君と奏でる幸せの音   作:賀茂川泰伸

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4章が始まる前に少しお話を挟みます。前の章では主人公・幸哉の進退がかかる様を描いてきましたが、一方で解決しなければいけないことがあります。足引っ張った悪玉社員たちに対する制裁ですね。
これ書かないと個人的にスッキリしないので書いていきます。
それではどうぞ。


第4章 守りたいもののために
幕間 後始末


 765プロ劇場、その中にある会議室では十をゆうに超える人数が集合していた。一番奥に座る男性――社長である高木順二郎が咳払いをして周りに座る社員を見回し、ゆっくりと口を開いた。

 

「これより『社内におけるパワーハラスメント及び所属タレントの名誉やそれに対する嫌がらせを行ったこと』に対する会議を始める。だ。公演から間もない中呼び出してすまないね」

 

 誰にでも分かるような言葉で議題を告げると、社員達の表情が一瞬で引き締まった。パワーハラスメント、その言葉が表す意味は社員を脅かし、萎縮させて業務に支障をきたすような重大な出来事が起きたことを意味していた。会議室内が緊張感と重苦しさに包まれる。

 

「それでは、まず起きた事例と社内で上がった報告について解説をさせていただきます」

 

 慶一が礼をして立ち上がり、説明を始める。真剣に説明をする中室内は静まり返り、冷やかしや野次といったものは飛んでいない。朗々とした声で説明を述べ、席に座る参加者全員を眺めて言った。

 

「今の説明で、ご不明な点がございましたら挙手をお願いします」

「……」

「っ、どうぞ」

 

 言葉を聞いて手を挙げたのは中年の男性社員。しかしその顔には眉間に深く皺が寄り、どこか発言を不快に思っている様子であった。

 

「相河君、だったな。ハラスメントの件やアイドルに対する侮辱といい、君はなぜありもしない言い掛かりをするんだ?」

「……はい?」

「証拠もなければ根拠もない。そんな状態でどう立証するつもりなのか……納得できる形で頼むよ」

 

 怪訝そうな慶一に向かって男が詰めるように言う。立証できずにやった、やってないの水掛け論ではこの場、それか社内で蔓延(はびこ)る悪影響を断ち切れない。しかしそんな状態に揺らぐことなく、慶一はファイルからビニールに包まれた物体を取り出した。

 

「証拠ならあります。こちらの音声がそれです」

 

ビニールから抜き取って出したそれはボイスレコーダー。新聞記者が取材の対象に向け、発言を録音しておく物だ。すでにスイッチが入っており後はボタンを押すだけになっている。

 

 意を決した表情で再生を押した。そこには罵声、悲鳴と謝罪。耳を塞ぎたくなるような音声が詰まっていた。室内がにわかに騒がしくなる。その中で何故か、先程慶一に詰め寄った男が顔を青くしている。注目は一斉に、彼の方を向いて向いた。その男に向かって霧生が声を掛ける。

 

「おや、体調がよろしくないようですがどうされましたか。――広報課の課長さん」

「――!」

 

 霧生の言葉に目を向けられた男――課長がさらに青ざめる。そして彼の上に立つ人物である社長が目を鋭くする。いつも穏やかに社員やアイドルを見守る好人物は今は消え失せ、まるで獲物を捕えようとする猛禽類を思わせた。

 

「これはどういうことか、説明を頼むよ」

 

社長に頷いてみせ、霧生は口を開き慶一は資料をファイルから取り出した。

 

「円滑な業務遂行の為には協力は必須ですから。他の課の社員の方々の氏名や顔は記憶していますよ」

「私どもは以前、体調不良を訴える女性社員に出会いました。その方は広報課所属の社員で、役職がない……いわゆる平の立場の方です。彼女から許可をいただき、診断書をもらいました」

 

 ホワイトボードに資料をマグネットで貼り付ける。それは医師の診断を受けたことを記す――所謂、診断書だった。そこには件の社員が発症した病状が詳しく書かれている。

 

「彼女は度重なるパワハラを受けた結果、精神に負担がかかってしまい現在も休職中です。これらから見ても原因がハラスメントであることはほぼ間違いないように思えます」

「ち、違う…。それは……」

 

 その一言がとどめとなったのか、広報課長の体が震え、顔から血の気がなくなり自信を失い周りをきょろきょろ見回す。しかし、周囲はそんな状態を憐れむどころか糾弾するかのように険しい目を向ける。霧生は興味を失ったように目線を外して参加者を見据えて口を開いた。

 

「どうですか、皆さん。証拠は揃えています。これら全てを白日に晒してしまいましょう。――それでは、次を」

「わかった……」

 

 氷室が頷いてみせ立ち上がる。今度は彼の番になる様子。社内でもコンプライアンスを重んじる人間であることは周知の事実。それに違反する者があるとするなら相当頭に来ているだろう。しかしいつも通りの鉄仮面で説明を始めた。

 

「所属タレントに侮辱した人物ですが、自分はそれに目星があります。それは――」

 

 

「――あなたですね。部長」

「!?」

 

 自分の右斜め前に座る人事部長――氷室は人事にも携わっているため直属の上司にあたる人物が仰天したように目を見開く。

 

「な、何を言っている!」

「こちらにも証拠があります。今再生することもできますが」

「ぐっ……」

 

歯ぎしりする人事部長を横目に氷室は淡々としながら述べ始める。

 

「部長の件はよそに置いて、侮辱した人間に関してはこちらにも証拠があります。霧生から渡された音声を聞いて感じたのは、このような人間が芸能事務所に勤めていること自体腹立たしいということ。――音声はここに」

 

そう言った後に氷室がパソコンを立ち上げて操作を行う。少し経った後、音声が流れ始めた。

 

『アイドルは金の成る木みたいなものです』

『メディアの前で愛想良くするだけで金が舞い込んでくるんですから』

『ならば、彼女達の活動を妨害してしまえばいい。手始めに野々原茜と彼女に付随する人が意見調査しているようだ』

『そうです、相手は所詮(しょせん)子供。自分達の行いがいかに愚かで無駄か、思い知らせるまでです』

 

流された音声に会議室がざわめき出す。声の波を制するように氷室が言った。

 

「このような侮辱を吐いた人物がいることに激しい怒りを感じています。何か質問のある者は」

「話がある!」

 

 質問に対して意見がないか周りを見回すと、がたりと音を立てて立ち上がった人物がいた。人事部長である。その目は不信感が宿り、相手を鋭く睨んでいる。

 

「何ですか」

「先程俺が侮辱などと言ったが、上司に対してそれはどういう言い草だ。あと今永はどうなった!?」

 

 上司であるにも関わらず怒鳴り込む部長に、氷室は全く怯む様子はない。それどころか今まで上だった相手を憎むような目すらしている。

 

「話をずらさないでもらいたいが……いいでしょう。今永の件に関しては自分が許可を下しました。社長が話し合いに同席し、双方で同意をとっています」

「ならば何故だ!氷室……お前は採用に反対だったはずだろう。裏切るような真似を……」

「それは今永が他者を助け、またファンに対して噓偽りなく自らが女装であることを明かすことができたからです」

「何だと……?」

「また、公演の数日前にメンバーの一人である北沢志保が発熱した際、真っ先に助けるという仲間を思う気持ちがあったからです」

 

氷室は上を向いてさらに続ける。

 

「自分は以前、会社とアイドルの意見を天秤にかけ会社を守ることを選んでいました。しかしそれは、今まで自分についていた者達を疑い、無視するような決断となってしまった。その間違いを、今永や他のアイドル達が気づかせてくれた」

 

一瞬の間を置いて、大きく息を吸った。

 

「――だがあなたはそれを邪魔だと決めつけ、多くの人間を傷つけようとした」

 

 

「自らの欲望の為に他者を蔑ろにし、犠牲にすることは最も恥ずべきだ!」

 

 いつもの平坦な声とは異なる、力がこもった声を部長に向かって放った。冷静沈着な氷室には珍しい感情を全面に出した様子に周りは驚きを隠せない。それ程までに自分の上司が犯した罪の重さに憤慨しているのが見て取れる。

 それに呼応するように、席に座っていた一人の人間が手を挙げた。

 

「私も氷室さんと同意見です。いつも活動のサポートをしてくださる社員の方たちの中にこのような人がいること、非常に残念に感じました」

「秋月……」

「今回の件、前に述べられましたようにアイドルを侮辱したという事実を知りました。彼女たちを代表して、同席させていただいています」

 

 手を挙げていたのは、なんとアイドルである律子だった。まさかの人物の登場に、誰もが驚いているが、先程の氷室程ではない。何故なら彼女も霧生達に(くみ)した人間だからである。アイドルに対する侮辱、という点においては最も関係のある人物だろう。

 

「先程の音声に茜の活動を妨害……とありますが劇場の廊下に貼られていた『今永優希さんを残すかどうか』という紙を破ったこと、人事部長さん。あなたが指示、あるいは実行しましたね?」

「な、何を!俺は子供達に手を下してなど……」

 

部長の発言に律子は目を光らせ、鋭い視線で射竦める。

 

「おかしいですね。私はあの貼り紙が『アイドルの子たち』がやったこととは一言も言っていません。ですがあなたたちは子供のしたこと…つまりは百合子や他のアイドルが実行したのを何故知っているんでしょうか?」

「な……!」

「指示したとしても、貼り紙を破損させた実行犯だとしても同罪ですよ」

 

 律子の表情は冷え切っており相手に失望したようになった。もはや相手がいかなる弁解をしたとしても許すことができない段階に達していることがわかる。周りも同様に追及の目を向けており、視線の矢が次々と部長へと突き刺さった。

 

「黙っていたら、罪は重くなる一方ですよ」

 

律子が冷たく言った。これ以降、部長が何事か弁解しても耳を貸す人間は誰一人としていなかった。

 

「では、なぜこれ程の証拠を……あなた方、プロデュース課でしょう。これまでやるとは……」

「握らせておいたのですよ、協力してくださる人がいましてね。苦しめられて大分ストレスだったんでしょう。ハラスメントなどと言う自分の首を絞めるようなことや、タレントに対する侮辱というプロダクションという業種で一番の禁忌を冒す人物がいると聞きましてね」

 

 社員の質問に対して霧生が答える。まるで上から見るような目線は、現在の状況が霧生らに対して優位に働いていることの裏付けとなった。

 

 霧生が口元を弓なりにする。もはや状況は彼らに傾いていた。

 

~~~

 

 会議も終わり際に差し掛かり、今まで口を出さずに状況を見守っていた社長は失望と悲しさが混じった表情で口を開いた。

 

「今回のような不祥事が起きたこと、非常に残念でならない。これを機に社員や所属タレントに対するサポートをより手厚くし、また、ハラスメントの首謀者とタレントに侮辱をした人間は全員、懲戒解雇とする。またそれに関わった人物も厳重な処分を与えよう」

 

 広報課長や人事部長が罪を追及された後、嫌がらせを行った人物がその後もちらほら見られ、彼らは上の立場が断罪されているのを知ってか何も抵抗せずに罪を認めた。それらの人間も軽い処分ではないだろう。

 会議が終わり、慶一、霧生、氷室、そして律子が部屋を出て並んで歩いていた。

 

「叩けば(ほこり)が出る、とはよく言うが予想以上に汚れていたね」

「全くだ。――これを機に、一掃できればいいが」

「あのまま放置していたら、さらに被害が拡大する一方だったと思います。それだけでも未然に防ぐことができてよかったというか……」

 

 今回の件においては会社とアイドル、両方が損害を被る形となってしまった。そのせいか表情も若干落ち込んだようなものになっている。そんな中で慶一はただ一人、落ち込む様子すらなく真顔でいた。

 

「確かにそうです。でもこの反省を生かすのが今の課題だと思うんです」

「?」

「幸哉も仲間に迎え入れることができたし、これから起きることを考えて切り替えていきませんか」

 

三人を見て言った。その顔は前を見据えて明るい。後輩の姿に触発されてか霧生が口を開く。

 

「彼の言う通りだ。新しい仲間を受け入れ、さらに765プロを発展させていこう」

 

今回の原因は霧生が持ち込んだ問題が回りに回った結果、今のような大問題に発展したといってもよい。しかし当の本人はそれを分かっているかいないのか平然としている。その様子に呆れているのか氷室はため息をついている。

 

「分かっているのか?……だが」

「どうしましたか」

 

律子が氷室の方を向いた。それを受けて前を向いたまま氷室が口を開く。

 

「俺は謝罪を形にしなければならない。アイドルを……今永や他のメンバーと衝突し、傷つけてしまったことを」

「あぁ……対立してましたもんね。私とこのみさんでも聞いてくれなかったし」

 

 以前、氷室は新人――優希の採用を巡り慶一やアイドル達と考えが衝突してしまった。その中で自身に対する意見を悉く拒み、自身の考えだけを便りに行動していた。しかし、他人の意見を聞かなかったことや先程も取り上げられたアイドルへの侮辱もあって考えを改め、正式に加入を認めたのである。律儀が服を着て歩くような彼に謝罪しないという選択肢はない。どのように誠意を示すべきか悩んでいたのである。

 

「なら食事会とかどうですか?それなら皆喜ぶし、見える形にもなると思いますよ」

 

 そこに慶一が提案するように言った。同じテーブルを囲い、食を共にする。これ程うってつけな提案はないだろう。慶一の提案に、霧生が乗っかる。

 

「いい案だ。君は社員同士の飲みは参加してもずっと誰とも話さないし、アイドルたちとプライベートで食事した経験はないだろう?」

「ぐっ…!確かにそうだ。俺は仕事と割り切って深く関係を持つことは避けてきた。……だが、これを機に意識を変えるべきだな」

「確かに……大人の皆さん――特に莉緒さんが『飲みに誘っても来てくれない』って愚痴ってましたしね」

 

思わぬ暴露に氷室の顔が動く。しかし事実だったので口を出せない。そこに霧生が加わった。

 

「そうだね。ならば今週末、頑張ったアイドル諸君を招くことにしよう。どんな店がいいかな?」

「……大人数で同じ所で食べられる場所が良いと思っている」

「いいですね。楽しんできてください」

 

氷室が小さく口を開く。四人の話題は食事会の話へと移っていった。

 

~~~

 

 会議という名の冷徹な処刑が行われた二日後。劇場内のオフィスの一室では五人の女性が机を挟んで向かいあっていた。一方には鈴葉とこのみ。残る三人は一般の女性社員。しかし、三人の社員は皆不信や不満に満ちた表情をしていた。

 

「あなたたちは何故、ここに呼ばれたか分かる?」

「えー?分かりませーん」

「忙しいのに~」

「早く終わらせてよね」

 

 このみの問いに嫌々といった具合で三人が答えた。まともに取り合おうとする気がないことが言葉の端々に読み取れる。その態度に鈴葉は口に出さないものの若干苛立ったように眉間に皺を寄せた。ここで怒りを見せれば相手の思うつぼ。意識を切り替えて相手へ向かった。

 

「まぁ安心してよ。すぐ終わるって。終わった後がどうなるかは知らんけど」

「はぁ……?」

「今から起きること、しっかり聞いた方がいいわね」

 

 忠告に対して怪訝な顔をする三人に、鈴葉が服のポケットからスマホを取り出す。そこから数度の操作を経て画面をタップする。すると音声が流れ始めた。

 

『莉緒ってやつ、最近調子乗ってる感じしなーい?』

『馬場このみだっけ?あの人大人ぶってる子供みたいだよね!』

『今永くんとかいうやつめっちゃ『ザ・陰キャ』って顔してるよね〜』

 

「何録ってんの!?」

「これはこないだ優愛が録ったんよ。あんたらが陰口言ってたの」

 

 一通りの音声が流れ、社員の一人が悲鳴じみた声を上げる。それに対して淡々と対応する鈴葉。聞かれていないと思って何気なく口に出したことが今自分達に返ってくることを社員三人は感じていた。しかし、何が悪いとばかりに三人の中の一人が鈴葉に突っかかってきた。

 

「だったら天宮出しなさいよ!盗聴したんでしょ、あいつが!」

「あの子忙しいから来れない。ってかあんたらみたいなクズの集まりと同じ場所に居させんのも嫌なんだけど?」

 

 金切り声をあげる女性社員達に対して冷淡で、どこか相手を蔑むような表情で対する鈴葉。録音した優愛がこの場にいれば益々混乱し最悪彼女に危害を加えられる可能性すらあった。

 

「あなた方の発言は、莉緒ちゃん……私のアイドルとしての仲間であり、親友である彼女に対する誹謗中傷となります。そこの所、どうお考えかしら?」

「盗聴してた癖に偉そうにしないでよ!」

 

 

「黙れよ。性格ブス」

「は……?」

 

 自分達が悪いというのに尚も騒ぎ立てる社員に向けて鈴葉が短く吐き捨てた。突如として放たれた鈴葉の発言に社員のみならず、このみまでもが目を丸くしていた。

 

「まず莉緒のこと。媚びてそうとか調子乗ってるとか散々好き勝手言ってくれんじゃん?とんでもない特大ブーメラン刺さってるよ。調子乗ってんのお前らね。よくもまぁ莉緒のプロデューサーのあたしの前で言えるねぇ」

「次、先輩の身長は流石に伸びそうにないからいいとして……」

「余計なお世話よ!」

「チビで偉そうって何?『馬場このみ』って人間の何がわかってんの?」

「いつも注意されてるでしょう!?仕事できないからって……」

 

食ってかかる女性社員を机を叩いて黙らせ、一拍おいて口を開く。

 

「おい」

「――っ!」

「ピーピー騒ぐなっての。関係ない話やめろ。次」

「……」

「最後。幸哉のことね。あの子を陰キャならは陽キャ気取りってわけ?――はっ、だっさ」

「はぁ…!?」

 

相手を嘲笑するかのように吐き捨てる。その様を煽りと感じたのか自分達のしたことを棚に上げて憤りを見せる。このままではエスカレートする、と見越してこのみが鈴葉を手で制した。

 

「選手交代よ。後は任せて」

「あ、はーい」

 

 先程まで自らの感情をドッジボールの如くぶつけていた鈴葉も先輩たる彼女の言うことは聞くのか、素直に引き下がった。バトンタッチを受けたこのみは鈴葉と違い、冷静に相手を見据えている。

 

「さっきの録音で莉緒ちゃんが調子乗ってる……と言ったわね。鈴葉ちゃんも言ってたけどあなたたちに莉緒ちゃんの何がわかるというの?」

「……わかるわけないでしょ。立場が違うから」

「あの子は普段はセクシーなアピールでふざけてるみたいに思われる時があるけど、根はすごく優しくて仲間を思いやる、とてもよくできた人よ。だけど……」

「な、何?」

 

 熱心に語るこのみを見て社員が声を漏らすが、それをしたところで止まってはくれない。表情を一変させ、相手に向き合った。大人や先輩として温かく見守るものではなく、敵に向ける冷たさを含んだ鋭い目だった。

 

「あなたたちはそんな彼女のことを知ろうともせずに悪口を吐いた。幸哉くんに対してもそうよ。立ち上がって自分の道を一生懸命に歩いている人に向かってなぜ陰キャだ、いじめられる方に原因があるなんて言えるのかしら」

「……だってアイドルって愛想よくしてるでしょ?なのになんであんなのが……」

「また一つ悪口が増えてるわね。さっきまでの話を聞いていたの?」

「……」

「最後のチャンスをあげるわ。これまでの陰口、悪口を吐いたことをちゃんと本人の前で謝罪できる?」

 

 相手の方、真剣に目を見て訴えかける。親友を傷つけられて憎いと思うはずなのにそれを封じ込めて向き合おうとしている姿は堂々たるものである。

 しかし、三人はもごもごしながら口走る。

 

「いや、こっちだって仕事が……」

「本人が聞いてるかどうか分からないし……」

 

 ここから言い訳が始まった。責任逃れをしようとあれこれ述べている様子を鈴葉とこのみは無表情で見ていた。もはや聞く必要はないとばかりにスルーしていた。一通りの弁明じみた詭弁が終わった後、鈴葉がため息をついた。

 

 

「はい、アウト~」

「!?」

「素直に謝るんならもう話はおしまい…と思ってたけどダメそうだし、社長に報告するわ。転職、頑張った方がいいんじゃない?」

 

 興味を無くしたとばかりに白けている中、今更事の重大さに気づいたのか社員達は慌てたような態度を取り始めた。

 

「ま、待って!考えがまとまらなくて……」

「というか私らみたいなの相手にしてもらえるか」

「たった一回でしょ!?芸能人ていっつも誹謗中傷されてるのに……」

「もういいわ。これ以上屁理屈こねられてもうざいし」

「い、今から謝る!だからもう少しだけチャンスを……」

 

「受付終了!!」

 

 未だに詭弁を振りかざして責任を逃れようとする三人に向かって怒鳴った。あっけにとられる女性社員を尻目にずかずかと部屋を出ていく鈴葉とこのみがそれについていく。

 交渉が、完全に決裂した瞬間だった。

 

~~~

 怒りのまま部屋を出て少し経って冷静を取り戻したのか鈴葉は息をついて腕を伸ばす。言葉を立て続けに吐いたせいか若干晴れやかな表情で歩いていた。

 

「すごかったわね」

「こないだからずっとイライラしてたんで。あ~すっきりした」

「それを他の人に向けたらダメよ。でも少し見直したわ」

「え?」

「いつもやる気なさそうで追い込まれたら私に泣きつくし、口も悪い」

「う゛」

「だらしないから皆からなめられる」

「やめてぇ……」

 

 このみの言葉にたじたじになる鈴葉。彼女が言うようにアイドルへの接し方や仕事への態度はあまり良いわけではない。しかし先程までのように仲間を傷つけられた時には相手に対して立ち向かおうとしていたのは称賛すべきである。

 

「今日の出来事でわかったわ。あなたはしっかり人のことを思いやれるってね」

「ま、まぁ?プロデューサーですし?思いやりなかったら務まらないっていうか~?」

「調子乗るんじゃありません」

「すいません……でもそっちこそ、よくキレませんよね。身長の話ですぐむってなるのに」

「身長弄りとか浅いのよ。鈴葉ちゃんが火を噴いてるの見て逆に冷静になれたわ」

 

 体型からして「チビ」と馬鹿にされたもののこのみにとってはそれよりも友人に対する名誉棄損の方が癪に触っていたらしい。

 

「あっ、そうですか」

「鈴葉さん!」

 

 前から声が聞こえた。そこには二人に協力し、録音を提供した優愛の姿があった。二人の顔を見つけて駆け寄って尋ねた。

 

「あの事、終わりました?」

「無事に終わった。……けど」

 

 そう言った次の瞬間、鈴葉が優愛の頭に手を置いていたがその目は笑っていなかった。優愛の顔の方へ視線を向け、真剣な口調で言葉を紡ぐ。

 

「優愛、強くなりな。キレて暴言吐いたあたしが言える訳じゃないけど」

「え……?」

「あん時悪口言われて怖くて言い返せなかったのはわかる。けどさ、結果的に良かったつってもやってること、盗聴に近いからね」

「ごめん、なさい……」

「別に怒ってない。けど……助かった。言ってくれなかったら解決しなかったし」

「あの録音は出す所さえ間違わなかったら良かったけど……優愛ちゃんは悪くないわ。遅かれ早かれ、こうなってるかもしれなかったから」

 

 このみが擁護する。責められると思って身構えていた優愛が思わず二人を見る。いつものように自分を見守ってくれる優しい目をしていた。その様を優愛は呆然と見ていただけだった。

 

「……」

「まぁ優愛のお手柄ってやつ?じゃ、この話終わり。ランチ食べに行こ」

「そうね。行きましょうか」

「……、はい!」

 

返事をしてぱたぱたと足音を立てて優愛がついていく。765プロは、今日も平穏で満ちていた。




途中詰められているモブは「課長」や「社員」という肩書で表記していますが、これはあんまり名前を付けたくはないという理由があります。考えるのに時間かかるからね。
制裁されている人の末路に関しては、後でもう一度書くこととします。

最後は投げやりっぽくなりましたが、それでは次のお話も楽しみに待っていてください。

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