君と奏でる幸せの音   作:賀茂川泰伸

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21話の裏というか、続きです。
もっとキャラクターを出したかったというのもあって急遽本編に挟む形で投稿致します。
次回予告してからの後出し感すごいですけどお付き合いください。


幕間 新しい自分が生まれた日

一しきり泣いた後、皆のもとへ向かった。今日は自分の歓迎パーティーだ。楽しもうと料理を手に取る。用意された料理は美奈子の作であろう中華料理やフライドポテト、サンドイッチ、コロッケやサラダなどの惣菜やアップルパイにマシュマロといったデザートまで用意されている。その中からコロッケやサラダを選び取る。

 

「美味しそうなのばっかり……これ全部食べていいんだ……!」

 

先程号泣したとは思えないほど、幸哉は前の料理に目を輝かせていた。テーブルを端から端まで見回して狙いを定めようとしている。

 

「あんまり食べ過ぎたらダメよ!」

 

静香が声をかける。確かに、食べ過ぎても良くないが今のようにご馳走が並んでいれば心が踊るのも無理はない。しかも腹を空かせているとなれば尚更だ。自分以外にも未来や奈緒が次々に料理を皿にのせていた。

 

「沢山食べるといいですわよ!今日は貴方のためのパーティーですもの」

「えっと…千鶴さん、ですよね?」

 

後ろには長い髪を括り、黄色い上着に花柄のワンピースを来た女性がいる。彼女は幸哉の言葉に頷きながら答えた。

 

「ええ!わたくしは二階堂千鶴(にかいどうちづる)。よろしくお願いいたしますわ!」

「よろしくお願いします」

「先程の話、聞かせていただきましたわ。尚更食べていただかないと…。パーティーのコロッケは私の家…のシェフの手作りですわよ。存分にご賞味くださいませ」

「シェフ…。千鶴さんはお金持ちの人なんですね」

「……そうですわよ!私はセレブの家に生まれた人間!施しを与えるのは当然のことですわ!オーッホッホッホ!……げほ…ごほ……」

 

高笑いの末尾が何故かむせていた。突っ込んだら負けの雰囲気が漂っている。

 

「ふふ……」

 

何故か近くに居る朋花が扇子で口元を隠して微笑んでいる。何かを知っているような気がしなくもないが、それを聞く度胸は今の幸哉にはなかった。

 

~~~

 

ふと周りを見回していると、皆の楽しむ声や歓迎のメッセージが書かれたホワイトボード、そして色とりどりに飾られた壁や装飾が目に入る。アイドル達の力の入りようがよくわかる出来映えだった。

 

「すごいな……」

「そうでしょう?ロコのデザインなんですよ!見てくれてサンキューです!」

「ここまで部屋を飾るなんて……歓迎、ありがとう」

「いいえ!楽しんでくれてロコも嬉しいです」

 

 

後ろから来たのはロコだった。自慢気に胸を張って壁の装飾を手で指した。装飾の担当は彼女が行っていたらしい。色紙やモール、ホワイトボードなどに秘めた拘りが伺える。色彩が皆の目を引くように照明に照らされて光を反射している。

 

「飾るのが得意なんだ?」

「はい!ロコにとってアートはフェイバリットなものですから!」

「コロちゃん、今日のために張り切って準備していましたわね」

「チヅル!コロちゃんじゃなくてロコです!!」

 

後ろから千鶴が顔を出した。しかし、呼び方を間違えていたせいかロコがぷんぷんしながら彼女に突っかかった。

その様子をただ見ていた幸哉。

 

「千鶴さん、名前間違えてませんか?」

「あら、そうでしたわ。ごめんなさいねコロちゃん」

「また間違いましたね~~~!?」

 

千鶴が手を合わせて頭を下げるも、ロコが怒ったように声をあげた。名前を覚えてもらえなかったのか、それとも何があったのか…。それはこの場ではわからずじまいだった。

 

〜〜〜

「ああっ、そこにいたんだねぇ」

「?」

 

後ろを振り返ると一人の女の子がちょこんと立っていた。まるでりんごのような髪型で、少し間延びした訛りのある話し方をしており、穏やかな性格を想起させる。

何か言いたげな表情を少女はしており、幸哉をじっと見つめていた。

 

「ええと、あの…」

 

言葉が出ずにもたついているとそちら側から自己紹介をして来たのであった。

 

木下(きのした)ひなただよぉ。同じ14歳だから、これからよろしくねぇ」

「うん、よろしく。でも何で僕を……」

 

ひなたが名を名乗った。その顔はどこか、寂しさを含んだように見えている。

 

「さっき、泣いてたっしょや?なんか前のあたしと一緒で、さびしそうに見えたんだぁ」

「……一緒?」

 

気になって聞き返してみると、ひなたはそのことについて話し始めた。

 

「あたしはねぇ、北海道から来たんだよぉ。アイドルするために一人でねぇ」

 

同い年の少女が一人で上京。その苦労は想像しづらいものがあっただろう。ひなたが俯き加減に話を続ける。

 

「それで、東京に来たときはさびしいのと慣れないとでずっと不安だったべさ。でも……」

「でも?」

「あたしが元気でいられるのは、みんなのおかげなんだぁ」

 

そう話すひなたの表情は、輝いて見えていた。上を向いており、希望を持っているように言葉も明るく話を続ける。

 

「さびしいときは励ましてくれたり、うれしかったらみんなで笑ったりするんだぁ。だから幸哉くんも、あたしたちがいるから一人じゃないべさ」

 

一人じゃない。その言葉が幸哉の胸を揺さぶる。確かに以前は孤独を感じ、命を絶つことまで考えた。だが今は違う。未来をはじめとした友達や仲間、慶一といった家族がいる。周りを見ると、そう思えるようになる。ひなたもまた、そんな人間の一人なのだろう。

 

「ありがとう。少し気が楽になったよ」

「よかったぁ…。だったら今日はあったかいご飯食べて、ゆっくりするべさ。アップルパイ、北海道のりんご使ってあたしが焼いたんだよぉ。食べてくれないかねぇ?」

 

あのアップルパイはひなたの手作りのようだった。焼けた生地の香ばしさとりんごの良い香りが嗅覚に訴えかけてくる。そんなに勧めてくるならと、頷きながらトングを手に取り皿に載せた。

皿に乗った一切れのパイを口へと運ぶ。

 

「……!」

 

噛んだ瞬間、さっくりとした生地としゃっきりした嚙み応えのあるりんごの味わいが重なって味覚を刺激する。作り手の心の温かさを織り込んだような、そんな味だった。

パイを齧る手が止まらない。一口、二口と咀嚼し、味わう。やがて皿は空になった。一瞬で食べきってしまうほどの魅力に、すっかり落ちていた。

 

「ふぅ、美味しかった。手作りアップルパイ、皆に勧めてくるよ」

「それはよかったべさ。美味しいって言ってくれて……。いつか、一緒にステージ立つかもしれないねぇ」

「今から楽しみだよ。本当にありがとう」

「どういたしましてだよぉ」

 

ひなたは嬉しそうに微笑み、その場を離れる幸哉を見送った。

 

〜〜〜

 

「ねえねえ、お父さんたちってどんな人だったの?聞いてみたいなぁ」

「それ、さっき聞けなかったよね。気になっちゃった」

 

春香と未来が近づいてきた。先程聞けなかったことを知りたいらしい。

先刻、自分の境遇を言ったことに起因して周りを巻き込むように号泣してしまったのだ。彼女達も同じように境遇に涙していた。それ故に気になっていたのだろう。一拍間を置いて話し始める。

 

「お父さんたちか…、とってもいい人だったよ。優しかったし、色々なことをさせてくれた」

「どんなことをしたの?」

「『行きたい』って言った場所は連れて行ってもらったり、勉強だったり、色んなことをしたよ」

「そうなのねぇ。いい親御さんだったのに……」

 

このみが横にいた。エピソードをどこか安堵したような表情で聞いていた。

奈緒が疑問があったのか、幸哉に尋ねた。

 

「親の話はわかったけど、なんで初めて会うたときにプロデューサーさんを親戚って紹介したん?」

 

幸哉はその時のことを思い出した。初対面で他人と紹介すればいらぬ誤解を招く危険がある。それ故、親戚と紹介したのである。

 

「あー…。いきなり他人ですなんて言ったら変なことになりそうと思ったんです。慶一さんには悪いけど、通報とかされたら困るなぁって」

「おい!?」

 

横にいる慶一が大きな声で突っ込む。犯罪などしない善人であることは周知の事実だが、それでも疑われそうになったのが心外だったのだろう。

 

「通報とかに関しちゃ警察に事情も説明した!俺は何もしてないんだ!!」

「本当ですか?」

 

静香が話に入って来た。何か引っかかるのか慶一をじっと見ている。

 

 

「つまり、俺達は幸哉が搬送されてた病院からあいつら…叔父夫婦が来る前に脱出したんだよ」

 

慶一が今までの経緯を話した。逃がすためにリスクを冒してでも行った大胆さが伺えるような内容だった。一人のために全力で付きあうのは慶一の良い所といえる。

 

「大分派手に行ったわね……犯罪にならなくて良かったわ」

「でも、プロデューサーさんだからこそ、幸哉くんを救えたと思います」

 

このみが安堵した調子で、歌織が微笑みながら称賛した。

 

「まあ、プロデューサーさんはええ人やから犯罪とかせえへんてわかるで!」

「あなたという人は……でも、今永さんに出会えたことは感謝しています」

「わかりました。けど今度から派手なことはやめてくださいね」

「わ…わかったって……」

 

静香と紬が釘をさすように言い、慶一が困ったような顔になった。

ふと思いついたように翼が口を開く。

 

「お母さんの方はどうだったの?」

 

今度は母親の話になったようだ。

 

「そうだな……ご飯は美味しかったし、何より夫婦仲も良かった」

 

懐かしむような、そんな表情で語る。

 

「素敵なご両親なのね」

 

律子が感心したように頷きながら話す。

 

「誕生日だって、美味しいごちそうを並べて…、今みたいにね」

 

目の前には大量の料理。今日はまさに誕生パーティーのような様を演出していた。

 

「ってことは、今日は新しい自分の誕生日かな?」

 

後ろから声がかかった。

 

「恵美さん!琴葉さん、エレナさんまで!」

「ちょっと来るの遅れちゃった!まだやってる?」

「ごめんなさい。仕事が押しちゃって。顔を見せに来たの」

「ユキヤ!久しぶりだネ!」

 

なんと後ろから琴葉、恵美、エレナが現れた。彼女達も参加するようだ。早速料理を皿に載せ、飲み物を紙コップに注ぐ。

 

「ねぇねぇ、さっきまで何話してたの?」

「幸哉くんのご両親について話してたの。とてもいい人たちみたいね」

 

これには歌織が答える。恵美はにっと笑いながら話を聞いていた。

 

「だったら見に来てたんじゃないかな?親」

「プロデューサーは幸哉くんの親戚ですよね。何か彼のご両親とお話されましたか?」

「だネ!アイドルになったって言わないト!」

 

幸哉と慶一、二人が顔を見合わせる。

 

「実は……」

 

「えぇ!?親戚じゃなくて他人!?」

「俺達、血の繋がりのない他人なんだよな」

「そういうことです。今まで騙すようでごめんなさい」

 

三人が驚いたような声を出した。確かに三人はその場にいなかった故、知らないのも無理はない。

 

「しかも、親が行方不明でさ。今どうなってるかもわからないんだ。親族も頼れない。虐待されてたって言うし」

 

慶一が簡潔に説明を行う。一しきり聞いた琴葉達の表情が曇り始めた。

 

「そんな…。両親がいないなんて……」

「離れ離れなんだ……」 

「辛いよネ…家族と会えないのは……」

 

顔を雲らせる三人を見て、幸哉は少し俯きながら言った。

 

「確かに寂しいのはある、けど皆がいるから今はなんとか平気です」

 

少しはにかみながら三人を向いて答える。そんな顔を見ていた三人だが、すぐに普段の調子に戻っていく。その中で琴葉が口を開いた。

 

「元気そうでよかった…。でも、何かあったら相談してね」

 

恵美、エレナも続く。

 

「そうそう!アタシたち頼ってね!」

「一緒に楽しもうヨ〜!」

 

二人の励ましの言葉をもらって思わず口許が緩む。すっかり先程まで苦しみに涙していたとは思えない表情になっていた。

 

~~~

「この街に来てから色んなことがあったよ」

「どんなこと?」

 

「とにかく沢山あった。今まで触れてなかったこと……、ゲームとかアニメを知ったり」

「ゆっきーてゲームしないの?」

「させてもらえなかったんだ。あの家にいたときはね」

「杏奈の、おすすめ…教える、ね……」

「うん、ありがとう。話の続きだけど、一番はアイドルになったことだと思う」

「?」

 

この場の一同が首を傾げる。それを見て、幸哉は話を続けた。

 

「皆に出会ってなかったら、ここにいないかもしれない……それと」

 

皆の方を向き、言った。

 

「恵美さんが言った通り、新しい自分が生まれたって感じがするんだ」

 

噓偽りなく、自らの思いを伝える。その表情は以前にも増して輝いて見せた。

 

「じゃあ今日は歓迎会で、新しい自分を見つけた記念のパーティーだね!」

「未来……ああ、そうだね!」

 

満面の笑顔を見せる彼女に、つられて笑顔になる。もう一人じゃない。仲間が、そして味方になってくれる人がいる。その思いを胸に生きる。固く心に誓いを刻んだ。

 

「サンドイッチはどうですか〜」

「マシュマロもおすすめなのです!」 

 

美也とまつりがこちらを向いて手を振っている。どうやら彼女達も料理を作っていたようだった。

 

「それ欲しいです!」

 

一目散に幸哉が彼女達の方へ向かう。その様子を見ていた慶一をはじめとするプロデューサー達が呟いた。

 

「新しい自分、か。彼女達はうまいこと言ったねぇ」

「そうですね〜。なんか楽しそうだし」

「全力で支えていきましょう。俺達で」

 

笑顔、楽しむ姿、そして皆が笑う声が響き渡る。

劇場は今日も、人の温もりで満ちていた。




いかがでしょうか。キャラが多い分、書ききれるかどうかって問題になってきますね。

というわけで久しぶりの本編です。これから本編と短編を並行して行いますので両方ともご愛読いただけると幸いです。
それでは次回のお話も楽しみにお待ちください!
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