第5話、今回はミリオンライブを代表する三人が登場します。
それでは本編をどうぞ!
「ほらほら~!こっちやで!」
奈緒に手を引かれ、劇場内の廊下を進んでいた。彼女の強引さにたじたじになりながらもしっかりついて行った。
「あの、あんまり引っ張らないでください……」
「そうか?ならごめんなあ」
歩みを止め、ぱっと手を離した。
「手握られるの、もしかして嫌やったん?」
「嫌というか……相手が相手だから……」
奈緒の表情がはっとしてからニヤニヤした表情に変わる。
「もしかしてこれ……デートみたいやなぁ?」
「っ……!」
一瞬にして顔を背け、顔が熱くなるのを感じる。
そんな幸哉を見てケラケラ笑う奈緒。
「そら緊張するわな〜。女子と手繋いでたし。初めてやろ?こんなん」
「からかわないでくださいよ!元は横山さんが……」
つい大声が出る。それを受けた奈緒は目を丸くして驚いた様子を見せている
「びっくりしたぁ。大きな声出るやん」
「あっ……」
「初めて
その言葉を聞き、幸哉ははっとなった。
佐竹飯店で一緒に食事したときには自分は大きな声は出ていなかった。
慶一やアイドルたちと出会ってから、自分の中で何かが変わっているのか?
そんなことを考えていたら「給湯室」とドア横に書かれた部屋の前にいた。
奈緒がドアを開けた。
「美奈子~幸哉おったから連れて来たで」
「奈緒ちゃん!幸哉くんもいるんだね!」
美奈子が振り向いて応えた。内装はコンロや冷蔵庫、流し台といった料理のできそうな設備が揃っていた。給湯室には美奈子の他にも茶色のロングヘアの少女と同じ色のストレートヘアに三つ編みをした少女の姿があった。
その二人は美奈子の料理の仕込みを手伝っていた。入室してきた幸哉たちに気づいたようで声をかけてきた。
「あれ?見たことない子がいる〜!」
「もしかしてお客さん?もう少しでできるから待ってて!」
そう言いながら、せっせと料理を作っていた。調理をしているところで、美奈子が口を開く。
「二人は会うの初めてだったね」
「そうだよ〜!!もしかしてなおーの弟だったりして!」
「ちゃうわ!兄妹おるけどアニキしかおらんて!」
「誰かの家族の人かな?」
「まあ紹介するわ。幸哉っていうて、プロデューサーさんの親戚やねん」
自分が言う前に急に紹介されてしまった。
「横山さん……改めて今永幸哉です。慶一さんの親戚です」
「あぁ~なるほどね。キミが噂の親戚の子なんだ。っと、自己紹介しなきゃ。アタシは
恵美が自己紹介した。そして三つ編み少女の方を見る。
「私、
海美と名乗った少女。声からも快活さが感じ取れる。
なぜ見ず知らずの二人にまで自分のことが伝わっているのか?
疑問を抱き、質問した。
「僕って噂されてたんですか?」
「うん。めっちゃされてたよ。とってもよく食べるってね」
「その噂伝えたん私やけどな」
どうやら奈緒が伝えたらしい。
自分のことが「よく食べる人」とされていたようであった。
_______
「今日の昼ご飯、カレーとサラダですね」
幸哉が言う通り鍋には煮込まれたカレー、炊飯器に大量の白飯、ボウルにはレタスにプチトマト、水菜が入ったサラダが入っていた。
「そうだよ!幸哉はカレー好き?」
恵美が聞いてくる。
「はい、好きですね」
そう答えると美奈子が
「そうなんだ!だったら特別に多めに入れちゃうね!」
と言い、カレー用の皿に白飯を山のように盛り、その上からカレーを大いにかけた。
恵美はその様を見て、心配そうにこちらの方を向く。
「めっちゃ多いよ!?食べられるの?」
「大丈夫やろ。初めて会うたときに大盛りチャーハン完食してたで」
奈緒が心配いらないとばかりに言った。そのやりとりを聞いていた海美。
「すごいすごーい!じゃあ私も大盛りでお願い!」
彼女も美奈子に大盛りを要求した。
「いや、何で海美も大盛り頼むん!?」
「そんなに食べられるなんてすごいな~って思ったんだ!」
「そこ張り合わんでええやろ!?」
そんな会話の後、ここにいる全員分のカレーをよそい終え、サラダの入れ物を用意し、いよいよ食べ始めようとなったその時、
「わあ~っ!カレーだぁ~〜っ!」
そんな声が聞こえたと同時に、女の子がドアの前に立っていた。
髪の毛をリボンで括っており、瞳はぱっちりとしている。
赤いチェックの服の上から白い上着を羽織り、青いスカートをはいていた。
「ちょっと
「急に行かないでよ〜!?」
「未来さん、落ち着いてよ」
彼女の後を追うように三人も女の子が入ってきた。
最初に入ってきたのは黒髪を背中の下あたりまで伸ばし、高級そうな服に身を包み目鼻立ちの整った美人と形容するに相応しい美少女。
未来と呼ばれた少女を追って来た女の子は黄色い髪をしており、頭頂部と頭の横でぴんとはねていた。
服装はTシャツにスカートの出で立ち。袖口やスカートの裾からのぞく素肌が目を引いている。
どこでも人の注目を集めそうなスタイルの良い少女である。
慌てる二人と対照的に落ち着き払った背の低い女の子が姿を現す。
黄色い服に髪に花の飾りをつけた小学生くらいと思しき姿をしていた。そんな四人を見て美奈子が声をかける。
「未来ちゃん!
「一緒に歩いてたらおいしそうなにおいがしたから来ちゃいました!」
「もう、何事かと思ったじゃない」
「びっくりしたよ〜」
「未来さんったら、廊下は走ったらダメでしょ」
「でへへ〜、ごめんね!」
四人のやりとりの後、未来が幸哉に気づく。
「あれ?知らない人がいる〜」
「……!」
「へぇ~そうなんだ!プロデューサーさんの親戚の人なんだね!」
「まぁ…、そんなところです」
未来たちに取りあえず事情を説明した。
「未来、親戚の子って私たちと同い年って言ってたね。ねえねえ、どうして敬語なの?」
黄色い髪の女子が幸哉に質問する。
「どうしてって…、立場が違うっていうか……」
「ふぅ~ん…、そうなんだぁ」
「とりあえず、自己紹介したら?名前知らないと話しづらいかもじゃん?」
恵美が取りなそうとする。それを聞いて幸哉が話しはじめた。
「今永幸哉です。年は14歳です」
緊張のせいか、敬語になってしまう。初対面で同級生。緊張と自分に興味を示していることに少し尻込みしていた。
「私、
初手から名前呼び。距離を縮めてきた。黄色い髪の女子も名乗った。
「
翼と名乗った少女。立ち振舞いからも男子の目を引いていそうである。
「桃子だよ。
桃子と名乗る少女。「お兄ちゃん」と言う単語に疑問を覚える。
「まさか、慶一さんの親戚…?」
発した言葉に海美が反応する。
「ももちん、プロデューサーのことをお兄ちゃんって呼んでるんだよ!」
「海美さん!恥ずかしいからやめてよ!」
桃子が制止するように大声を出す。どうやら血縁関係はないようだった。
残るは黒髪の少女だけだが、未来が口を開く。
「静香ちゃん、自己紹介しないの?」
静香と呼ばれた少女は幸哉を見て短く、
「…
簡潔に紹介した。静香が名乗り終えると部屋にしんとした空気が流れる。
「早く食べないと、カレー冷めちゃうよ?」
「みんなの分もあるからね!」
そんな空気を破るように恵美が言い、続いて美奈子が皿に追加でカレーをよそいはじめた。
手を洗った後、皆が席に座った。
「それじゃみんなで〜……いただきます!」
美奈子が代表して食前の挨拶を唱える。
「「「「いただきます!」」」
皆も続くように手を合わせて唱和した。
米とカレーを混ぜ、口に運ぶ。その瞬間、スパイスの効いたカレーの味と柔らかく炊かれた米の味が口の中に広がる。
食べやすい大きさに切られた豚肉やじゃがいも、人参といった具材も味を引き立てていた。
辛さも甘すぎず辛すぎずでちょうどよく、具、カレー、米の三つが重なって響きあっていた。
そんな味だったが故に
「美味しい……」
幸哉はそう呟いた。追従するように
「おいし~~!!」
「最っ高〜〜!」
と称賛する声があがった。
作っていた美奈子が嬉しそうな顔を見せる。
「また美味しいって言ってもらえた~♪」
「美奈子さん、『また』ってどういう意味ですか~?」
翼が質問する。
「うちのお店にプロデューサーさんと食べに来たんだよね。幸哉くんも一緒に」
「へえ~、そうなんですね~」
そんな会話に幸哉は混じることができなかった。
まず、周りにいるメンバーのことを全く知らないこと。
そして食事している9人のうち、男性は自分だけ。
慶一と逃げる前の学校で同級生にいじめを受け、そうでなくても腫れ物に触るような扱いを受けていた。
そんな過去もあり、話しかけても無視、嫌悪されるのではないか。負の思念が心を縛り、表情が曇る。なるべく注目をされないよう、未来たちから目を逸らしてスプーンでカレーを掬う。
そんな幸哉を見かねたのか、未来が話しかけ来た。
「ねぇ、幸哉くんはどうしてここに来たの?」
至って普通の疑問。それに対して恐る恐る返す。
「慶一さんに忘れ物を届けに来たんです」
相手が同級生でも緊張して敬語で話してしまう。
「へぇ~そうなんだ!あと、どうして敬語なの?私たち、同い年でしょ?」
2つ目の疑問。またも敬語のことを聞かれる。
「立場が違うと思うんです。僕と春日さんとでは」
「?」
「皆さんはアイドルで、僕は一般人ですから」
「私たち、幸哉くんと仲良くなりたいな」
「でも…、僕なんかと仲良くしても『幸哉さん』」
誰かが幸哉の話をぴしゃりと止めた。声の方向を向くと、桃子の姿があった。
桃子は話を止めさせると、すぐに口を開いた。
「幸哉さん、今から敬語使うの禁止ね」
「えっ?」
桃子が話を続ける。
「同い年なのに、敬語でしゃべるなんておかしいと思うな」
そう言い終わると恵美が、
「2人とも落ち着いて!幸哉、ちょっとずつでいいからさ、未来たちと話してみたら?」
と勧めて来た。
「はい…!ありがとう、周防さん。あと、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。でもまだ名字呼びなのは……」
「まあまあ!名前呼びは慣れてからでええやん!?」
皆が幸哉を受け入れようとしている。
自然と話題は劇場で体験したことや、
「同い年の人がいるって馬場さんから聞いたんだ」
「このみさんと会ったことあるんだね」
「同僚の人ですか、って聞いたらすごく喜んでたよ」
アイドルの話になる。
「ええ~っ!?私たちのこと知らなかったんだ!?」
「実はあんまりテレビとか見ることがなくて」
「そやねん!やからライブに来るって約束してくれてん!」
「いいないいな~!私のライブも見てほしいよ~~っ!!」
「桃子の出た作品、必ずチェックしてね!」
会話も弾む中、一人だけ静香が黙々とカレーを口に運んでいた。
「静香ちゃん、幸哉くんとお話しないの?」
未来が聞くが、淡々とした答えが返る。
「私は別に……、プロデューサーの親戚ってだけでしょう」
座ってからというもの、まるで興味がないように幸哉の方を見ていなかった。
静香の態度に、未来は何も言えなかった。
___
幸哉がカレーの美味しさにおかわりを頼んだり、未来や海美が食べに食べたりしたために、大量に煮込まれたカレーやサラダはすっかり空になってしまった。
皆が手を合わせてごちそうさまを唱和した。
幸哉が食後の片付けを手伝っていた最中、静香が何かを思い出したように口を開いた。
「未来、翼、もう少ししたらレッスンに行くわよ」
二人ともスマホの時計を確認して、
「あれっ?もうこんな時間だ!」
「そういえばそうだったね〜」
そんな二人を見て、
「レッスンか……忙しそうだね。いってらっしゃい」
片付けを手伝っていた幸哉は未来たちを見送ろうとしたが、
「うん!行ってきまーす……ちょっと待って!」
「え?」
「幸哉くん!私たちのレッスン……
見ててくれないかな!?」
「ええ!?でも関係ないのに勝手に入るわけには……春日さんたちの邪魔になるかもしれないし……」
申し出を断ろうとすると翼が目の前に出てきて、
「せっかくだから見て欲しいなぁ~……ダメぇ?」
上目遣いでこちらを見てくる。
「う……。わかった。見にいくよ。でも片付けが……」
決断を渋っていたが、翼の得意技のおねだりであっさりと陥落してしまった。
食後の後片付けを気にしていた幸哉だったが、
「後片付けは私たちがやるから~!」
「未来ちゃんのこと、見ててあげてね!」
「気にせんでいってらっしゃ~い」
海美、美奈子、奈緒が声をかけ、見送る。
「そうだね……アタシも未来たちと一緒のレッスンだから、一緒に行こ?」
どうやら、恵美もレッスンの予定があったらしい。
_____
交渉、もといおねだりされた結果、未来たちのレッスンを見学することが決まった。
レッスン用の服に着替えた彼女たちに案内され、レッスンルームへと通された。
ドアを開け、中に入る。そこにはウォーミングアップを始めている2人の女性の姿があっ
た。
ルビーのような色のロングヘアの女性と黄緑色の髪に青い瞳の女性がいた。
恵美が2人に気付き、声をかける。
「
「おはよう、恵美。もう少しで先生が来られるから準備してね」
「ヤッホー、みんな!アレ?見たことない子がいるヨ?」
二人を見て自己紹介をする。琴葉と呼ばれた女性が幸哉を見る。
「噂になってるプロデューサーの親戚って、君のことだったんだね。私は
「
エレナも名前呼びをした。
皆、友好的に接してくれている。
そんな中、琴葉が質問する。
「今日は見学しにきたの?」
その問いに翼が答える。
「今日はわたしたちのことを知ってもらおうと思って連れて来ました〜♪」
「そうなんです。伊吹さんが言うから、今日は見学させてもらうことになりました」
「なるほど……うん、わかった。私たちのこと、見ててほしいな」
「ワタシだってユキヤに見て欲しいヨ〜!」
雑談をしている最中、ジャージ姿の女性が入って来た。どうやらトレーナーのようだ。
「はい、集合!これからレッスンを…、あれ?お客さん?」
女性がこちらに気づく。
「私のプロデューサーの親戚の子で、レッスンを見てもらおうって未来が言ったみたいで……」
琴葉が事情を説明する。
トレーナーはそんな言葉に頷き、アイドルたちに号令をかける。
「今日はお客さんがいるみたいなので、気合入れて行きましょう!」
「あの……見学してもいいですか?邪魔になることはしませんので」
「いいですよ。アイドルは人に見られる仕事なので。お客さんを想定した練習ができると思います」
了承を得て、アイドルたちにぶつからないよう所に移動して体育座りをする。
「あの……頑張って!」
そう呼びかける。
「うん!頑張るよ!」
「わかっているわよ」
「本気、ちょっとだけ出しちゃおうかな〜♪」
「オッケー!頑張るから見ててね!」
アイドルたちが口々に呼びかける。
そんな様子を見て、トレーナーが号令を発した。
「それじゃあ、始めますよ!準備はいいですか?」
「「はい!」」
かくして、レッスンが始まった。
一気に進めたものの、一話に5000から6000字が限界みたいになってきました。
読者の皆さんはどのくらいの文字数が読みやすいでしょうか。
感想、お気に入り等お待ちしています。
それでは次の話も楽しみにお待ちください。