というわけで第7話、話数に因んだアイドルと仲がいいアイドルが登場します。
それでは本編……の前に注意事項。
今回の話に関しましては、アイドルに危害が加えられそうになる(と思われる)場面がございます。
苦手な方は十分にご注意ください。
それでは第7話、始まります!
劇場を出て、電車に乗って家に帰る。
帰宅してすぐ、何があったのかと心配されたが、事情を話すと理解してもらうことができた。
夕食を食べ、部屋のベッドに寝転がっていると、ドアがノックされた。
「おーい、今いいか?」
「どうぞ」
ドアが開けられ、慶一が姿を現す。
入るなり床に座り、こちらを見据える。
「今日はあの後どうだったんだ?」
あの後、とは書類を届けた後のことを指すのだろう。幸哉は質問に答える。
「劇場で昼ご飯を食べました」
「そうか…誰と?」
「春日さんたちです」
「なるほど……未来たちだな」
「その後はレッスンを見学させてもらいました」
「そんなことまで!?」
慶一は自分のいない間に起きた出来事に驚かずにいることができなかった。
追い打ちのように幸哉のスマホから通知音が鳴る。
差出人を見ると「春日未来」の文字があった。スマホを覗き見る慶一。
「なぁ…もしかして……」
「はい…連絡先まで渡されました……」
「ええええ!?」
驚き大声を出す。
「やっぱりダメですよね……」
「いやいや!大丈夫だって!お前が連絡先を悪用するようなヤツじゃないってわかってるからな!?」
「でも情報漏洩とか何かで」
「それは俺が気にするから考えなくていい!」
そんな応酬の後、冷静になった後に慶一が質問した。
「とりあえず、何人と交換したんだ?」
「6人です」
メッセージアプリの連絡先の欄を見せる。そこには今日出会った静香以外の連絡先が登録されていた。
「なるほどなぁ…こんなに……」
「所さんが言ってくれたんです。『友達』だから連絡先交換しようって」
「そうか……うれしいこと言ってくれたなぁ。未来たちには改めて連絡とるから」
「はい」
「そろそろ風呂入ってくる」
「お疲れ様です」
慶一が部屋から出た後、改めてスマホの画面を見る。今回登録されたのは未来、翼、琴葉、恵美、エレナ、桃子の6人。
登録されたメッセージ欄に各々がメッセージを送って来た。
「今日は楽しかったね」「元気?」「お疲れ様」などのメッセージが表示される。それに目を通して返事を返す。当たり障りないやりとりを繰り返していると階下から呼ぶ声が聞こえる。どうやら風呂が空いたらしく、スマホを置いて部屋を出た。
風呂からあがって部屋に戻ると通知が表示されていた。差出人は未来からであった。アプリを開く。
『ねえねえ聞いて!』
『どうかしたの?』
『今度、百合子と杏奈がイベントやるって』
『さっき調べた。七尾百合子さんと望月杏奈さんのことだよね』
『そう!次の休みの日に行ってみたらどうかなって』
『行ってみるよ』
『二人とも喜ぶと思うよ』
画面にメッセージを打ち込み、アプリを閉じる。
次に閲覧用のSNSを開き、『七尾百合子 望月杏奈』と検索にかける。
検索結果はリリースイベントに関する項目でいっぱいだった。
調べた結果、
この二人は公私ともに仲が良く、765プロの名物コンビとなっているとのこと。
情報を収集し終えて、疲れていたのもあってか布団に横になり、すぐ眠りに落ちた。
あれから数日経ち、リリースイベントの日を迎えた。当日は会場が混雑するとのことで開始時間より前に着くように早めに家を出る。
到着する頃にはイベント開始の30分前になっていた。
急いで会場たるショッピングモール内のイベントホールへと向かう最中、灰色のパーカーにニット帽の男にぶつかってしまう。
「すみません!」
幸哉はぶつかった人に謝罪を述べるも、男は舌打ちして
「ちっ……気ぃつけろ」
不機嫌そうな態度を示して去っていった。
会場にたどり着いたところで係員よりリリースイベントの概要を知らされる。
内容としてトークショー、ミニライブ、サイン会から構成されているとのこと。サインを書いてもらうCDを勧められて購入し、用意されたチケットの番号と合致する椅子を探して座る。
スマホを見ると開始時間を知らせており、イベントに集中するために鞄にしまう。係員がマイクを持ちアナウンスを行った。
「これより、七尾百合子&望月杏奈、リリースイベントを開催します!」
「「うおおおおおっ!!」」
会場から歓声が響く。ここに集まった人々が、イベントの開催を心待ちにしていたことが伝わるような大音響である。
「それでは本日の主役にご登場いただきましょう。765プロ、ミリオンスターズより七尾百合子さん、望月杏奈さん!」
赤い衣装にネクタイとスカートといった衣装を身にまとった少女たちが現れて大声で呼びかけた。
「皆さーん!!こーんにーちはー!!」
「「こーんにーちはー!!」」
凄まじいまでの一体感。登場に大きな期待が寄せられていることがひしひしと感じ取れる。
マイクを持った青い髪の少女が口を開く。
「765プロの七尾百合子です!今日は皆さんに会えるのを楽しみにしてましたっ!」
百合子の自己紹介が終わり、もう一人の紫色の髪の少女が自己紹介を始める。
「同じく765プロ、望月杏奈だよっ!今日も杏奈のこと、応援してねっ!」
「「応援するよ!!」」
事前打ち合わせでも行ったかのようなコールの合わさりかた。その大音響とアイドルの振る舞いに幸哉は圧倒される。
(これが、アイドル……!)
心が揺れ動き、思わず目を見開く。
壇上の少女たちは楽しそうな笑顔を観客たちに見せる。その度に沸き立つ観客。ステージどころか、フロア全体に歓声が響く勢いである。
百合子がマイクを持ち、観客に向けて話す。
「今回のイベント、最初はトークショーです!」
「杏奈たちのこととか、新しいCDのこと、ここにいるファンのみんなとお話しちゃうよ!」
二人はステージに置かれた椅子に腰掛ける。
トークショーの内容としては最近の二人にあった出来事、CD収録の苦労話、お互いの趣味、嗜好などを語りあっていた。
これらの話が終わった後、百合子がマイクを手にとって宣言する。
「それでは、ここに来たファンの皆さんに『今日ここに来た理由』を聞いてみたいと思います!」
「え〜と……それじゃあ、そこの黄色い上着の人で!」
「えぇ!?」
思わず自分を指さす幸哉。今日の服装は黄色にチェックの上着であった。突然自分が指名され、面食らっていた。
周りの視線が幸哉に集まる。杏奈がステージから降りてきて、近づく。
「ねえねえ、ここに来た理由を聞かせてほしいな!」
「理由かぁ…、友達に勧められて来たって感じです」
正直に「春日未来が教えてくれました」などと言えるはずもなく、ぼかして回答する。
「そうなんだ~、ところで何歳?杏奈たちと同い年に見えるけど」
「14歳です」
「同い年くらいの人も見に来てくれるんだぁ」
「聞かせてくれてありがと♪それじゃ次いくよ〜!」
そう言って幸哉のもとから去っていった。
二人が交互に客席に降りてインタビューを行っていった。その度に観客は自らの推しと話せることを喜んでいた。
トークショーもつつがなく進行しミニライブへと移行する。休憩時間のため、百合子と杏奈が一旦退出していった。
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「ふーっ……。…すごい盛り上がりだったね〜!」
「うん……みんな……楽しそう……だった」
「杏奈ちゃん、百合子ちゃん。本番はこれからだよ!はりきっていこ!」
「プロデューサーさん…!そうですよね!」
「杏奈……、頑張る…!」
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休憩時間も終わり、ピンク色に薄い水色のフリルがついた衣装に着替えた二人が現れ、イントロを歌い出す。どうやらCD収録の新曲らしい。サビが終わり、二人が指で大きなハートを描く。
「「もっともっともーっと、Loveしたーい!!」」
観衆の興奮は最高潮に達した。先程よりも一層、ここがハイライトだと感じさせた程、大きな歓声が響き渡る。
「というわけで、今回の新曲、『成長Chu→LOVER!!』でした!」
「今日発売のCDに収録されてるからリピート、よろしくね〜っ!」
サイン会の時間となり、列の整理券を受け取り、群衆に交じって一列に並ぶ。
百合子と杏奈、どちらも幸哉にとっては初対面のため、列にこだわりはなかった。ただ、サインが欲しかったため、並ぶことにしていた。
列に並びながら、「応援してます」「ライブ感動しました」などと言うファンの声を聞いていると、ついに2人前に並んでいた人がサインされたCDを受け取り帰ろうとしていた所、幸哉は前に並んだ男の動きに違和感を感じていた。
普通なら順番が来そうな所でCDを手元に出すはずだが、男がポケットから取り出したのはCDのケースではなく、
10センチ程度のグリップがついた折りたたみナイフだった。
それに気づいたときにはアイドルにかけようと思っていた言葉は吹き飛び、気づけば精一杯の大声で、
「早く逃げて!!」
危険を知らせていた。
彼女たちは警告を聞いた瞬間こそきょとんとした顔をしていたが、男の手にある鈍く光る刃物を見て、一瞬で表情が恐怖に染まる。
「ひっ……」
「い……いやぁぁぁぁぁぁ!」
杏奈が怯えた表情になり、百合子が悲鳴をあげた。
観衆も察したのか、係員の制止も聞かず一目散に逃げ出そうとする。先程まで歓声に溢れたステージは、一瞬にして悲劇の舞台に変わろうとしていた。
スタッフが百合子たちを逃がし、観客の避難誘導を始めた。幸哉も逃げて警察を呼ぼうとしたが、男と目線が合ってしまう。
その顔には見覚えがあった。ぶつかった後、不機嫌そうに舌打ちした男と同じであった。
「てめぇ……、さっきのガキか!」
「何で……」
「俺の邪魔すんじゃねぇよ!」
怒号と共に刃物が繰り出される。すんでの所で躱すも、腕を掴まれ動けなくなっていた。
そのまま押し切られるかのように体を押し込まれ、男は腕力で幸哉を壁際に追い詰めていった。壁と背中がぶつかり、思わず苦悶の声を漏らす。
「うっ!」
「くそっ…お前さえいなければ!!」
男が刃物を振りかざし、体に迫る。
(こんなところで死ぬのか……まだライブを見に行く約束があるのに!)
「死にたくない」という思いと「あきらめろ」という思いが脳を染めあげようとした、その瞬間、
「おとなしくしろ!!」
刃物男の後ろから声がして、男を羽交い締めした。
誰かの通報を受けて駆けつけた警官が男を絞めていたのである。
身動きが取れなくなった男から別の警官の手で幸哉は救出された。
「さあ、こっちへ!」
「はい!」
警官が乗るパトカーに案内され、事情聴取を受けることとなった。
「いやあ、君が叫んでなかったら今頃気づいてなかったよ。本当にご協力、ありがとうございます」
「はあ…はあ……」
解放された安心と事件の緊張で息が荒くなっていた。警官はそんな幸哉を見て、声をかける。
「落ち着いてから話してみなさい」
深呼吸をして、警官に問う。
「二人は、七尾さんと望月さんはどうなったんですか」
「無事に保護されましたよ。二人とも無傷です」
「よかった……」
安堵で息を吐く。何とか2人を逃がし、助けることができたことに心の安定を取り戻した。その様子を見た警官が質問をしてくる。
「君の方が心配ですよ。なんせ腕掴まれてるんだから。痛いとこない?」
体を触り確かめるが、違和感はなかった。
「なんともないです」
「よかった。じゃあ親御さんに連絡して。帰ろう」
パトカーに乗せられ、家に送られる。
帰ってはじめに言われたことはケガはないか、お金とか盗られてないかなどを聞かれた。全ての質問に答え、その日は食事もとらずに眠った。
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騒動の後日、慶一から劇場に来てくれとの連絡を受けた。
しかしながら、肝心の慶一は仕事で席を外しているようだった。
入口の扉を開けて、劇場に足を踏み入れた。事務員の美咲に事情を伝えるとすんなり通してくれた。
控室に通され、ドアを開ける。そこには百合子、杏奈、そして若くて小柄な女性が一人、テーブルを挟み座っていた。
幸哉も椅子に座る。
座るなり開口一番、女性がお礼を口にした。
「この度は本当に……ありがとうございました!」
頭を下げ、顔を上げた。直後に彼女の目元が潤む。
「あのときっ…、しらせてくれなかったら……、ううっ」
どうやら感極まって泣きだしてしまっているようだ。
慌てて二人が落ち着かせようとする。
「プロデューサーさん…」
「落ち着いてください…、私たちまで…ぐすっ」
もらい泣きなのか、はたまたあの時の出来事が恐怖だったのか、二人も目元に涙を浮かべていた。
宥めようと、落ち着いた口調で話しかける。
「本当に二人とも無事でよかったです」
「でも……」
「僕なら大丈夫」
「二人がアイドルしてるところ、また見てみたいんだ。だから落ち着いて、顔をあげて」
その言葉に感動したのか、百合子と杏奈は涙した。まるで今までの悲しみを洗い流しているかのような、涙の雫が二人の頬を濡らす。
「うっ…ひくっ…ありがと……!」
「あなたが無事で…ほんとに…よかった……!」
少しの間涙していたが、やがて落ち着いたのか口を開く。
「もしかして…、杏奈が質問した…人?」
杏奈が聞いてくる。しかし、イベントとは違うゆっくりした話し方だった。
双子の姉妹でもいるのか思うほど、顔は同じ。だが、口調が異なっている。思わず杏奈に質問を投げかける。
「あれ?話し方が違う。そうだけども」
「杏奈ちゃん、普段はこんな感じなの」
「そうなんだ……」
「名前聞いても、いい?」
「今永幸哉。年は14歳。よろしく」
「七尾百合子です。こっちの子が……」
「杏奈……望月杏奈……。よろしく……です」
女性もこちらを向き、名乗る。
「
小柄な女性が自己紹介をする。ショートボブにくりくりとした目がかわいらしく、社会人というより女子学生を彷彿とさせる。
自己紹介を終えた直後、部屋の扉が開けられる。そこには未来がいた。
「百合子〜!杏奈〜!幸哉くんも一緒だ!」
「未来!」
「こんにちは、春日さん」
「三人とも無事でよかった〜!」
先日のことはニュースになっていたのだろう。友達の元気な姿に安堵していた。
「お話してたの?」
「お礼を言われたんだ。助けてくれてありがとうって」
「よかった〜!」
「春日さんはこれからレッスン?」
「そうじゃないけど…ちょっといい?」
「?」
未来が申し出る。
「そろそろ私たちのこと、名前で呼んでほしいな」
「あっ…そうだった」
「プロデューサーさんは名前呼びなのに、どうして私たちは名字呼びなのかなって」
初めて会ったときから、幸哉は彼女たちのことを名字で呼んでいた。やはり名前で呼ぶことが関係を深める近道だと考え、口を開いた。
「ええと…未来…さん?」
「うーん、さん付けはなくていいかも……」
お気に召さなかったらしい。呼び方を変えて呼ぶ。
「わかったよ……『未来』。これでいいかな?」
「……うん!」
「百合子、杏奈。これからも応援するよ。イベント、来てよかった」
二人の方を向いて言う。その顔は来てよかったという嬉しさと、無事な姿を見せてくれてよかったという安堵に満ちていた。
「ありがとう……幸哉くん!」
「うん……!ありがと……!」
二人は頬を染め、少し涙混じりの笑顔を浮かべていた。
「あれ?顔が赤いけど……どうしたの?」
「いや…なんでもないの。ちょっと暑いなって思っただけ」
「気にしないで……、いい……よ」
「そうなんだ。体調悪かったら大人の人に伝えるから」
「二人だけなんてずるい!私も混ぜてよ!」
「あはは……ごめんね。未来」
「いいよ!みんなで一緒にお話しよ!」
幸哉が思い出したように口を開く。
「あ、そうだ!」
「どうしたの?」
「そういえばあの時、サインもらうために並んでたんだった」
イベント当日、ミニライブ終了後にサイン会があり、その列に幸哉も並んでいた。しかし、刃物男の襲撃があり、イベントは中止に追い込まれたのだった。そのせいでサインをもらいそびれていたのである。
「あっ、あの時もらいに来てたんだよね」
「そういえば……杏奈たちのどっちかしか……もらえない……はず」
杏奈が言うように、彼女と百合子のサインは並んだ列によってもらえるものが変わるはずであった。
「だったら、CDは持ってる?」
「実はまだ持ってるんだ」
それだけ聞くと、幸哉が取り出したCDが入っているケースに二人は鞄の中からペンを取り出し、ケースの表面に百合子が、裏面に杏奈がそれぞれ自身のサインを書き込む。
「これって……」
「うん……。本当は一人ひとつのサインしか書かなかったけど……」
「助けてくれた……お礼……。特別……、だよ」
二人は少し恥ずかしそうに、顔を赤らめて幸哉にCDを差し出した。
「ありがとう。大切にするよ」
「……本当に、ありがとう。私たちを助けてくれて……」
「杏奈たちのこと……応援……してね」
「これからの二人も、もちろん未来のことも応援する。約束するよ」
「私も!?でへへ~、嬉しいな~!」
皆が笑顔になる。四人の心の距離は少しずつ縮まっていった。
というわけで第7話であります。百合子・杏奈Pの読者の皆様に不快だと感じさせてしまったことを後書きの場を借りて謝罪させていただきます。誠に申し訳ございませんでした。
サブタイの回収が終盤になってタイトル変更もやむなしになりかけたりしてました。毎度長くて申し訳なく思ってます。
これからアイドルたちもオリジナル登場人物も増えてくることになります。次回のお話も楽しみにしていてください!
※6/7 追記修正を行いました。