君と奏でる幸せの音   作:賀茂川泰伸

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活動報告にもありますが、直前でタイトルを変更する運びとなりました。今回は前話と同じ時間軸でお話が進みます。
それでは第25話をどうぞ!


第25話 意思のぶつかり合い

「大変だよ~っ!聞いて聞いて~っ!!」

「どないしたん?そんな急いで」

「なんか大変そうだね」

 

騒がしい声が劇場の控室に響き渡る。声の主――茜が足音をバタバタ響かせて部屋に入って来たのだった。その様子からして大事なのは明らかだが、周りの反応はさらりとして、まるで興味が無さそうな様子だ。

それもそのはず、茜という人間は周りを巻き込み行動することが多く、自分で自分を可愛いと称するなど765プロの中でも特異性のある人物である。茜が行動を起こすと「ああ、いつものことか」と割と流されてしまいがちだが、それでも仲間から敬遠されたり、白い目で見られたりしないのは人徳があるからであろう。

 

「どうしたんだよ。またグッズでも作ったのか?」

 

そう言ったのは歩。先程の茜の慌てようを見てもあまり興味を示していない様子。というかこの場の全員がほぼ無関心で茜を見ていた。

 

「何があったかだけ聞かせてよ」

 

のり子が茜を見る。視線を受けた茜が待ってましたとばかりに口を開いた。

 

「それじゃあ言うね……

 

 

 

ゆきやんがね、クビになるかもしれないって!」

 

 

いきなりのとんでもない言葉。一瞬、しんとした静かな空気が流れる。

 

『えぇぇぇぇぇ!!?』

 

静かだった部屋は瞬時に騒がしくなった。先程まで慌ただしい雰囲気を出していた茜が一番落ち着いているまである。

大いに騒がしい部屋でサイドテールの少女―奈緒が叫ぶかのように言った。

 

「なんやてぇ!?幸哉がクビ?いやどういうことやねんて!?」

「ほんとだよ~!なんでそうなるの!?」

 

茶髪の派手な少女―恵美も驚いているのか目を丸くしている。

まるで状況が飲み込めていないのか、皆が騒ぎ立て落ち着きがない。そんな状況を打破するべく茜はリアクションを交えて落ち着かせようとアピールした。

 

「はいはい注目ちゅうもーく!落ち着いてもちついて~っ!」

「いや、茜が落ち着きぃや!」

 

奈緒が突っ込みを入れた。訳の分からない状態で混乱するこの場をなんとかおさめ、落ち着きを取り戻したところで話が始まった。

 

「ていうかクビってどういうこと?何も悪いことしてないよね」

 

のり子のいう通り、茜が言うゆきやん――今永幸哉は新人のアイドルであり、765プロ史上唯一の男性アイドルである。しかし、同僚に被害を及ぼしたり問題行動を起こしたわけではないので解雇されるとは考えにくく、理由が考えつかないのが現状である。

そもそも、そんな重大な事項をどこで知ったのか。奈緒が疑問を口にした。

 

「でもその話どこで聞いたん?大事な話やったら後で伝えに来るやろ?」

 

その言葉によくぞ聞いてくれたとばかりに茜が答えを述べた。

 

「そ・れ・はぁ……、会議室の前から聞こえてきたからでーす☆プロちゃんたちのお話が外まで聞こえたんだよね~」

「それって盗み聞きした…ってこと?茜のプロデューサーってまさか……」

 

歩の顔から血の気が引き始める。それには茜ではなく、のり子が答えた。

 

「氷室さん、だよね。アタシとか恵美もプロデュースしてる」

 

 

 

「……やっぱりかぁ~~っ!!」

 

「ああああ……」

 

名前を聞いた瞬間、奈緒の叫びが部屋に響き、歩が下を向いて頭を抱える。よく見ると二人の顔は元来の元気さや溌剌としたものは消え失せ、まるでホラー映画でも見たかのような恐怖に支配され色を失っていた。

 

「氷室さんから盗み聞きとか……、茜、自分が何したか分かってるんか!?」

 

怯えた表情のまま茜に問いかける奈緒。

しかし悪びれる様子すらなく、茜が抗議するように言った。

 

「えー盗み聞きとかひどーい!せっかく大事件をえっほえっほと伝えに来たのに~」

「そのネタ最近聞かないよね。なんか鳥が走ってるやつ」

「あの白いフクロウの?確かに見なくなったかも」

 

「ネタの話してる場合かぁ!どないすんねん、一大事やで!?」

 

奈緒が茜を見て言ったが、当の茜はさらりとしながら答えた。

 

「そうだよ?賢くて可愛い茜ちゃんは考えました。これからプロちゃんを見つけて抗議しに行きま~す!」

 

『え……?』

 

この時、控室の空気はぴしり、と音を立てるように凍りついてしまった。ニコニコしている茜。普段の明るい表情が消えて目を丸くするのり子と恵美。そして生気を無くしたようになり、目を見開いて汗が垂れ、顔面蒼白になり体まで震えている奈緒と歩。

茜の出した案に、周りのメンバーは言葉を失ってしまった。

 

「で、どうする?抗議行っちゃう?」

 

茜の問いに、奈緒はすぐさま答えた。

 

「ごめん用事思い出したわ!だから行かれへん!」

 

そう言って慌ただしく部屋を出て行ってしまった。嵐のように去っていく奈緒を見て歩も立ち上がり、

 

「こっちも用事あったかも…。ごめん、行けない!」

 

同じように急いで退出してしまった。

二人して、先程から何かに怯えているような態度をしていた。

部屋の中にはのり子、恵美、茜の三人が残された。その中で意を結したように口を開いた者がいた。

 

「行く。急にクビなんて言われても、本人が一番戸惑ってると思うし、誰が聞いても納得できないよ」

 

そう言ったのはのり子。恵美もそれに続き、手を挙げて決意した表情で自らの気持ちを述べた。

 

「友達がピンチなのに黙ってられないよ!アタシもついてくから!」

 

二人の同意を聞いて茜はうんうんと頷き、扉の前に立って手招きをして言った。

 

「それじゃ、行こうか!」

「うん!」

 

〜〜〜

「プロちゃん〜、プロちゃんはおらんかね〜?」

「うーん、どこだろう……。いつも忙しそうだし」

「誰か知ってないかな?」

 

廊下や部屋そんな会話をしながら廊下を歩く。向かいから歩いてくる人物――千鶴を見つけた。

 

「あら、誰かお探しですの?」

「千鶴!プロデューサー見なかった?」

「恵美のプロデューサー…といいますと氷室さんですわね。わたくしもお世話になっていますわ。でも何故探しているんですの?」

「それは……」

 

三人で千鶴に事情を伝える。話が進むにつれ、彼女の表情は段々驚きに染まっていった。話が終わってから、千鶴が真剣な表情をして言った。

 

「まぁ、そんなことが……。わかりましたわ。何もしていないのにクビは可哀想ですもの。協力させてくださいまし!」

「ありがとう!人数が多い方がいいよね。それじゃあ探しに行こうか!」

 

千鶴を加えた四人で氷室の捜索が続く。捜索のため近くの社員に聞いてみるとまだ話し合いをしているということだった。

暫し捜索を打ち切り、帰ってきたところで話をつけようと結論づけて廊下を歩き、掃除用具入れの前を横切った瞬間。

 

「あっ」

 

「ん?」

 

ゴン、と近くで音が鳴った。目の前の金属製の箱に注目が集まる。

 

「ねえ、今あれ揺れなかった?」

「き、気のせいですわ。人が入る物ではありませんわよ」

「開けたらプロちゃんがバーン!って出てくるんじゃないかな!?」

「いーや絶対ないよ。話し中って言ってたよね?大人がそんなとこ入る?」

 

ああだこうだと縦長の箱の前で議論を始める。そんな最中にまたガタン、と音が鳴った。今度は全員気付いたのか、用具入れに視線が集まる。

 

「どうする?中に人が入ってるかも……」

「なんか怖くなってきちゃった…!」

「開けちゃう?ねぇ開けちゃう!?」

「いけませんわ!不審者の可能性もありますのよ」

 

千鶴が止めに入る。確かに侵入者の可能性もあるが、廊下という誰もが通る場所と、昼間という時間帯を考えればその可能性は低い。

 

「よし、開けてみるよ。1.2.3で確認しよう」

 

のり子が提案した。それなら心の準備もつくだろう。

皆の了解を取り付けた所で用具入れを囲んで、カウントを始めた。

 

「いくよ!」

 

「1、2……」

 

「3!」

 

3、と数えたタイミングで恵美が用具入れに手をかけた。きい、と金属音を鳴らして扉が開く。その中に人間が入っているのが判明した。

 

「うわぁぁっ!」

「えっ、歩……!」

「見つかっちゃった……」

 

~~

 

なんと掃除用具入れに入っていたのは先程逃げ出した歩だった。よくも人が入ることを想定していない狭い場所に入れたなと皆が感心し、何故そこにいたのかの質問が始まった。

 

 

「で、見つかりたくないからそこに入ったんだ」

「そうだよ!あの人怖いじゃん!人は名字呼びだし、笑ってる所見たことないし、そんで怖いよ!」

 

先程から怖いとしか言っていない歩。氷室について話を始めた時からずっと顔面蒼白になっていた気がする。

 

「それでアタシ、どこかでやり過ごそうと思ったらここが目についてさ。意外と隠れやすいけど……」

 

話している途中、急にばつの悪そうな顔になる歩。

 

「出れなくなっちゃって……」

 

〜〜〜

 

 

「あー、服汚れてる……」

 

そう言って恵美は歩の服に付いた埃を払った。服の埃を払われた歩は申し訳なさそうにはは、と乾いた笑いをしていた。

 

四人がかりで歩を引き出すことに成功し、再度質問が始まる。

(いわ)く怖くて足がすくんでしまったこと。

皆で抗議しようとした際に奈緒も一緒に逃げようとしたこと。

逆らったらどうなるか分からないという忠告が彼女の口から出てきたのであった。

 

「なぁ、抗議に行くんだろ。それ……やめにしない?」

 

歩の言葉に、皆か言葉を失った。

 

「いや、何言ってるの!?」

「無理だよ……。そんなことしたら逆らったってことでみんなクビになっちゃう……」

「でも、友達のピンチなんだから。そんなこと言ってられないよ」

「そうは言っても…怖いよ。もっと他に…ほら、手紙で伝えるとかさ」

 

いじけて消極的な態度をとる歩。元気をなくし、ただ項垂れている。そんな彼女に、皆が言葉を失っていた。その中で恵美が、ゆっくりとした口調で歩の目を見て語りかけた。

 

「幸哉がクビになるっていうんだよ。分かってる?」

「分かってるよ。でも勇気が出ないんだ……。足が動かない……」

「でも今やらなかったら、一生後悔するかもしれないんだよ。それでもいいの?」

「よく、ない……」

 

恵美の語りかけに対し、顔を下に向けて答える。付け加えるように、千鶴が言った。

 

「今できることは、後悔しないように行動するだけですわ。プロデューサーは話の最中ですから、今は協力してくださる?」

 

「わかった……。やる。逃げない。行動してみる!」

 

歩の顔から元気が戻って来る。そして皆に頭を下げた。

 

「逃げてごめんなさい。力にはなれないかもだけど、精一杯頑張るよ!」

 

皆が頷く。歩の目は、光を取り戻しつつあった。

 

〜〜〜

 

「そういえば、奈緒ってさっきのメンバーの中だと一番幸哉と出会ってから長いよね」

「長い、といいますと?」

 

千鶴が疑問を呈する。それに対しては恵美が答えた。

 

「アタシとのり子、歩――それに未来とか百合子は幸哉がアイドルになる前から会ってたんだよね」

「なるほど〜。だったら奈緒やんももしかしたら協力してくれるかもね♪」

「弟みたいに可愛がっていましたものね」

 

そんな会話の最中、のり子が本題として歩に質問をした。

 

「奈緒がどこか行ったみたいだけど、何か知らない?」

「いや、知らないなあ。ずっと隠れててスマホも触れなかったし」

「だったら連絡するね!」

 

そう言って茜がメッセージを送った。ただ少し待っても、返事が返って来ない。

 

「あれ?電波繋がってないのかニャ?」

 

大袈裟に首をひねる茜。しかし、恵美から反論が入った。

 

「いいや、ここ電波はちゃんと飛ぶようになってるよ。もしかして既読無視?」

 

逃げのためにそこまでするか、と皆が唖然とする中、

 

「あれ…?みんな、そこで何を……」

 

(かす)かな声が、後ろから聞こえてきた。

それに気づいたのか、皆の視線が後ろへ向いており、その人物は「あの…えっと……」と小さく周りを見回している。恵美がその人物に話しかけた。

 

可憐(かれん)!ちょうどよかった!アタシたちのこと、手伝ってくれない?」

「ふえぇ!?」

 

いきなりの頼み事に黄金色の長髪の少女――可憐がびくっと体を震わせた。

 

〜〜〜

 

「というわけで、奈緒を探してるんだけど、知ってることがあったら教えてほしいんだ」

 

話を聞いた可憐は急に頼まれたことに少しの戸惑いを見せつつも、首を縦に振ってくれた。今度は可憐の質問が始まる。

 

「奈緒ちゃん…。さっき見かけたけど、何だか急いでいるみたいだったかも……」

「!」

 

皆の注目が可憐に集まる。間違いなく、行方を知っている。それならばと恵美がずいと近づいて可憐の手を握って言った。

 

「お願い……。一緒に奈緒を探して!」

「うっ、うん……!」

 

手を握られてこくこくと頷く可憐。捜索隊にもう一人、メンバーが加わった瞬間だった。

 

しばらくして、可憐が心当たりを皆に伝え始める。

 

「えっと、さっきの奈緒ちゃん、お昼にたこ焼き……食べてた?ソースのにおいがしたんです……」

「すごっ!においだけで当てるとか可憐って鼻が利くね」

 

ターゲットである奈緒の好物はたこ焼きであり、アイドルたちはたまに彼女からそれを振る舞われている。可憐の推測は更に続いていく。

 

「それでさっきからずっと、こっちの方からそのにおいがすーって漂ってるの……多分、こっちかな?」

「そう、じゃあ案内よろしくね」

 

可憐が指で方向を指し、彼女を先頭に恵美ら五人が後をついて行った。

 

~~~

 

「えーっと、ここ?」

「はい。出どころは多分、こっちの方なんです」

 

のり子の質問に可憐が答える。一行の姿はとある部屋の前にあった。部屋の扉の上には『更衣室』とあり、着換える部屋であることを示している。普通、異性の入って来られないエリアである。身を隠すならうってつけの場所だろう。

 

「ほんとに奈緒やんがここに!?それじゃ開けるね♪たのも~う!」

「茜!」

 

千鶴が咄嗟に声を飛ばすも、茜は聞いていないのかいきなり扉を開けた。更衣用のロッカーが立ち並ぶ中で一人の少女を見つける。

奈緒の姿だ。彼女も一行に気づいたのか、絞り出すような声で問いかけた。

 

 

「な、なんでここにおるん……?」

 

「可憐がにおいで気づいて、そこからずっとついて来たんだよ」

「どうせついて来いって言うんやろ!?わかってんねん!」

 

「え?急に何……」

 

のり子がそう言うと、奈緒は後退りしながら甲高い声で喚きはじめた。

 

「相手は氷室さんや。どうあがいたところで勝てるわけあらへん。皆クビになることはわかってるんやろ!?だったら無理や!私は行かへんで~~!!」

「でもね、みんなで協力すれば……」

 

茜が奈緒を見て言うも、彼女の勢いは止まらない。怒りをぶつけるが如く、相手に向かってまくし立てる。

 

「それはただの押しつけやろ!茜っていっっっっつもそうよな!毎度毎度人巻き込んでヘラヘラして!自分の行動に責任持てるんか?ええかげんにせえよホンマに!」

 

「奈緒!!」

 

「なんやねん!」

 

のり子が奈緒を一喝した。二人以外のメンバーがびくっと肩を震わせている。

 

「そっちこそいい加減にしなよ。自分を守ることしか考えてないじゃん」

「しょうがないやろ!自分の身は自分で守らな……!」

 

荒ぶっている奈緒とあくまでも冷静に対談しようとするのり子。

二つが対峙した。

 

「幸哉がピンチなんだよ。一緒に説得行こう?」

「んなこと言ったって……嫌なもんは嫌や!」

「何が嫌だと言うんですの?聞かせてくださいまし」

 

千鶴も説得に加わった。

今の奈緒はまるで我儘な子供のようである。どのように説得すべきか、皆が頭を悩ませていた。千鶴が穏やかに聞いたのに対し、奈緒は嫌がるような態度で答える。

 

「嫌やろ……だって氷室さんが相手やで。聞いてもらえるわけないやん……」

 

先程の荒れ具合から一変して、急にしおらしい態度で答えた。髪をぐしゃぐしゃに掻きむしって座り込み、目元から一筋の滴が垂れるのが見える。

 

「ピンチなんはわかってる。でも怖いねん……。私やと幸哉を助けられへん……」

 

「もう、どないすればええねん……」

 

顔を覆って、すすり泣く声が部屋に響きはじめる。それを慰めようと皆が近くに寄る。しかし、恵美だけは何かを考えているように見えた。しばらくして奈緒に近寄って横に座って肩に手を寄せて、こう言った。

 

「確かに怖いのはわかるよ。うちのプロデューサー厳しいもん。だけどね、ここで立ち上がらないと幸哉がいなくなっちゃうかもしれないんだよ。それとどっちが怖い?」

 

怒鳴らずに教え聞かせるような言い方。しかし奈緒は鼻をすすり、嗚咽しながら答えた。

 

「どっちも……」

 

更に、恵美は奈緒に問いかける。

 

「一緒に、アイドルやりたいよね?」

「やりたい……」

「だったらやることは一つでしょ♪さ、立てる?」

「……うん」

 

言葉を交わした後、奈緒はゆっくりと立ち上がって涙で濡れた顔をハンカチで拭って皆に向き直った。

 

「ごめんな……。私、間違ってたわ。行こか…!」

「よし!これで全員そろったね!」

 

のり子の声に、皆が目を合わせて合図する。

皆の思いは一つ。そんな雰囲気が漂っていた。

全員で更衣室を出たその時、一行の前から声がかかった。

 

 

「探したぞ。何をしている」

『!』

 

「……プロデューサー」

 

目の前に、探していた相手―氷室がいた。この場からすぐに逃れたいと思うような重圧を放ち、皆が何も言えずに縮こまっている。

恵美が声を漏らした。いつもの親愛的な雰囲気は消え、まっすぐに相手を見据えている。

そこに茜がいつもの調子で話しかけた。

 

「ねーねープロちゃん、ゆきやんがクビになるってほんと?」

「っ!」

 

歩が声にならない声を漏らし、可憐が額に冷や汗を浮かべながら一歩後ろに下がる。どう考えてもフレンドリーに話しかけていい相手ではない。それなのに晩御飯のメニューを聞くような気軽さで話しかけた茜に奈緒や千鶴、そして恵美以外のメンバーは肝を冷やしながら話を聞いていた。

氷室は重たい口を開き、小さく告げた。

 

「クビではない。次の定期公演まで契約をすることにした」

 

その答えに対して、恵美は質問を返した。

 

「それ終わったら、どうするつもりなの?」

「本人との話し合いで決める。お前達が首を突っ込む問題じゃない」

 

話し合い、と称して言葉を濁しているものの腹の中では首切りが決定していることがうっすらとだがわかる。そして全員を見回し、こう言った。

 

「何故今永を庇う」

「決まってるじゃん!友達だからだよ!」

「友達?」

 

のり子の反論に、氷室は小さく眉を動かした。そして、話を続ける。

 

「そう、友達。千鶴と可憐、茜以外はみんな幸哉がアイドルになる前から知ってるよ。だからアタシたちの意見を無視してクビにするのは違うと思うんだ。だからお願い、クビにするのだけはやめて!」

 

思いの丈をぶつける、心からの訴え。しかし、そんな言葉も、氷室にはまるで届く気配がない。全員を見据えて、冷え切った言葉を吐き捨てる。

 

「何も理解していないな。今永の処遇を緩めるつもりはない。もとより、お前達――アイドルを守るためだ」

 

「え……?」

 

相手の口から出た言葉に、皆が黙り込んでしまう。

氷室は奈緒を見て、質問を出した。

 

「横山」

「へぁ、はい!」

「友人が間違ったことをしようとしている時に、どのように行動するんだ」

 

質問に対して、奈緒は小さく悲鳴の混じった返事をしてしどろもどろになりながら返した。

 

「えと……止めると、思います……」

 

いつもの饒舌さが消え失せ、足がすくみ、言葉がうまく発せない様子。なんとか震えた声で、片言になりながら答えた。言い終わった本人は震えが止まらず、息を吸ったり吐いたりしている。

 

「ならば、止めるのが筋じゃないのか。趣味で女装をするのはいい。だがここは女性アイドルの事務所だ。男子の加入は許しがたい。続いて異性装についてだが、それは自らの性別を隠すことになる。俺は隠蔽、嘘といったものが嫌いなことは知っているはずだろう。今永はステージに立つことで性別を偽り活動する人間のレッテル貼りをされることになり、そして765プロは噓つきを雇う事務所と呼ばれてしまう。そうならない前に対処するまでだ」

 

「……!?」

 

本人が問題を起こしたわけでもないのに、自らの信条を理由に解雇しようとしている。それを理解しなかった者は、この場で誰一人いなかった。

 

「次の質問だ。お前達は、俺や他の人間に嘘をついたり隠し事をしたことはあるか」

 

誰しもが、小さな嘘の一つはあるはずだろう。しかし、この場で正直に話せば咎められることは目に見えている。

 

「……ありませんわ。噓をつくことはセレブの風上にも置けませんもの」

「あり…ません……」

「無い、です……」

「な、なななないよ?」

 

口々に否定した。しかし、それは本当に噓はない、というよりは追求を回避するためのものと感じられる。そんな状態に動じすらせず、氷室は相手を見据える。

 

「ねえ、どうしてもクビにするつもりなの?」

 

沈黙が流れる中、突然話を始めた人物がいた。声の主は恵美であり、真っ直ぐに氷室を見ている。

 

「事務所を守るためだ。お前達にとっては残念だが、致し方無い」

「ふぅん、そっか」

 

表情を変えずに答える。それに対して恵美は緊張が解けた穏やかな表情で言った。

 

 

「いつも真面目にサポートしてくれるからお仕事もうまくいってるんだ。本当にありがとう」

 

感謝の言葉を述べる彼女に、アイドル達の顔がぽかんとしたものに変わる。相手は罪の無い友人を排斥しようとする、言わば敵。何故感謝をしたのか、理解ができない。

しかし、恵美の表情は一瞬にして真剣なものに変わった。

 

「でも、プロデューサーのそういう所、今は嫌い」

 

「えっ……!」

 

氷室という逆らうことすら許されない存在に対して、はっきりとNOを突きつけた。のり子や千鶴、茜は顔に驚きが隠せなくなり、歩や奈緒、可憐は青ざめて震えている。

 

「いや、何を言うて……」

「そんなに事務所を守ることが大事?アタシ、今までの話でプロデューサーのこと、信じられなくなっちゃった」

 

「……っ!?」

 

氷室以外の全員が息を吞んだ。今この時、氷室に対して反旗を翻した瞬間だった。

 

「恵美!自分が何を言っているか分かっていますの!?」

 

千鶴が叫ぶように声をあげるも、恵美は止まらない。自らを支える人と敵対してでも友人を守ろうとしている。一方でその発言はたった一人で戦おうとしている――そんな気がしてならない。

 

「幸哉はアタシの友達だもん。大切な人を切り捨てようとする人についていきたいとは思えないよ。プロデューサーは会ったことないかもしれないけど、すっごくいい子なんだよ」

 

何か思うことがあったのか、今まで黙って聞いていた氷室が遂に口を開いた。その目は恵美を含め、アイドルを冷たく見据えていた。

 

「何故こうしてまで庇うか……理解に苦しむな。何がしたいんだ」

「だからさ、優希――幸哉とアイドルの活動がしたいの。お願い、ライブだけでいいから参加させてあげて」

 

恵美が懇願するように言った。

さあ、どうなるか。

アイドル達は息を吞んで、発言を待った。

 

 

「――いいだろう、ライブの参加だけだ。他の活動は許さない。それを伝えておくように」

「……いいよ」

「早くレッスンルームでライブの説明を受けて来い」

 

冷たい態度はそのまま、氷室は静かに去って行った。他のメンバーも緊張の糸が切れたのか、その場にへたり込む者もいた。

 

「これで、よかったんでしょうか……」

「ええんちゃうか……。あ〜怖かった……」

「彼が問題を起こしたわけではありませんのに……プロデューサーは何を考えているのでしょうか……」

 

口々に心配や安堵の言葉を発する中、恵美はただ息をついてぼうっと前を見ている。彼女の様子を見た茜が声をかけた。

 

「恵美ちゃんすごいね~。ああまで言うなんて思わなかったよ」

「うん。急にクビなんて納得いかなかったもん。茜こそ抗議しようとしてたでしょ?」

「流石に茜ちゃんがカワイイとしても一人じゃあのプロちゃんには勝てないもんね~。みんながいてよかったよ!」

 

「え、それって……」

 

のり子が疑問を口にする中、茜が声高に宣言した。

 

「決めたっ!茜ちゃんはゆきやんのクビを無くさせます!そのためにプロちゃんと戦う……レジスタンスを作るよ!」

 

「え?」

 

この場の全員が疑問に思っている様子だったが、茜は意にも介さずに続ける。

 

「一人じゃあの大魔王で独裁者なプロちゃんには勝てないよ。だから、みんなで協力してゆきやんを守ってクビも取り消してもらおうというわけなんだ☆」

「つまり、まだ協力して……ってことなんか?」

「そうだよ?でなきゃ勝てないよ。そうだよね?」

「うぇ〜……」

 

歩が苦い顔をした。怖い思いをしたのにまだ付き合わされるのか、と言いたげであった。それは奈緒に関しても同じ表情をしている。

そこに可憐が話に入った。

 

「あの……そろそろ行かないと、ライブのお話が……」

 

彼女の言葉と同時に、皆が近くの時計に目を遣った。時計を見ると同時に、はっとなったように足を進め始める。

 

「ヤバいよ!早く行かなきゃ!」

「うん!レジスタンスに関しては後でお話しようね♪」

「まだ参加するなんて言うてへんで!?」

「そうだよ~!」

「話してる場合じゃないよ!急いでっ!」

「皆、行きますわよ!」

 

けたたましい足音を発生させながら、一行は慌ただしく廊下を進んでいった。




いかがでしたでしょうか。本来の予定だったら次のお話の最初の部分が最後に入ってくるはずでしたが、予想以上に長い話になってしまったのでやむなく変更した次第です。
サブタイトルの要素が最後にちょっとだけ(次話の最初の部分)というのもアレだしなって思いました。

~ここから関係ない話~

ミリシタのSFY(恒常)ガチャのSSRで幼少期の姿がまだ出てないのは

・千早
・美希
・未来
・歩
・莉緒

ではないかなと。来月あたり誰が恒常に出るのか楽しみになってきますね。


次回こそ「最悪の組み合わせ」というタイトルでお送りいたします。
それでは、次のお話も楽しみにお待ちください!
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