君と奏でる幸せの音   作:賀茂川泰伸

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今回はいよいよお待ちかねのライブ回であり、第2章の最終回でもあります。章分けに関しては自分で区切りつけるために行ってます。第3章からは、平行して短編集の作成も行おうと思っております。
今回は前後編に分けておりますので、まずは前編をお読みください。
最後に、いつも読んでくださっている方々、感想の書き込みやお気に入り登録された方々、いつも本当にありがとうございます!




第17話 オン・ステージ(前編)

「1・2・3・4……」

 

劇場のステージでは本番を想定した練習が行われていた。

キュ、キッといった床とシューズの摩擦が響かす音をBGMにステップを踏み、腕を動かす。指の先の先までに意識を集中させ、振り付けの動作を行う。ステージに油断は許されない。だからこそ、本気で集中し、人の目を集めるように体全体を動かす。

せーの、という合図と共にぴょん、と飛び上がる。 

集中を切らすな、と脳に命令をたたきこみ続け、曲の終盤まで走り抜けた。

 

やめ、という合図を見て体からふっと力が抜ける。アイドルたちの動きを見ていたトレーナーが拍手を送っていた。

 

「うん!だいぶんよくなった。これなら本番もいけそうですね」

 

出来ばえに感心を抱いている様子。同席し横で見ていた慶一も肯定するように首を縦に振っていた。そんな様子を見てセンターに立っていた未来が向こうへ声を張り上げて呼びかけ、

 

「プロデューサーさーん!今のどうでしたかー!」

「いい感じだ!本番もその調子で頼んだぞ!」

 

その声を聞いた慶一も大きな声でステージに呼びかける。

プロデュースしているアイドルたちの活躍を大いに喜んでいる様子だった。

そんな周りを見て、息を吐いて呼吸を整える。最初こそ全くかみ合わないパフォーマンスを露呈していたが、劇場でのレッスンや自主練習を繰り返してなんとか人前に立てるレベルに到達したのである。

ステージの端に置いた水筒の水を飲んでいると―

 

「優希ちゃん!」

「未来、どうしたの?」

 

未来が近づいて話しかけてきた。何か用事があるといった様子であり、いつものように笑顔で接してきて、励ますように言った。

 

「さっきのダンス、すごく上手になってたよ!練習頑張ってたよね」

「うん、あの時からあんな失敗はしたくないなって思ったから頑張れたんだ。ライブまで時間ないって言われてたのに練習はだいぶん良くできてるんじゃないかな」

「そう…。真面目に頑張ってたのね」

 

横から静香が顔を出した。彼女も汗が頬を流れており、集中していたのが伺える。レッスン初日にして大失態を冒してから、成長した様子に控えめながらもどこか称賛しているような様子である。

 

「本当に練習頑張っていたものね。優希ちゃん、とっても上手だったわ」

「はい。今永さんの(ひた)向きさ、尊敬します」

 

それを見た一緒にパフォーマンスを行っていた二人の女性―桜守歌織(さくらもりかおり)白石紬(しらいしつむぎ)が口々に幸哉を称賛する。彼女たちも公演に立つメンバーであり、共に練習に勤しんでいた。

 

「ありがとうございます。お二人とも当日はよろしくお願いします」

 

礼を述べると、微笑んだ顔をした二人が言葉を返した。

 

「そうね。優希ちゃんを見てると本番が楽しみになってくるわ♪公演、頑張りましょうね」

「ダンスで転んだと聞いたときは心配しましたが、もう大丈夫そうですね。―プロデューサー」

 

そう言うと紬は今度は慶一に目を向ける。幸哉に向けた優しい表情から一変、ジト目で慶一を見ていた。

 

「今永さんに関してですが、いきなり参加させるというのはどういったお考えですか?」

 

まるで相手に疑いを持っているかのような言葉だった。そんな紬の態度に慶一が慌てて自らの意見を述べる。

 

「いいや、そんな考えなんて…。急に霧生さんが『任せてくれたまえ』って言うもんだからさぁ……」

 

慶一の弁に対して静香が追撃を加える。

 

「いきなりステージに上げるとか…。本当に何考えてるんですか」

 

冷ややかな目を向ける静香を見て、幸哉は思わず彼女の方向を見てしまう。

 

「あれ?もしかして嫌なのかな……」

 

そう呟いたのを拾われたのか、静香が顔を向けずに口を開いた。

 

「別に嫌とかじゃないわよ。ただ、最初の頃よりはマシになったと思ってるわ」

「え?」

 

初対面の時から冷淡で高嶺の花といった印象だったが、素直に認めるような発言が出る辺り、根は温かい人物なのだろう。思わぬ称賛を受けたことに幸哉は嬉しさを感じずにはいられなかった。

 

「ありがとう、静香。褒めてくれるんだね」

「……褒めてないわよ!」

 

あまりにもストレートな感謝を述べるとさっきまでのクールさから一変、顔を真っ赤にしてまくし立てる。

 

「第一、あなたもステージに立つのよ!一回褒められただけでニヤニヤしないで!」

「えっ?褒められたら普通嬉しくならない?」

「嬉しくない……わけじゃないけど気を引き締めて!本番を意識した練習の最中なんだから」

「ごめんなさい……」

 

嬉しそうにするでもなく、なぜか怒られてしまった。そう言われたことに落ち込む様子を見た翼が声をかけてくる。

 

「静香ちゃ~ん、ほんとは褒めたいんじゃないの?だったら素直に言えばいいのに」

「そうだなぁ。ダメ出しばっかりやるのもよくないぞ」

 

慶一も話に入って来て、そう言われた静香はさらに顔を赤くしながら怒鳴る。

 

「翼、余計なこと言わないの!後プロデューサーも優希を甘やかさないでください!」

 

ぷんぷんしている静香を未来たちがなだめて、この場はどうにか収めることができた。しかし、なぜ怒っていたのか、その理由を推し量る暇もなく、次の練習に入ろうとしていた。

 

―――

 

練習のプログラムが全て終わったところで慶一が皆を集める。どうやら公演に関する話があるとのことであった。

 

「よし、みんな集まってくれたな。それじゃ公演の話をするぞ」

 

集まったメンバーが真剣な眼差しで彼を見る。それを見て話を始める慶一。

 

「今回の公演には優希も参加することになっている。その上でメンバーは以下の通りだ」

 

ごくり、と唾を飲み込み、耳を傾ける。慶一が発表をするためにアイドルたちと目を合わせた。緊張した面持ちで発表を聞き逃すまいと相手の方を向いた。

 

「メンバーは……未来、静香、翼、紬、歌織さん。そのグループに優希が入る形だな。サポートしてあげてくれ」

 

 

「ちょっとお兄ちゃん!桃子たちのこと忘れてない?」

 

発表を終えると、少し間が開いて後ろから声が飛んできた。仕事もあってか後半から練習に参加したアイドル―周防桃子の声であった。忘れられたことに少し怒っているようだった。

 

「ああ!ごめん、そうだった……」

「本当にしっかりしてよね」

 

成人男性が女子小学生に責められるという情けない構図を見せられた後、咳払いをして向き直る。

 

「まぁ、桃子たちもゆき…、じゃなかった優希をサポートしてあげてほしい」

 

(危なかった……)

 

本名を言いそうになるもぐっとこらえて言葉を飲み込み、話を続ける。

 

「他には桃子、恵美、海美、琴葉、百合子が参加する。みんなで協力して、公演成功させるぞ!」

「「はい!!」」

 

皆が一斉に返事をして、この場はお開きとなった。

各自で帰宅する準備をしていると、アイドルたちがこちらに寄ってきた。

 

「これからステージに立つけど、今の気持ちとか、聞かせてほしいなって……」

 

そう言ったのは百合子だった。同じ舞台に立つ者として聞いておきたいと思ったらしい。

 

「うん。まだ想像できそうにないんだよね。自分が当日、ここに立って踊るっていうのが」

「私だってライブの前の日ってドキドキして眠れなくなっちゃうんだ」

 

話をしている最中、百合子がずっと自分の顔を見ている。それが気になり、質問を投げかけた。

 

「もしかして、顔に何かついてる?」

「ううん!違うの。ほんとに幸哉くんそっくりなんだなぁって」

 

現に別人たる「優希」という人物を演じている。未だそれに気づいていないことに、バレていないという安心感と

騙している罪悪感が胸の中で広がる。今の段階、彼女たちは「優希」を幸哉の親戚だと思ってる状態だ。

 

「そっくり、って彼のことをどう思ってるの?」

 

何気なく聞いてみることにする。百合子は頬を染めながら俯き気味になって言った。

 

「幸哉くんはね、私を助けてくれたヒーローで、運命の人なの」

「運命の人?」

「そう。私が事件のせいでアイドルをやめようって思った時、またステージに立つところが見たいって言われたことが忘れられなくて」

「へぇ~……」

「あの時、出会ったからこそ私がアイドルを続けているのかもしれないんだ。彼の言葉が心の支えになってるのかも」

「なるほど……」

 

そう言っている百合子はどこか思いを寄せているように見えた。ここまで褒められると、少し恥ずかしい。こそばゆさを感じていると横から恵美と琴葉がやって来た。

 

「百合子ってほんとに幸哉のこと大好きだよね〜」

「ヒーローだなんて素敵……!その話、もっと聞かせて欲しいな」

「恵美さん!?それに琴葉さんも!」

 

話を聞かれていたことに赤面し、頭から煙でも出ているかのように見える。それほど恥ずかしかったのだろう。

 

「今の話、絶対幸哉くんに言わないでね!私たちだけの秘密だからっ!さよなら!」

「あぁ待って!」

「あはは、帰っちゃった……」

 

そう言うと百合子はさっと支度を済ませてこの場を離れていった。「秘密にして」と言われても、本人が目の前にいることを彼女が知ることはないのだが。

それに倣って帰り支度を済ませて帰ろうとすると、未来たちに呼び止められた。

 

「あれ?もう帰っちゃうの?」

「ちょっと疲れただけだよ。早く帰って休もうって思ったんだ」

「ふーん、そうなんだ」

「ところで、自分がステージに立つってことがまだイメージできてなくてね」

 

そこまで言ったところで未来がにっこり笑って幸哉を見てきた。まるで楽しいことを教えたいとばかりの表情である。

 

「大丈夫!いつも練習頑張ってたもん、絶対うまくいくはずだよ!」

 

目の前で笑う未来からは、周りを照らす太陽のような明るさを感じる。彼女が先頭に立っているからこそ、今までのライブでも成功をおさめることができていたのだろう。そんな笑顔にあてられたのか、メンバーの表情は明るい。

 

「そうね♪未来ちゃんの言うとおり、練習頑張ってたから自信持って。ライブ、頑張りましょうね」

「そう!だからリラックスしていこうよ」

「本番、楽しみだな~♪」

 

周りの人々メンバーも希望を抱いているような表情をしていた。そんな雰囲気に心も明るくなる。

 

「ようし、僕たちの……」

「僕?」

「私たちのライブ、成功させようね」

「うん!」

 

またしてもボロを出しそうになるも、しっかり踏みとどまって自分の意思を伝える。明るい雰囲気のまま、この場は締まることとなった。

「一緒に着替えに行かない?」

「いいや、疲れたしすぐ帰らせてもらうよ。それじゃ」

 

自身の都合により、自分は劇場の更衣室が使えない。

帰り支度を済ませてそのまま家路についていった。

 

「……」

「桃子、どうかしたの?なんかさっきからずっと黙ってたけど」

「ううん、何でもないよ」

「そっかぁ」

―――

定期公演、前日。

公演に向けて早めに寝ようとしたが、眠れない。眠気が来るまで横になって待つことにしていた。

明日の自分は、劇場のステージの上にいる。自分のパフォーマンスをどうすればいいのか、周りに迷惑はかからないか、など様々な不安が頭をよぎる。そのさなかに、とある言葉を思い出した。

 

ー大丈夫。怖くないよ。私たちは味方だから―

 

以前、過去のいじめから起因するトラウマによって発作のように周りに対して恐怖を抱いたことがあった。しかし、近くにいた未来が手を握って優しい言葉をかけてこの場は収まった。その言葉を思い出したのである。

周りにいるのは敵ではない。共に輝く仲間だ。そう認識すると、安心感からかすぐに眠りに落ちた。

 

―――

 

ねえ、お母さん。僕の名前ってどういう意味があるの?

 

それはね、あなたに幸せになってほしいからなのよ。

 

そうだぞ。あと、他人を幸せにできる人になるようにって意味でもあるんだ。

 

へぇ~そうなんだ!だったら僕、お父さんとお母さんを幸せにできるような人になるよ!

 

ははは、そうだな。がんばれよ。

 

そうね、幸哉。あなたも幸せでいてね。

 

――――

 

「う~ん……」

 

随分と長い夢を見ていた気がする。それでいて、とても温かい気持ちになれるような夢だった。階下に降り、朝食を食べる。

 

「いよいよ初めてステージに立つけど、大丈夫そう?」

「はい。昨夜(ゆうべ)はしっかり寝れました」

「そんならよかった。食べたら準備して家出るよ」

「遂にかぁ、頑張れよ!しっかしな、可愛い子と仕事できるなんて俺が代わってやりたいくらいだぜ」

「鼻の下伸ばしながら言うな!」

「痛え!」

「あはは……」

 

そんな会話を交わして、朝食を食べ終えて準備のために洗面所へ

向かい、顔を洗ってウィッグを装着。アイドルとしてのスイッチを入れ、水や軽食を鞄に入れて車に乗って劇場へと向かった。車に乗せられ、20分ほど経ち、劇場近くに駐車する。

劇場の入口に入ると、事務員・青羽美咲の姿があった。腕に服のようなものを抱えており、幸哉に気づくとこちらに近づいてきた。

 

「青羽さん!おはようございます」

「おはようございます!これ、渡したくて待ってたんですよ!」

 

いつものように元気な挨拶で迎えると、抱えていた服のようなものを渡してきた。

 

「これって、衣装ですよね」

「はい!今永くん…じゃなくて優希ちゃんの衣装ね。あんまり時間がないから予備のだけど……」

「ありがとうございます。今日は張り切っていきます」

「頑張ってね!応援してるから!」

 

そんな声援を受け、この場を去った。

ドレスルームに入るも、人の姿は見えない。これ幸いとばかりに衣装をビニール袋から取り出す。赤色で、黒地に黄色い蝶々をかたどったネクタイのついた上の服に、裾に黒と金のラインが通った紺色のスカートが入っていた。

 

「えっと……」

 

幸哉は困惑した。

下の服がスカートだったのである。お揃いの衣装であることに嬉しさを感じる一方、男でスカートを穿くということに一種の恥ずかしさを感じていた。そこを一旦保留し、上の服に手をかける。その部分は難なく着替えることができた。

問題はスカートにあり、腰に巻いて留めることがやりづらく、不器用なりに手を動かし、格闘してなんとか留め終わる。

これからステージに立つというのに、大いに疲れてしまった。

ふと鏡を見る。そこにはアイドルが立っていた。その姿を見ると、あの日見たステージに今度は自分が立つということを意識させられる。

着替え終わると、続々とアイドルたちがやってきて着替えたり、雑談を始める。話題は衣装の件が主題になった。

 

「えぇ!?スカート穿いたことなかったの?」

「はい。あんまりなかったんです。足元がスースーするっていうか……」

 

「衣装可愛い~」

「青羽さんが渡してくれたんだ。とっても可愛くていいよね」

 

そんな会話を続けていると、慶一と優愛が部屋に入ってくる。何事かと皆の注目が二人に集まる。その中で優愛が口を開いた。

 

「えーと……みんなに言わないといけないことがあって、今、機材トラブルで対処中なんです」

 

その場にいる全員が驚きの声をあげる。百合子と海美が疑問を抱いたように相手を見て、

 

「機材って……いつ治るんですか?」

「リハーサルとかどうなっちゃうの?」

 

と質問した。それには慶一が難しいといった表情で答えた。

 

「う~ん……時間かかるみたいでさ。スケジュール的にリハーサル抜きになるかもしれない」

 

「「えぇ!?」」

 

いきなり告げられた衝撃で、皆の顔がはっとした表情になる。特に幸哉に関しては、表情はこわばり、体が震えていた。

 

「優希さん、どうしたの?そんなに震えて」

「いやぶっつけ本番なんて……そんなの……」

「もう、緊張してどうするの?これからもっとステージに立つんだよ」

「そうは言ってもさ……」

 

横にいた桃子に心配されるも、未だに緊張は解けない。

そんな様子を見ていた未来、静香、翼が声をかけてきた。

 

「大丈夫?立てる?」

「うん……」

「体調の方はどうなの?悪いなら無理しないで」

「熱とかはないよ。昨日よく寝たし」

「それならよかった♪がんばろうね、優希ちゃん!」

「翼……!」

 

三人を見て心に安定を取り戻したのか、体から緊張が抜けていく。同時にこれから来るステージに、むしろ期待すら抱くようになっていた。顔に笑顔が浮かんでくる。

「ふっ」と笑顔がにじみ出たのを慶一は見逃さなかった。

 

「いい顔だな。ステージ、楽しめそうか?」

 

その問いかけに、幸哉のみならず一同が肯定した。

 

「「はい!!」」

 

 

 

トラブル解決の一報を受けた慶一と優愛は、アイドルたちを集めていた。

時計は開演時間の少し前の時刻を指していた。

 

「これからステージが始まる。準備は大丈夫か?」

「優希ちゃんにとっては始めてのステージだから、みんなで支え合って成功させようね。それじゃあ後はみんなでお願いっ!」

 

優愛がそう言うと、アイドルたちが集まって肩を組んでいた。海美が「こっちに来て」とばかりに手招きしてくる。それを見て、輪の中に加わる。

肩を組んで円陣を作ると、未来が口を開いた。

 

「みんな!今日は最高のステージにしようね!えいえい……」

 

「「おーっ!!」」

 

 

 




本当に長くなってすみません。この話の投稿して少し経ったら後編をお出し致します。
それでは後編もお楽しみください!
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