君と奏でる幸せの音   作:賀茂川泰伸

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本当に長い間お待たせしてしまい申し訳ございません。
短編集と並行して編集行っているのでそちらもよろしくお願いします。
さらっと横山兄の名前明かされてるのめっちゃ驚きです。
アイドルの家族に関する話は短編集で書こうと思っています。
それでは第21話をどうぞ!

追記 UA3000越え、ありがとうございます。これほどの回数見て下さったこと、誠に感謝申し上げます。


第21話 深まる親睦

未来たちに謝罪を終えた翌日の水曜日。

何事もなく授業を消化し終えて放課後となった。

帰宅して図書室から借りた本を自室で読んでいると、スマホからポン、と音が鳴った。誰からの連絡か、と画面を見ると差出人は春香からであった。内容を確認するためアプリを開く。

 

『今週の土曜日の夕方、予定が空いてたら劇場まで来てください』

 

画面にはこう表示されていた。

アイドルになってから日が浅いため、まだ仕事もない状態である。

ただ家で過ごすのも暇なため、「わかりました」と返事をして画面を閉じた。

 

 

〜〜〜

 

三日後の土曜日の夕方となり、早速劇場へと向かう準備をして家を飛び出し、何度も通ったルートで劇場に到着する。

道中、なぜ呼んだかの質問をメッセージで送ると、すぐに返事が返ってきた。

 

『来るまでの秘密だよ』

 

 

玄関の大扉を開けると、そこには人の影すら見えなかった。まさか騙されたのか、と不安になりながら歩を進める。親切な765プロの人々がそんなことするはずない、と人に会えないか無人の廊下を進む、その最中だった。

 

「あ~っ!もしかしてゆっきー?」

「?」

 

「ゆっきー」などとあだ名で呼ぶような人物は自分の近くにいない。一体誰なんだ、と振り向いた。

 

「や〜っと見つけたよ!亜美たちに会えるなんてラッキーだね!」

「んっふっふ〜。せくちーでぷりちーな真美たちに気づくとは頭が高いね〜!」

「は?」

 

振り向くと目の前には同じ顔の2人―おそらく双子の少女が立っていた。

「頭が高い」ではなく「お目が高い」ではないのか……間違いを突っ込む気にもなれず、目の前の双子を呆然と見ていた。

 

「まさか……亜美と真美?」

 

何気なく発した言葉。その言葉に双子が驚いたような声をあげた。

 

「うぁっ!?なんで真美たちの名前を……まさかスパイ!?」 

「クセモノじゃ〜っ!であえであえ〜っ!」

 

「スパイでもなんでもないわよ!何やってんのよあんたたち」

 

何故か騒ぎ立てる2人を見て、後ろから誰かが声を発した。

声の主は眼鏡に三つ編みの女性―律子だ。

 

「律っちゃん!?なんでいるの!?」

「2人が出迎えするっていうから任せたのに……全く、困ってるじゃない」

 

呆れたような顔を見せる律子に幸哉が話を振った。

 

「こんばんは、律子さん。この2人は……」

「あぁ、あなたを出迎えに来たのよ」

 

亜美と真美は尚も慌てたような顔をしていたが、やがて元のニヤリとした顔になった。

 

「じゃあさゆっきー、どっちが亜美で」

「どっちが真美か」

「「当ててみてよ!」」

 

いきなりの挑戦状を叩き付けられた。

同じ顔、同じ声、そして遺伝子もまるっきり同じである。

また珍しく似たような性格と来た。髪型を変えればまず気づかれることはないだろう。

それ程までに目の前の二人は見分けがつきづらい外見であった。

しかし、幸哉はその問いに対して迷いなく回答を出した。

 

「それじゃあ当てる。髪の毛を左側で木みたいに結んでる方が亜美で、右でさらっと垂らして結んでるのが真美。これでどうかな?」

 

双子―亜美と真美は暫く顔を見合せた後、幸哉を見て

 

「「せいかーいっ!」」

「やった!やっぱり合ってた!」

「すごいわねえ」

 

幸哉と亜美、真美がハイタッチし、律子が感心したように3人を見た。亜美が気になることでもあったのか、質問を幸哉にぶつける。

 

「でもさ、なんで亜美たちのこと知ってるの~?」

「最初から知ってたんだよ」

 

事も無げに答えてみせる。何しろ、入所するにあたってアイドルの顔と名前は全て覚えるようにしていたからだ。

その成果が、十分に出た場面と言える。

 

「だけどなんで僕を知ってるんだ?何も言ってないけど」

「はるるんから聞いたんだ~」

 

今度は幸哉から聞き返した。

はるるん、とは恐らく春香のことだろう。

 

「ほら、ちゃんと名乗ってないでしょ。自己紹介しないと」

 

律子が二人に自己紹介をするように促した。名前こそ知っているが、まだ名乗ってはいない。それを聞いた2人が早速名乗り始めた。

 

双海(ふたみ)姉妹のぷりちー担当!亜美(あみ)!」

「せくちー担当!真美(まみ)!」

「「2人合わせて!」」

 

ポーズを決め、そこまで言ったところで何故か黙り込んでしまった。額には焦りからか汗が浮かんでいる。

 

「いや、ないんだ!?」

「……」

「もっとこう、何か決め台詞とかは……」

 

黙り込んだ2人に突っ込みを入れると、困ったように2人は頭を抱えた。

 

「……うあうあ~!なあんにも思いつかなかったんだも~ん!!」

「どうしよ真美~!!こんなんじゃキマらないよ~!!」

「……はあ」

 

本当に何も思いつかなかったようだ。

困り果てた亜美と真美を見て、律子がため息をついた。

いつも2人の面倒に振り回されているのが表情からわかる。

気を取り直し、律子が2人の方を向いた。

 

「騒いでる場合じゃないわ。人を待たせてるのに……」

「待たせてる?誰をですか?」

「そりゃーゆっきーのかん」

「ストップ!これ以上言わないの」

 

口が滑りそうになる真美を律子が止める。亜美も思い出したように話を始める。

 

「そーそー。だって今日のことは秘密だって言ってたじゃんね!」

「というわけで、行こっかゆっきー!」

 

そう言うなり、2人は幸哉の手を引いて駆けだした。

おっかなびっくり手を握りながら2人に連れられる。人の手を握ったのは奈緒にされて以来か、久々の感覚だった。がっちり握らず、かといって離れない程度の強さで握りしめる。

2人はにししと歯を見せて笑う。

温かさが手を通じてこちらにも伝わってくるようだった。

 

 

手を引かれ、たどり着いたのは控室の前だった。

 

「さ、ここ開けてみて」

 

言われた通り、ドアノブに手をかけ扉を開く。

 

パン!パパン!

 

クラッカーの弾ける音に迎えられ、周りを見渡す。そこは未来や春香など見知った面々や、まだ知らぬアイドル達、慶一達プロデューサーの姿もあった。

ホワイトボードの歓迎のメッセージや色とりどりの装飾で部屋が彩られ、オードブルやサラダ、ドリンクなど料理がずらりと並んでいる。

幸哉以外の人間が声を揃えて言った。

 

「「ようこそ!765プロへ!!」」

 

ただ呆然と、目の前を見やる。何があったんだと考えていると春香がこちらに近づいてきた。

 

「え……何だ、これ?」

「そう!そのために呼んだの。忙しくて来れない子もいたけど……」

「んっふっふ~。今日はゆっきーの歓迎パーティーなのだ~!」

 

真美に誘導され、集まった人々の前に立った。人の集まりからアイドルに仕立て上げた張本人―霧生と慶一が顔を出した。

「こっち!今日はお前のためにみんな集まってくれたんだ」

「何を緊張しているんだ?パーティーの主役は君だろう。ほら、挨拶」

 

そう言われて、状況を理解したのか姿勢を正して参加者達の方向を向き、挨拶をはじめる。

 

「今永優希もとい幸哉、14歳です!これからお世話になります!アイドルとして頑張りますのでよろしくお願いします!」

 

主役としての挨拶を終えると、周りから大きな拍手が鳴り響いた。

そして、挨拶を催促した霧生が幸哉に紙コップを持たせ、オレンジジュースを注ぐ。注ぎ終わって皆の前に立ち口上を述べた。

 

「ということで、我が事務所に新たなスター候補が誕生した。皆で彼を歓迎してほしい!それでは……」

「「乾杯!!」」

 

乾杯の挨拶が終わり、アイドル達のもとへ向かった。

彼女達もまた、興味津々といった様子で近づいてくる。

早速近づいて、交流を始める。

 

「新人ってお前のことだったんだ……よろしくな!」

「ホンマにアイドルになったん!?これからも仲ようしてな♪」

 

昴と奈緒だった。親しい人が仲間になることを喜ばしく思っている様子だ。

 

「優希ちゃんがまさかの男の子……これはこれで(ハオ)ですっっ!!」

 

亜利沙が興奮した様子でいる。それに対して奈緒が嬉しそうな表情をしていた。

 

「せやろ~?可愛い顔してるからなるんちゃうかなって思っててん!」

「まーた適当なことを……」

 

横にいたのり子が苦笑していた。彼女のいい意味の適当さに振り回されていた。

 

「幸哉く〜ん!一緒にお話しましよ♪」

「莉緒さん!お久しぶりです!」

「ステージ見てたわよ!とってもキラキラしてたわ♪」

 

次に来たのは莉緒だった。ステージを見た、とは彼女もこのみから正体を聞かされたのだろう。もしかして、と思い質問した。

 

「僕の正体をばらしたの、鈴葉さんですよね?その人はどこに……」

「うん。あっちにいるわ」

 

莉緒が手で方向を指す。そこにはパーティーにはそぐわぬ落ち込んだ表情でピザを齧る彼女の姿があった。

 

「鈴葉さん」

「ん?」

「正体バラしました?」

 

質問を受け取った途端、しょぼぼくれ顔から急に泣きそうな顔になりながら答えた。

 

「バラした…、マジごめん……」

「ごねてばっかりで一向に口を割らなかったのよ。結局泣きながら『秘密にして』って土下座してきたの」

 

いつの間にか横にこのみがいた。やれやれといった顔で呆れている。

鈴葉の後ろから、近づく人影があった。

 

「プロデューサーさ〜ん?隠し事はよくないですよ〜?」

「い゛ぃぃぃぃ!!莉緒〜〜!」

「うふふ、しょうがないわねぇ」

 

正体は朋花だった。声こそ穏やかだが、目が笑っていない。鈴葉は威圧的オーラに悲鳴をあげ、すっかり萎縮して莉緒に助けを求めた。

その後、幸哉の方を向いてきた。

 

「おや、新しい人がいると聞いていましたが、あなただったんですね~。よろしくお願いします~」

「ええと、うん。よろしく、朋花……さん?」

「呼び捨てで大丈夫ですよ。私は15歳ですので~」

「へぇ、そう……って15!?一歳しか違ってないんだ!?」

「ふふ……面白い人ですね~」

「わ、私も15歳だよ!」

「あれ、そうだったんだ」

「ちょっと!?」

 

朋花がくすくす笑う。大人を恐れさせるほどの雰囲気を15歳が出しているという事実に驚きを隠せずにいた。

百合子が愕然としている。どうやら年上と思われていなかったようだ。

 

「茜ちゃんの唐揚げ勝手に取らないでよ〜〜!」

「ごめんね!おいしそうだったからつい♪」

「あの、もしかして茜さんと麗花さんですか?公演見に行きました」

 

外ハネ少女と意にも介さずニコニコ顔のストレートヘアの女性がおり、少女の方は唐揚げを取られたと騒いでいた。声に気づいたのか、2人が振り向いた。

 

「お!?嬉しいこと言ってくれるね~☆カワイイ茜ちゃんの魅力に気づいちゃったのかな!?」

「わ~カワイイ!ギュってしちゃうね♪」

 

 

麗花が満面の笑みで抱きついてきた。そういったことに抵抗のないあたり、未来や翼と同じタイプなのだろう。

茜はさっきの悲鳴をあげていた時とは違い、興奮した様子で表情も明るい。

 

「というわけで!茜ちゃんの魅力をわかってるゆきやんには特別に!茜ちゃんをナデナデする権利を差し上げま~す!!」

「え?」

「ほら早く早く!」

「……はい」

 

茜が近づいて頭を差し出してきた。

その頭に手を伸ばし、軽く触れる程度に撫でる。髪の毛のふわっとした感触を手に感じながら縦、横、斜めといった具合に手を動かす。

 

「ニャ~♪」

 

茜が楽しそうにして目を細めて喜ぶ。その様はまるで猫のようだった。人に甘えることが好きなのか、嫌な顔一つせずに撫でられていた。

 

「どうですか?」

「バ〜ッチリだよ!センスあるね☆」

 

ひとしきり撫でて茜に声をかける。そして快い返事が返って来る。どうやら満足してもらえたようだ。しかし、一瞬で茜がハッとした表情になって麗花を見た。

 

「麗花ちゃん?取ってないよね?」

「てへ♪」

「また取られた~!!」

 

〜〜〜

 

「あの!もしかしてあなたが幸哉さんですか?」

 

次に近づいて来たのは金髪をツインテールにした少女だった。喋りや所作に気品を感じる。彼女の横には星梨花がついていた。どことなく、彼女とも通じるものが見える。

 

「そうですよエミリーちゃん!幸哉さん、お久しぶりです!」

「久しぶり、星梨花。横にいる人はエミリーだね。知ってる」

「ありがとうございます!私、エミリー・スチュアートと申します。知っていただけて嬉しいです……♪」

 

何故か自分のことを知っているエミリー。その理由を問うてみることにした。

 

「まあ、さっき名乗ったり事前に知ってたっていうのもあるけど……何か知ってる事でもあった?」

 

質問するとエミリーが目を輝かせて言った。

 

「そうですね。幸哉さんはとても勇敢な人だとお聞きしています」

「それはどういう……」

「百合子さんたちを暴漢の手から救ったことが皆さんのお耳に入っていますよ」

「ああ……それね」

 

目の前のエミリーが羨望の眼差しでこちらを見ている。どうやら強い興味を持たれたようだ。

更に彼女は続ける。

 

「男性でありながら大和撫子の道を進まれること、とても素晴らしいと思っています!」

「えぇ!?って大和撫子?」

「エミリーちゃんはアイドルのことをこう言うんですよ」

 

星梨花が説明し、なんとなく理解する。会話の中にカタカナを出さないあたり、何かしらこだわりがあるのだろう。エミリーの話が続く。

 

「男性が女性の役割を演じることは日本ではよくあることなんです」

「どういうこと?」

「歌舞伎では女性を演じる人を女形(おやま)といって、専門の役者の方がいらっしゃいますよ」

「初めて知ったよ。ありがとう。日本文化に興味があるのかな」

 

そう言った瞬間、エミリーの目が更に輝いていた。

彼女にスイッチが入ったのか、話が加熱しはじめた。

落ち着いた態度とは打って変わって、言葉に力がこもっている。

 

「はい!日本文化は私にとって大切なものなんです!私が大和撫子を目指したのは……」

 

その後、彼女の熱弁が続き、少し時間が経つこととなった。

エミリーがはっと我に返った表情をして、急に謝罪をしたいのか、頭を下げてきた。

 

「Wow!すみません……。大声で話して引き留めて……はしたないです……」

 

しょんぼりした表情で所在なさげなエミリー。長話に付き合わせて申し訳ないと思ったのだろう。そんなことはないとばかりに幸哉が首を横に振る。

熱く語れるということは、それに対して並々ならぬ思いがあることの証拠だ。

 

「いいや、面白い話が聞けてよかったよ。それじゃあ他の人に挨拶してくるから」

「はい!エミリーちゃんのお話、とってもおもしろかったです!」

 

星梨花も元気に返事をした。仲の良さが伺える一幕だった。

 

~~~

「こっち来てや〜!」

 

星梨花、エミリーと別れて次に奈緒たちのいる方へ向かった。手を振ってこちらへおいでと招いている。そこには美奈子や海美、紗代子、そして薄紫の短髪の少女がいた。

 

「優希ちゃんが男の子だなんて……」

 

紗代子の驚きを見て、海美が興奮したように言った。

 

「でしょ〜!私もびっくりしちゃった!さよちんも仲良くしてあげてね!」

「よろしくお願いします。紗代子さん」

「うん、よろしくね!一緒に頑張ろう!」

「あの、自己紹介をしてもいいでしょうか」

「はい」

 

横にぽつりと立った少女が自己紹介を始めた。

 

真壁瑞希(まかべみずき)です。アイドルをしています。お会いできて光栄……だぞ」

 

瑞希の表情は全く動いていなかったが、言葉の端々から温かく歓迎する意図が読み取れる。

奈緒が瑞希の方を向いた。

 

「こないだからずっと会いたいって言ってんねん。な?」

「はい。ヒーローだとお聞きしました」

「え?」

「いやヒーローやんな?百合子と杏奈助けたし、アイドルに変身したし。そうやんな百合子?」

「えっと、それはそうですけど……」

「あ…、合って……ます」

 

 

「というかみんな幸哉が来る前から知ってるんやで」

「それはどういう……」

「私がやりました!」

 

ペロリと舌を出して答える奈緒。大体のことは彼女が伝達したと考えられる。

どう反応すればいいかわからず息をついていると、紙皿に大量の料理が盛られた。

 

「美奈子さん……」

「いーっぱい食べてね!みんなで作ったんだよ♪」

 

挨拶に気を取られて料理に手を付けていなかった。未だ交流のないアイドルもいたため、そちらを優先していたのである。

手をつけようとすると、ある疑問が浮かびそれを口に出した。

 

「ありがとうございます…、けどアイドルって食事制限とかあるんじゃ」

「気にせんでええから食べ!今日ぐらい別にええやろ」

「そうだよ!幸哉くんってものすごく痩せてるからもっと食べないと」

 

 

「……いただきます」

 

美奈子と奈緒の勧めを受けて食べ始め、皿に乗せたコロッケを噛みながら考える。

それにしても美奈子には人がどのように見えているのか。明らかに平均より痩せ気味の幸哉はまだしも、健康体の他のアイドル達にも容赦なく料理を盛っている。

 

「幸哉!これも食べて〜っ!」

「えっ……?何これ……?」

 

海美が突然、料理を差し出して来た。一見焼きそばのようだが、ソースや塩だれがかかった訳でもなく、麺がピンクに染まっている。

 

「私が作ったんだよ!名付けて『女子力焼きそば』!」

「あかーーーん!!それだけはやめて〜〜!」

 

奈緒が焼きそばを見た途端悲鳴をあげた。人が食べていいのかわからぬものに対して恐怖するのはわかる。差し出された幸哉も困惑の表情を浮かべる。

 

「食べ物か……これ……?」

「うん!おいしいよ!」

「んなわけないやろ!絶対ヤバいって!!」

 

奈緒のツッコミにを意にも介さぬ海美が笑顔になり、紗代子、美奈子が慌てて止めに入る。

 

「大丈夫?嫌だったら私たちで食べるから」

「無理しなくていいよ……」

「食べられるのでしょうか。どきどき」

 

傍観する瑞希。今ここで食べるべきか、せざるか。笑顔で期待している海美、食べるなとばかりに見る美奈子たち。

どうするか。人の作った物を拒否するのは失礼にあたる。

覚悟を決め、皿を受け取って一口麺を啜った。

 

「いただきます……」

 

麵を口に入れたその瞬間、

 

「ゔっ」

 

口の中、何かが弾けた。爆発に似ているそんな何かだった。

見事な刺激の花火(ファイアーフラワー)だ。

 

「早く!誰か飲み物持って来て!!」

 

紗代子が叫び、幸哉が苦痛とも刺激とも分からぬものに顔を歪めて焼きそばを食べ続けていた。

 

 

〜〜〜

 

なんとか女子力焼きそばを食べ終え、緑茶で流し込んで落ち着きを取り戻した。他のアイドルと交流し、美奈子が出した料理を食べていると未来たちがやって来た。

 

「パーティー、楽しんでる?」

「うん。楽しんでるよ。歓迎されてるみたいでよかった」

「それは何よりです……楽しんでいただけなかったらどうしようかと……」

「紬さ〜ん、パーティーですよ、リラックスリラックス♪」

「ふふ♪楽しまなきゃね紬ちゃん♪」

「そうですね…、伊吹さん、桜守さん、ありがとうございます」

 

 

不安がる紬を翼と歌織が宥める。かなり心配していたようだったが、すぐに柔らかい表情に戻った。

 

「皆で準備したんだよ。楽しんでくれてるみたいでよかった……」

「春香さんが計画したんですね。歓迎、ありがとうございます」

「どういたしまして!忙しくて来れない子たちもいるけど、挨拶してたね」

「はい。これから一緒に仕事するわけですから」

「ふふっ、これからよろしくね」

 

春香が微笑んだ。センターたる彼女が発起人となったから、今日のパーティーがあるのだろう。その心遣いに感謝を心の中で送っていると未来が春香に近づく。

 

「幸哉くんって実はプロデューサーさんの親戚なんですよ!」

「なるほど〜、だったら紹介されてアイドルになったのかな。親御さんにもいい報告ができそうだね」

 

その言葉を聞いた途端、幸哉が急に下を向いた。主役が静かになったことで流石に場がざわつき始める。

 

「どうしたの?もしかして楽しくない?」

「体調悪いのかな……」

 

全員の心配をよそに、幸哉が口を開いた。

 

「今から本当のことを話します。ここにいる以上、嘘はつきたくないから」

 

この場にいた全員が固唾を飲んで見守る。状況を感じ取って、第一声を発した。

 

「みんな僕を『慶一さんの親戚』って思ってるみたいだけど、違います。

 

 

 

 

僕と慶一さんは、本当の家族じゃない。赤の他人です」

 

「「!?」」

 

周りからどよめきが生まれる。

真っ先に反応したのは奈緒だった。

 

「嘘やろ!?最初親戚て言うてたやん!」

「どういうことですか!?」

 

静香が慶一を見る。彼の顔は全てを悟ったような真剣さを見せていた。

 

「あぁ、そうだ。俺達に血の繋がりはない。原因は幸哉の育ってきた環境にある。だから聞いてやってほしい」

 

慶一の言葉によって、視線が幸哉に注がれる。それを受けて語り始める。

 

「さっき春香さんに親のことを言われたけど、僕の親は今、行方不明になってる」

「じゃあ相河くんの家に引き取られたってことよね?」

 

このみが疑問を呈するが、首を横に振った。

 

「はい。僕はいじめもそうだけど、虐待も受けていました」

「虐待やってトンズラしたの!?ひっどい親!」

 

そう言うと、鈴葉が怒りを含んだ声で言った。その意見にまた首を横に振る。

 

「僕の両親がやったわけじゃないです。やったのは両親の兄弟、つまり叔父さんたちです」

「なあんだ……ってよっぽどひどくない?怒鳴ってごめんなさい」

 

鈴葉が頭を下げる。流石に人の両親を侮辱するは失礼と感じたのだろう。

 

「両親がいなくなって……それで叔父さん夫婦の家に引き取られて、地獄が始まったんだ」

「何……されたの?」

 

翼が聞いてくる。その顔はまるで、この後に来る事実に恐れをなしているように見えた。

話の続きを語り始める。

 

「まず、怒鳴られるのは当たり前。機嫌が悪かったら殴られたり、ご飯抜かれたこともある。家に入れてもらえなかった時もあった」

「ひどい……可哀想……」

「でも他に……」

「テレビとかネットは見させてもらえなかった。電気代払ってもない奴が使うなってね」

「だから私たちのことも全く知らなかったんだ……」

 

今度は慶一が発言を引き継ぎ話し始める。

 

「その上、学校でいじめを受けていて自殺未遂までやった。そこで搬送された病院からあの二人が来る前に俺達は逃げたんだ」

 

そこまで言ったところで、

 

「僕のためのパーティーなのに……言うべきじゃないかもしれない、けど……」

 

顔が歪み始め、

 

「いっぱいご飯食べられて……それで皆優しくて……幸せって、こういうことなのかな……」

 

自らの思いを吐き出し、涙が溢れ出す。

 

 

「幸せに、なりたいよ……もう、苦しいのは……いやだ……」

 

そこまで言って、顔が歪み目から涙がとめどなく溢れ出す。その一言は、自身が背負ってきた苦しみ、痛み、絶望、悲しみを表すかのようだった。その言葉を聞いた未来たちの胸も、締め付けられるような痛みを感じていた。やがて堪えきれなくなったのか、

 

「うっ……ぐす……うぇぇぇぇぇん……!」

 

大声で泣き始めた。悲しみの感情が、涙となって流れていく。恥も外聞も捨て、ただ泣くことしかできなかった。

その声を聞いて、さっきまでの明るさが噓のように沈んだ雰囲気になる。

 

泣きじゃくる幸哉を見て近づく人影があった。

 

 

未来と春香だった。彼女たちもこみ上げてくるものを抑えられないのか、同様に涙を流している。

 

「なんで……泣いてるんですか……僕のことなのに……」

 

何故2人は泣いているのか、その理由を問う。

涙で顔を濡らしながらゆっくり彼女たちは答えた。

 

「辛かったね……でも、もう大丈夫だよ……!」

「私たちだってつらいよ……そんなの……」

 

私たちだって―その言葉にふと周りを見渡す。

もらい泣き、同じように声をあげて泣いたり、懸命に堪えていたが、やがて決壊し泣き出す者など様々な人物で溢れていた。

この場にいた人間の中で、悲しまぬ者はほとんどいなかった。

 

「私たちが虐待とかいじめられたわけじゃないけど……」

 

涙を拭き顔を上げて、未来と春香が幸哉に向かって思いの丈をぶつける。

 

「痛いこと、苦しいことはもうおしまい。だから……」

 

『みんなで一緒に、幸せになろうね』

 

顔を濡らして、語り掛けた。

その言葉に幸哉は鼻を鳴らして目許を拭い、頷いた。

 

「……はい!」

 

~~~

 

「ふう……本当に皆さんありがとうございました」

「良かった~。私まで泣いちゃったよ」

 

あの後、ひとしきり泣いたことでなんとか幸哉は落ち着きを取り戻した。

春香が安心したように胸に手を置いた。仲間の涙している姿は彼女にとっても心苦しいものだったといえるだろう。

 

「良かったな……本当に……」

 

慶一も目を潤ませながら呟く。大人たちも皆、心が揺れ動き眼前の光景を焼き付けていた。

そこで霧生が幸哉に近づき、頭に手を置いた。

 

「……あ」

「君は仲間という宝を手に入れた。彼女の言葉、絶対に忘れてはいけないよ」

「……」

「さあ、涙は拭こう。君のためのパーティーだ。存分に楽しもうか!」

 

その言葉を聞いて目もとを拭き、顔を上げて元気な声で返事をした。

 

「はい!」

 

皆が手招きし、呼ぶ声が聞こえる。そこには未来や春香、志保や星梨花、可奈など様々なアイドル達がいる。その声の方へ一歩ずつ、近づいていった。

 

「ぐすっ……そんなことがあったなんて……お腹いっぱい食べてね!」

「でも体重とか」

「気にせんでええから食べ!私の分けたるから」

 

「乗り越えて行こうとする姿、素敵でしゅ……」

「エミリーもありがとう」

「一緒にハッピーになろうねゆきやん!」

「茜さん……」

 

皆が話に花を咲かせ、料理に舌鼓を打ち、笑い声が聞こえる。

劇場は今日も、笑顔と幸せで満ち溢れていた。

 

~~~

 

 

皆がパーティーを楽しむ中で1人、北沢志保は煮え切らない感情を抱いていた。

新人が来ると聞いていたが―

何故彼なのか。

女装でアイドルなど、聞いたことがない。

もとより、いきなり横入りのようにステージに上がったことも、幸哉の境遇や()()に対して複雑な心情を抱えていた。

 

「―!」

「……」

 

件の人物―幸哉と視線が合ったがすぐに目を逸らす。

 

「志保ちゃん……行かなくていいの?」

「別に……私はいいわ」

 

横にいた可奈が心配したように志保を見る。

志保はただ、皆の輪に入らず一人で佇むだけであった。

 




次回予告

「本当に幸哉を……()()をクビにするつもりなんですか!?」

「もしかしてアンタが新人?」

「アイドルになろうとした理由を教えて!」


次回、「試される力」

お試しで予告風に。
是非ともお楽しみに!
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