君と奏でる幸せの音   作:賀茂川泰伸

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プロデューサーの皆様、8周年のイベントお疲れ様でした。自分はかなりのローペースで回していました。
今回の周年曲、自分にはパ○プロのOPっぽいなと思いながら聞いています。青春がテーマだからなのか。
しかも担当(瑞希)のガシャが告知されて大変なことに。引けるのかは運を天に任せて、第23話、始まります!


第23話 あわてずに、一歩ずつ

「なんで……!?」

「残念だけど、総合的に見た結果こう言うしかなかったのよ……」

 

いきなり告げられた、半分の(ただ)し書きがつくが「不合格」の判定。驚きと不安が隠せないまま、審査を務めた六人を見据える。彼女達の顔は伊織を除いて皆曇っており、非常に残念がっているような、そんな雰囲気だった。

 

「教えてください!半分不合格ってどういう意味なんですか!」

 

いきなり食ってかかるように目の前のメンバーを問いただす。一拍置いて、伊織が口を開いた。

 

「落ち着きなさい。レディに噛みつくなんてみっともないわ」

「でも……!」

 

軽くあしらう彼女に、尚も幸哉は引き下がることなく目の前の伊織に問うた。

伊織は余裕のなさそうな幸哉とは対象的に、上から見下ろすかのような態度で質問に答えた。

 

「原因?今の態度よ。一旦頭冷やして出直しなさい」

「態度……?」

 

言われてからはっとして辺りを見回す。皆一様に難しい表情をしている。審査員達を見るに、彼女らの意見は(おおよ)そ一致していたようだった。その状況の中、申し訳なさそうに雪歩が少し間が空いてから話を始めた。

 

「ごめんなさい…。でも、今永くんを歓迎しないってわけじゃないからね」

 

目を伏せて謝る彼女の言葉には、そうする他ないという結論だったということがわかる。伊織以外のメンバーも同じ考えを抱いているような表情をしており、憐れむような、所在なさげといったものを感じさせていた。

 

「わたくしの視点からですが、少々、何かに囚われたように見えていました」

 

貴音の言葉に、響も頷いて幸哉の方を向いて口を開いた。

 

「自分もだぞ。ライブと違って様子がおかしいって思ったんだ。前はもっと楽しそうだったのに、どうしちゃったの?」

「……」

 

響が気遣うように声をかけてくるが、声を発せず返事すらままならない。

あの時と同じ曲だったはずなのに―何故こうも思うようにいかなかったのか。

フィードバックは続いており、今度は真が口を開いた。

 

「一目見て思ったんだ…。何か悩んだりしてない?相談乗るよ?」

 

救いの手を差し伸べてくる真だが、彼女の声にも反応を返せない。俯いたまま一言も発さずに話を聞く。

律子がその様子を見かねたのか、心配そうな表情で口を開いた。

 

「よっぽどショックだったのね……安心して。不合格だから出ていけってことはないから」

「……はい、ありがとうございました」

 

消え入りそうな小さな声で返事をする。魂を抜かれたように俯きながら座っていると、息をついて伊織が話を始めた。

 

「ふぅ…。一度の失敗でそんなに悔やむんじゃないわよ。いい?これから頑張りなさい。後、アイドルがそんな顔するものじゃないわ」

 

彼女の言葉には、口調こそ厳しいものの心配と励ましをするような、何より直接口にしないにせよ、仲間として認めているかのような意図がわかる。

発言の意味を読み取ったのか、真がニヤリと口角を上げた。

 

「さっきまでアイドルとして〜とか言ってたけど今の、ちゃんとアイドルとして見てたってことだよね!?」

「なっ…!」

 

からかうような真の言葉に、伊織の顔が赤くなった。それを見逃さず、響が伊織を見る。

 

「散々不合格って言うけどほんとは言いたくないし、仲間だって認めてるんだ!」

「はぁ?」

 

雪歩も加勢してきた。

 

「というわけだから……これから仲良く…ね?」

「はぁぁぁぁ!?」

 

三人の言葉に伊織が大声を出した。隠していたことが読まれたのか、それとも別の何かが原因か。わなわなと肩を震わせ、周りを見回す。皆の顔が緩んでいる。

 

 

「ふふ……伊織も認めているようですね」

「ってことで!歓迎してるから大丈夫。これからよ、これから」

 

貴音、律子とそんな伊織を見て微笑んでいたが、当の本人は顔が羞恥からか茹でられた(たこ)のように真っ赤になり、口がギリギリと音が鳴りそうな程に絞られ、目は幸哉を睨んでいた。物凄く。

 

「〜っ!何見てるのよ変態!」

「へ、変態!?」

「伊織の『変態』はちゃんと仲間として見てるってことだから安心して!」

「プロデューサーにも言ってるもんね」

 

真が先程の仕返しとばかりにニヤリと笑いながら言った。それに響も加勢していた。

 

「適当言うんじゃないわよ!あと……」

 

たまらずに伊織が言い返し、今度は幸哉の方を向いて言った。

 

「アンタ一応不合格って言われてるのよ!?だったらおとなしく反省しなさい!いいわね!?」

 

釘を刺すように言ったのを聞き、質問を返した。

 

「わかったよ…、でも不合格の原因だけ教えてほしいんだ」

「先輩にタメ口……、まあいいわ。言わせてもらうとアンタ焦ってたでしょう」

「焦ってた?」

「そう。サビで一番それがよくわかったわ」

「?」

 

息を吐いて、先程と打って変わって落ち着いた口調で伊織が話を始める。

 

「アイドルは人に笑顔を届けるものよ。焦ってたら見てる側は不安がるに決まってるわ」

 

伊織の言うように、アイドルは笑顔や幸せ、楽しむといったプラスの感情を届ける存在だ。ファンを楽しませて、魅せつけるのが仕事。その点だけは忘れてはいけないが、失念していたことに思わず下を向く。

 

「それにさっき、人を幸せにしたいって言ったでしょう?それなのに自分が苦しんでちゃ世話ないわよ。大方、私たちに認めさせようって思いながらやってたわね?」

 

核心を突く発言にはっとなって伊織を見る。全て見透かされていたのだ。自分の心の中を。

 

「だから一人で苦しむのはやめなさい。その…私たちがいるんだから、困ったら相談しても……

 

俯きながら消え入りそうに小さな声で呟く伊織。その言葉には、後輩を労る優しさが滲んでいた。

 

「わー、伊織がデレてる」

「うるさい!」

 

真が囃し立てるのを一喝し、咳払いをして再び幸哉を見据える。

 

「いい?今言ったこと、忘れたら許さないんだから!」

「わかった。忘れない。約束する」

「それでいいわ」

 

その言葉に幸哉は頷いて答える。

会話を終えて、待っていた律子が口を開いた。

 

「というわけで、テストはおしまい。また次に向けて頑張りましょうね。それじゃ、解散!」

「「ありがとうございました!」」

 

号令と同時に座っていたメンバーが続々、礼を述べて立ち上がり片付けを始めた。幸哉も自ら進んで作業に参加する。

 

「手伝ってくれてありがとう!幸哉ってさ、かわいい顔してるよね~」

「真さんの方がかっこいいと思いますよ」

「そんなことないって!この顔のせいで王子様役とかオファーされるんだよ。もっときゃぴっとしててきゅるる~んでかわいいお仕事がしたいのに~!」

「あはは……」

 

最後の擬音語の意味がわからず、思わず苦笑する。椅子を運びながら二人は会話していた。真は見ず知らずの自分に対してもフレンドリーに話しかけてくる。今まで会ったアイドルの例に漏れず、親切な人間であるとわかる。

 

「私、真ちゃんはかっこいい方がいいと思うな……」

「えぇ~!絶対かわいい方だって〜!」

 

雪歩の呟きに真が反論する。どうやら両者の理想は食い違っている様子。真は先程言ったように自らの理想像を描いた上でそれに向かって進んでいる。

しかし、自分は何もない。どんな方向へ進めばいいのかわからない。他のアイドル達が持つ明確なビジョンが、幸哉にはないし、また先程の「焦り」のせいでそれすらも描けずにいる。

その事実を受けて俯いていると貴音が横に立っていた。

 

「どうかしたのですか」

 

顔はどこか心配そうに沈んでいる。後輩に下された不合格のことで彼女にも引っかかるところがあるのだろう。

幸哉の顔を覗き込んで言った。

 

「やはり、悩んでいるようですね」

「はい……」

 

返事を返し、貴音を見つめる。ワインのような色の瞳、白磁のような肌、そして波打つ髪が否が応でも存在を焼き付けてくる。

目を逸らさずに、口を開いた。

 

「あの、焦らないでパフォーマンスするってどうしたらいいんですか?」

 

それを聞いた貴音は渋い顔をしながら考え込んでいたが、やがて申し訳なさそうな表情をして言った。

 

「申し訳ございません……わたくしにも、わからないのです。他を聞いてみてはいかがでしょうか」

 

その言葉を聞いて、他のアイドルにも同様の質問を投げかける。すると皆が一様に同じような回答を出した。

 

 

「焦らない方法……難しい問題ね」

 

「そんなのあったらこっちが聞きたいわ」

 

「うーん、よくわかんないぞ……」

 

「同じく……、知りたいなぁ。そういうのあったらいいよね」

 

「私の方が聞きたいです……」

 

難色を示すメンバー達。皆が同じく回答に難儀する問題を抱えているようだった。

貴音は何かを探し始め、ラーメンが描かれ数枚つながった紙を取り出した。

 

「約束していた割引券です。お受け取りください」

「あ、ありがとうございます」

 

思わぬ所で約束は果たされた。

いきなり渡された品物にいつ食べに行こうか、そうして考えている間に片付けは終わった。次に使う人のために早急に部屋を退出し、廊下に出ると一人の男性社員と目が合った。

挨拶のために皆が会釈をした。しかしその男は

 

「……ふん」

 

と鼻を鳴らし、不愉快そうに顔を背けてそのまま去っていった。

 

「何だったんだろう?」

 

真が男の対応に違和感を感じて口を開いたように、皆も何故か不思議そうな顔をしていた。そもそもあの社員と自分は初対面であるはず。なのに、こちらの存在を嫌悪するような態度を見せていた。

不思議に思っていると、

 

「お揃いだね」

「うわ出た……」

 

目の前に霧生が現れ、響が小さく呟いた。雪歩が一歩後退(ずさ)り、伊織が眉根を寄せた。どれだけ信用されてないんだ、と心の中で呟く。そんな様子もお構いなしに霧生が話しかける。

 

「何をしていたのかな?それと、君に用があるんだ」

 

幸哉の方を向いて言う。

 

「はい」

「君に初めての仕事を出そう。それは……」

「それは?」

「宣材写真の撮影だ」

 

宣材写真とはタレントの宣伝のために使われる写真。つまり、自らの姿を大衆に知らしめること。その仕事を持って来たことに幸哉の心は引き締まった。

 

「それって、いつですか?」

 

質問に対して霧生は答える。

 

「明日の午前中に撮影スタジオで行う。取り敢えず、学校は欠席することになるね」

「明日!?」

 

いきなり告げられた日程。思えば初めての公演の際も本番の10日前というギリギリの日程で放り込まれた記憶がある。

スケジュール管理はどうなってるんだ。と喉から言葉が出かかるのを堪えていると、

 

「予定管理、きっちりやってくださいよ。中学生を振り回さないでください」

「申し訳ない。カメラマンの方の都合が合うのがその日程でね」

 

律子が代弁するように霧生に釘を刺すが、さらりと流すかのように謝罪の言葉を口にしていた。そんな態度の霧生に対して伊織が突っかかっていった。

 

「聞くわよ」

「何を?」

「質問させてもらうわ……

 

 

なんで男を採用したのよ!?」

 

彼女の詰問に対して霧生は悪びれる様子すらなく話を始めた。

 

「理由か。うーん、話せば長くなるが……それでも聞きたいというのなら……」

「そんな前置きいりません」

 

霧生の渋るような態度に、長くなりそうなのを察知した律子がきっぱりと止めた。

 

「採用した理由……それは、逆境を経験した人間だからだ」

「逆境?」

 

雪歩が疑問に思ったのか声を出した。

霧生は伊織を含め、皆の方向を向いて話し始めた。

 

 

「というわけだ。わかったかな?」

 

「うーん……やっぱり考えてることがわかんないぞ……」

 

話が終わる。響が飲み込めていないような表情をしていた。そういったところがアイドルのから一歩引かれている原因だろう。

横で伊織が溜息をついた。

 

「逆境……そうは見えないわよ。初対面からぼーっとして頼りなさそうだったもの」

「酷いなぁ」

 

肩をすくめて首を横に振る霧生。普段から、いや初対面からおどけた態度をとる人間であることがわかる。

 

「ということで、逆境を乗り越えていく力のある人間が成功すると思っている。諸君も胸に刻むように。あと幸哉くん、君は私と話をしようか」

 

「あっ、ちょっと!」

「待ちなさい!話は終わってないわ!」

 

止める律子と伊織を尻目に霧生はさっさと背を向けて去っていった。それを幸哉は追いかけていこうとする前に、アイドル達を前に頭を下げた。

 

「今日はありがとうございました。これからまた、よろしくお願いします」

「うん。行ってらっしゃい」

 

「一緒に頑張ろうね~」

「バイバーイ」

 

 

真や響にも挨拶をして別れ、霧生の後を追いかける。足音を聞き取ったのか、後ろを振り向いて幸哉を見やった。

 

「着換えているが、さっきまで何をしていたのかな?」

「テストされたんです。……けど半分不合格だって言われました」

「なるほど。その原因は?」

「焦ってる、って言われて。焦らずに動く方法ってありますか?」

 

幸哉の問いに霧生は即座に、きっぱりと答えてみせた。

 

「そんなものはない。それよりも……」

 

「『焦りを無くす』よりも『焦りの原因を探る』方向へシフトしよう。その方が壁にぶち当たることもないだろう」

 

「!」

 

確かに、それなら延々と悩むよりはまだ答えは見つけやすい。まず、原因を考えようとしていると、幸哉の方を向いて霧生が言った。

 

「まず、着換えてからの方がいいのではないかな?」

 

~~~

 

急いで着替えた部屋に戻り、周りに頭を下げつつ制服を着て霧生が待っている控室へと歩いていった。そこには霧生、そして事務員の美咲が立っており、茶を出してくれた。コップに注がれた緑茶を一口啜る。よく冷やされた茶が乾いた喉を潤し、先程の試験で疲弊した体に染み渡り、ふぅと息をついた所で霧生の質問が始まった。

 

「それでは原因を考えよう。まず、焦って失敗したのはどこかな?」

「最後の、実技試験です」

「なるほど。その時君はどう感じた?」

 

質問に対して、当時のことを思い出す。最初こそ本番でしていたことを再現できていたが、途中で泥に足を突っ込んだように動きがおかしくなったこと。実績のない自分は認めてもらわないといけない。それを伊織に見抜かれたこと。

それら全てを包み隠さず伝えると、霧生はうむ、と頷きながら幸哉の顔を見た。

 

「そういうことか。成果を出したくて焦っていたと」

「……はい」

「一つ言わせてもらおう。―成果なんてすぐに出るものじゃないんだ」

「はい?」

 

疑問の声をよそに、霧生が続ける。

 

「学校の定期試験を例としよう。受けた当日に点数が返ってくるわけじゃない。数日経ってから答案が返却されるだろう」

「そうですね……」

「青羽さんは衣装を作る時、すぐにできる訳じゃないでしょう?」

 

質問は美咲に向けられ、彼女は最初こそ面食らっていたが、話の内容を理解したのか共感するように答えた。

 

「はい!衣装作成といっても一つ一つの作業の積み重ねでできるんです。まずデザインから始まって、生地の選別、着る人のサイズを確かめる採寸だったり、裁断から縫ったりといろいろ作業があるからすぐに完成するわけではないですね」

「と、言っているがどうかな」

 

アイドルの関係者ではあるものの、分かりやすく飲み込みやすい説明に幸哉は納得したような声を出した。

 

「そうです、よね。すぐに結果が出るわけじゃない。皆練習して上手になるんですから。僕が間違っていたかもしれません」

 

その言葉を美咲が慌てて否定した。

 

「いやいや!今永くんが間違っているわけじゃないよ。確かに言うことは正しいと思う。けど、自分をあんまり下げちゃダメだと思います」

 

確かに今の台詞はそう取られても仕方がない。自分を低く見積っていることが表に出ている。その言葉を聞いて霧生は咳払いをしてこう言った。

 

「やはり、自己肯定感の低さも失敗の原因ではないか…そうも思えてしまう」

「どういうことですか?」

 

美咲の疑問に答えるかのように、霧生が口を開いた。

 

「彼の出自に原因があると思っている。大方、君を虐げていた叔父夫婦とやらが()り固まった成果主義の信奉者(しんぽうしゃ)だったんだろう。それで結果を出せずに虐待、心に傷を負い失敗、また虐待の負のループ……」

「えぇ~っ!?本当なんですか?」

「……はい」

「なんと…。そんなことがあったんですね……」

 

美咲の顔が曇る。というより先程から心を読まれたような言葉が口から出てくることに逆に怖さを感じていると、霧生が幸哉の目を見て言い放った。

 

「つまり言いたいことは一つ。成果はすぐに出ない。『果報は寝て待て』というものだ」

 

(ことわざ)を引用し、霧生が話を締めくくる。響などの他のアイドルが理解できないと言った彼の話が、自分にはストンと理解できる。自分以外の人間の読解力が低いと言いたいわけではないが、なんとなくそんな気がしていた。

 

「それでは、家にお帰ししよう。さあこっち」

 

霧生が手招きし、それについて行くように部屋を出る。美咲にも挨拶をして劇場の地下駐車場へと降りて行った。

 

「伊織たちにテストを指示したのって霧生さんですか?」

「いや、聞いてない。初耳だ」

「えぇ!?」

 

〜〜〜

 

翌日、撮影スタジオの椅子に幸哉は座っていた。ただし、いつもと違うのは撮影用の衣装に身を包み以前使ったサイドテールのウィッグを装着しており、女の子と見紛う姿をしていること。顔は不安げでスカートの裾を摘み、膝は震えている。撮影の準備を待っていると撮影に追従している霧生が声をかけた。

 

「不安そうだね」

「はい…。僕がアイドルなんて、うまくできるんでしょうか」

「成功させるのがプロデューサーの仕事であり、君にかかっている。今日はステージじゃない。肩の力を抜いて落ち着こう」

「そうですね……」

 

口ではそう言うものの、不安が拭い去れない。このまま時が過ぎ去ってくれないか、そう思った瞬間のことであった。

 

「あら~。どうかしましたか?」

「おお」

「?」

 

ゆったりとした声と共に妙齢の女性が姿を表した。服装は体のラインが可視化された藤色のワンピースにスカート、髪型は耳元で揃えられた短髪。たれ目の瞳に穏やかな表情。街で見たら二度見するほどの美人であった。

 

「あずささんも今日はここで撮影でしたね」

「はい、そうなんです〜。思ったより早く着いてプロデューサーさんを見かけたんです。あら?その女の子は……」

「あぁ、新人ですよ。先輩が来てくれたんだ。挨拶を」

「今永優希です。実は男で……」

「ああ~、あなたが新人の男の子なのね。三浦(みうら)あずさです~。よろしくお願いしますね~」

 

あずさが挨拶し、幸哉も頭を下げる。

おっとりした雰囲気を放つ彼女に、霧生が声をかける。

 

「緊張している新人に、アドバイスをお願いできますか?彼は焦りを感じているようでして」

 

そう言われたあずさは少しの間考え込んでいたが、やがて何かを思いついたのかゆっくりと語りかける。

 

「優希ちゃん、まずは深呼吸してみて」

「え、はい」

 

言われた通りに深呼吸をする。その間、あずさが背中をさすってくれていた。その顔は穏やかであり、心を安心させるようなものだった。

 

「どうかしら。少しは落ち着いた?」

「はい、少しは……」

「それならよかった♪今日が初めてのお仕事なのよね。だったらゆっくりでもいいから少しずつ、頑張りましょうね」

 

「……!」

 

あずさの言葉に、はっとさせられた。自分は成果を出すことに急いでいた。昨日の対談と今の言葉はまるで微々たる歩みでもいい。しかし確実に行けと背中を押すような意思を感じた。

 

「『ゆっくり急げ』。アウグストゥスも似たようなことを言っていますね」

「そうなんですね〜」

 

「今永さーん!撮影始めますよ!」

 

スタッフの呼ぶ声が聞こえる。それを受けて霧生が話しかけた。

 

「迷いは晴れたかい」

「前よりかは落ち着いてきました。うまくいくかわからないけど、行ってきます」

「それなら大丈夫そうね。それじゃあ……」

 

「「行ってらっしゃい」」

 

「はい!」

 

 

(一歩ずつ、前に進もう!)

 

例え一歩が小さくても、積み重ねればどんな道でも進んでいける。その思いを胸に二人に見送られ、スタッフの待つ撮影スタジオへと向かっていった。




次回は「冷たい宣告」というタイトルでお送りいたします。

あとがきにネタがないので次のお話も楽しみにお待ちください!
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