彩られた日々の中で、僕らは地に足着けて生きている。   作:晴口 丸

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 部室に入り、互いに向き合って座る。緊張感のある沈黙に、自然と背筋を伸ばす。

 

「先ず」

 

ハカリ先輩が厳かに口を開く。その後少しの間溜め、

 

「副部長就任、おめでとうございまーす!」

 

パチパチと手を叩いた。何となく拍手の仕方も上品だなと思っていたが冷静になってみるとおかしい。

 

「いやいや、副部長って何ですか? 他の部員さんはそれでは納得できないでしょう」

 

「大丈夫です」

 

ハカリ先輩は自信を持って言う。嫌な気がした。

 

「部員は私とあなたで全員です」

 

よく今まで部として認められていたな。

 

「この学校は良くも悪くも結果が全てです。私はそれに倣っているだけですよ」

 

彼女はチラッと壁の方を見る。そこにはいくつもの賞状が並んでおり、よく見ると全て名前が先輩のものだった。

 

「まあ何にせよ、副部長就任おめでとうございます」

 

「……ははっ」

 

笑うしかない。

 

 

 

 

 ただいま、とドアを開けると、母が奥からおかえり〜と言ってきた。ご飯の匂いがして自室にカバンを放り投げ、リビングに入る。ソファにはコハルが寝そべって器用に右手のみで本を読んでいた。

 

「ん? ああ、借りてるし」

 

僕の本だったらしい。まあ、あまり気にしないが。

 

「そう言えば部活、手芸部に入ることにした」

 

コハルは、フーンと言った後、一瞬の間を置いていきなりバタンと本を閉じ、「何ですって?」と言ってきた。

 

「いや、だから手芸部だって」

 

「あんたが? 何でまた」

 

訝しむようにこちらを覗き込んでくる。

 

「いやまあ、流れでとしか」

 

「あんまりそういうのはやめた方がいいと思うけど」

 

コハルは呆れた声で言ってくる。

 

「そういうのって何だよ?」

 

「他人に誘われて、とか誰かを助けるため、とかそういう自分の意思で決めずに流されるままに決定することよ」

 

コハルにはそう言うのは筒抜けのようだ。

 

「なんで?」

 

少しムッとして聞き返すと、コハルは一際大きくため息をついた後、

 

「あのね、部活動っていう学校生活において結構大切なものを人に決めさせるなんて、責任を他人に押し付けてるだけじゃない。それにそんな理由じゃ部活も長続きしないよ。まして流れで、なんて……」

 

逆ギレとわかっていても、つい語気が強くなってしまう。

 

「じゃあどうすればいいんだよ?」

 

「簡単な話じゃない。明日は休みなんだし、図書館にでも行ってくれば? ちゃんと自分の足で色々調べてみるっていうのも、それを好きになる要因の一つだよ」

 

相変わらず僕と違って聡い子だと感心しつつ、何だかそれをいうのは恥ずかしいので「考えとく」とだけ言っておいた。

 

夕食の席につくと母が苦笑いしていた。

 

 

 

 

 土曜日、特に予定もなかったため、言われた通り図書館にでも行こうかと思い、母に「ちょっと遊んでくる」と伝え、外に出る。

 

自転車にまたがりながら、「図書館に直接行ったら、なんかコハルに言い負かされたみたいで嫌だな」といらぬ心配をし、コンビニに迂回しながら向かうことにする。

 

自転車を止め、中に入ろうとすると中からヒロが出てきた。

 

「お、ハルミじゃん。なんか買いに来たのか?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだけどな」

 

ヒロは首を傾げる。とりあえず駐輪場まで戻り、ことの顛末を伝える。

 

「はえー、ハルミが手芸部ねぇ」

 

何故か保護者のような顔で眺めてくる。

 

「なんだよ」

 

「いや、いいと思う」

 

意外な反応だった。

 

「そもそも、ハルミは中学のころなにも部活動所属しなかっただろう? せっかくの青春なんだし、色々経験するのもいいんじゃないのかって」

 

「そう、だな」

 

やや渋い顔になってしまう。

 

「俺はいいと思うぞ。たとえどんな理由だって行動するのはいいことだ。限りある時間を大切にするのもいいが、ほら、人生は二度繰り返される物語のように退屈であるっていうだろ?」

 

「シェイクスピアか?」

 

「ま、色々試してみるといい。俺もこの立ち位置だからこそ面白いものが転がってくるんだ」

 

ヒロは僕の肩を叩くと、

 

「頑張れよ。ゆめゆめ無駄にするなよ」

 

「何をだよ」

 

ヒロは、さあねとはぐらかしてそのまま自転車で去って行った。

 

 

 

 図書館について手芸に関する本をいくつかピックアップする。さてもう借りるものはないかと考えてふと思いつく。

 

「医学、医学っと、この辺か」

 

全体をさっと眺め、その中の一つを手に取る。表紙に大きく「車椅子介助の手引き」と書かれていた。

 

「まあ役に立つかわからないけどね」

 

と誰にでもなく言い訳を重ね、借りる本を入れるバスケットに入れた。

 

 

 

 月曜、特に大きなこともなく放課後になり、教室を出ようとすると、ユウに呼び止められる。

 

「ハルミ、部活はもう決めたか? よかったら一緒にバドミントン部に入らないか」

 

後ろにソラもいる。きっとあらかじめ一緒に入ると決めていたのだろう。

 

「いや、ごめん。俺もう手芸部に入るって決めたんだ」

 

「そうなのか? 言い方は悪いが、あんまり手芸のイメージってないな」

 

ユウはにこやかに、ソラは驚いて軽く目を見開く。

 

僕は肩をすくめて、

 

「そりゃそうさ。裁縫セットなんて、授業以外では触ったことがないからな」

 

「じゃあどうして?」

 

僕は頬をかきながら「まあ、悪戯な猫に騙されたんだ」とカッコつけて言ってみる。

 

彼らはキョトンとした顔をした。

 

「いや、ごめん気にしないで」

 

僕は少し恥ずかしくなって、その場を後にする。柄じゃないことはするもんじゃないな。反省反省。

 




お読みいただきありがとうございます。
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