ミリシタに地雷系衣装増えて欲しい。
というわけでタイトルが不穏な31話です。
「お集まりいただいてありがとう。それでは、今我が社で起きていることについて話し合いを始めましょうか」
「〜〜っ!」
「……」
765プロの事務所。そこには七人の人間が机を囲んで座っていた。
プロデューサーたる霧生を中心に慶一、優愛、鈴葉といったメンバーにこのみ、律子といったアイドルも座っていた。
しかし、大人だけで集まったせいか雰囲気があまり明るくない。
「どういうことだ?まさか全員で今永を加入させろとでもいうのか」
「ちーがーいーまーす〜。別に呼ぶつもりなんてなかったんですけどぉ!?」
「落ち着きなさい」
「やめてくださいよ。緊急事態なんですから」
「えーと、その……」
「やはり仲が悪いか。これは難儀しそうな予感がする」
「……はぁ」
慶一はため息をついた。その理由は明白。
目の前で七人目の参加者である氷室と鈴葉が睨み合い、律子とこのみがそれを止めようとし、発起人たる霧生は傍観しており、優愛はわたわたと慌てふためいてた。
会議すると言いながら全く、足並みが揃っていなかったのである。
そんな中で睨み合う二人が突然慶一に視線を向けた。
「……ねえけーさん」
「相河」
「はい、なんでしょう……」
返事をした瞬間、鈴葉と氷室の声が同時に返ってきた。
「なんで氷室先輩を呼ぶんですか!?」
「何故俺を呼んだ」
「あぁ……」
思わず天井を仰ぎ見る。協力し合うはずどころか、鈴葉と氷室の間にバチバチと火花が飛んでいる幻が見える。
(もう、どうすればいいんだ)
慶一は早くもこの場から逃げ出したい衝動に駆られていた。何故プロデューサー陣が、そしてアイドルであるはずのこのみと律子の姿があるのか。
話は数日前に遡っていく。
~~~
「何、パワハラ?」
「はい。最近その被害を受けている社員の人を見かけました。他部署の人でしたけど見過ごすなんてできないと思います」
「なるほど……これは由々しき事態だ。うちの部署でもできることがあるかもしれないな」
「そうですか……」
「ならばパワハラの事実を知っている者を呼んでくれないか。社員、所属タレントは問わない」
「……わかりました」
~~~
先日霧生に会った時「人を集めてくれ」と言われ場を設けたものの、アイドルであるはずの律子とこのみ、そしてパワハラの事実を知らない氷室までもが参加していた。
参加に関する疑問はそちらも同じだったようで、氷室がアイドル二人を見据える。
「霧生からパワハラが起きたというが、アイドルの秋月と馬場は何故知っている?」
「それに関しては私達がそこにいる鈴葉さんから聞いたことで知りました」
「私に関しても元社会人として見過ごせない事態と思ったわ。出来ることから協力したいと考えています」
二人は極めて冷静な口調で理由を述べる。律子は業務の補助が、このみは一般企業で働いた経験のある人間である。アイドルという立場にあってもなお、そういったハラスメントには感ずるところがあるのだろう。
氷室はこれ以上聞くことはなく、いつものように淡々とした口調で口を開く。
「パワハラの被害があったというのはどこの課だ。それを明らかにしなければ前には進めないぞ。まさかアイドルにあったわけじゃないだろうな」
「それ!今現在やってることですよね、アイドルに似たようなこと!」
「何がだ」
「優希ですよ!何も悪いことしてないのにクビにするとかなんでそんなこと」
「前言ったように本人の同意の上で参加させている。第一、説明を聞いていなかったのか?」
「だとしても!」
「あー……相変わらず対立するわね……」
「ある程度自由にやらせる鈴葉さんと厳格な管理主義の氷室さんじゃ水と油って感じですよね……」
氷室の発言に鈴葉が食いついた。様相からして二人が以前から対立関係にあったことが容易に読み取れる。横でやり取りを見ているこのみと律子がため息をつく。
協力し合うために集合したはずが、何故か対立するという異常な状況であった。
しかし、こんな状況を慶一が黙っていられるはずがなかった。ぐっと飲み込み拳を握ってこの場の全員に聞こえるように声をあげる。
「すみません。一つ、いいですか」
『?』
全員の注目が慶一に行った。複数の視線を受け、この場の全員に聞こえるような大きな声で話を始める。
「俺だって落ち着いてるわけじゃないです。むしろ混乱してます。だけど会社の危機ですから、こんな時に意見ぶつけて争ってもしょうがないでしょう。今ここにいるメンバーで協力し合うことが大切だと思います」
「……」
「姫柊と氷室さんの方針の違いもわかります。人はそれぞれ考えも好きなものも違う。いがみ合うのも仕方ありません。けれど今は力を合わせて問題に立ち向かうべきなんじゃないですか?」
しんと静まり返る部屋。雄弁に語る慶一の言葉は的を射ており反論できる余地がない。皆そのことを理解しているのか誰も口を挟もうとしなかった。対立していた二人のうち鈴葉は氷室から目をそらし、氷室もまた黙って話に耳を傾けていた。
「相河くんの言う通りだ。我々だけでも団結し、現在社を脅かす問題に対処する必要がある」
霧生はそう言いながら事務室のホワイトボードに「ハラスメントの概要」「被害状況」「摘発するためには」などとペンで文字を並べ立てる。その様子をこの場にいたメンバーが呆然と見ているのを横目に書き終わり、口を開いた。
「さて、状況を整理していこう。姫柊さん、被害に遭った人について聞かせてくれないか」
「あー…はい。広報課の若い子でしたね。フラフラしてて今にも倒れそうでした」
「体調不良をきたすほどの業務か……それで?」
「で、そこの上司に言いましたけど早く帰ってくれーみたいな、めんどくさそうな対応されましたね」
「ふうむ……その事実を天宮さんや律子、馬場さんが周知していると」
「その通りですね。彼女から聞かされました」
鈴葉やこのみの発言を聞き、霧生はペンを走らせる。一連の発言にこの場にいるメンバーの表情は曇っており、初めて聞いたであろう氷室ですら険しい形相でホワイトボードに目を向けていた。
現にふざけたり、話を聞き流す者は一人もいない。皆真剣に話の内容を聞こうとしている。
「というように最初は小さな出来事であろうと、放っておけば大事になる……そんなことを日頃から言ってる人がいる」
「……!」
何気なく霧生が発した発言。しかし、それに動揺したかのような態度をとる者がいた。その人物は発言した霧生を見据え、口を開いた。
「あぁ、そうだ。問題を野放しにしておくわけにはいかない…。今、この事務所では二つの問題を抱えている。一つはパワハラ、二つ目には」
「新入りの彼――幸哉くんのことだな?」
「!…今、なぜそれが出てくる」
「どうしてかそんな気がするんだ。君含め排斥派の社員が追い出そうとしていることを、ね」
霧生は氷室を見てさらりと言った。二人以外のメンバーは発せられた「排斥」という言葉にピンと来たようで視線が氷室に向けられる。
「排斥…氷室さんあなたまさか……」
「追い出そうとしてる、ってこと……!?」
アイドル二人の表情が一瞬にして硬くなる。自分達の仲間を追い出そうとしている人物が、味方であるプロデューサー達の中の一人だったことに驚きを隠せない様子だった。
しかし、氷室は表情を変えるどころか何がおかしい、とばかりにこの場の全員を見据えている。
「残せ、というのは個人的な感情で動いているだけだ。会社全体への影響を考えたうえで俺はこう判断した」
「だったら彼をサポートする道もあったじゃないですか!?」
冷徹な物言いをするのに対して、律子が食いつく。しかしながら氷室は鉄仮面を崩さずにこう言った。
「秋月。アイドルとして後輩を守りたいことは分かる。だが、会社全体が損害を被ることになるリスクがあるなら排除するのが当然、というのが定石だろう」
「……っ、言いたいこともわかりますよ。だからってトカゲの尻尾切りみたいなことする必要ありますか?」
「私も律子ちゃんと同意見。氷室さん、貴方の考えは少しやりすぎだと思っています」
「何を言うか……」
場の空気が若干険悪になりつつあるその時、扉が開いて穏やかな声がこの場の全員の耳に届いた。
「おお、皆集まって何を話しているのかな」
「社長……」
~~~
「むむむ……」
劇場の廊下、模造紙の貼られている前で茜が難しい顔をしながら呟く。その後ろには亜美と真美、そして恵美の姿があった。
「うーん、最近どうも賛成のノビが悪いよね~」
「それどころか反対が増えてきてない?」
茜と恵美が呟く。目の前の模造紙にはペンで「今永優希さんを残すかどうか」と書かれて「賛成」と「反対」の区切りがされており、それら二つの中には丸いシールが無造作に貼られている。両者の投票数はほぼ同じ、どころか若干反対の票が上回っていた。
「もしかしてだけどさ、賛成なのって亜美たちだけなのかな~……」
「つむりんも『人それぞれ意見がある』って言ってたもんね……」
亜美がぼそりと呟き、彼女と姉妹である真美も心配な面持ちで紙に目を向ける。自分達のやって来たことを否定されかけていると感じているのだろう。
暗い雰囲気が立ち込める中、恵美が口を開いた。
「アタシたちが賛成しても他の人はそうじゃないのかも。アイドルより社員の人の方が多いもんね」
彼女の言う通り、765プロに属するのは52人のアイドルだけではなく彼女達を支えるスタッフ、社員などが在籍する。仮にアイドル全員が賛成に票を入れていても、それを上回る投票者達の票数で負ける可能性がある。
何かを決める選挙ではなく一つの意見の調査であるものの、現在の結果に納得がいってないのか茜が声をあげる。
「ええい、こんなところであきらめる茜ちゃんじゃないぞ!きっと何かウラがあるはず。亜美ちゃん真美ちゃん!二人には何かあったら報告する係を任せるね!」
「おっけー!」
「あいあいさー♪」
などと盛り上がる二人を尻目に、恵美は俯いていた。
(悪い予感がする……)
「うん、頑張ってみようか。もしかしたら賛成してくれるかもしれないし」
そんなことを考えていても、盛り上がりに水を差すことは彼女の性格上できない。曖昧に笑って返事することしか恵美にはできなかった。
〜〜〜
会議がお開きになって以降、慶一は劇場に戻り廊下を歩いていた。傍には優愛が付いている。その姿は同僚――というよりも優愛の背が成人女性にしては低い方であるため初見で分かりづらい様子だった。
「見て、あの二人……」
「大っぴらに賛成してたのすごいな……どうしたいんだろう」
そんな二人を見て周りの人間が聞こえない大きさでひそひそと話をする。
慶一も状況を理解しているのか若干引き攣った表情で周りを見回す。
あの会議以降、自分達を見る目は大きく変わってしまった。プロデュース課を名乗る度に驚いた表情であったり一歩引いたような対応をされるのである。
「居心地悪いな……」
人がまばらになったところで慶一が呟いた。言葉が宙へと消えていく。
「はい…。正直に意見しただけなのに言われるのは辛いですね」
「こんなので他の社員に協力してもらえるのか……?霧生さんが協力者を増やせって言っても」
「相河さんなら大丈夫ですよ。正直に言えばいいと思います!……私も避けられちゃってるけど」
その様子を見た優愛も同様に感想を述べる。現在はパワハラの証拠を探るため、協力者を探している段階であるが、先程の噂話や過去の所業もあってか人当たりの良い彼女でさえ避けられている状況であった。
そんな中、二人の目に壁に貼られた紙が見えた。慶一が紙に書かれた文字を読み上げる。
「なんだ?『今永優希さんを残すかどうか』……」
貼り紙に優愛が目を向け、何か確信したのか口を開いた。
「これ、百合子ちゃんの字……。あの子たちが……」
「わかるんですね」
「はい。とっても大切な担当の子ですから。アイドルのみんなも、私たちと同じ考えなんだなぁって」
優愛の言葉に、感心を抱いた。
紙にペン書きの文字、そして票のようにシールが貼られている。あまり金額をかけずとも用意できる品で作られていたが、慶一にはそれがとても素晴らしい物に見えた。
現に「反対」の枠にこそ票が多いが、それでもアイドル達が自ら考え、行動しているのである。
――子供達が必死に戦おうとしているんだ。俺もやらないといけない。
「よし、やるぞ!」
慶一は気合を入れ直し、優愛と共にその場を離れ目的のために動き始めた。
~~~
「さぁ、どうしましょうか。聞き込みなりしてみる?」
「そーですね」
事務所の近所にあるレストランの中で二人――このみと鈴葉が話し合っている。テーブルには水入りのコップ二つ、食べかけのハンバーグプレート、カルボナーラといった料理が並んでいる。これだけ見れば楽しいランチタイムと見れるが、このみの表情は全く楽しそうではなかった。
鈴葉がナイフで挽肉の塊を切り取り、口に運んで頬張る。
「うーん、最高。やっぱり肉でしょ…うま」
「人の話聞いてる?」
「聞いてまーす。あとパスタ冷めますって。腹が減ってはなんとかでしょ?」
「正論言われるとか明日雨降るわね」
このみも麺にクリームを絡ませ、フォークでくるくる巻いて食べる。鈴葉が適当を言ってこのみが指摘する。いつもの光景であった。
そんなやりとりをしている中、二人のうち、このみの後ろの席にポロシャツを着た男が座った。男達は腰を下ろして会話を始める。
「いやあ、最近の我が社は荒れに荒れていますね」
「本当ですよ。厄介事を持ち込まれてしまった……」
「新人の扱い、と言われても反対するしかない。女しかいない中に男を入れるなんて」
「ねえ、今の人たちって……」
「うちの社員だ。よく見たら反対してた人らじゃん」
どうやら後ろの男と鈴葉達には面識があった様子。会話の内容には、「新人の男」「反対」と聞き覚えのある単語が並んでいる。
鈴葉に気付いていないのか、話を続けている。
「やば、ちょっと
「盗聴になるわよ?」
「いーです。後で社長に突き出す予定なんで。何もなかったら消しますよ」
このみの制止を振り切り、鈴葉はレコーダーのアプリを起動させ近くに座っている男達の方へ端末を向ける。
録音されているとはつゆ知らず、男達は話を続ける。
「全く、ただでさえアイドルがしゃしゃり出て残せとうるさいというのに」
「本当ですよ。メディアの前で愛想良くするだけで金が舞い込んでくるんですから。余計なことをするなと言いたい」
「アイドルは金の成る木みたいなものです。しかしあの今永とかいう子供は別ですね。霧生さんが勝手に拾ってきただけの人物ですが、全くもって価値がなさそうで……」
「その通り。自殺をやらかすとは堪え性がない。大成するビジョンが見えないな」
「金の卵どころか腐った
「はぁ…!?」
鈴葉が男達に聞こえないほどの声を漏らす。今の発言はアイドルを侮辱し、
このみに関しても自分達の努力を否定され、軽んずるような発言に不快感を示している。
苦々しい顔のままカルボナーラを食べきりこのみが立ち上がった。
「……行きましょう」
「え?待って!」
声を出して呼び止めたものの止まる気配がない。
さっさとレジに向かう彼女を追うべく、鈴葉は残っているハンバーグに手をつけ始めた。
「ん?今のは……」
「気のせいでしょう」
男二人は一瞬二人に視線を向けたが、何もなかったと断定して会話を再開していた。
~~~
「……っ!」
「素晴らしいわ北沢さん!練習の成果が出てるわね」
「ありがとうございます」
ポーズを決め、曲が終わった。講師からの評価に礼を述べて頭を下げる。
だが、志保の表情は納得がいっていない様子。もっと上達しなければならないという思いが顔から読み取れる。
その後、講師がレッスン終了を告げて皆が帰る時間になり、未来がスマホを手にして言った。
「あ、幸哉くん次のレッスンから帰ってくるって!」
現在の公演ではユニットごとに分かれて練習を行っているが、先程講師の称賛を受けた志保も入るユニットに幸哉という唯一男子のメンバーがいる。しかし、事情があって一時的に練習から外れていたのである。
「いきなり練習を離れるって言ってたけど、何をしてるのかしら」
「最近あんまり連絡ないもんね」
そう言って静香と翼が画面を覗き込む。トーク履歴が表示されている。ユニットは連携が肝心。にも関わらず単独で練習しているのは何故か。
静香はふと、その場にいる千早を見た。彼女は微笑みながら答える。
「きっと上手くなって帰ってくるわ。提案したのは私だもの」
「どういうことですか?」
未来の問いに千早が返した。
「彼はユニットの練習についていけてなくて責任を感じて泣くほど悩んでいたの。そのまま練習を続けるより、個人で力を付けさせるのがいいと思ったのよ」
「なるほど……」
穏やかな表情から何としても鍛えさせる、という思いが読み取れる。それは厳しく指導するというより、成長して羽ばたいて欲しいという意思を感じた。
次に千早が目を向けたのは志保だった。
「志保」
「なんですか?私今から弟の迎えに……」
「あなた、最近休みはとれてるかしら。どこか疲れてるように見えてしまって……」
振り返った志保の話を遮る。相手を心配するような調子で千早は問いかけた。
現に志保は肩で息をして、額に汗が浮かび顔が上気している。また切羽詰まった表情が出ており楽しいと思えるような状態でないことは明らかである。
そんな様子に周りの注目が志保に集まる。可奈が問いかけようと近づいた。
「いつもずーっと頑張ってるよね……。ご飯食べてる?練習もお家のこともしっかりしてるの、えらいね。でも休むのも大事だと思うよ……」
「……そうね」
わかってる、とばかりに小さく返事をするが表情は依然として変わらない。それどころではないとばかりに立ち去ろうとすると翼が話しかけた。
「志保ちゃん」
「……何よ」
「幸哉くんのこと、どう思ってるの?同じユニットだけど……」
「!」
翼の一言に、志保が大きく目を見開いている。はっとしながらこの場にいるメンバーを見据えて動揺しているような表情をしていた。
その様を見て未来達が心配そうに近づいてくる。
「何かあったの?」
「この間もぼーっとしてたわよ。どうしちゃったの、本当に」
「だよね……最近の志保ちゃん、何か……」
「だから何……。私、用事があるから」
「待って」
などといった言葉を聞いて部屋を出ようとしたその時、千早が呼び止めた。先輩の言葉は流石に無視出来なかったのか志保が振り向き、彼女の方を見た。
「志保」
「……」
「あなたは幸哉――彼をどう思って、何を感じているのかしら。もしできるなら、相談に乗るわ」
「……!」
千早が提案を出すも、志保は黙ったまま俯き、頭を下げた。
「……すみません。失礼しました」
そのまま志保が部屋を出る。何も聞けずじまいに終わった千早は呼び止めることなく見送り、他のアイドルもまた背を向けて去る彼女を呆然と見ていた。
~~~
「やはり、奴の言う通りだったか……」
マンションの一室。そこで氷室はノートパソコンを広げながら呟く。画面には様々なタグ付けがされたフォルダが並んでいる。霧生曰く、協力者を集めて潜入した時に録音されたものらしい。
その中の一つを開き、アイコンをクリックする。瞬間、音声が流れ始めた。
男、それも中年のものであろう低い声が再生される。
「部長……」
どうやら自分が兼務している人事部の上司の声だった。流れてくる音声に耳を傾ける。
『いやあ、最近のアイドルの行動が目に余りますねぇ。何しろ一致団結して新人の排斥を止めようとしているみたいですよ』
『我々のサポートがなければ何も分からないただの子供だ。そんな連中を操ることなど
『現に擁護している者たちはいかがいたしましょう』
『なぁに。右も左も分からない奴らなど潰してしまえばいい。俺の力を使えば反対する連中なんてどうとでもなるんだからな』
『新人の今永はどう処遇すれば……』
男達の話が続く。
『問題を起こす素振りすらないから追い出すのに時間がかかりそうで厄介だ。氷室に関しても反対していたのに動こうとしない』
『部長、彼をアイドルがいたく気に入っているようですが』
次に出てきた言葉に、氷室は耳を疑った。
『ならば、彼女達の活動を妨害してしまえばいい。手始めに野々原茜と彼女に付随する人が意見調査しているようだ』
『そうです、相手は
アイドルを支えることが責務のはずの社員の言動に愕然としたその後、別のフォルダを開く。そこには比較的若い社員の悲鳴のような謝罪と上司の怒鳴り声が記録されていた。耳を塞ぎたくなる人格否定や罵倒、涙混じりの声が再生される。
「なんだ、これは……!」
これらの音声を再生し終え、憤りで拳を握る。自分はこのようなことを見過ごそうとしてしまったのか。このような案件、一人では到底裁ききれない。
先日会合した際に慶一から言われたあの言葉を思い出す。
『今は力を合わせて問題に立ち向かうべきなんじゃないですか?』
確かに、主義主張に関係なく力を合わせて問題に立ち向かう時だ。
そして恵美、ジュリアから言われた一言が脳裏に浮かぶ。
『大切な人を切り捨てようとする人についていきたいとは思えないよ』
『人を大切にできないで何がプロデューサーだよ!』
しかし、今の自分は恵美やのり子、ジュリアといったメンバーと意見の食い違いで疎遠になっている。仕事の話以外、全くと言っていいほど話ができずにいた。
自分がやるべきは、何か。
氷室は課された問いを解決するべく、パソコンの画面に目を向け始めた。
暗い話しか書いてないな、ということで31話です。
今作では765プロに結構多くの社員が出て来ますが、原作にはそういった描写があまり多くない故に裏方の描写を入れていこうと思います。現時点で裏方が足を引っ張る構図になってしまっていますが。
それでは次回もお楽しみに。