君と奏でる幸せの音   作:賀茂川泰伸

27 / 39
最近暑い日が続きますが読者の皆様においてはいかがお過ごしでしょうか。僕は暑さでへばりながら冷房ガンガンの部屋で書いております。

そんな猛暑すら飛びそうなほど冷ややかなタイトルの24話、スタートです。


第24話 冷たい宣告

初めての仕事として臨んだ宣材写真の撮影。結果、撮影は成功を納めた。あずさと霧生、二人の助言が効いたのか落ち着いて撮影に臨むことができ、担当したカメラマンからも「最高の一枚ができました!」と喜びの声をもらった。

着換えて同じく撮影を終えたあずさと共に昼食をとることになり、食べる物は幸哉の希望によってラーメンに決まった。昨日、貴音から渡された割引券の使える店へ行くことになった。

 

「いただきます」

 

手を合わせて、割り箸を割った。注文した品は醤油ラーメンのチャーハンセット。息を吹いて冷ましてから食べ始める。

 

「大成功だ!あずささん、助言ありがとうございます」

「いえいえ〜。成功してよかったですね〜」

「お二人のおかげですよ」

 

互いに礼を述べる霧生とあずさと幸哉。二人の目の前にもラーメンが置かれ霧生は塩ラーメン、あずさは野菜ラーメンを注文していた。

 

「ふふ…成功したようで何よりです」

 

何故か横にいる貴音。目の前にはもやしとチャーシューが麺も見えぬ分量で山のように聳え立っている。そんなラーメンがあるのか、とメニューに目を通すと「濃厚マシマシ無双」なる物があった。恐らく貴音が今食べている物と一緒であろう。

ラーメンは普通、カロリーが高い料理だ。しかもトッピングが山の如く載せられている。しかし貴音はそれに躊躇することなく啜っており、横目でチラチラともやしの山を見ていると貴音が話しかけてきた。

 

「気になるのですか?」

「はい、でも食べられるんですか?すごい大きさですけど」

「食べきれますよ。このお店のらーめんはどれも美味なものです。それに、わたくしの行きつけのお店の一つですから」

 

行きつけの一つ、ということは他にも贔屓(ひいき)の店があるということだろう。ラーメンを食べながらこのスタイルを維持していることと、それに対する探求心に感心しながらラーメンを啜っていると、あずさが幸哉の方を見た。

 

「本当によく食べるのね~。たくさん食べて元気に頑張りましょうね、優希ちゃん」

「はい。でもアイドルじゃないときは幸哉って呼んで欲しいです。そっちが本名なんで」

「ふふ♪よろしくね、幸哉くん」

 

そう言って微笑むあずさ。まるで弟を、ともすれば子供を見るような目であった。

 

「貴音さんはどうしてここに?」

「昨日と今日、休みをいただいたものですから。らーめんを食そうと考えておりましたところ、あなた方を見つけたのです」

 

 

ラーメンを食べながら談笑していた所で、突如着信音らしきものが近くで鳴った。

鳴ったのは霧生の携帯らしく、迷惑にならないように一旦店の外に出て行った。

 

 

「もしもし、ああ。私だ。彼はどこにいるかって?彼なら横でラーメン啜ってるよ。あずささんに貴音も一緒だ。何、昼から事務所に来い?了解」

〜〜

 

しばらくして、霧生が店内に帰って来た。その表情はいつものような余裕そうなものではなく、引き締まったものになっていた。

 

「幸哉くん!ゆっくりとはしていられないみたいだ」

「はい、どういうことですか?」

「事務所の同僚が会わせろと言うから昼から劇場に行こう。ラーメンは食べ終わったかな?」

「わかりました。……でもチャーハンがまだです」

「うん。だったらしっかり味わって食べるんだ。先方は私が引き留める」

「……はい」

 

チャーハンをかき込む幸哉を横に貴音が霧生に話しかけた。

 

 

「どうやら、ただならぬ事のようですね」

「そうなるな。君はあずささんのことを頼んだ」

「承知致しました」

 

貴音が心配そうに霧生の顔を見て頷く。その顔は今から起こりうることを憂慮している表情であった。

 

全員が食べ終わり、霧生が代表して代金を支払い、近所の駐車場に留めていた社用車に乗り込む。

ハンドルを握った霧生が小さな声で呟いた。

 

 

「嵐の前触れだな。いや、もう嵐の中か」

 

アクセルを踏まれた車が発進し、劇場への道筋を辿るように進んでいく。これから起こることに幸哉の胸中は大時化(おおしけ)の海のように大きくざわめいて、安定ならざる状態にあった。

 

 

~~~

 

心の安定とこれからの出来事の予想がつかないまま、劇場の駐車場に到着する。車を降りて劇場の内部に上がり、貴音とあずさ、二人と別れる。

 

「さあ、こっちだ」

 

手招きする霧生についていき、廊下を歩いていく。その中である人物とすれ違う。

 

「霧生さんに、幸哉くん、よね…。こんにちは……」

「音無さん!?どうしたんですか!」

 

その人物は音無小鳥、765プロに務める事務員の一人である。落ち着いた雰囲気を放つその顔は今はやつれて元気を無くしており、足取りもどこか覚束ない様子だ。質問に対して、彼女はか細い声で答えた。

 

「女装させた件、詰められてしまって……」

「相当に詰められたみたいですね。誰にですか?」

「氷室さんです……」

「そうか」

 

小鳥の言う通り、女装でアイドル活動を行うとなったのは彼女の発案である。それ故に氷室という人物から大目玉を食らったのだろう。やつれた顔から想像できる。

 

「取りあえず、彼に会う予定でして。それでは失礼」

「はい…。いってらっしゃい……」

 

小鳥に小さく頭を下げ、その場を後にする。

二人が去った後、小鳥は小さく呟く。

 

「ピヨォ……今の私は蛇に睨まれたか弱い雛鳥(ひなどり)……」

 

そんな言葉を残し、力なくふらふら歩きながら持ち場へと戻っていった。

 

 

 

廊下を歩いていると、青年が慌てた様子でこちらに近づいて来た。幸哉の家族である慶一の姿だった。

霧生は挨拶もせず、短く質問を投げかけた。

 

「彼の状況は?」

 

質問に対して慶一も短く、緊迫の面持ちで答えた。

 

「まだか、って言ってました」

 

その言葉を聞いて、幸哉は今から起こる事が良くない事と確信した。心臓の鼓動が徐々に早くなり体から汗が噴き出し始める。

 

「あの、相手が怒ってる、ってことですよね」

 

恐る恐る聞いてみると、霧生があっさりと、しかし深刻そうな表情で答えた。

 

「彼は人を怒鳴ることはしない。しかし、覚悟はしておいた方がいい」

 

言葉からはただならぬ事の大きさを感じさせる。

三人は廊下を進み、会議室の前に着いた。霧生が顎に手を当てて呟く。

 

「ここだね?」

「そうです。ここに来るように言われました」

 

慶一が案内するように扉を手で指した。壁を一つ隔てた先には、何が待っているのか。心拍数は上昇し、緊張感が空間ごと三人を支配する。

意を決したのか、霧生が扉をノックしてドアノブに手を掛けた。

会議室は静まり返っており、男が一人だけ座っている。黒い髪に鋭い目。その表情は険しく、まるで氷のような冷たさを放っていた。

 

「失礼。食事をしていたので少し出るのが遅れてしまったよ」

 

いつものような調子で言葉を口にする霧生。しかし目の前の男は表情を崩さず、低い声で彼に話しかける。

 

「お前の話はいい。それよりも連れて来たんだろうな?」

「この通りだ」

 

座るように促され、席に座る。男が口を開いた。

 

「まずは名乗らせてもらう。俺は氷室正宗(ひむろまさむね)。プロデュースと人事を兼務している」

「今永優希…幸哉です。よろしくお願いします」

「…今永。そうだな…。どこかで会ったことがあるか?」

 

一瞬、氷室の表情が揺らいだ気がするが、そんなことを気にする暇なく質問に答えた。

 

「はい。資料を届けに行った時、一度だけ」

「…。ならば今回呼んだ件は他でもない。今永の進退に関わる問題を話していくぞ」

 

進退に関わる。つまり、目の前の氷室は自分の行く末について話そうとしている。身構えながら、話に耳を傾ける。

 

「まず最初の質問だ。アイドルをどう考えている」

「ステージに立ってるところを見て、キラキラ光っててすごいなと思いました」

「……そんなものとしか、思っていないのか

 

回答に反応を示さない。それどころか、快く思っていないのか小さく呟いた。

 

「どうするつもりですか」

 

慶一が氷室に問うが、「黙っていろ」とばかりに視線を寄越す。あくまで邪魔されない一対一の対話を望んでいる様子だ。

正対して、会話に臨む。

 

「二つ目、どうして奴の誘いに乗った」

 

奴、とは霧生のことを指すのだろう。横にいる霧生に目を向けるがいつも通りの余裕、ともすればこの状況を楽しんでいるまであった。

 

「その問いは私が答えよう。アンサーとしては『彼が切り札になりうる』からだ」

「切り札?ふざけるのもいい加減にしろ。本当は何だ」

「本当の所、一目見て大成し得る人物と見た。それが理由だね。彼のライブを見ていないのかい?」

「確認した。それがどうしたと『ならば、彼をどうするつもりで呼んだ?』」

「その点だけ聞くべきだ。こうすれば三つも四つも質問をしなくて済む」

 

話を遮り、霧生が乱入する。氷室の表情が一段と厳しいものに変わる。何かを決した表情で、正面を向いた。

 

「いいだろう。結論から言ってやる。

 

 

正式デビューは凍結し、契約解除も視野に入れている」

 

「へ……!?」

 

場の空気は今、完全に凍りついた。

 

「契約…、解除…?」

「分かりやすく言えば今永の契約を打ち切る……それは解雇することになりうる」

「僕、クビになるんですか!?」

「そういうことだ」

「そんな……」

 

中学生でもわかるような言葉で、氷室は淡々と告げる。

いきなり解雇を言い渡され、顔が真っ青になる。頭の中も真っ白だ。そうして何も言えぬままでいると慶一と霧生の二人が氷室に向かって叫び、冷静に詰めかかった。

 

「いきなりクビなんて……不当解雇になるんじゃないですか!?」

「相河くんの言う通りだ。納得できる理由があるんだろう?」

 

そんな二人に対しても、氷室は眉一つ動かさずに答える。

 

「俺は『視野に入れている』と言った。事前告知なくクビにすることは不当解雇の理由になることくらい理解している。それよりもデビュー凍結の件だ」

 

話題を翻意するように氷室は言う。凍結、とは何のことなのか。話に耳を傾け始める。

 

「凍結って…、どういう意味ですか…?」

「例として活動の強制停止とメディア露出をさせないこと、そしてライブへの参加を自粛することだ」

 

恐る恐る尋ねると、氷室はさも当然といった表情で答える。突き放すような言い方に慶一が逆に冷静になっているのか、声のトーンを落として口を開いた。

 

「……あんまり過ぎますよ。どうしてそういうことが出来るんですか」

 

発言に何もわかっていないなとばかりに氷室は呆れたような顔をしている。

 

「まだ分からないのか?ここは女性アイドルの事務所だ。男だと露見すれば崩壊の危険は見えている。何より……」

 

そこまで言って、氷室は今日一番力のこもった声で言った。

 

「俺は噓、偽りをこの世で一番憎むべきものと考えている」

 

声のトーンを保ったまま、幸哉を見る、というよりは敵対するように睨んだまま言った。

 

「女装は本当の性別を隠すことだ。趣味の範疇(はんちゅう)ならいいが、アイドルというものは大多数の前に出る。そこでは多くのファンに噓をつくことになるんだぞ。今永、そのことをわかっているか?」

「……」

 

凄まじいプレッシャーに似た何かに萎縮しそうになる。

氷室の問いに対し、幸哉は何も言い返すことができなかった。全て、事実である。それを突きつけられたことでもはや抵抗することすらできなくなっていた。

 

〜〜〜

 

「なーんか、とんでもないこと聞いちゃったかも…。いや、こうしちゃいられないっ!ゆきやんがクビかもって伝えなきゃ!えっほ!えっほ!」

 

〜〜〜

 

「……」

 

何も言えなくなった幸哉を見て霧生が詰めかかった。

 

「もう言葉を発さないか…。君は彼の輝きを奪うためにここに来てるのか?」

「奪う?そういうことではなく、男女差別でもない。事務所を守るためだ。一人のために我儘(わがまま)を通せばキリがない。現に引っ搔き回したお前をプロデューサー職から解任せよという話まで出ているが」

 

視線は次に慶一へ向いた。

 

「相河に関しては、今永を引き取り育てているようだな」

「はい。今年の春から実家に住まわせています」

「極端な話になるが、家族が嘘吐き呼ばわりされることにどう思っている」

 

慶一は悲しそうな表情になりながら、質問に対して答える。

 

「それは…さすがに良くないことだと思います」

 

見ず知らずの人間だった幸哉ですら家族に入れる慶一のことである。弟のように面倒を見ている人間がそうなれば悲しくもなる。

そんな事情もお構いなしに、氷室が追い撃ちをかけた。

 

「その『良くないこと』をさせようとしている自覚はあるのか?」

 

「っ!」

 

鋭い一撃が、慶一の心を突き刺す。先日の公演まで正体を隠蔽し、自分も加担してアイドルたちに迷惑をかけたのは事実である。恐らく鈴葉をはじめとする女性プロデューサーも同じく詰められていただろう。

それでも、家族を守ろうとするために口を開いた。

 

「幸哉は噓つきなんかじゃないです!」

 

しかし、全く効果がなかったのか、表情を動かさないまま言葉が返ってきた。

 

「家族なら名誉を守るのが当然のことじゃないのか?」

「……っ、その通りです……」

 

反撃すら届かない。それどころか返す刀で斬られてしまった。言い返す気力も失せ、もはやこれまでと覚悟していた。

 

 

 

 

 

「氷室くぅん、さっきから酷いことしか言ってないなぁ」

 

 

 

「この期に及んで何だ…!」

 

霧生の煽るかのような口調に若干の苛立ちを見せる氷室。しかしそれに怯みすらせずに目線を向けて言った。

 

「彼は愛する家族が行方不明になり、頼れる人もいない状態だった。そんな人間を突き放すのか?」

 

その問いを毅然とした態度で返す氷室。

 

「だからといって、同情で会社は動かせない。慈善事業でやってるわけではないんだぞ」

 

しかしそれを躱すかのように、霧生が話を変えた。

彼の思考を読むことなど不可能に近いので、黙って言葉に耳を傾ける。

 

「ところで、彼の今永という名字……聞き覚えがあるね」

「どういうことだ……?」

 

「幸哉くん、君の()()()()()()()を教えてくれないか?」

 

 

何故この時にそんな問いをしたのか。しかし、考える余裕もない。

今まで沈黙を貫いていた幸哉が口を開いた。

 

 

英希です。お父さんの、名前……」

 

消え入りそうなほど小さな声。しかし、その言葉に形勢は大きく変わることになる。

 

「…なんだと!」

「そうだったか。納得がいったよ」

 

氷室と霧生、その二人は先程言った名前に大きく反応した。しかし慶一は聞こえなかったのか首を傾げて聞こうとするも遮られる。

 

「今、なんて」

「私と君は()()()に恩義があったはずだろう」

「……」

 

「彼を見捨てたと知ったら、あの人はどう思う?少し考え直してくれないか」

 

その言葉を聞いた氷室は何か引っかかりを覚えていたのか、少し俯いていた。何かを考えている様子に見える。

しかし、表情も語勢も硬いまま、幸哉に向き直ってこう告げた。

 

「……これからの方針を伝える。アイドルとしての契約は次の定期公演までとし、それ以降については話し合いを行う。そして、メディアへの出演を自粛する。それでいいな?」

 

「……わかりました。ありがとうございます」

 

依然、解雇されることに変わりはない。しかし、まだアイドルでいられることは保証されている。そのことに感謝して、頭を下げた。

 

「今日は定期公演の説明がある。しっかり聞いておくように」

「はい」

 

~~~

 

会議室を出た三人。氷室は話が終わるなりそのままどこかへと行ってしまった。

 

「解任……。さて、どうしたものか」

 

霧生が考えこむ素振りを見せる。それに対して慶一が長い息を吐いた。

 

「どうするって……俺達の責任でもあります。まずは公演のことを考えましょう」

「そうだねぇ……。幸哉くん。君はどうしたい?」

「へ?」

「君の考えを聞かせてくれ」

 

その問いにも俯いている。先程の出来事が尾を引いているようだ。しかし、二人は急かすことをせず、回答が出るのをゆっくりと待った。

数秒経った後、ぼそぼそと話し始めた。

 

「やります。僕が決めたんですから」

 

その言葉に慶一は幸哉の肩にポン、と手を置いた。

 

「そうか…。頑張ろうな、一緒に」

 

「……。はい」

 

声をあげて返事をする。しかし、これから更なる暗雲が立ち込めることを、幸哉と慶一、そして霧生はまだ知ることはない。




というわけで24話でした。第一章から散々存在を覗かせていた5人目のプロデューサー、氷室さんがついに登場です。
アイドルを名字呼びは学マスとアニメ版デレマスのPしかしてないし、あちらは名字+さん付けなのでこちらは名字呼び捨てと人にとっては威圧感を感じるかもしれません。
アイマス20周年の日という節目に重たい&ほぼアイドル要素ない話で申し訳ございませんでした。
多分、まだ明るい話にはならないと思いますがお付き合いよろしくお願いします。
後半の文章に不自然な空白がありますが、ここではネタバレになり得る内容なので字の色を透明に設定し伏せました。

今回もオリキャラのイメージ像をAIで作成しており、下の挿絵が今回登場した氷室さんのイメージ画となります。

【挿絵表示】


次回「意思のぶつかり合い」

暗いトンネルが続きますが、これからもよろしくお願いします。

※8/8追記 次話のサブタイトルを変更させていただきます。
活動報告にも同様の内容を載せております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。