君と奏でる幸せの音   作:賀茂川泰伸

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今回からお話が動き始める回になると思います。今回からアイドルたちが物語に関わってくることになります。お楽しみください。


第3話 アイドルとの出会い

二人を乗せた車は病院の駐車場を飛び出した。

 

病院から抜け出して、路地を走る最中、助手席に座る幸哉が口を開く。

 

「逃げるっていっても、やることいっぱいありそうですね」

「そうだなぁ……取りあえず住所とか、学校の転校とか、いっぱいあるもんなあ」

「慶一さん、そもそも社会人ですよね。仕事とかどうしてるんですか?」

「仕事かぁ……俺、仕事を簡単に休めるような職場じゃないんだよな」

「へぇ、忙しいんですね」

「まあ、でもこのために仕事を休めるように交渉してきたんだ。長くて三日間な。それにしてもよく逃げようって決められたな」

「あんな環境から逃げたかったからですよ」

 

二人は車の中で会話を交わす。周りには和やかな雰囲気が流れていた。

 

―――

 

脱出してからの日々は、目まぐるしく過ぎていった。

日用品の買い出しや、警察へ虐待やいじめを受けたことの相談。

虐待してきた家族から離れるための戸籍の手続き。

元居た学校からの転校を申し出ること。

これらを終える頃には既に二日目の夕方になっていた。

 

「あぁぁぁぁ疲れたぁぁぁ……」

「時間に余裕を持ってやるべきでしたね……」

 

こんな風に二人は慶一の住むマンションの一室で駄弁っていた。

 

「仕方ないだろ……三日で戻るって職場に約束したんだから」

「忙しい中本当にありがとうございます。あと、お疲れ様です」

「お疲れさん。本当によく頑張ったよ」

 

二人して互いの労をねぎらう。

次の瞬間、

 

ぐるるるる……

 

「あっ……」

 

どうやら幸哉の腹が空腹を訴えているようだった。

 

「そうか、あれぐらい動いたら腹減るよな」

 

そういった途端、冷蔵庫を探る慶一、しかし、一瞬にして落ち込んだ表情を見せた。

 

「食材、あんまり入ってなかった……」

 

落胆する慶一。それにすかさず問いを投げる幸哉。

 

「自炊とかしないんですか?」

「家に帰っても疲れてする気起きないときあるんだよ……」

「へえ……」

「取りあえず、晩飯食べに行こう。おすすめの店を知ってるんだ」

 

冷蔵庫を閉め、立ち上がる。それに追随するように幸哉はついて行った。

 

_____

 

「ほら、着いたぞ」

 

マンションを出て歩くこと十数分、目の前には看板に「佐竹飯店」と記された建物に着いた。看板から見るに中華料理店であった。

扉を開け、店の中に入る。入った瞬間、

 

「いらっしゃいませ!」

 

髪を後ろで結んだ快活な少女の声が店内に響いた。

どうやらこの店の看板娘のようだ。

 

「何名様で……ってプロデューサーさん!?」

 

少女が驚いた声を出す。

 

「ああ、美奈子(みなこ)。久しぶり」

「ほんとですよ~!急に三日間だけ休むって言われたんですから!」

 

美奈子と呼ばれた少女がまたもや驚いた声を出す。慶一のことを知っているのだろうか。プロデューサー、という言葉に幸哉は疑問を覚えた。

 

「あ、プロデューサーさんや~」

 

椅子に座っているサイドテールの少女が慶一に声をかける。美奈子と慶一のことを知っている人物のように見える。

 

奈緒(なお)もいるのか」

「休みやから食べにきたんですよ。ほんまに会うの久しぶりやな~」

「あの……」

「ああ、ごめんごめん!座ろうか」

 

美奈子といい、奈緒といい慶一と親しい仲にあるのだろうか。

やり取りに置いてきぼりにされた幸哉に座るように促し、慶一も席に着いた。

 

「ところでプロデューサーさん。横にいる子は誰なんですか?」

 

奈緒が聞いてくる。ぱっちりしたつり目がちの瞳を慶一、そして幸哉の方へと向けている。

 

「ええと……その……」

 

(しまった。どう紹介したらいいんだ。)

 

慶一は言葉に詰まり、明らかに焦ったような顔を浮かべた。

その顔を見た幸哉が口を開く。

 

「僕は今永幸哉といいます。慶一さんとは()()の関係です」

 

幸哉は自らを慶一の親戚であると紹介した。

 

自分を助けた恩人であれど、事情を知らない二人に他人だと説明すればいくら親密な仲であっても誘拐の疑いをかけられかねない。

それを見越したうえで発言したのだろう。

 

思わぬ機転の利かせ方に慶一も一瞬驚いたが、話をつなげるように続く。

 

「幸哉は俺の親戚なんだ。今年の春からこっちに住むことになってさ」

 

「へぇ~、そうなんですね!」

 

美奈子が反応を返す。しかし、急にはっとした顔になる。

 

「ああっ!自己紹介しなきゃ!私は佐竹美奈子(さたけみなこ)!それでこっちの椅子に座ってる子は……」

「私、横山奈緒(よこやまなお)!よろしくなあ!」

 

二人が自己紹介を行う。

 

「よろしくお願いします。佐竹さん。横山さん」

 

_____

 

注文を決めようとメニューに目を通している最中、奈緒が話しかけてきた。

 

「なあなあ、幸哉って何歳?」

「14歳です」

「14歳かあ~。すごい丁寧なしゃべり方するやん」

「何しろ初対面なので……」

「その割には怖がらずに自己紹介したやんな」

「そうですね……」

 

他愛もない会話を交わす。短い言葉であっても奈緒は微笑ましい表情で返してくれている。

目鼻立ちの整った顔、ふわりと漂う良い香り。見ず知らずの自分に対しても気さくな態度を見せる奈緒に、幸哉はすっかり呆然と彼女を見据えていた。

 

「ところで……なんかあったん?顔暗いで?」

 

奈緒が幸哉の顔に何かを見たのか急に話を変えた。

はっとしたように顔を上に向ける。

 

「まぁちょっと緊張してるだけだよな!?」

「そ、そうですね!?」

 

わざとらしく慶一がごまかし、それに同調する。

 

「そうか~。あんまり気ぃ張らんでええよ」

 

何とか話を終わらせたところで、再びメニューを見る。

チャーハンに餃子、天津飯、ラーメンといった中華料理が記されていた。

どれにしようかと隅から隅まで見回し、注文を伝える。

 

「すみません!注文いいですか?」

「はーい!」

 

調理を手伝っていた美奈子を呼び、注文を伝える。

 

「チャーハン一つお願いします」

「俺は醬油ラーメンで」

「私もチャーハンで」

 

各々が注文を伝え、

 

「それじゃあ、チャーハン二つと醬油ラーメンですね!すぐ作るから待っててくださいね!」

 

注文を聞いた美奈子は、手伝うために厨房へと引っ込んだ。

 

_____

 

注文を伝えたところで、話題はまた移り変わった。

 

「慶一さん」

「ん?」

「さっきプロデューサーさんって呼ばれてましたけど、どんな仕事をしてるんですか?」

「俺、実は芸能関係で働いているんだ。アイドルのプロデューサーやってる」

 

自らの職業を明かす慶一。それに奈緒も続く。

 

「私と美奈子って実はアイドルやってるんやで!すごいやろ~!!」

「へえ……そうなんですか」

 

反応を返すも、どこか薄っぺらいものだった。

奈緒が目を丸くしていた。

 

「えっ?反応薄いな~。もしかしてテレビとか見ないん?」

「すみません。あんまりよく知らなくて」

 

申し訳なさそうに言う。奈緒は明るい調子で言った。

 

「謝らんでええよ!これから知っていけばええから」

 

自分が知られていてもあまり気にしないタイプらしい。それどころか咎めることなく笑顔で応対する。

 

「プロデューサーってどんな仕事してるんですか?」

 

幸哉が質問する。それに慶一は内容を説明する。

 

「仕事内容としては、アイドルのスケジュール管理や調整だったり、ライブの計画を立てたりとかしてるんだ」

 

「なるほど……アイドルはどんなことしてるんですか?」

 

今度は奈緒に質問する。彼女は笑顔で説明を行う。とても楽しそうな調子だった。

 

「アイドルはライブとかテレビ出たりとか…あとダンスとか歌のレッスンやってんねん!しんどいけどその分めちゃくちゃ楽しくやってるで!」

 

楽しそうに語る彼女の顔を覗き込む。短いやりとりながら、アイドルについて知ることができた。奈緒、そして今は厨房に立つ美奈子のことが知りたい。そう思うようになっていた。

_____

「わっほ~い!お待たせしました!チャーハン二人分と醬油ラーメンです!!」

 

会話を楽しんでいた最中、料理が完成したらしく美奈子が声をかけてきた。

 

「えっ……?」

 

注文された炒飯が目の前に置かれた。

見た目には何の変哲もないチャーハンである。しかし量が凄まじいものになっている。

大きな皿に炒められた米、玉子、豚肉、ネギと具材が混ぜられているチャーハンが、皿の上に大きなドームを形作っていた。

 

「びっくりしただろ……ここ、味は美味しいけど……」

「量めちゃくちゃ多いねん……」

 

慶一の目の前には大きな(どんぶり)によそわれたラーメン。

奈緒には幸哉と同じく巨大チャーハン。

 

「さあさあ、召し上がれ♪」

 

作ったであろう張本人―美奈子は三人の目の前で満面の笑顔を浮かべる。

 

「大丈夫か?全部いけるか?」

 

慶一が問うが、

 

「せっかく作ってくださったから、食べきってみせます」

 

チャーハンを見て答える。

いただきます、と決まった挨拶を口にし、手を合わす。

スプーンを手に取り、チャーハンの端を掬う。

 

一口、二口と食べ進めていく。口の中にぱらぱらとした米と炒められた具材のしっかりとした食感が口の中に広がる。

 

「美味しい?」

 

美奈子が聞いてくる。

 

「美味しいです……。あったかくて、たくさん食べられて……」

「本当!?よかったぁ~♪」

 

スプーンでチャーハンを掬っては口に運ぶことを繰り返すこと数回、皿の上のチャーハンは跡形もなく消えていた。

 

「ごちそうさまでした」

 

食後の挨拶を述べる

 

「すごいな……食べきったのか……」

「よっぽどお腹空いてたんかなあ?」

 

二人は驚愕した。同時に自分達の目の前にある大盛りの食品を見て息をついた。まだ食べ切れていなかったようだった。

_____

 

 

しばらくして二人も食べ終わり、慶一が会計を支払った。

 

「美味しかったです。ごちそうさまでした」

「こちらこそありがとう!これからも食べに来てね♪」

 

美奈子に感謝を述べる。その横で奈緒と慶一は少し苦しそうな表情をしていた。

 

「まさかあの量食べ切るとは思わへんかったわ……」

「凄い食べっぷりだったな……うぅ」

「大丈夫ですか?苦しそうですけど」

 

二人を心配し、声をかける。

 

「ああ……大丈夫。ちょっと腹が苦しいけど」

「私も……まあいつも食べてるから」

「そうですか……それはさておき」

 

美奈子と奈緒、二人に向き直り、幸哉は

 

「二人の出るライブ、絶対見に来ます」

 

と言う。それに二人は、

 

「わっほーい!!ありがとう幸哉くん!」

「ほんまに!?絶対見に来てな!?」

 

二人が嬉しそうな表情を見せる。

 

「さあ、俺は明後日から仕事だ。早く帰って寝ないとな」

「せやな~。私も明日から頑張らな!」

「じゃあ帰るか。幸哉!」

「はい!ごちそうさまでした!佐竹さん、また食べにきます」

「うん!また食べに来てね!」

「じゃあ私も帰りますわ。ライブ見にきてな!」

「気を付けて帰るんだぞ!」

 

会話を交わして、それぞれ家に帰った。

美奈子たちと別れ、家に帰る途中、二人は会話しながら歩いていた。

 

「明後日から仕事だな」

「大変そうですね……」

 

「うーん……これから仕事も忙しくなるし、俺の家だと面倒見るのが難しくなるかもなあ」

「忙しそうに動いてましたからね」

「取りあえず、明日からは俺の実家の方に住まわせることになってる。住所もそっち方向に移したからなぁ」

「そうですか。そっちに住むことになるんですね?」

「そうだな」

「ところで……」

 

慶一が話題を変えた。

 

「あのチャーハン、量がすごかったのによく食べきったな」

 

聞いてくる質問に対して、幸哉は笑みを浮かべながら返す。

 

「単純に美味しかったのと、作った佐竹さんの笑顔が素敵だったからだと思います」

「そうか……良かったな!俺もしっかり働いて美味しいもの食べさせるからな」

「待ってますよ」

「おう!」

 

澄み切った夜空を見上げ、二人は家路につくのだった。

 




やっと物語を進めることができました。
特に自分の担当(奈緒)を出すことができたのは良かったです。
次回のお話も楽しみにしていてください。

5/1 追記修正いたしました。
5/14タイトル変更致しました
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