君と奏でる幸せの音   作:賀茂川泰伸

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本当に二カ月もお待たせしました。無事に完結なるか。自分の健康と周囲の安全に気を配りながら生活しています。そろそろ暑くなってくる頃なので読者の皆様もご自愛ください。
短めですが、スタートです。


第35話 今までとこれから

 公演の慰労と謝罪を称した食事会が開催され、皆が肉や焼き野菜、果てはキムチやサラダといった料理に皆が舌鼓を打ち楽しんでいた。料理もそうだが気心の知れた者同士、当然会話も弾む。話題は公演の話や近況、果ては趣味など多岐にわたる会話が座敷に飛び交っていた。幸哉も例に漏れず、肉を焼き料理を食べ、歓談を楽しんでいた。

 このように会が盛り上がる中、幸哉とは別のテーブルに座っているジュリアが主催たる氷室に声をかけた。

 

 

「プロデューサー。あんたってユウキの父さんと何か関係があるんだよな?」

「……そうだな、この機会だ。話しておくべきかもしれん」

「というわけだ。相河くん、彼と話がしたいから席を代わってくれないか。そのほうがやりやすい」

「――わかりました」

 

 霧生の言葉に慶一はすっと立ち上がって席を譲り、彼と入れ替わる形で霧生が真正面にやって来た。

 思えばこれまで、霧生と話をする時は大半が一対一だった。入社する時も、正体が露見した時や自身が焦りを感じていた時も世間話を挟む余地がない程真剣な話が多かった気がする。今回も例に漏れず、そういった話をする気なのだろう。そう思いながら目線を合わせる。

 

「率直に言うと、私と氷室くんは君のお父さん――英希(ひでき)さんのもとで一緒に働いていた時期があったのさ」

「――お父さんと!?」

 

 霧生の発言に、はっと目を見開いたまま相手を見る。思わぬ所で父の名を聞いた。生き別れた両親との繋がりを持っている、その事実に驚きが隠せない。そんな様子の幸哉に近くに座っていた未来や志保からも視線を集めた。

 

「幸哉くんのお父さんのこと、知ってるんですか!?」

「でも、行方不明って言ってましたよね。だったら……」

 

志保の言葉に対し、霧生が軽く頷く。そして静かに口を開いた。

 

「知っている…と言いたい所だが、我々も連絡が取れない状態でいる。()()()からね」

「!!」

 

先程よりも目がさらに大きく見開かれ、言葉を失っている。次の瞬間表情が強張り汗がじっとりと流れ始める。

小さく、記憶の蓋が開いた。

 

 

「五年前…。ちょうどそんな時だった。叔父さんに引き取られて、あんな日々が……」

 

 今は楽しい会食の場。しかしながら自分を絶望、そして死の一歩手前に追い詰めた遠因がフラッシュバックする。体が上手く動かせず、心が乱れて呼吸すらままならない。さっきまで皆と笑いあいながら食事を楽しんでいた幸哉の様子が急変したことに皆が驚きを隠せないでいた。

 

「幸哉さん!」

 

 呼吸が苦しくなる中で星梨花が自分の目の前にあった水を差し出してくれた。喉に冷たい水を通し、コップに入った氷も噛み砕いた。急速に苦しさが消えてなくなっていく。平静を取り戻した後、星梨花に礼をする。

 

「ありがとう…。それとごめんなさい。取り乱して」

「いえ、どういたしまして。幸哉さんが苦しそうにしているのを見たら、わたしまで苦しくなっちゃいました」

「――っ!」

「……すまない。不用意に話すべきではなかったね」

 

 星梨花がほっとした表情で微笑み、志保が目の前にいる霧生に鋭い視線を送る。これ以上苦しめるな、という警告ともとれる無言の圧によって霧生の話が一旦止まる。

 

「もうそれに関しては話さない方が…。トラウマを刺激することになってますから」

「いいえ」

「ん?」

「聞かせてください。僕にとって、大切な人だから……!」

 

 慶一の制止を振り切り、声を上げて霧生の方を向いた。その言葉に強い決意を感じ取ったのか霧生、そして近くに座っている氷室の目が無言で彼を見つめていた。

 霧生が息を吐き、口を開いた。

 

「話すとしよう。英希さんは今の私たちと同じく、芸能関係の仕事に従事されていたんだ」

「もしかして、プロデューサーとか……」

「そうだね。お父さんから話を聞いたりしていないのかな?」

 

 その言葉に、思わず考え込んだ。自分の父が目の前の人物と同じ仕事をしていた。つまり、上司と部下ということなのだろう。質問に関しては虐げられた期間が長く、その記憶によって塗りつぶされたせいか日常で父親が何を言っているかまではあまりよく思い出せなかった。

 

「うーん、あんまり覚えてないですね。『人を笑顔にするためのお手伝いをする』ということを言ってたのは覚えてます」

「……公私は分けて考える人だったな」

 

 氷室が小さく呟いた。その言葉に、幸哉は彼の座る方向へ視線を向ける。

 

「?」

「俺達は今永さんのもとで働いていた時、仕事には私情を挟まずに最善を尽くされていた方だった。しかし一度(ひとたび)仕事を離れれば家族の話や日常で起きたことを笑いながら話す人だった。一人息子がいると聞いていたが、まさか出会うことになるとはな」

「そうだったんですね……お母さんに関しては、どう言ってました?」

「母親に関してか。そちらに関しては、今永さんの話からするにとてもよくできた妻がいて幸せだと語っていた。会ったことはないが、良い人なのだろう」

 

「公では温和な性格で人徳のある人だった。家庭でもまた、良き父として努めようとしていたのかもしれないな」

 

 最後に、氷室はこう締めくくった。二人の話からは自らの父が相当に慕われる人物であったことがわかる。しかし周囲は違った。なぜ、そのような人と生き別れ今まで孤独に(さいな)まれて生きて来たのか。もとより、語られた情報からは全容を知ることが難しい。それに対して気になったのか千早が手を挙げた。

 

「質問があります。幸哉のお父さんが慕われた人だというのはわかりました。でも、なぜ両親と引き離されるようになったのかが気になって……」

「ほんとに…なんでだろうね」

 

 千早の言う通り、このような両親のもとで暮らしていたにもかかわらず引き離されるのか。春香も小さく呟いた。二人の様子に、今度は幸哉が話し始める。

 

「離れ離れになったのは五年前。ある日急に『一緒に暮らせなくなった』って言われたことがきっかけで…。それで引き取られたました。その時から連絡も取れなくなって、文字通り生き別れたんです」

「……そちらもか」

「そちらも、とは?」

 

 話を終えたところで氷室が呟き、それをすかさず千早が拾う。しかし霧生は彼女の方を向いて、普段のような誤魔化しではなく、真剣な表情で目を見据えている。

 

「千早」

「…はい」

「あまり人の過去を深掘りするものではないよ。それぞれ事情があるのだから」

「……今日は会食の日だ。一旦忘れて、食べるぞ。注文を用意している」

 

 何故か沈んだ表情で烏龍茶を啜っている氷室と、いつになく真剣な表情の霧生。二人の様子が変わっていることに誰も、何も言うことはできなかった。今は食事会であることを思い出したのか、皆が網の上の食材を箸で掴んでいき、誰も話題にあげることなく自然消滅を迎えた。

 

~~~

 

「すごいよね。ラストで自分から正体を明かすなんて」

「ほんとだよ~!優希ちゃんの舞台度胸のすごさ、茜ちゃんも見習わないとね♪」

「強メンタルすぎん?見てるこっちがヒヤってきたわ」

 

「ですね…あの時はこっちもどうにかしないといけなかったんです。だからあんな手段をとりました」

「それでとっさに思いつけるのすごいな~……」

 

 幸哉の父――英希に関する話題から少し経って、今度は先日の公演に関する話題が飛び交っていた。クライマックスで熱気が最高潮に達した後、自分の性別を明かした。

 そのカミングアウトは驚きをもって受け取られ、今もなお、その影響は静まるどころか大きく広がっている。それが悪い方に傾き炎上こそしたが、正直に自分の素性を明かしたことが好意的に働いて今はそれも少しずつ落ち着きを見せつつあった。

 

「というか、正直に言おうと思ったのって幸哉がそう思ったから?」

「そうですね。それと……ライブが始まる前の『真意』の言葉、僕にも深く刺さったんです」

 

恵美の質問に軽く頷いてみせる。幸哉の頭の中では、以前かけられたある二つの言葉が流れていた。

 

 

~~~

 

(ならば見せてもらうぞ、今永優希の真意を)

 

(真実の意義。ここから転じて噓偽りない心を指す)

 

~~~

 

公演の開始直前、氷室が自分に向かって言った言葉だ。その言葉が今も深く心の奥に残っていた。そしてもう一つ。「真意」の意味を問うたときに答えられなかった慶一に代わるかのように独り言を口走った時の言葉である。

 

「アイドルって人の前に立つわけだから。だからこそ噓をつくようなことが、氷室さんにとって許せないことの一つだったんだと思います」

「俺も言われたんだ。確か……」

「『観る者に誠意を示し、噓をつくようなことがあってはならない』、ですね。それが決め手になったという感じで。正直に言えば、後はどうにかなればいいなと思ってやりました」

「「おお~」」

 

 幸哉が出した答えに一同が感服したかのように声を漏らす。自分の素性、それもただ一人の男性であり女装をしていたという事実は口から出すにはあまりに勇気がいることだった。しかし、そこで隠し通せば後に明かした場合よりも大きなバッシングを受けることは明らかだっただろう。

 また、先程の発言――「誠意を示す」に関しても自分以外のアイドルが手抜きや誤魔化しを一切しなかったことに氷室の考えが浸透していることが今更ながら理解できる。その二つのことが合わさって生まれた行動であった。

 近くの席でカルビを焼いていた氷室が視線を向ける。

 

「……聞いていたのか。やはり、親子だな。俺が言ったその台詞は元々今永さん……お前の父親が常日頃から言っていた言葉だ」

「お父さんが…。でも、あの場面で噓をつくなんて選択肢、ありませんでした」

「最初から決めてたってことか?」

「はい」

「それで始まる前、そんなに冷静だったんだな……」

 

 ジュリアの問いに頷く。同じユニットの彼女とは始まる前に少し会話した程度であるが、言葉足らずで心配をかけてしまっていた。彼女に軽く頭を下げる。

 

「すみません。あの時はちょっと考えてて」

「いいんだよ。でも、クビにならなくてよかったな」

 

「最後まで素性を明かさなかったら、俺は切るつもりでいた。例え公演が成功していようとな」

 

 氷室は表情を変えずに言った。自身の進退が紙一重の差で決まっていたこと心臓が跳ねた。氷室正宗という人物の厳しさがふとよみがえって見えた。自分の行動が最善を掴み取ったことが奇跡にも近いという他ないだろう。

 

「氷室さん…。厳しいですね」

「当たり前だ。今回の案件、厳正に対処するべきだった。――しかし」

 

慶一が話しかけて、氷室が天井を向く。その目はどこか後悔をしているように見えた。

 

「今までの自分ならば誰の意見も聞かず押し通していただろう。だが、アイドルを顧みずに行動したことや今永が正直に素性を明かしたことで、考えが変わった。俺に欠けていたのは、人を信じることだったのかもしれない」

「そうですか……」

「ああ。これからは管理しながらも可能性とやらを見るつもりだ。社長もおっしゃっていたようにアイドルを支えるのが、プロデューサーの役目だな」

「はい。間違いありません」

 

 氷室の顔は憑き物が落ちたかのように見え、今は穏やかさすら感じる。そして志保の方向を向いた。

 

「北沢、体調不良と聞いて何も対応できなくてすまなかった」

「いいんです。幸哉や他のみんながいてくれたから無事成功できました」

 

 そう話す彼女の表情は以前より安らいで見える。初対面、そして公演が終了するまでは話をする余裕すらなく、両者に隔たりが生まれそれを埋めることすらままならなかった。それも今は昔の話。

 しかし、今の志保の様子が幸哉には少し変わって見えるのである。

 

「ええと、志保…?」

「なんでもないわ」

 

 先程から自分の顔をチラチラと見てはその度に頬を染めていたり、手と手が触れ合ったりすることは着席後に幾度となくあった。この間にも腕を絡ませてきていた。

 その様はまるで獰猛な野良猫がいきなり人懐っこくなったかのような異常な変わりよう。頬を染める様は恋する乙女にも見えてしまう。

 

「あなたたち、距離が近くないかしら?特に志保」

「関係ないでしょう。取らないと焦げるわよ?」

「……」

 

別のテーブルに座っていた静香から指摘が入るも、志保はそれを軽くあしらう。変わってしまった様子に何も言うことなくそのままフェードアウト。今度は氷室が自分達に視線を寄越してきた。

 

「今永、北沢のことを頼む」

「え、どういう……?」

「そのままの意味だ。担当プロデューサーとして様子を見ることができなかった。前回の公演で一番近くにいたのはお前であって、倒れかけた時に手を取って支えた。――」

 

「何より、今永のことを気に入っているようだな」

「…いなくなったお父さんに似てたんです。幸哉が」

「――!?ごほ、えぇ…!?」

 

 二人の発言に喉を詰まらせる。咀嚼している最中に言われたこともありむせてしまった。咳き込みながら水を飲み込み、声の主に目をやる。志保の父親も自分の両親と同じく行方不明になっているのは知っていたが、まさか自分がそう言われるとは思っていなかった。顔も名前も知らず面識もないというのに。

 

「本番で近くにいられるのはプロデューサーではなくアイドルだ。そのことを忘れるなよ。それと……」

 

「――慌てて食べるな。時間はある」

「……はい」

 

忠告を料理と共に飲み込んで返事をする。この後も歓談や料理を楽しみ、解散となったのは夜もふけた頃になっていた。

 

~~~

 週明けのこと。幸哉は四階建ての雑居ビルのオフィス――765プロの事務所にいた。その中には霧生に氷室とプロデューサー二人が同席している。

 椅子に腰掛けた霧生が幸哉の目を見据える。その視線に真っすぐ目をそらさずに相対する。静まりかえったオフィスの中で、霧生が口を開いた。

 

「君に対する今後の方針を伝えよう。――しばらく、待機してもらう」

「……待機?」

「ああ。現在、君の存在は少なからずファンや世論を揺るがしている。その状態で公に姿を現すのは君のキャリアにとって好ましくない」

「ですよね…。正直に言ったとはいえ、まだ僕のことを嫌がってる人がいるみたいですね」

「正式に契約はするが、メディアへの出演と発信は引き続き停止し、次回の定期公演のメンバーからは外れる。それでいいな?」

 

 氷室が自分の方を向いてくる。内容から読み取れるのは活動の停止。それ即ち動けないことを意味していた。擁護する者は多かったものの、世間からすれば炎上から即座に復帰するのは好ましくないことがわかる。先程の言葉に一言返事をして、一度相手の方を見据える。

 

「質問、していいですか」

「何かな?」

「性別は明かしても、女装は続けることになるんでしょうか」

「そうだね……でも、それは君が最初に決めたことだろう?女性ばかりの中に入るのは違和感があると」

「あっ」

 

 霧生の発言に言葉を詰まらせた。言い出しっぺは自分である。そこで「やりたくない」と言うと氷室から詰められそうなのでぐっと飲み込んで二人を見る。

 

「765プロ史上初の男子アイドルが女装だった……これは大きな話題を呼んだのも事実だ。芸能人、もとい人の前に立つ者として知名度を活かしておいて損はないぞ」

「……そうですね」

 

 初対面で話していたのが噓のように、氷室は自分に味方するかのように助言する。以前は自身を阻む壁のような存在だったからか、今はとてもその存在が頼もしく思える。

 そして、話の最後は霧生の言葉で締めくくられた。

 

「必ずチャンスは来る。その時を待つんだ」

 

~~~

 

「ありがとうございました」

「こちらこそ。活動再開までゆっくり休むといい」

「失礼します」

 

 話がまとまったところで二人に礼を言って別れる。

 自分には今、何もできない。しばらく暇になりそうだ、と思いながらビルの階段を降りてバス停へと向かっていった。

 夕方に差し掛かる空は、若干雲に覆われていた。

 

~~~

 夕暮れもとうに過ぎて日が落ちた時間。箱崎家のリビングでは星梨花と彼女の傍につく女性、そして高価そうな洋服に身を包み、顎と口元に髭を蓄えた男性が向かい合っていた。

 

「星梨花、座りなさい」

「……はい」

 

 男の言葉に促され、沈んだ面持ちで星梨花が椅子に腰を下ろす。そんな様子を見た女性も彼女に目をやりつつ着席した。星梨花と同様に隣の女性も表情が明るくない。

 

「ママ……」

「大丈夫よ、ママがついてるわ。星梨花の味方ですからね。あなた、あまりこの子を怖がらせないであげて」

 

 ママと呼ばれた女性――星梨花の母親が娘を安心させるようにテーブルの下で娘の手を握る。しかし、緊張が高まっている状態の星梨花にはあまり効果がなく、小さく体が震えていた。

 その様にも動じることなく星梨花の母親にあなたと呼ばれた髭の男、星梨花の母の夫――つまり、星梨花の父が娘の様子を一瞥している。

 家主の趣味や収入が伺えるようなインテリアが並び、広く清潔感のあるリビングの中は声を出すことすら憚られるほど重たい空気を生み出していた。

 妻の指摘を受け取ったのか男は一瞬表情を緩めるも、また引き締めて星梨花を見据える。

 

「怖がらせたいわけじゃない。今日は大事な話をするんだ。いいね、星梨花」

「パパ……」

 

娘の声がか細くなるが、構うことなく目を光らせる。重苦しい空気の中、話が始まった。

 

「まず、先日のライブはどうかな?楽しかっただろう」

「はい。たくさんのファンの人たちが応援してくれて…とても楽しかったです」

「そうか…。それならよかった。だが、話したいのはそういうことじゃない」

 

 言葉を区切った後、星梨花の父はタブレットを操作して画面を見せる。それはネットニュースだったが、トピックは星梨花ではない。

 

――今永優希。765プロに所属する()()アイドルであった。

 

 それを見た瞬間、星梨花の目が大きく見開かれた。目の前にある人物の名前は自分にとって大切な友達であり、同じアイドルの仲間である。その人物が自分に何か悪いことをしたというわけではない。むしろ出会った最初から良好な関係を築いている。

 しかし、目の前の父親の表情は渋面にも近い様相であった。鼻息が宙へと消え、画面を自分の方へと戻す。そして小さく呟いた。

 

「765プロは女性だけがいる事務所と聞いていたがまさか、男子が加入するとは……」

「幸哉さんは、悪い人なんかじゃ……」

「なるほど。…それが彼の本名で、優希というのは芸名だね」

「!」

 

 父の言葉に反論しようと名前を出してしまったが、案外深く聞かれることはなかった。しかし、それでもなお表情を変える様子はなく、事態が好転する予感もない。

 

「今は多様性…様々な人がいる時代だ。別に女装についてどうこう言いたいわけじゃない。しかし、問題は別にあって、今まで説明せず、性別を偽った事実を隠していた所に置いておくわけにはいかない」

「まさか、それって……!」

 

 星梨花の母が自らの夫の方を向く。目は開かれたまま、声も震えている。まるで、これから来たることに恐れを抱いているかのようだった。

 

「このようだと、続けさせることを考え直さないといけないな」

「……!」

「話し合おうか。これから、どうするべきかを」

「……」

 

星梨花はただ黙って、父の言葉を聞くことしかできなかった。




いかがでしょうか。二ヶ月もお待たせしたことでさっさと書いてしまったことであまり話が進んでいない回でした。しかし、次回から物語は動いていくと思います。
最後の箱崎家のシーン、両親二人を指す言葉をどのようなものにするか、そしてどう文中に落とし込むかが悩みどころでした。二人とも顔と姿はBCで明かされたとはいえど名前がないのと原作を尊重する意味でネームド(名付け)することもできなかったです。
次回のお話も楽しみに待っていてください。
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