男です。女の人ばっかりいる中でやるのは少し気が引けてしまいますね」

苦笑いしながらそう言うと、小鳥が何かを思いついたように声をあげた。

 

「そうだ!男の子でアイドルするのに気が引けるなら……」

 

 

 

「女の子になればいいのよ!」

 

小鳥の突拍子もない発言に場が凍りついた。「あれ?何かやらかした?」とばかりにきょろきょろする小鳥を見て霧生が言った。

 

「小鳥さん。発言には気をつけましょう。なんでこんなこと言うんです?性転換とか何言ってるかわかりませんよ」

「音無君の言うことがよくわからないのだが……」

 

ポカンとした表情の幸哉と発言を詰める霧生と社長。小鳥は観念したようにぼそぼそと口を開いた。

 

「性転換とかそんなこと思ってないんです!男の子でダメなら女の子の格好をすればいいかな〜って……」

 

終始気まずそうに話す小鳥を見て、霧生が何か思いついたように手を叩いた。

 

「―っ、はははは!何のことと思ったらそういうことか!これならどうにかなるかもしれない!」

天啓を受けたような表情をして、霧生は興奮したように言った。

 

「幸哉くん。だったら女装でアイドルをやるというのはどうかな?」

 

「へ―えぇぇぇぇぇえ!」

 

事務所に叫び声が響き渡る。それを聞いた霧生はふっと笑ったような表情を見せる。

 

「何を驚いているんだ?女装なら違和感なく彼女たちにも溶け込める」

 

「だからって……僕がアイドルなんて……」

「さっきやりたいと考えてるって言ったじゃないか」

「あっ……」

 

先程の発言と矛盾してしまった。その点を指摘されギクッとした表情になる。さらに突き詰めるように声をかける。

 

「さあ、どうする?こんなチャンス、二度と来ないかもしれないよ」

「っ……」

 

未来たちと同じステージに立てる。それだけでも価値があるものだろう。しかし、少しの躊躇が心に残っていた。二度とやってこないチャンスを逃すという選択肢は、幸哉の頭にはなかった。人生を変えるターニングポイントだと信じて、口を開いた。

 

「わかりました……アイドル、やります!」

「そうか……契約成立だ。ようこそ、765プロへ」

 

霧生はこの答えを待っていたとばかりに、にやりと笑みを浮かべていた。




途中の社員はオリキャラでなく、名もなき社員として扱うものとしておきます。
あんまりオリジナル色を強くしてしまうと二次創作の性質上原作を薄めてしまいかねないので。

今回からさらに物語は加速していきます。次回のお話もお楽しみに!
あと、ミリオンライブ12周年おめでとう!育が風花くらいの年齢になると考えたらめっちゃ長く続いてるコンテンツですねこれ。これからもミリオンライブを応援し続けていきます!
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