今回は置かれた状況の説明回的と物語を前に進める話となります。
それでは第二話です。
―――今……助けるっ!
そんな声が聞こえた途端に、何者かに水中から引っ張り出された。
――――――
ゆっくりと目を開ける。そこは川に沈もうとした時の茜色の空ではなく、真っ白な天井が視界に入る。
体はベッドの上に置かれ、布団を膝の上辺りまで被せられていた。
着ている服も中学校の制服ではなく、薄い緑色の病衣である。
水に一度は沈んだ故に濡れているものだと体を探ったが、そのような感触はなかった。
周りを見渡せば真っ白な壁と小さなテレビ、椅子が置かれた病室であった。
状況を理解しようと首を動かしていると、病室の扉がノックされた。
「
名前を呼ばれた少年―幸哉はドアの方向へと目を向ける。
ドアが開けられ、白衣を着た男性が入室して来た。
どうやら自分の担当の医師であるようだ。
「僕は……どうなってたんですか?」
医師に質問する。
「ああ、川に落ちて溺れていたところを通りがかった人に助けられたみたいだ」
医師が当時の状況を伝える。これを聞いて幸哉は疑問を覚えた。
―――認識が違うな。
医師が続けた。
「この件に関しては助けた人の方が詳しいと思うから。もうすぐ到着するそうだ」
助けた人間がいる?確かに沈む最中に声が聞こえたことを覚えていた。
救出した人に病院が連絡をしたとのことで、待っているようにと言われる。
しばらくして、病室の入口近くから足音が聞こえてきた。
「すみません!仕事が長引いてしまって……」
開きっぱなしの入り口からスーツにネクタイ、手に鞄を持った青年が入ってきた。
その顔はひどく焦っており、額から汗を流しスーツにやや皺がつくなど相当急いでやって来たことを感じさせられる。
「
医師が来訪を告げた。ゆっくりと首を来客した青年の方へと向ける。
「後の話は彼から聞いた方がいいでしょう。では私はこれで」
こう告げた後、医師は部屋を出ていった。
部屋に沈黙が流れる。気まずい。どんな話をすればいいのか。意識を失っていたせいで顔を見ることができなかった
数秒の後、幸哉が口を開く。
「あの…あなたが僕のことを引き上げたんですか?」
「そうだ。本当に助かってよかった…」
安堵したような表情を見せる青年。その後、何かを思い出したかのように口を開く。
「ああ、自己紹介してなかった。俺は相河
「今永幸哉です。よろしくお願いします」
互いに自己紹介をして、スーツの青年――慶一が口を開く。
「とりあえず、助かってよかった。でもどうしてあの場所にいたんだ?」
慶一が安堵したように息を吐いて尋ねる。見ず知らずの他人を助けることのできる精神に感嘆しつつ、簡潔に内容を話した。
「離れたかったんです。この世界から」
幸哉が口を開く。それに対し驚いたような表情を
「それって…自殺しようとしたってことか?」
「そうなります」
「でも……どうして!?」
「話した通りです。もう生きている自分が嫌になったからです」
この言葉に、慶一は口を開くことができなかった。
自分の顔を見て話してくれるが、絶望しきった表情。
暗い瞳。
服から覗ける傷跡。見えるところにもできた傷。
これを見て、明るくいろというほうが無理な風体である。
ふうと息を吐き、慶一は口を開く。
「何があったのか、話を聞かせてくれないか?」
「わかりました。話します」
_____
「何で……そんなことが……」
慶一は驚愕した。
過去から現在にかけていじめを受けていたこと。
家庭での虐待。
それに対して自分に味方する人間が一人もいなかったこと。
どの話も、人を戦慄させるに充分だった。
「これでわかったでしょう。死のうとした理由が」
「誰も僕に味方してくれなかったし、誰も助けてくれなかった」
幸哉が諦めたような表情で話す。
このままではもう一度自殺を試みかねない。目の前の少年に向き直る。
「事情はわかった……。また明日来るよ」
鞄を手に取り、慶一は病室を出た。
_____
病院の敷地の駐車場、そこで鞄にしまった電話が鳴る。
「もしもし?相河です」
「相河さん!あ~、やっと繋がりました!」
「
どうやら同僚の女性が相手のようだった。青羽と呼ばれた女性が心配そうに聞いてきた。
「急に病院から連絡が来たっていいましたけど、大丈夫でしたか?」
「心配かけてすみません。いろいろと事情がありまして……」
「そうですか……わかりました!え?あ!はい、今代わりますね!」
電話の相手が変わる。快活な女性の声からどこか落ち着いたようなトーンの声が電話口から聞こえてくる。
「プロデューサー、お疲れ様です」
「
「何も伝えずに出て行くとか……連絡ぐらいきっちりしてください!」
「わかった。心配かけてごめん……」
「もう……しっかりしてくださいね」
先程電話を代わった少女――静香とそういったやりとりの後、電話を切る。
『さて……これからどうしよう……』
こんなことを思いながら、停めてあった自分の車の鍵を開けた。
―――
いきなり現れて、自分を助けたという相河という青年。
一体何の目的があってこのようなことをしたのか。
行き場をなくした自分は、一体どうなるのか。
そんな不安を遮るように、幸哉は目を閉じた。
翌日、慶一は病院にやってきていた。
また来ると約束したからである。仕事の終わりを見計らって職場から急いでやって来ていた。
受付で面会の予約を行うが、先約があると告げられ、仕方なく病室と同じ階で面会する人が帰るのを待った。
しばらくすると目的の病室から大きな、誰かを罵倒するような声が聞こえていた。
病室へ入ることを一旦諦め、声が止むのを待った。
しばらく待った後、家族であろう男女の二人組が部屋を出たのを目にする。
慶一はその二人組に恐る恐る話しかけた。
「すみません。今永幸哉さんのご家族の方ですか?」
慶一が問いかける。
「そうですが、何か?」
男は不機嫌を隠そうともせず言った。
「あの、先ほど病室から怒鳴り声?みたいな声が聞こえてきたんですけど……」
「幸哉が不甲斐ないことをしたから叱っただけです」
女が答える。
「でも……叱るというよりか言い方が……」
「何ですか?
「だからって……!」
尚も食い下がる慶一に、男がぴしゃりと言い放つ。
「忙しいんだ!邪魔しないでくれ!」
そう言った後、二人は去っていった。
幸哉が心配だ。その一心でドアを開ける。
そこでは幸哉がふらふらと立ち上がり、病室を出ようとする姿が視界に入る。
「待ってくれ!」
「相河さん……」
「どこ行くんだよ……!」
「僕は明日連れ戻されます。その前に消えようと」
「あの二人にか!?」
「そうです。また痛い思いをしないといけなくなるんです」
「そうか……だったら!
俺と一緒に逃げよう!!」
慶一が思いを吐き出す。
「でも……なんで……!」
幸哉が問いかける。
「今のままだとお前はまた痛い思いや辛い目にあう。そうなる前に逃げるんだ!」
「でも……」
渋る幸哉に対しさらなる言葉を投げる。
「もうこれ以上苦しみたくないだろ!俺を信じてくれ!!」
少しの間、言葉に詰まり、沈黙が流れる。やがて幸哉が口を開いた。
「わかりました……逃げます!もうこれ以上痛いことや苦しい目に遭いたくないです!」
応えるように思いの丈を吐き出す。
「相河さん、あなたを信じさせてください!!」
「わかった……ありがとう!」
「あの~、
盛り上がるのはいいですけどここ病院なんで」
通りがかった医師にたしなめられる。どうやら大いに盛り上がってしまい、声が漏れてしまっていたようだった。
「「すみません……」」
二人して謝罪を述べたあとで慶一が質問する。
「先生、幸哉…じゃなかった、今永くんの状態はどうなんですか?」
「検査は終えたので、明日にでも退院できますよ」
「わかりました。本当にお世話になりました」
「それにしても自殺未遂とは……相河さん、逃げるとかどうとか言ってませんでした?」
「実は、親?から虐待されて、学校でもいじめに遭ってたらしくて……だから逃げようって二人で話してたんです」
「そうですか……」
医師はこれ以上何も言わなかった。患者の境遇に共感しつつも、深入りはしないといった態度だった。
_____
翌日、二人の姿は病院の駐車場にあった。
「とりあえず、準備はこれでいいかな」
「逃げられるんだ……本当に……」
「とはいった手前、よその子を事情があるとはいえ連れ出すなんてなあ……」
「相河さんが逃げようっていったんじゃないですか。とりあえず僕はその気でいます。服とかも用意してくださいましたし」
現に幸哉が身にまとうのは中学校の制服ではなく、慶一の持ってきた鼠色のパーカーの下にTシャツ、ジーパンという服装になっている。
「あと、僕のこと最初は名字呼びだったのに途中から幸哉って名前呼びになってましたよ」
「あっ……」
「別にいいですよ」
「ごめん、つい熱くなってしまって」
会話を交わし、停められた車に乗り込む。
「さあ、あいつらが来る前に出よう」
「そうですね。相河さん」
「別に名前で呼んでもいいよ。勢いで名前呼びしちゃったし」
「……はい!行きましょう。慶一さん」
車のキーをひねり、エンジンをかける。
エンジンが動きだしたのを確認して、アクセルペダルを踏む。
「さあ、行こう!」
二人を乗せた車は、病院の駐車場を飛び出した。
アイドルは出せたけど、まだアイマス要素が足りないと思うので、次はキャラを出せるようにしたいなと思います。
あんまりオリジナルの展開だけでなくアイドルたちを次の話では出していきたい所です。
感想、評価お待ちしています。