12月25日にちょっとめんどくさい女の子と推定鈍感な男子がデートするお話。

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12月25日ってたしかにクリスマスだけどさ……。

「なぁ、キョウカ。来月の十二月二十五日って空いてる?」

 

「別に空いてるけど、何?」

 

「じゃあさ、その日遊びに行かないか?」

 

「いいけど……。かなり先じゃない? まだ十一月の頭だよ」

 

「いやさ、……まあそういうことで。他に予定入れるなよ!」

 

 同じ高校に通う幼馴染のケンタにそう誘われて、待つことだいたい二ヶ月。

 その間に何度も「忘れてないよな?」なんて言われていたのだから最大限にかわいい服も靴も用意して髪型もバッチリOK、今流行りのメイクだって動画を見ながら何度も練習をしておいたというのに……。

 

 十五時集合って何? 女の子は支度に時間がかかるとは再三言ってはきたけど、それをどう曲解したの? 普通に考えて一緒にいる時間は長い方がいいと思わないの?

 

「しかも遅刻するし、サイテー! 」

 

「本当にごめん! 電車が遅れて……」

 

「まぁ? 別に? 五分くらいならいいけど? 私は二十分前から待ってたけどね」

 

 言うまでもないことではあるが、季節はまさに冬真っ盛り。乾いた空気と冷たい風が肌を刺してくるそんな気候。たとえ心が暖かくても身体も温まるわけではない。つまりとーっても寒かった。

 

「本当にごめんなさい!!」

 

 息を切らしながら集合場所まで走ってきたケンタは今日もかっこいい。でも、息と髪が乱れてるところと靴がちょっと汚れてるところはマイナスポイントだ。気合を入れてる感はあるけど、多分家の鏡の前で頑張ったのだろうってところが微笑ましい。

 

「それで〜?女の子を寒い中放置して社長出勤をかましてくれたケンタくんはどんなところに私を連れてってくれるのかなぁ? 楽しみだなぁ」

 

「そりゃ一緒に買い物を……。いや、何か奢るよ」

 

「よーし、言質取ったぞ! それじゃ、とりあえず私はぬくくててあまーい飲み物を所望する!」

 

 ケンタは自販機のコンポタを買ってくれた。温かくて甘くて美味しい私の大好きなものではあるのだけど。ちょっと違う。

 

「女の子にああ言われた時ってお店に入って暖かいココアでも飲みながらスイーツをシェアしたいって意味なんだよ?」

 

「そうだったのか。次からは気をつける」

 

「……次っていつでもある訳じゃないんだからね」

 

 そう口には出したが、まぁ確実に次はある。だって私は、谷西鏡花は今目の前にいるケンタのことが好きで、そして自意識過剰が過ぎていないのであれば、ケンタも私のことが好きだから。

 私は漫画の中の鈍感なキャラと違ってそういった自他の感情について悟ることができるのである。えっへん。

 そしてその私の明晰な頭脳が導き出した今日の買い物の主目的は間違いなく"告白"。無論罪の方ではない。「好きです!付き合ってください」って言う方の告白だ。

 

 十二月二十五日、つまりクリスマスに二人きりで出かけるというところも中々それっぽい。ただ、コイツ絶対勘違いしてる。

 

「……ちょっと遅い」

 

「キョウカ、今何か言った?」

 

「別に、何もー」

 

 確かに今日はクリスマス当日ではあるけれど、この日本においてはクリスマスの本番は前日、二十四日なのだ。

 

 ケンタを引き連れショッピングモール内をウィンドウしながら何となしにざっと周囲を見渡せば、門松と熊手、餅におせちが勢揃い。驚く程にお正月ムードである。誕生日当日だと言うのにこの薄情さには例の救世主もきっと悲しんで明明後日くらいに青森から甦ってくるに違いない。

 

 ……つまり、なんて言うか、ムードがよくない。シチュエーションを大事にするなら少し待って初詣でやった方がいいと思う。というか、時間も良くない。夕食を一緒に食べるとして三時間ぽっちで色々見れるわけがない。こんなこと言いたくは無いのだけど、色々と杜撰だ。

 

 

「このチェックのストールかわいいかも。でもこっちの無地のも好きかな。ケンタはどっちが似合うと思う?」

 

 場面は移って手頃な価格のアパレルへ。店舗内には比較的同世代が多くいて、辺りがここの敷居の低さを物語っている。まぁそのせいでケンタは少し肩身が狭そうなのだけど、それはご愛嬌、みたいな感じで。

 

 使える時間は短いのだろうし気持ち急いで買い物は済ませてしまおう。幼馴染兼荷物持ちも今日はいるのだし。

 

 それで、話は戻ってストールだ。迷っている二種をケンタの目の前で喉の前に置いてみて、彼の判断を仰いでみることにした。

 

「え? 俺に聞かれても……」

 

「どっちもいいは絶対無しだからね。ウィッチドゥーユーライクチェックドストール オア ……ムジストール」

 

「プレーンな。そうだな、俺的には無地の方かな」

 

「じゃあチェックの方にしよっと」

 

 よし決定。無地の方をラックに戻してチェックの方を手元に残すことにする。値段は……、やっぱそれなりだよね。

 

「……え? 何その逆張り」

 

「馬鹿だなー、ケンタは。こういうこと聞く時ってもう決まってるものだよ。二分の一で決心をより強く固めたいだけなんだからこういうのは」

 

「気持ちはわからなくもないけども釈然としねぇ。……ま、いっか。そのストールの分俺が出すよ」

 

「え? いい値段するよこれ。ほら」

 

 タグに書かれた値段はお小遣いを切詰めて生活することを覚悟するくらいの値段である。まぁ、そのことを含めた思い出を作るためにこれを買おうとしている節もあるのだし。

 

「……ま、まぁこれくらいなら出せるよ。俺、最近バイト始めたしさ。この前初の給料も振り込まれたし」

 

「いや、それは流石に申し訳ないからね。気持ちだけってことで」

 

「いいや、俺が出す。今日誘ったのは俺だしさ」

 

「大丈夫だから。五千円あれば割と何でもできるんだよ。もったいないよ」

「いいんだよ。五時間もバイトすればこれくらい稼げるからさ」

 

「五時間もバイトする必要があるんじゃん。本当にいいから」

 

「払う」

 

「大丈夫だから!」

 

 少しの間人目を気にしながら実に理性的に言い合って……、最終的に折れたのは私の方だった。

 

「それじゃあこれがクリスマスプレゼントってことで」

 

「やっぱりもうちょい高いもの選べばよかったかな……」

 

「おいおい……」

 

「冗談だよ。ありがとね、サンタくん」

 

「あぁ、どういたしまして」

 

 

 そんなこんなで日も暮れて、緊張で朝昼は萎縮していた腹の虫も主張を始めるようになってきて、夕食でも食べようかと二人で入った店舗は……サイゼだった。

 

「キョウカ、流石にソレは行儀悪いだろ」

 

「別に〜分かってますけど〜?」

 

 このままだとず〜っと頬を膨らませた状態になりかねなかったのでストローでジュースをブクブクしていたら、ケンタに怒られてしまった。まぁたしかにこれは私が悪い。

 

 でもさ、考えてみてほしい。わざわざ二ヶ月前から予定を開けておいて、なんて言われてたら期待しちゃうでしょ。別に高級じゃなくてもいいけどちょっとおしゃれなイタリアンなんかの予約を取っておいて、二人で楽しんでそのまま「実は伝えたいことがあるんだ」なんてあまりにも来ることがわかりきった事を言われたりするんだって思っていて、そのためになるべくしっかりとして可愛い服で来たというのに。……サイゼって。

 

 私は別にサイゼのことが嫌いなわけじゃない、むしろよく行くくらいには好きだし、ちょっとお洒落なイタリアンの分類にも入りうる事はわかっている。でもさ、よく行き過ぎてる場所でしょ。一週間前もサイゼでご飯食べたよね?

 流石にここで告白されたら冗談か何かだと思っちゃうよ。

 

「ピザ何切れか食う?」

 

「……ちょっとだけ食べる」

 

 

「イルミネーションもツリーも、撤去されちゃってるね」

 

「そうだな」

 

 時期柄的に混んでいたのでちゃちゃっと食事を終わらせて、今はモールの中を歩いている。

 ここに来たときも店をみていたときも見ていた光景ではあるのだけれど、夜に見るとまた違った物悲しさがある。クリスマスはもう、終わってしまっているのだなって。

 

「ちょっと歩いたりする?」

 

「いや、寒いし身体冷えるといけないからもう帰ろうか」

 

「え?」

 

 ……え?

 

 ……え? 何も、ないの?

 

 

 二人で列車に揺られて、気づいたら最寄りの駅についていた。

 

「送ってくよ」

 

「……ありがと」

 

 冷静に考えると私が勝手に盛り上がっていただけなのかもしれない。前々から色々言ってきていたのはさっきみたいに何かをプレゼントしたかったからかもしれないし。……馬鹿みたい。

 

 少し自意識過剰がすぎたかもしれないし、きっと今の私は可愛くない。本当に良くない。帰路を歩む厚底も、いつもより少し重いような気がする。

 

「なぁ、キョウカ。一つ、渡したいものがあるんだ」

 

「……何、もうクリスマスプレゼントはもらったよ」

 

「このストールはなんていうか、前座みたいなものでさ」

 

 ……?

 

「これ、受け取ってくれないか?」

 

「え? ありがと?」

 

 ケンタがポケットから取り出した箱をわけがわからないまま受け取って、開けてみる。

 

「……ネックレス? え?」

 

「こんなタイミングで言うのも変な話なんだけどさ、俺、キョウカのことが好きなんだ。……俺と付き合ってくれないか」

 

「え? 待って。なんで今? わかんないんだけど。ちょっと色々と遅いって」

 

「そのさ、恥ずかしい話だけど最初はクリスマスにそのネックレスを渡して告白しようと思ってたんだよ。でもバイトの給料日を確認したらさ、二十五日でさ。なんとかなるだろって思ってたんだけどちょっと見通しが甘かったみたいで」

 

「え? 給料で買ったの? このネックレス」

 

「……まぁ、うん。五万したから一ヶ月分の給料くらいはあると思う。朝一で買ってきたんだ」

 

「重いよ……」

 

「ははは、たしかにそうかも」

 

「……もしも、もしもの話だけど、わたしに他に好きな人ができちゃったらこれを売っちゃうかもしれないんだよ。それでもわたしに渡したいの?」

 

「ああ、俺はキョウカのことがそれくらい好きだから。だから受け取ってほしい」

 

「〜〜〜〜〜ッ!!」

 

 ずるい、ずるい、ずるいずるいずるい! そんな事言われたら、好き以外何も言えなくなっちゃう。遅くて重くてそのくせずるいって、本当にやだ。嫌になっちゃう。

 

「いいよ、受け取ってあげる。……私もケンタのこと、大好きだからさ」

 

 なんとも微妙な時期にシチュエーションもへったくれもない道の端っこで、忘れられない思い出を一つ作ってしまったものだろうか。でも私は何十年後になってもきっと、二十五日のクリスマスの日には今日を思い出すのだろう。そう考えて、思わず頬が緩んでしまう。

 

 本当に大好き。


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