場外乱闘から始まる第22話、始まります。
「一体どういうことなんですか!?」
「先程言っただろう。信用に関わる問題だ」
劇場内の会議室では凄まじい激論が交わされていた。議題は「ある新人の扱いについて」であった。会議の最中にもかかわらず、大声をあげる男がいた。相河慶一、765プロのプロデューサーである。
「入所の時の交渉も社長と一緒だったんです。後正体を隠していたことも皆に打ち明けて謝りました!なのにどうしてそんなことを言うんですか!?」
慶一の目の前の男は彼の論に怯むどころか、眼光を鋭くして睨むばかりであった。
男が口を開く。
「謝ったとはいえ、外部にどう説明するんだ?女性アイドルの事務所に男が一人。どうすればファンは納得するか考えてみろ」
「……っ」
男は表情を変えずに続ける。
「それに、スキャンダルが無いとはいえ一大事だ。このまま雇い続け、いつか間違いが起きればどうなる?」
「事務所が……傾きます」
「崩壊のリスクがあるなら、その芽は早くに摘んでおくべきだろう」
「だからって!」
「一人で走らず、周りの意見も聞いておくべきだ」
その言葉に、慶一は辺りを見回す。会議室にはプロデューサーを含めた社員が詰めかけている。その内の一人が慶一に向かって言った。
「相河さんみたいなプロデューサーの方もそうですけど、うちみたいな営業の人間はどうなるんです?信頼を失ったら事務所は終わりです。あなたまで失業する羽目になりますよ」
「……っ」
「広報課だって同じですよ。今は駆け出しだからいいですけど、男だとバレたら一気に価値が下がりますよ。そんなリスクを冒してまでやりたくないですね」
「は……?」
「そうそう。霧生さんが勝手に連れて来て、相河さんがプロデュースしたんでしょう?職場無くなったら誰が責任取るんだか」
もう一人の社員の言葉を皮切りに、やれ男子を入れるのは駄目だの、こんな職場で働けないだの文句や反発する声が漏れ始めた。
「……」
「皆さん……落ち着いて……」
この場にいた小柄な女性、天宮優愛が場を収めようとするも、社員たちの文句が止まらない。『新人』を擁護する声こそあれど、否定や批判の声にかき消されつつあった。
がやがや騒ぎ立てる人を静めようとするも、喧騒が止まないままでいる。
中年の
「元はといえば霧生さん!あんたのせいだろう!勝手にどこの馬の骨ともわからんガキを連れてくるからこうなるんだ!」
「ガキ呼ばわりは失礼でしょう。第一、貴方は口が良くないようですね」
冷静に返したのは議題に上がる新人を連れてきたプロデューサー―霧生敦成であった。
発言が良くなかったのか、周囲の目がその社員に集まるも、すぐに別の人物を糾弾し始めた。
標的は―姫柊鈴葉であった。
「そういえば姫柊さんも天宮さんも、その新人の子に協力したみたいじゃないですか」
問うてきたのは意地の悪そうな女性社員だった。鈴葉はそれに対し、眉をひそめる。
「そーですけど?何かあるんですか?」
不機嫌を隠しもせず答えると、女性社員が嫌味を含んだように言った。
「いやですねえ、その子中学生でしょ?大の大人が男の子とお出かけ……どうなんですかねぇ?」
「やめましょうよぉ。手を出さなかっただけマシじゃありませんか」
「あの子の性格は……ねぇ?若い男の子とだったら『ある』と思ったんでしょうけど」
明言を避けながら追い詰める、いやらしさと悪意のある発言。それでいて、どこか下品さを感じさせる女性社員の嫌味攻撃を黙って聞きながら、鈴葉は聞こえない程度に小さく毒づいた。
「うっざ……!」
小さく拳を握り、彼女ははっきりしない物言いに怒りを堪える。ここで感情を爆発させればいびって来た社員の思うつぼである。ぐっとこらえて周りの人間に目をすえた。
「というわけですが皆さん。『彼』をどう処遇するおつもりですか」
槍玉にあげられたにも関わらず霧生が飄々とした態度でこの場にいる全員を見据える。
その言葉を聞いた社員たちは口々に自らの意見を述べ始めた。
「もちろん活動に反対です。そのようなことをして何になるんですか」
「そうですね。新人の彼には可哀想ですが賛同しかねます」
「反対です。バレたら売上下がりますよ」
社員が反対する意見を述べ始める。言い分は最もであり、会社とは利益を求めるものであるから意見に納得できる。一方、反対意見だけでなく新人を肯定するような意見も出始めた。
「でも、彼が悪さをしたというわけではありません!急に追い出すのは可哀想じゃないですか」
「彼の事情を鑑みてあげてください。まだ14歳の中学生ですよ!?」
「うるさい!何もわからんヤツがガタガタ言うな!!」
「あんな素性の分からない人、なんで庇うんですか!?」
「平の癖に生意気な!」
そういった声も、大勢の罵声にかき消される。
現在の会議室の状況を一言で表すなら―武器を用いない戦争だった。
ある人間が他の人間を攻撃し、言葉の刃で襲いかかる。会議は既に崩壊し、もはや乱闘といえる状況となっていた。
その中で慶一はぐっと歯を食いしばり、相手を見据えて問うた。
「氷室さん、質問させてください」
「何だ」
「本当に幸哉を……
〜〜〜
歓迎会を終えて日を挟み月曜日となった。改めてスタートを切ることになったアイドルとしての生活。胸に一抹の不安を抱えながらも期待している自分がいる。
思えば少し前まで世界に絶望を感じ、自殺までしそうになった。そこからアイドルと出会い、交流し果ては同じ舞台を踏んだのだ。
とんでもない激動だな、と思いながら板書をとる。
その最中、授業終わりを知らせるチャイムが鳴った。
「今日の内容はしっかり覚えて、復習するように」
「起立、気をつけ、礼」
号令をかけ、授業が終わる。時間は6時間目。学校での1日が終わる時刻である。生徒達は各々部活の準備や帰り支度をする者等慌ただしく動いていた。
「ねー、ちょっといい?」
「翼」
翼が隣の席から顔を出した。
「今日、一緒に劇場に行こ♪事務所の人が迎えに来るって」
「なるほどわかった。後で集合で」
聞こえぬように小声で話をする。話し終えて席に座ると柊太がやって来た。
邪推でもしているかのようなにやついた表情である。デートか?と聞いてくるのを適当にごまかす。
終礼を終えて、翼とともに教室を出る。周りが好奇の目で見てくるのを躱し、校門の前にたどり着いた。そこには1台の車が止まっている。
翼が車のドアを開けて運転手に挨拶をする。
「ありがとうございまーす」
「どういたしまして。今永さんもお疲れ様です」
「こんにちは」
挨拶を返し、後部座席に腰を下ろした。
「あの……事務所までお願いします」
「あぁ、はい。安全運転で送らせてもらいますね」
社員が当たり障りない返事を返す。
会話を切って、車が走り出した。
走り始めて少し経ってから、翼が運転手に話しかけた。
「幸哉くんもアイドルになったんですよ〜」
「これからよろしくお願いします」
「はい、よろしく。しかし女装か……」
「知ってるんですね」
問いかけると社員は前を見据えたまま答えた。
「まぁ、一応関係者だし……芸能界って厳しいみたいだねぇ」
「どういうことですか?」
「応援してくれる人ばっかじゃないし、嫌って叩きに来る人もいるし……平社員の自分にゃわからないけど」
「……」
「というわけだから……
「?」
発言の意図を読み取ることが出来ないまま、車は走り続ける。
横に座った翼もまた、首を傾げていた。
〜〜〜
「到着でーす」
劇場の地下駐車場へ滑り込み、車が止まる。運転手に礼を述べて降車し、階段を上がって内部へ入った。
暫く並んで歩き、玄関へと出る。広々とした場所。見慣れた景色。変わった要素は何一つない。
ただ一人、腕を組んで立っている少女以外は。
「来たわね。遅いわよ」
極めて不機嫌そうな表情をした少女が仁王立ちして待ち構えていた。アイドルなのだろうか、可愛らしい笑顔を見せるだろうその顔は今、眉間に皺が寄って険しさを創り出していた。腰まで伸びた髪と分け方によって晒された額が彼女の存在を否が応でも焼き付けてくる。服装は高価そうな薄桃色のワンピースを着ている。
「デコリーナ先輩!こんにちは~♪」
「翼、その呼び方やめなさい。今日は横のそいつに用事があるの」
そう言って幸哉を指差した。差された幸哉は面食らいながらも、目の前の少女を見据える。
自分に用がある。その内容を聞くため少女に尋ねた。
「僕に用事……か、はじめまして。
彼女のものであろう名前を言うと、驚いた表情からすぐに感心したようなものへ変わる。
「ふーん…この伊織ちゃんを知ってるなんてなかなかやるじゃない。もしかしてアンタが新人?」
「そうだよ。でも……」
「でも?」
「『はーい!伊織ぃ、頑張っちゃいまーす♪』みたいな人じゃなかったっけ?」
幸哉はわざと高い声で伊織の声をできる範囲で真似て喋る。
そこまで言うと伊織が真っ赤になって怒り出し、翼は堪えきれず吹き出した。余程セリフが気に障ったのだろう。そうなるなら最初からしなければいいだけの話だが。
「……なっ!アンタよく
「じゃ、今のが本性?」
「そうよ!悪い!?」
「……別に」
「はぁ…いいわ。早く着替えなさい。服はドレスルームにあるわ」
呆れたように頭を押さえる伊織。
そう言うなり、彼女は足早に去って行った。二人してその場に残される。翼が顔を覗きこむ。
「どうするのこれから?」
「着替えてくる。伊織の方が僕に用事あるみたいだったし」
「うん、いってらっしゃい」
会話を交わして翼と別れ、ドレスルームを目指す。用事とは一体何か?それを考えながら部屋に入る。室内は誰もおらず、机に服の入ったビニール袋に今永と油性ペンで書かれた物、そしてレッスン用の靴が目に入る。恐らくそれを着ろと言うメッセージだと受け取り、手早く着替えを済ませる。
「こっちよ」
部屋を出ると伊織が待っていた。手招きされてそれについていく。
歩く最中、何があるかと質問しても「いいからついて来なさい」の一点張りで取り合ってもらえない。
追求を諦め、伊織の後を追った。
「ここよ。入りなさい」
扉の前で歩みが止まる。ちょうどレッスンルームの前であった。ノックして、言われた通りに扉を開けて中に入る。
「失礼します……え?」
周囲を見回すも、レッスンの講師の姿はない。それどころかパイプ椅子が置かれ、その向かいに五人の女性が机を挟んで座っている。
さながら面接会場のようだ。
「いらっしゃい。座っていいわよ」
目の前には律子がいる。その他にもまだ顔を合わせたことのない人物が四人、面接官の様に座っていた。
「律子さん、この人たちは……」
「そう。私含めて765プロオールスターズのメンバーが来てくれたのよ。伊織が『新人を試してやるわ!』って聞かなくて」
「律子、余計なことは言わなくていいわ。始めましょう」
伊織が律子に言うと、彼女は頷きながら答えた。
「今日来てもらったのは、他でもないあなたのことを、テストさせてもらうためです」
「はい、わかりました」
「それじゃ、自己紹介しましょうか。真!」
「はいっ!ボクは
最初に挨拶した真は精悍な顔つきで少年と見間違うほどであり、
はきはきした挨拶や一人称もそれに拍車をかけている。
次は小麦色の肌の少女が手を挙げた。
「はいさーい!自分、
ポニーテールに半袖と行動的な印象を与える響。次に波打った銀髪の浮世離れした美貌の女性が自己紹介をする。
「
目を伏せて頭を下げる貴音。所作や相貌から只者でなく、人を惹きつけるオーラを発している。
貴音が挨拶をする前からショートボブの少女が落ち着かないのか、周りをきょろきょろと見回していた。真が彼女に声をかける。
「雪歩ー、自分の番来てるよ。ほら」
「ひゃいっ!」
驚きながら返事をし、たどたどしく他より小さな声で話し始めた。
「は、
不安そうな雪歩を律子があっさり言ってのける。
「そうよ。あの人が加入させたのよ……」
「う、プロデューサーがやったのか……」
「ひえぇ……」
あの人、とは霧生のことを指すのだろう。響が苦い表情を浮かべる。
「ごめんね。雪歩は男子が苦手みたいなんだ」
真がそう述べる中、雪歩は緊張からか体が震えており、不安げに周りを見たりと落ち着きがない。
その間に伊織は律子の隣の椅子に座った。
「それでは、テストを開始します。まずは名前を教えて」
「今永幸哉、14歳。中学2年生です」
「年下なんだね」
響が感心した様に言う。テストと言っていた以上、適切な回答を出さなければならない。次の質問に備えて身構える。
「まず最初の質問。どうしてアイドルになったかを教えて!」
出題者は真。最初は簡単な質問で試すようだ。掴みでは無難な回答が良い。そう考えて口を開いた。
「事務所の人……霧生さんが君はアイドルになれと言いました」
そう言った所で、何故か伊織が眉根を寄せていた。
「何よ?今の回答は。もっと他にあるでしょう」
不正解のような対応をされて幸哉は考え込んだ。この場合、何が正しいのか。確かに先程は「人にやらされている」ととられ主体性に欠けた回答といえる。
その点を反省し、再び答えを捻り出す。一時熟考し、答えを出そうとした瞬間。
ー苦しんでいる人を幸せにしてね、って意味かな?
頭の中にセリフが浮かぶ。これは以前、優愛に言われた言葉だ。
心の中で彼女に礼を述べ、再び伊織たちを見据え、先程とは違い、はっきりした意思を言葉に乗せて伝えた。
「僕は、人を幸せにしたい」
「?」
「傷ついた人、苦しんでる人たちにとっての光になりたいんです。昔の僕がそうだったみたいに、人に幸せをみせることができる、そんなアイドルになるために来ました」
場の空気が静まった。反応を確かめようとその場の六人を見据える。
さぁ、どうだ。
沈黙が流れる中、六対一で視線がかち合う。
「真、良き
その沈黙を破った人物は貴音だった。よく見ると手を叩いており、答えを称賛する様子が伺える。
「人は皆、自らの幸福を求めるもの。その中で他者を幸せにしたいという思い、感嘆致しました」
「……」
「ステージに立つ今永優希…貴方の姿はその意思を体現するかのようでしたよ」
「……ありがとうございます!」
貴音の褒め言葉に、素直に礼をする。他のメンバーも心が動いたのか、穏やかな表情をしていた。
響が横から口を出した。
「あの時は春香もそうだけど美希、千早、それと貴音も一緒に見てたんだぞ。すごく立派なアイドルだったよ!ファンの人も喜んでた!」
存外、多くの先輩に見られていたらしい。
春香や律子もそうだが、自分のことを目の前の面々は高く評価していることが読み取れる。
「あの……」
雪歩が小さく手を挙げた。周囲の視線が彼女へ注がれる。何か言いたげな様子を感じて伊織が声をかける。
「質問?珍しいわね。男に声をかけるなんて」
「うん……」
伊織の言葉に頷くと、おどおどして質問を投げかける。
「ええと、昔の僕って言ってたけど、今永くんは過去に何かあったのかなって……」
質問には律子が答える。その表情は若干の憂いと悲しみを背負ったように見えていた。
「彼は両親が行方不明、親族に虐待、学校でいじめられた経験があるの。それで辛い思いを背負って生きていたみたいね」
「僕を救ってくれたのが765プロの皆さんでした。本当にありがとうございます」
幸哉がお礼を述べた。頭を下げると、すすり泣く声が前から聞こえる。
「う~っ…そんなの可哀想すぎるよ〜!よかったね……ほんとに……」
泣いていたのは響。鼻をすすっている。感受性豊な人物であることが伺える。泣きじゃくる彼女に真がどこからか出したティッシュを渡した。
「ちょっと、鼻水出てる!はいこれ!」
「すんっ…真、ありがと……」
ずびずび鼻をかんでいる様を横目に、一様に面接官達の顔が曇る。律子から聞いたことに心を痛めているようだった。無理もない。幸哉の持つ背景が誰にでも重たくのしかかるものだったからだ。
「なんと…そのようなことが……」
「さすがに同情したくなるよ……」
「もう合格でいいんじゃないですか…?春香ちゃんたちから評判は聞いてますし……」
雪歩がそう言ったが、伊織はふん、と鼻を鳴らして幸哉を睨みつけるかのように見ていた。
「状況はわかったわ。でも、こいつがアイドルとしてやれるかどうかは別問題よ」
「伊織!」
「何よ?同情で合格点はあげないし、特別扱いなんかしないわ」
「二人とも…喧嘩するのは……」
「雪歩には関係ないでしょう!?」
真が伊織を叱りつける。された彼女も真を睨み、雪歩が止めに入るも気圧される。場の空気が険悪になりそうなその時、貴音がすっと手を挙げた。
「では、わたくしから質問をしても良いでしょうか。
らーめんはお好きですか?」
「「はい?」」
一瞬、時が止まる。その場の皆が頭にハテナが見えるほど驚いていた。突飛な質問に皆が固まっているのを尻目に貴音が口を開いた。
「公演の際、貴方は好きな食べ物にたこ焼きやかれーといった物を挙げました。食べることが最大の楽しみのようですね」
「……はい」
「それであれば、らーめんも好きではないかと考えた次第です。いかがですか?」
意図が読めない。しかも浮世離れした雰囲気から放たれるラーメンが好きかという質問。貴音の意外性のある質問に皆が驚きを隠せぬままでいる。
そんな雰囲気の中、答えるべく口を開いた。
「ラーメン…だったら醬油で、チャーハン付きのセットが好きですね」
「ふふ…そうですね。その組み合わせ、大変良きものです」
「……」
「後で貴方にはお勧めのらーめんのお店を紹介します。割引券も差し上げましょう」
「ありがとうございま『ちょっと止まりなさいよっ!』」
二人の会話が続く中で割り込むように伊織がたまらず声をあげた。関係ない話をされたのが余程きているようだ。
「伊織、どうしたのですか」
「どうしたのじゃないわ!何関係ない話してるのよ!?」
「他者を知る一環で好物などを聞き出すことは『あいすぶれいく』なる会話の手法と学びました」
「あぁもう…、そういうことじゃないのよ……」
天然な貴音に溜息をつく伊織。言葉に若干の誤用があるかもしれなかったが空気は幾らか和らぎを得ている。真や響、律子が少しだけ笑いを見せていた。その雰囲気の中、伊織が手を挙げ、一瞬で静まった所で口を開いた。
「ちょっといいかしら」
「伊織、何か言いたいの?」
「ここからが本題よ。
「……!」
その言葉に、皆が見合わせた。
実際、「百聞は一見にしかず」という言葉のとおり、評判だけでなく、実力を目の前で示す必要がある。それが分からぬほど、幸哉は愚かではない。意を決して、六人を見据えた。
「試験の内容は、この前の公演で披露した曲の中から選ぶわ。この方がやりやすいでしょう?」
伊織がこちらを見下ろすかのような雰囲気を放っていた。それを感じとりながら、話に耳を傾ける。実力を示すのが最適解。
律子が幸哉の方を見て話しかけてきた。
「春香たちは見てたけど、私と雪歩、伊織は見ていた訳じゃなかったから…。準備、出来てるかしら?」
「……できます。やらせてください」
「よし、早速始めましょうか。曲は何がいい?」
「『UNION!!』でお願いします!」
「了解!」
律子がパソコンを取り出し操作を始めた。その最中に椅子から立ち上がり準備体操を始め、体を温めていく。
深呼吸を終え、準備が済んだ所で椅子を退かしてスペースを作り直立した。
伊織が呼びかける。
「始めるわよ!」
「わかりました、始めます!」
「それじゃあ曲流すわね」
律子がキーを押し、ゆったりとしたイントロが流れ始め、徐々にテンポが上がる。六人の観客に向かって手を振って、自らの存在をアピールする。
『Castle of Dreams 夢見る
『"なりたい"にワガママな 私じゃなきゃ』
歌い始め、そのままの勢いで振り付けを行う。新人の自分にできるのはパフォーマンスを見せて知ってもらうだけ。十二の瞳が自然に幸哉の方を向く。視線を浴びながら、腕を振り目を相手に向け続ける。
「ふーん……」
「いいなぁ」
「わぁ……」
パフォーマンスをよそに真達が呟く。その目は真剣そのものであり、一挙手一投足を見逃すまいと目を凝らしていた。
一方の幸哉も周りを気にする余裕はなく、ただ集中して必死に体を動かしていた。動きにも熱や力が入る。
いや、『入り過ぎて』いたのだった。
(失敗した?馬鹿なことを言うな)
(満点以外許さないからね)
「……っ!」
それが謙著になったのはサビに入ってからのこと。曲が盛り上がる部分だが、そこであることが六人の目には見えていた。
「ちょっと、あれって……」
「……そういうことだよね」
今のところ、幸哉の頭の中にはあることが浮かんでいた。
―認めてもらわなきゃ。
ただそれだけを胸に、音に乗せて自らを魅せることだけを考えていた。
しかし、アイドル達は見抜いていたのだ。
「『焦ってる』わね……」
律子が聞こえぬよう小さく呟く。現に幸哉の体には汗の滴が滴り、動きも硬く、鬼気迫る表情で何かに囚われたかのように見えてしまう。
(なんとかして合格しないと……!)
その思いだけが頭を支配して離れない。凝り固まった考えだけが幸哉を突き動かしていた。
心の余裕がなく、立て直すこともできないまま曲の最後へと突入した。
『この歌声が UNION!!』
最後まで歌い切り、ポーズを決めた。しかし、審査員達の顔は一様に渋い表情をしていた。
「はぁ…、はぁ……」
体力が奪われ、気力も尽きかける。
肩で大きく息をし、膝に手を付きながら審査員達を見据えて反応を見る。
「座りなさい。結果を発表するわ」
伊織の言葉に素直に従い、席についた。律子が俯いている。彼女の口から飛び出したのは、衝撃的な発言だった。
「はっきり言わせてもらうと…、半分、
「なんで……!?」
オリジナル設定その1
本作品においての765プロはプロデューサーや事務員の人たちのみならず、他の広報や営業の社員も多く存在していることになります。物語の表に出てこないけど、ちゃんと存在している設定です。
原作で美咲さんとか小鳥さん、社長でしか事務所に常駐するスタッフの描写がないの、事務所としてどうなんだろうか。プロデューサーの負担きつそう。
チャーハンセットのくだりは僕の好物です。健康によくないとはいえ美味しいからいいよね。
ミリシタ8周年そして未来、お誕生日おめでとう。この場を借りてお祝いさせていただきます。
次回のタイトルは「あわてずに、一歩ずつ」です。
それでは次のお話もお楽しみに!