君と奏でる幸せの音   作:賀茂川泰伸

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この物語も20話を数えるほどになりました。
今回のお話から、作品のタイトルを変更させていただきますが、まだまだ物語は続いていくつもりですので、皆様どうかお付き合いください。
今回、2話分を1話にまとめたぐらいの長さです。
それでは第20話をどうぞ!


第20話 懺悔、そして和解

「幸哉くんが……なんでここに?」

 

部屋の中にいた未来をはじめとしたアイドルたちは、皆怪訝そうな表情をしていた。

それもその筈。今日集まったメンバーは「優希」に関して話があるわけで集められた。

しかしながら、出てきたのは「幸哉」であった。困惑するのも無理はない。

部屋の中のメンバーは未来、静香、翼、桃子、恵美、海美、百合子に琴葉や紬といった公演で一緒になった面々が揃っている。

 

「今日は優希さんの話をするんでしょ?なんで幸哉さんが出てくるの?」

 

桃子が問うてくるのを聞き、慶一が待ってくれとばかりに制止して、席に座らせる。

幸哉たちもそれに倣い、着席した。

 

「……」

 

一昨日まで一緒にいたメンバーがまるで別の人間に見えてしまう。それほどまでにこの場の雰囲気は異常ともいえた。

周囲の目が、自分に注がれる。

裁判に出廷した被告人の気分になりながらも、顔を上げて前を向く。

皆一様に「なぜここに?」といった表情を浮かべる中、慶一が話を始めた。

 

「今日集まってもらったのは優希の件についてだ。まずは俺からだけど、本当にみんな、すまなかった」

 

慶一が未来たちに頭を下げる。それを見てこのみが口を開いた。

 

「相河くんもそうだけど、幸哉くん。彼からも伝えたいことがあるみたいよ。どうぞ」

 

発言を引き継ぎ、歌織も未来たちの方を向く。

 

「今から彼が話すのは本当の話なの。だから聞いてあげてね」

 

二人の発言の後に、幸哉は重い口を開けて、言葉を紡いだ。

 

「一昨日は本当にごめんなさい。皆に迷惑をかけてしまいました」

「優希の正体は、僕です」

 

短く、簡潔に事実を伝える。すると場が一瞬にしてざわつき始めた。

 

「優希ちゃんが……幸哉くんってこと?」

「えっ?どういうこと?ドッキリじゃないよね?」

「冗談……だよね?優希ちゃんはどこにいるの?」

「今永さんが……男性……」

 

皆が困惑したように口を開くが、律子がばっさりと言い切る。

 

「一昨日の公演、あなたたちの側でパフォーマンスしてたのは間違い無く彼……幸哉よ」

「いきなりで飲み込めないかもしれないけど、そういうことなの」

 

歌織のセリフに皆が再びざわめき始める。

 

「だから私たちのことも最初から知ってたんだ……」

「でも……どうしてこんなことに……」

 

次の瞬間、静香が声をあげた。

 

「もしそれが本当だったら……私たちに隠し事をしてたってことですよね。どう説明するつもりなんですか!?」

「―っ!!」

 

大声に体がびくりと震える。

静香を除く周りの面々の視線が幸哉へと集まった。

 

「僕が説明するよ……だからみんなもしっかり聞いて欲しい」

 

そう言って未来達へと向き直り、

 

「初めてライブを見に行った後、学校から帰ってる途中、僕の目の前に霧生さんが来たんだ」

「それで、アイドルとしてスカウトされたってこと?」

 

琴葉の質問に首を縦に振り、訥々と語りを続ける。

 

「それで事務所で話をして言われたんだ。『アイドルになれ』って」

 

皆が話を黙って聞いている。その中で海美が首を傾げていた。

 

「でもいつから女の子になったの?幸哉って男の子だよね?」

 

頓珍漢な質問が飛ぶ。どうやら性転換でもしていると思ったらしい。一瞬苦笑しつつもすぐに沈んだ顔で話を進める。

 

「そもそも、765プロ(ここ)は女の人しかいない事務所だから、入ったら気まずいなって思った。そんな時に音無さんが言ったんだ」

「『男の子でアイドルするのに気が引けるなら女の子の格好をすればいいのよ!』って」

「えぇ!?」

 

皆が驚きの声をあげる。相当に衝撃を受けている様子だった。その後に律子がはぁとため息をつく。

 

「小鳥さんの仕業だったのね……全くあの人も……」

 

愚痴をこぼしたのを横に、翼が質問があるとばかりに挙手をした。

 

「質問していーい?」

「どうぞ」

「女の子の格好をしてたのはわかったけど、なんで言えなかったの?」

 

彼女の疑問も最もであり、指摘されるまでは皆に黙ってレッスンをしていた。そこは話の重要な争点になりうる。

 

「これは霧生さんが言ったことだけど、『正体を明かすな』って言われた。理由は僕のような人が入ると騒ぎになるってこと」

「二つ目に『別人になれ』と言われてた。正体を隠して活動しろって言われたんだ。僕の活動に反対する人がいるかもしれないって」

 

ひとしきり話した後、静香が険しさを含んだ表情をしていた。

腑に落ちないどころか、どこか怒りすら覚えているような様子だった。

 

「だからって、なぜ隠すようなマネをしたの!?」

 

怒りの形相で幸哉を見る。不信感を前面に出した表情だった。

 

「ごめんなさい……。選択を間違えて……みんなと仲良くなれたと思ったのに、裏切るようなことして……」

 

涙声になりながら次の言葉をひねり出そうとした次の瞬間、

 

「ねえ、さっきからふざけてるの?」

 

声が飛んできた。その声の主は桃子であり、先程までの発言を聞いていたのか、苛立ちを隠せない表情をしている。

 

「桃子……ふざけてなんかないだろ。真剣に謝ってることだし、許してやって……」

「ふざけてるのはお兄ちゃんもでしょ!?第一、優希さんをプロデュースしたのは誰なの!?」

「俺、だけど……」

「ほらやっぱり!お兄ちゃんも皆をだましてたってことだよね!?」

「……」

 

もはや何も言えなくなった慶一に対して桃子は追い撃ちをかけるように怒りの声をあげた。

 

「いいよ……!もう知らない!二人とも大っ嫌い!!」

 

そう言い切って、会議室の扉を開けてさっさと退出してしまった。

残ったメンバーは先程までの嵐のような一幕をただ呆然と見ることしかできずにいた。

 

「……ごめんなさい。僕のせいです」

 

ぽつりとこぼすのを聞いた未来が幸哉の方を見た。

 

「大丈夫?」

 

そう声をかけるも、俯いたまま反応がない。

するとその様子を見た静香がこちらに近づいて来る。

 

「ちょっといいかしら」

「……」

 

机に手をつかれ、静香の顔が間近に迫る。

 

「―っ」

「静香……!乱暴は……」

 

慶一が慌てて止めに入るも、

 

「プロデューサーは黙ってください」

 

聞く耳を持たず、幸哉に迫る。そして、まっすぐに顔を見て言い放った。

 

「幸哉、あなたはなぜアイドルになろうとしたの?」

 

咎めるわけでもない、単純な質問だった。

 

「……あ、え……」

「いいから答えて」

 

金魚のように口を開け閉めして、呆然としていた。てっきり騙したことを怒っているのかと思っていたが、どうやら違うようだ。問いに対する回答を捻り出そうと、必死に頭を回す。

 

回答がまとまったのか、何とか口を開く。

 

「僕は……未来たちが羨ましかった」

「?」

「笑顔で、キラキラ輝いてて……そんな姿に憧れてた」

「もしもあの時、断ってたらあの舞台に立つことはできなくてもこんなことは起きなかったかもしれない……」

 

語り続ける顔には涙が一筋、うっすらと浮かんでいる。

 

「だけど、選択を間違えたせいで皆を困らせて迷惑をかけた……」

「ごめんなさい……全部、僕のせいだ……」

 

ただ涙を流しながら、嗚咽する。

その時、頭の上から声が響いた。

 

「謝らなくていいよ」

 

あぁ、もうここまできてしまったか。

謝っても許してもらえない状態であることを自覚しそうになる……

 

ことはなかった。その考えは次の言葉で一気に消え去るものとなった。

 

「だって、何も悪いことしてないよね?謝る必要ないよ!」

「え……」

 

そう言ったのは未来だった。しかし意図が読み取れず、呆けた声しか出ない。

彼女はその様子を気にも留めずに話を続ける。

 

「だって優希ちゃん……幸哉くんとのステージ、とーっても楽しかったもん!」

「……あ」

 

あまりにも素直な言葉に、思わず涙が止まる。

そう言ったのを皮切りにアイドルたちが続々と言葉を述べ始める。

 

「未来もそう言ってることだしさ!泣くのもうやめよ!」

「みんな怒ってるわけじゃないの。むしろ知ってる人が入って来て嬉しいなって思ってるから」

「わたしも賛成〜♪幸哉くんと一緒にアイドル活動できるの楽しみ!」

「一緒のステージに立つなんて……夢、なのかな……」

 

「僕は、ここにいてもいいのか……?」

「当然だよ!だって私たち『友達』だもん!」

 

未来がこの場にいるアイドルたちに呼びかけた。

 

「幸哉くんがアイドルになるのに賛成って人、手を挙げてくださいっ!」

 

その声を聞いた静香以外の全員が挙手をした。

この場にいるアイドル達皆が幸哉を受け入れようとしている。

未来が決断を渋って手を挙げなかった静香の方を見た。

 

「静香ちゃん!」

「な、何よ」

「お願いっ!」

 

上目遣いで懇願するように訴えかける。

おねだりに負け、幸哉の方を見て言った。

 

「うっ……わかったわよ。そこまで言うなら、入れてあげるわ」

 

「みんな、ありがとう。それと……僕を仲間に入れてください!!」

「いいよ!」

 

「最初からそのつもり!」

「一緒に頑張ろ〜っ!!」

「皆さんの意見であれば、断る理由はありません」

「これからもよろしくね。ふふっ♪」

 

感謝を述べ、仲間に入れて欲しいと懇願する。

皆の賛同を聞き、深々と頭を下げる。

横で見守っていた大人達が安堵したように息を吐いた。

 

「何とか和解できたみたいね」

「私たち、いる必要あったのかしら?」

「まあいいじゃない。終わりよければ……でしょ?」

 

和解が成立したところで慶一がこの場にいた全員へと頭を下げた。

 

「今回の件は知ってて黙ってた俺も責任がある。本当にごめんなさい!」

 

そう言って深々と頭を下げて、謝罪をした。そこに幸哉もフォローとして口添えする。

 

「謝っているので、許してあげてください。僕からもお願いします」

 

共に頭を下げて、許してほしいとお願いする。

責任を共に背負った二人故の義務だからだ。

 

「はいっ!でも今度から隠し事はしちゃダメですよ!」

 

未来がそう言うも、何故か紬と静香は不満そうな顔をしていた。

 

「そうですね。プロデューサーが隠し事してなかったらこうはならないんですから。いいですか?」

「今回はあなたに非があると思います。今永さんより先に謝っておくべきでしょう」

「うっ……そうだな」

 

二人に釘を刺される。気まずそうな雰囲気を見て恵美が言った。

 

「まあまあ一件落着、って感じだし二人ともあんまり責めないであげて!」

「恵美さんに免じて今回は許してあげますけど、次はしっかりしてくださいね」

「はい……」

 

尚も慶一は申し訳なさそうな顔をしていた。

 

―――

 

桃子は怒りのあまり部屋を飛び出していった。原因は「お兄ちゃん」と呼んでいる自分のプロデューサーにあった。十分な説明もなく、ただ「許してくれ」「責任は俺にある」などと言っていたからである。大した説明もできないことに、不信感とイライラが募る。

ただ椅子に座って何もすることがなく、足をぷらぷら動かしていると、目の前から声をかけられた。

 

 

「桃子ちゃん?こんなところでどうしたの?」

「……」

 

「ふうん、そういうことなんだ。プロデューサーさんと喧嘩しちゃったんだね」

「だって言い訳ばっかりするんだよ!?そんな人と話せるわけないでしょ」

「……」

 

「いつもお兄ちゃんってばミスはするし、桃子のフォローするの下手だし……あんな人いなくても……」

「桃子ちゃん。悪口みたいになってるから、ちょっとやめようね」

 

「でも……!」

 

「悪口を言ったら、自分の心が良くない方に行っちゃうよ」

「……」

「だったら、もう一回お話しない?」

「だけど……悪いのはお兄ちゃんなのに、今さらそんなのなんて……」

「でもね、何もしないっていうのはプロデューサーさんの方も苦しいんじゃないかな」

「え?」

「喧嘩してすれ違ったままだと相手も自分も苦しいだけになっちゃうよ」

「私がついてるから、プロデューサーさんと仲直りしてみない?」

「うん……わかった」

―――

 

和解を終えた後の会議室では、次にやるべきことが議題に上がっていた。

 

「とりあえず、桃子にも謝りに行かないと」

 

そう言ったのは幸哉であり、スマホを操作し始めた。

アプリから以前交換した桃子の連絡先を選び、電話をかける。

しばらくの間、コールの音が耳元で鳴ったが繋がらない。ついには「おかけになった電話をお繋ぎ出来ませんでした」という電子音声が響いた。

 

「ダメだ……拒否されてる」

 

電話での話を諦め、通話終了のマークをタップした。

スマホをポケットにしまい、椅子から立ち上がる。

 

「どこ行くの?」

「探して、直接話をしに行ってくる」

 

そう言って部屋を出ようとしたところ、律子が止めに入った。

 

「待って。どこにいるかわからないなら、分かれて探しましょう。せっかく大人数なんだから」

 

律子の言うことも一理ある。場所もわからずに探しても時間がかかる。ならば二手に分かれて探した方が良いともいえる。

 

「それじゃあ、俺は歌織さんたちと探してくる。幸哉は未来たちと一緒で頼んだ」

「はい。行ってきます」

 

 

 

慶一と別れて未来、静香、翼、百合子、恵美、紬と行動することになった。その道中では幸哉のことが話題に上がっていた。

 

「えぇ~っ!?紬さんって幸哉くんに会ったことがあるんですか!?」

「はい。先日、劇場の最寄り駅の改札でぶつかってしまいまして……」

「あの時は本当にすみませんでした。あと正体を隠してステージに立ってて……嫌、でしたよね」

 

 そう言うと紬がいいえとばかりに否定する。

 

「いいえ、こちらもあの時は道に迷っていました。怪我の心配をしてくださったこと、今も覚えています」

 

幸哉をちらと見て微笑みながら、言葉を続ける。

 

「それに、練習や本番の時であったり、先程謝罪している今永さんは真剣そのものでした。そのような人を責めることなんてできません。誠実に説明すれば、きっと周防さんも分かってくださると思います」

 

大いに称賛する紬を見て、先程の慶一に対する態度とは全く違って見えた。所作や言葉遣いから伺えるように、本来は優しい人物なのだろうとわかる。

 

「ですから、背負い込む必要はありません。もう私たちの仲間なのですから」

「ありがとうございます……本当に嬉しいです」

 

紬がどういたしまして、とお礼の言葉を返す。

また一つ、親交が深まった瞬間だった。

 

 

今度は百合子の方を見る。

顔が朱に染まっているし、もじもじして目を合わせたりしなかったりと落ち着きがない。

 

「優希ちゃんが、幸哉くん……なんだよね」

「うん……そうだけど。どうしたの?さっきから真っ赤になってるけど」

「ううん、何でもないの。気にしないで」

「さっきから百合子の様子がちょっとおかしいというか……」

「えぇ~、わかんないの?恵美さん、教えてあげてくださいよ~」

「うっ……」

 

翼に指摘され、言葉を詰まらせてしまう。恵美が幸哉を見て言った。

 

「もしかして、目の前でヒーローとか運命の人って告白しちゃったからじゃない?」

「あっ……」

 

舞台での練習を終えた時、百合子が自分のことをとてもうっとりした表情で語っていたのを思い出した。

あの時の百合子はまるで恋する乙女のような、相手に想いを寄せているような顔だったこと。

今更ながら恥ずかしさがよみがえり、頬をかきながらよその方を見る。

 

「ごめん。こんなのがヒーローで。幻滅した?」

「うぇ!?ううん!そんなことないよ!?こっちも言い過ぎたかも!?」

 

百合子の顔がさらに赤く染まり、幸哉もまた同じく羞恥で頬が赤くなる。

互いに謎のやり取りをしていると、静香が突っ込みを入れる。

 

「何してるのよ」

「いや……何してたんだろう、今の……?」

「はぁ……」

 

どこかずれたようなやり取りを繰り返し会話を続けていると、目の前できょろきょろと何かを探している女の子が二人いた。二人組に向かって百合子が声をかける。

 

「育ちゃん、環ちゃん!私たち、桃子ちゃんを探しているんだけど……どこ行ったか知らない?」

「百合子さんたちもさがしてたんだね!あれ、そこの男の人はだれ?」

「たまきも探してるんだ~!なんか見たことない人がいるぞ?」

 

育、環と呼ばれた二人も桃子を探していたようだ。そして幸哉を見てきょとんとした表情している。男性を見かけることなんてあまり無さそうな場所である。強いて言えば男性社員と顔を合わせるくらいか。

 

自ら名乗り出て、自分の素性を伝える。それを聞いた二人はとても驚いた表情をしている。

女装でアイドルをすること、もとい男性の加入は765プロでは初めてゆえに驚きを隠せないようだ。

 

「優希ちゃん……じゃなくて幸哉さんがアイドルってことなの!?」

「そうだよ。これから一緒のステージに立つことになるかもだから、よろしくね」

 

黒髪を日本人形のように肩口で切った女の子がびっくりしながら話を聞いている。幸哉の顔を見て名乗った。

 

「わたし、中谷育(なかたにいく)。10才だよ!これからよろしくね」

 

育がぺこりと頭を下げると、彼女の隣に立つ橙色の髪を背中まで伸ばした勝ち気そうな少女も自己紹介を始めた。

 

大神環(おおがみたまき)だぞ!ゆきや、今度一緒に遊ぼ!」

「よろしくね。育、環」

「うん!」

「よろしくね!」

―――

 

「桃子がどこ行ったか分からなくて。二人とも知ってることがあったら教えてくれないかな」

 

幸哉が二人に問いかける。彼女たちなら桃子の行方について知っているはずだと踏んでいるからである。

育が最初に質問に答えた。

 

「えっとね、さっき桃子ちゃんとお話しようって思ってたんだけど……なんかすっごく怒ってたよ」

「なるほど」

「それでたまきも話を聞きたいっていったら『2人には関係ない!』って言ってどっか行っちゃったんだ~」

「……」

 

親しそうな二人にも告げずにいなくなったことになる。謎が深まるばかりで考え込んでいると環が尋ねてきた。

 

「なんでゆきやたちってももこを探してるんだ?」

 

その疑問には静香が答える。

 

「幸哉の件で問題があって途中で抜け出していったのよ。この人が直接話をするって言うから探しているの」

「騒がせたのは僕だから、直接顔を見て謝りたいんだ」

 

その目は真剣そのものだった。嘘偽りを伝えず、本当のことだけを簡潔に分かりやすく伝える。

そんな幸哉を見て、育が口を開いた。

 

「だったらわたしたちも一緒に探すよ!」

「いいの?」

「桃子ちゃんに謝るの、協力するね」

「たまきも!けんかしたままなんてイヤだぞ〜!」

「二人とも……ありがとう」

「それじゃいっくぞ〜!!」

 

お礼を述べた途端、環がビュンと駆け出していった。

 

「環!廊下は走っちゃダメだよ!」

 

恵美が走り出す環を止めに入り、2人を加えた9人での捜索が始まった。

 

―――

 

捜索を続けてしばらく経った時のこと。

 

「ダメだ……見つからない」

「ほんとにどこ行ったんだろ……」

 

それもそのはず、劇場はとても広くレッスンルームや給湯室、果ては舞台といった無数の部屋が存在する。

9人で手分けしてもカバーしきれないほどの広さを誇っており、捜索は困難をきわめていた。もう一方の大人たちのグループからも発見の報せはない。

あの時、怒らせることを言わなければ、と後悔が頭をよぎったその時であった。

 

「―」

 

微かではあるが、声が聞こえる。

その声を聞くべく、耳を澄まして聞こうとする。

女の子2人が、話し込むのが少しながら耳に入った。

 

「わかった……こっちだ!」

「えっ?何!?」

 

突如動き出した幸哉を見て止めに入るも、聞かずに発生源と踏んだ部屋の扉をノックする。

慌てたようにどうぞという声が聞こえ、失礼しますと返して扉を開けた。

 

「見つけた……!」

「幸哉さん……?」

 

部屋にいたのは目的の人物、桃子と髪の両端にリボンをつけた少女がいた。

 

「えっと……どうしたの?」

 

呆気にとられるリボン少女を無視して桃子の前に立っていった。

桃子は段ボールをどこからか持って来て、踏み台にして目線を幸哉と合わせる。

 

「なに?桃子、怒ってるんだけど」

「それを話しに来たんだ!」

 

息を吸い込み、吐いて頭を下げた。

 

「今回のことは僕の説明不足だった。本当にごめんなさい!」

 

一瞬、桃子が驚いた表情を見せるがまた不機嫌な態度に戻る。

 

「だから何?怒ってるって言ってるでしょ」

「僕は謝りに……」

 

そう言った途端、部屋の扉が開いた。

 

「桃子ちゃん!」

 

「育……」

 

入って来たのは育を先頭にアイドル8人がやって来たのである。

育が最初に口を開いた。

 

「幸哉さんはもうみんなにあやまったよ。だから、桃子ちゃんも許してあげて!」

「え……」

 

呆気にとられる桃子を見て、後ろの未来たちが彼女を見据えて言った。

 

「お願い桃子ちゃん!」

「本当に仲直りしたいって言ってるから、聞いてあげて」

「この通り!マジだからっ!」

「仲直りしたいよ〜!」

「周防さん……どうか話を……」

 

異口同音に懇願する。

願いを受けた桃子は一瞬困った表情になると、しおらしい表情になった。

 

「わかったよ……桃子、言い過ぎちゃったかも。ごめんなさい」

「こっちこそ、説明が上手くできなくて……ごめんね」

「仲直りできたみたいだね。よかった……」

 

両者の和解を見守ったリボン少女が微笑む。彼女を見た未来が彼女に挨拶した。

 

「春香さん、こんにちは!」

「未来ちゃん!桃子ちゃんとお話してたの。そっちの男の子は……」

「?」

「あっ!」

 

春香と呼ばれた少女が幸哉に気づく。

 

「きみは……幸哉くん、だよね?」

「なんで僕の名前を……」

 

面識もないのに、いきなり名前で呼んだ。

戸惑いを隠せないでいると翼が春香に尋ねる。

 

「幸哉くんに会ったことがあるんですか?」

「うん、あるよ」

 

そう言われても記憶にない。

そんな様子を見て、春香がさらに続ける。

 

「ライブ、()()()()()()よね?」

 

聞いた途端、一気に記憶が蘇る。

初めて行ったライブで彼女に似た女性がいた事を。隣でアイドルのステージを見届けたこと、それら全ての記憶と目の前の春香の話が繋がった。

半信半疑ながら、春香に尋ねた。

 

「もしかして……ハルさん!?」

「正解!」

 

やはりそうだった。目の前の人間は以前出会った女性ー天野ハルであることがわかる。

 

「ハルさん?」

 

未来が首を傾げる。それを見て春香が説明した。

 

「一緒にライブを見たとき、私はプライベートだったから……違う名前を言ったの」

 

納得の理由である。アイドルとバレたくないから偽名を名乗ったのだろう。

幸哉に向き直って自己紹介を始めた。

 

「もう一回名前言うね。天野ハル……改め天海春香(あまみはるか)です!」

 

幸哉も頭を下げて挨拶する。

 

「春香さんもアイドルなんですね。よろしくお願いします」

 

挨拶を受けた春香は、何故かこんなことを言い出した。 

 

「うん。優希ちゃん、よろしくね!」

「なんでわかったんですか!?」

「今のでピンときたの。ああ、優希ちゃんなんだなって」

 

春香は最初から判っていたようだ。自分がアイドルであったことを。

 

「ステージ見たけど、間違いなくアイドルだったよ。一緒に頑張ろうね」

「……はい!」

 

大先輩の言葉に胸が熱くなり、元気に返事をする。

横にいた桃子が忠告するような口調で言った。

 

「言っておくけど、桃子の方が芸能界じゃ先輩だから!ちゃんと言うこと聞いてね」

「そうなんだね。でもアイドルだったら春香さんが先輩かな?」

「それはそうだけど!」

 

二人の応酬が続いていると、連絡を受けたであろう慶一たちが遅れてやって来た。

見つかったことで歌織や律子といったメンバーが安堵の表情を見せる。

 

「桃子!やっと見つけた……」

「お兄ちゃん……」

 

相当探したのか、額に汗を浮かべている。

部屋に入るなり桃子に向かって頭を下げて謝罪した。

 

「さっきは本当にごめんな。説明不足で……」

 

桃子は先程と違う穏やかな表情を見せて慶一の方を見た。

 

「いいよ。でも、今度からしっかりしてね」

 

あっさりと失態を許し、謝罪を受け入れた。

釘を刺され、頭を掻いて慶一は俯いた。

 

「はは……参ったな」

「ほんとにもう……」

「ちょっといいですか?」

 

皆が和解を終えたところで幸哉がこの場にいる人々の前に立った。

 

「765プロの皆さん、これからよろしくお願いします!」

 

目の前のメンバーに挨拶をする。

突然の挨拶に驚いたような素振りを見せていたが、すぐに表情は明るくなった。

 

「ああ、そうだな。幸哉は俺たちの仲間だ。これから一緒に頑張ろう!」

「アイドルのこと、色々教えるね」

「やったぁ~!これから幸哉くんと一緒にアイドルできるんだーっ!」

 

喜んでいる皆を見て、聞こえない程度にぽつりと呟く。

 

「みんな、ありがとう」

「どうしたの?」

「いいや、何でもないよ」

「だったらよかった!」

「連絡先、交換しましょうか」

「そうですね。お願いします」

 

皆が幸哉を歓迎している。

部屋の中は今も、笑顔と温かい雰囲気に満ち溢れていた。

 




というわけで第20話でした。
「そもそも紬っていつ出た?」と疑問に思われるかもしれませんが、実は第4話から名前を出さない形で登場してたり、12話のライブ回で正式に名前が上がったりしています。
第4話の場合、急いで劇場へ向かうという背景もあり互いを知らない状態となっていたわけです。
感想、評価等お待ちしています。
それでは次回のお話も楽しみに待っていてください!

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