君と奏でる幸せの音   作:賀茂川泰伸

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大変お待たせしました。17話の続きとなります。あまりにも長くて前後編に分ける手段を今回初めて使いました。
それでは18話、ライブスタートです!


第18話 オン・ステージ(後編)

開演時間になり、緞帳の降りているステージに皆が集合する。

ゆっくりと緞帳が開き、目の前の光景がはっきり見えるようになった。

スポットライトに照らされた姿、ファンの詰めかけた観客席、そして鳴り響くアイドルへの声援といった周りの全てが目と耳を刺激する。

 

「―ぁ」

 

自分でも気づかぬまま、声を漏らしていた。呆然としたまま、ステージに立つ。マイクを握った未来が観客に呼びかけた。

 

「今日は定期公演に来てくれて、本当にありがとうございまーす!」

「私たちの新しい仲間を紹介します!それじゃあ……はいっ!」

「いっ、いい……今永優希、14歳です!今日は初めてのステージなので頑張りますから応援お願いしましゅっ!」

 

未来にマイクを渡され、緊張でガタガタ、早口で語尾を噛みながらも何とか自己紹介を終える。観客席から「おぉ~」「頑張れー」といった温かい声援が届けられる。その声に慌てて頭を下げた。

 

「も~、緊張しちゃってさ。リラックスリラックス!」

「そうは言っても……」

「楽しめばいいよ!みんな味方だから!」

 

皆が励ましの言葉を送る。それを聞いて安心できたのか、ふと笑顔がにじみ出た。

 

「今の笑顔、すごくいい感じだね」

「えっ、そう?」

「それじゃあ、これからは私たちの番!一曲目、聞いてください!『Welcome!!』」

 

百合子や恵美といったメンバーが抜け、未来・静香・翼・紬・歌織が残りそのグループの中に幸哉が入る形になる。

 

イントロが流れ出した。手を動かして振りをこなす。今回はダンスのみ行うことになっていたが、それでも初めてのステージ。

置いて行かれないよう、体全体を動かし、表現する。

 

『みんな 輪になって』

『手を重ねて ファイト』

「「オー!」」

 

ステージに立つ高揚感を全身でアピールする。

掛け声と共に、拳を前に突き出す。

 

『憧れの舞台 はりきって 君のもとへ!』

 

『いざ 近づく ドキドキ』

 

『ひざ ちょっと ガクガク!?』

 

高揚感と緊張を同時に表すように俯きながら頭に手を近づける。

 

『大丈夫!抱きしめて あ・げ・る♪』

 

「抱きしめて」と歌ったところで、抱擁するように両手を前に差し出して包みこむ。

ファンの歓声を抱いて、内に取り込むような振り付けだ。

 

『スキマからの キラキラ 好きなの ワクワク!』

『君の声が 聞こえる 手をつないで 一緒に 走れ!』

 

「レディーっ……」

 

「「GO!!」」

 

未来たちの合図に合わせてポーズをとり、

 

『1・2・3・4!せーのでジャンプ!』

『君が 大 大好きだ!』

 

内に秘める喜びや自我を解放するように、飛び跳ねた。

ファンの人々に会えたこと、ステージに立てた喜び、そして感情を爆発させる。

ステージのアイドルたちの一挙手一投足にファンの人々が歓声を贈る。

歓声が渦巻き、喜びが波になってステージへと流れていく。

 

『輝くステージ もう 絶好調!』

 

もう一度飛び上がり、可愛らしく、それでいて決めるように見せつける。歌やダンス、その全てに自らの感情を目いっぱいぶつける。

ステージに立つ前こそ、緊張で失敗しないか、迷惑にならないかなど考えていたが、そんな考えはとうの昔に吹き飛んでいた。

楽しい、嬉しいといった感情を前に押し出す。

 

ファンとアイドル、それぞれが一体となってステージを作り出している。

人々が歓声をあげて、アイドルがそれに応える。

その中にいた幸哉も、それを肌で、心で、体全体で感じていた。

 

楽しい、という気持ちを。

 

曲が終わりに近づいてきて、皆の動きにも力が入る。

 

『1・2・3・4!せーのでジャンプ!』

『君が 大 大好きだ!』

『あふれる「Thank you!」ずっと』

『私の宝物』

 

決めポーズをとったところで曲が終わった。

ステージに立っていなかった百合子たちも登壇する。

 

「一曲目、聞いてくれてありがとうございました!」 

「ということで次は『優希ちゃんに質問してみよう』のコーナーです!」

「えぇ!?」

 

思わぬ発言をされて驚き、自らを指差す。歌織が横から出てきて微笑んだ。

 

「ファンの人たちにも優希ちゃんのことを知ってもらおうと思ってたの」

「いや、そんなの聞いてないんだけど……」

「内緒で決めてたんだ~♪」

 

翼が笑っている。どうやら自分の知らないところで勝手に決められたらしい。マイクを持った未来がこちらに近づく。

 

「それじゃあ、最初の質問!好きな食べ物を聞いてみようかな~」

 

マイクを近づけられる。ここは無難かつ、正直に答えるのが正解と踏んだ。

 

「えーと、好きな食べ物は、カレーとたこ焼き、です」

 

会場のファンからは「へぇ~」といった声がちらほら聞こえてきた。この二つを回答としたことには理由が存在する。

共通してこれらは劇場で食べたものという点がある。まずはカレーに関しては劇場に出かけた時、ただ来訪しただけの自分に対しても美奈子たちが作ってくれた、温かい思い出の味だ。

たこ焼きはアイドルたちと作り、自らも調理に参加した記憶に残る品物。

それほど二つの食べ物は思い出に残っていたのである。

 

「なるほど〜。聞いてたらお腹空いてきちゃった」

「未来、ライブ中よ」

「でも静香ちゃんだっていつもうどんばっかり食べてるよね?」

「ちょっと!?」

 

会場が笑いに包まれる。

自らの食生活をバラされた静香は恥ずかしいのか、赤面していた。

それを見てマイクをもらい、静香以外のメンバーに向けた。

 

「だったらこっちも聞きたいな。好きな物」

 

幸哉が未来たちにマイクを向ける。こちらとしても聞くべきと判断し、彼女たちのそばへ歩み寄った。

まずは未来に目を向ける。

 

「好物について聞きたいんだ。何が好き?」

 

最初に答えたのは未来だった。

 

「はーい!私は生クリームが好きでーす!」

「生クリームのどんなところがいいの?」

「甘くてふわふわで、なんかこう……おいしいよね!」

 

何ともあっさり、いや語彙力の無さそうな回答が飛び出す。思ったことを素直に話せるのは良い点ではあるのだが、少々心配になる。静香が未来の肩に手を置いた。

 

「国語の勉強、しっかりやってるの?」

「えっ……?なんで国語がでてくるの?」

「なんでって……今の回答、ちょっと将来が心配になったわ。勉強もやらないとアイドル続けられないわよ」

「えぇ〜っ!?なんでそんなことになるの〜!?」

 

食べ物からいきなり学力の話に飛んだことで、未来は困惑したような表情を浮かべる。今まで交流する中で、彼女は天真爛漫という言葉を体現したような、勉強できないことがウィークポイントでないと思える程に、無邪気で明るい人物であることが理解できる。

普段の彼女からは想像できないような表情であり、とても新鮮に感じていた。

 

「勉強って……私、苦手だから……ね?」

「苦手だからって逃げないの!琴葉さんとか紗代子さんを見習って!学校とアイドル両立してるでしょう」

「でもわかんないんだもん〜〜!!」

 

駄々をこね始める未来に、琴葉が近づいて話しかける。幸哉もそこから一歩引いて立った。

 

「未来、勉強ならいくらでも教えるから。一緒にがんばろうね」

「うぅ~……」

「大丈夫?勉強苦手なんだ?」

「うん……」

 

質問するも、明らかに元気のない回答が帰ってくる。その態度からもまるで萎れた植物を思わせる。そのまま放置するわけにもいかない。メンバーが未来に声をかける。

 

「勉強だけできればいいってもんじゃないからさ!元気出しなって!」

「未来のいいところ、私たちたくさん知ってるからね!」

「みんなが未来の味方だからね」

 

「ふぇ……?」

 

励ましの言葉を受けた未来の表情がだんだん明るさを取り戻していった。そこに幸哉がとどめの一言を投下した。

 

「未来に暗い顔は似合わないと思うんだ。だから……一緒に前を向こう」

「優希ちゃん……うん!そうだよね!ところで……」

 

「今、何の話してたっけ?」

 

その場にいた全員がずっこける。

それもそのはず、食べ物から学力の話にいきなり飛ばされれば何の話になったかわからなくなるのも理解できる。

 

「『好きな食べ物』がテーマだったよね!?」

「でへへ〜、そうだった」

「優希さん」

「桃子?」

「今、ライブ中だよ?時間なくなっちゃうよ。あとファンの人たちを置いていっちゃダメ」

「「あっ……」」

 

客席に目をやると、ファンが笑っていた。目の前で繰り広げられる漫才に笑いをこらえきれない様子で、ちらほら笑い声が漏れ出ている。

 

「ごめんなさい、脱線しちゃって」

 

幸哉が観客に向けて謝罪を述べた。それに対して人々は「気にしないで」「がんばれ」といった声援を贈る。

 

「ありがとうございます!時間ないのでどんどん聞いていきますね」

 

感謝の言葉を述べ、手に持ったマイクを他のメンバーに向け始めた。

―――

「姉さん……本当に優希ちゃんが『あの子』なの?」

「さっきから言ってるじゃない。でも……」

「でも?」

「あんなに大人しかったのに、さっきからの立ち回り、堂々としてたわね」

―――

「なるほど〜!あの人がプロデューサーの言ってた新人なんだね」

「たこ焼き……会う機会があれば共に食べたいものです」

「……あふぅ」

美希(みき)〜〜!寝ちゃダメだぞ〜〜!!」

 

「ふふっ♪みんなとっても楽しそう」

「そうね。ステージから元気があふれて来るのが見えるわ」

千早(ちはや)ちゃん、嬉しそうだね」

「……仲間が増えるのは、喜ばしいことだと思うの。春香、次が始まるわよ」

「あっ、そうだね!しっかり見ておかないと!」

―――

 

場所は変わって舞台裏。そこではアイドルたち以外にも、スタッフが忙しく動き回っている。そんな人々の中でプロデューサー陣とアイドルが会話を交わしていた。

机に備え付けられたモニターでライブの様子を観察できるようになっており、皆の目はそちらに向いている。

 

「すごい……」

「みんな練習してきてるんだ。その成果を発揮できてるな」

 

出番の終わった者やこれから出番の者は休憩を取りながらも、仲間たちのステージをまじまじと見ていた。今回はバックダンサーに徹していた幸哉も、休憩がてら持って来た水を飲んでいた。

現在はステージで琴葉が自らのソロを歌唱している最中である。

その歌声を聞きながら、慶一が話を始めた。

 

「優希、今日は初めてのステージなのに堂々としてたな」

「ありがとうございます。何を話せばいいかわからないなりに頑張ってみました」

「それでも場を回せるのはすごいことだ。自信持てよ」

「……はい!」

「それで、皆はどう思ってるの?優希ちゃんのこと」

 

今度は優愛が話を振る。それに対してアイドルたちがそれぞれ自分の意見を述べ始めた。

 

「はい!優希ちゃんが励ましてくれたおかげで次も頑張れそうです!」

「最初のステージで、あんなに緊張してたのに……すごいとは、思いますけど」

「す〜っごく楽しそうでした♪わたし、優希ちゃんと一緒ならがんばれそうかも!」

「上出来だったと思うよ」

「すごかったよ〜!私も負けてられないっ!」

「いい感じだったじゃん!これからもがんばろうね!」

 

といった具合に、口々に褒め称える。その言葉に思わず胸が熱くなった。自分はこれまで悪意の中で暴言、非難を浴びて暮らしてきた。

だが今は違う。

 

目の前には自分を賞賛してくれる仲間がいる。

その信頼に報いるだけだ。

 

そう心に刻み、仲間たちに向き直る。

 

「みんな、ありがとう。これからもよろしくね」

 

嘘偽りない感謝を口にした。その言葉に、皆の表情が明るくなった。

ステージを見ていた慶一も頷いて、ライブの予定が口を頭で伝達する。

 

「いい雰囲気だ。みんながまとまってる。……というわけで公演もラストだ。準備できてるか?」

 

 

「「はい!」」

 

「最後は優希にも歌ってもらうぞ」

「……えっ?それはどういう……?」

「ライブの最後は出演者全員で歌うことになってる。フィナーレって一番大事なとこだからな」

「とは言われても……」

 

そこにソロを終えた琴葉がやって来た。何か言いたいことがある様子だった。

こちらに一歩近づく。

 

「歌うのが苦手なの?」

「そういうわけじゃないんです。下手で笑われないかなって」

 

レッスンは積んだものの、まだ心に迷いがある様子を見たのか、静香が話しかけてくる。

 

「上手い下手じゃなくて、見ている人の心に響くかが大事なのよ」

「心に、響く……?」

「そう。伝えたい思いを音楽に乗せて届けるの」

 

歌織が横に立つ。そこに紬も加わる。

 

「大丈夫です。今永さんの思いは、きっと伝わるはずですから」

「紬さん……」

「みんなの思い、伝えに行こうね」

「琴葉さん……はい!」

 

微笑む表情を見て、心にだんだん安定を取り戻しつつある。

そこに未来がやって来た。

 

「優希ちゃんが頑張ってたの、みんな知ってるよ。だから大丈夫!」

「未来……そうだね!」

 

励ましの言葉に、嬉しさを感じた。頬をパチンと叩き、気合を入れる。

 

「みんなの思い、伝えに行きましょう!さぁ、行こうか!!」

「「おーっ!!」」

 

幸哉の号令に、皆が声をあげる。

かくして一行は、人々の待つステージへとあがった。

 

―――

 

「ちょっといい?」

「どうしたの?」

 

ステージにあがる直前、幸哉は皆に言いたいことがあるとばかりにアイドルたちを引き止める。

 

「ここまできてみんなに言いたいことがあるんだ。

 

 

最後の挨拶、やらせてほしい」

「そうなんだ〜。でもなんで?」

「今日は私にとっての初めてのステージだから、自分でやってみたいって思ったんだ。だから……お願いします」

 

頭を下げる。

 

「いいよ!最後は優希ちゃんに任せようって思ってたんだ」

「そこまで言うならやらせてあげようよ!」

「ふーん、そうなんだ、だったら任せちゃおうかな」

 

賛同の声を得てマイクを受け取り、ステージの中央に立った。

 

「今日の公演、これが最後の曲になります。でも、私たちの物語はこれからも続きます」

「今までも、これからもファンの皆さんに夢を届ける。そのために歌います!聴いてください!」

 

「『UNION!!』」

 

タイトルコールと同時に、イントロが流れ始める。アイドルたちも動き始めた。

 

『Castle of Dreams 夢見る劇場(ばしょ)

『"なりたい"にワガママな 私じゃなきゃ』

 

『Tulle like a Wing ぴゅあっと広げ』

『"カワイイ"の最先端 魅せつけちゃおう』

 

このステージでは、自分が主役だ。

もっと僕を見て欲しい。

 

胸に秘めたその想いを解き放つ。

希望の翼を広げるように

『本気の夢だから ぶつかりあうこともある』

『不器用につないだ絆が(強さ)』

 

『ひとりじゃ 届かない ひとりも 手放さない』

『叶えたい景色があるから!』

 

歌詞の通り、一人ではステージからの景色を見ることもファンの歓声を浴びることも出来なかった。そもそも、誰かが助けてくれなかったら自分は絶望と孤独の中でひっそり命を絶っていたし、アイドルたちと出会わなければ立ち直ることも難しかっただろう。歌った歌詞が一層心に染み渡る。

サビ前の皆の掛け声が重なった。

 

「1・2・3・レッツゴー!!」

 

今この瞬間(とき)、劇場は一つになった。

ステージへと声援を贈るファン、それを受けて一層輝くアイドル。アイドルを支える裏方の人々。

三つの思いが重なり合って、歓喜がステージへ、観客席へ、そして劇場全体へと広がっていった。

 

今を全力で楽しむため、腕を振り、体を動かし、声を張り上げる。

 

『流した汗と涙が"ひゃくまんパワー”』

『アコガレだって超えられる』

『この歌声が UNION!!』

 

「ありがとう!!」

 

腕を突き上げ、感謝の言葉を叫ぶ。

劇場のボルテージは、最高潮に達した。

 

 

『ひとりじゃ 届かない ひとりも 手放さない』

『行こう We are all MILLION!!』

 

「「わぁぁぁぁぁ!!」」

 

曲のアウトロが流れ、終わりを告げる。

ステージと観客席、両方に響くほどの大歓声。

それらを聞きながら、手を振って応える。

 

「聴いてくださってありがとうございますっ!!」

 

精一杯の声で感謝を伝えると客席から

 

「アンコール!アンコール!」

「こちらこそありがとう!」

 

声援が響いて来た。

その声を聞いて、幸哉は応える。

 

「ありがとうございます。アンコール、いきましょう!」

 

再び観客が大いに盛り上がる。

その熱を冷ますまいと、マイクを握り直した。

それは他のアイドルたちも一緒だったようで、やる気に満ち溢れた表情をしている。

周りの雰囲気を感じ取って、観客に高らかに宣言した。

 

「みなさんの期待に応えてもう一曲、歌います!」

 

観客席は再びの盛り上がりを見せたのであった。

 

―――

 

アンコールを終えて歓声が鳴り止まぬ中で、アイドルたち一行はステージから去っていった。

舞台裏にたどり着くと、慶一と優愛が待っていた。

 

「みんなお疲れ様!最後の優希ちゃんの活躍、すごく良かったよ!」

 

優愛が褒め称えると幸哉は恥ずかしそうに俯いていた。

 

「ありがとうございます。会場の人達が盛り上がってくれてよかったです」

「最初とは思えないほど、皆を引っ張ってたな。お疲れさん」

 

慶一に褒められて謙遜したようなセリフを吐くと、恵美が横から飛び出し、幸哉の頭を撫でる。

 

「にゃはは♪そんな謙虚にならなくていいのに」

「いや、皆の協力あってこそですよ。一人の手柄じゃないです」

「あれ?なんか髪の毛……」

「いや、気のせいです!」

 

ウィッグを触られ、慌てて頭を引っ込めた。

今バレてしまっては今後が怖い。そう考えていると百合子が近寄って来た。

 

「優希ちゃん、すごくかっこよかった……」

「ありがとう。皆がついて来てくれたおかげだよ」

 

次に翼と静香が話しかけて来る。

 

「最後、よかったわ。これからも頑張りましょうね」

「楽しかった?私は楽しかったよ♪」

「二人ともありがとう。次も楽しみになってきたよ」

 

最後にやって来たのは未来だった。

 

「優希ちゃ〜ん!!」

「わっ!」

 

幸哉に近づいて、ぎゅっと体を抱きしめた。

ライブの後だからなのか、未来の体はほのかに温かい。

 

「ほんとにすごかったよ~!!また一緒に頑張ろうね!」

「ちょ、ちょっ……わかったから離して欲しいな……」

「あっ、ごめんね……」

 

ぱっと体を離して、互いの目を合わせる。

 

「最後のありがとう、すっごく良かったよ!私、ほんとにびっくりしちゃった」

「ありがとう。みんなに負けてられなかったし……」

 

「こんな僕でも、ファンの人達を喜ばせることができて、嬉しかったなって……」

「ん、僕?」

 

 

「……やっぱり、そういうことだったんだね」

 

そこまで言ったところで急に桃子が口を挟んできた。皆の注目が彼女に集まる。

 

「桃子ちゃん?何か気になることでも……」

「あるよ。優希さん、何か隠し事してるんじゃない?」

 

「―!」

 

そうだった。ライブの高揚感で忘れていたが、現在進行形で彼女たちを騙すかのように765プロに加入しているのである。

その化けの皮が、剝がされそうになっている。

 

「なんで……、そんなことが……」

「そんなことって何?何かやましいことでもあるの?」

 

一瞬にして崖っぷちまで追い詰められるような感覚。

桃子の小さな体から放たれる威圧にも似たオーラが、その場を覆いつくす。

鳥肌が立ち、頭が痛みを訴えはじめる。

 

「でも、優希ちゃんは何も悪いことなんてしてないよ!桃子ちゃん、なんでそう言えるの?」

 

百合子の声を無視するかのように、桃子が幸哉を見る。

 

「まずさっき、優希さんは自分のことを『僕』って言ったでしょ。それでしゃべり方もどこかで聞いたことがあるような気がするけど?」

 

女装で姿をごまかせても、声まではそうはいかない。

おそらくその穴を突いてきたのだろう。

 

「それは……」

「後、みんなが着替えるときにひとりだけどこかに行っちゃうよね?」

「ああ……!!」

 

切り崩すかのような桃子の尋問に、この場にいたメンバーは何も言えなかった。

ただし、一人を除いては。

 

「やめろよ。優希が困ってるじゃないか。疲れてるみたいだし……」

「お兄ちゃんとじゃなくて、優希さんと話してるんだけど?」

「ぐっ……」

 

ぴしゃりと拒絶するかのような言い回しに、慶一が何かを言おうとするも黙り込んでしまった。

 

「あと、恵美さんが頭をなでてきたとき、急によけたでしょ?」

「……」

「確かに優希の髪の毛、なんか変な感じだったね。作り物っていうか……」

 

もう何も言えない。ただ黙って聞くことしかできなかった。

 

「それでね、わかったかもしれないんだ。優希さん、

 

 

実は男の人でしょ?」

 

「わぁ……あ……」

 

完全に追い詰められる。もうどうすればいいのかわからない。取り敢えず謝ろうと口を開いた。

 

「ごめん、なさ……」

 

そこまで言おうとしたところで、何かがぷっつりと切れた。

体がぐらりと揺れる。そして意識が闇に落ちる。目の前が真っ暗になった。

 

「おい、どうしたんだよ……」

「優希ちゃん!!」

 

慶一がすんでのところで体を支えるも、反応がない。

必死に呼ぶ声が、届くことはなかった。




2週間もお待たせしてしまい、申し訳ありません。このお話は前後編で一つなので、同時に投稿する予定です。

後、1章の序盤(1〜2話)辺りを加筆修正致しました。
時間がある方は、もう一度読んでいただければ幸いです。
それでは次回のお話も、楽しみにお待ち下さい!
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