彩られた日々の中で、僕らは地に足着けて生きている。   作:晴口 丸

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「あ、やば」

 

昼休みの教室で、唐突に思い出す。確か今日は部活関連の大事な書類があるんだった。ハカリ先輩に渡さないといけない。上級生の階に下級生が入るのは緊張するものの、特段悪いことをしているわけではないので、とりあえず探そうかと思って自分の失態に気づく。

 

「ハカリ先輩って何組だ?」

 

手当たり次第に探そうかと思ったところで、向こうからムラカミ先輩が車椅子を押しているのに気づいた。

 

「ああ、君は手芸部の……」

 

そう言って目の前まで車椅子を押してブレーキをかける。突然止まったことにハカリ先輩は少し驚きつつも、ままあることなのか、気に留めずにいる。目の前まで来たハカリ先輩に視線を合わせるように軽く膝をつき、二人に「すみません、部活動の受領書、少し休養日が続くから渡しておこうかと思って」と声をかける。すると、ハカリ先輩は今までとは違う僕の行動に驚きの表情を浮かべていた。僕は少し照れながら、

 

「少し遅いですけど、車椅子についての本を読んでみて。ちょっとした気配りでもいいから始めてみようかな、と。もちろん迷惑だったらどんどん言ってください。できるだけ自然体で接するよう、こちらも心がけますので」

 

そう言うと、ハカリ先輩はその優しい表情に瞳を潤ませ、

 

「そうだったんですね。そう言うことなら当然迷惑なんてことはないですよ。ありがたいです」

 

と早口に述べ、か細い声で「……ありがとうございます」と漏らす。そして僕の書類を慌てつつも丁寧に受け取ると、「いきましょうか!」と早々に立ち去り、その後に慌ててムラカミ先輩が「待ってー」と声を上げて行ってしまった。

 

残された僕はどうすればいいのかわからずも、とりあえず上級生の視線を避けるように退散していった。

 

 

 

 

「よっ、なかなか面白いことしてるみたいじゃん?」

 

次の日の朝、ヒロに声をかけられる。

 

「ヒロの言う面白いがなんなのかわからないが、僕は普通にしているだけだよ」

 

「とか言って、昨日はたいそうなこと上級生の階で言ってたらしいじゃん?」

 

ヒロは彼の性根を表すように口角を上げて語りかける。

 

「それこそわからん。別に僕は面白くしようとしたわけじゃないが」

 

ヒロは軽く驚いた表情をみせた後、すぐにいつもの笑みを浮かべ、

 

「……まあ今はいいや。これからに期待ってことで」

 

と言って彼はひらひらと手を振り、周りの人に話しかけにいく。もうそんなにコミュニティーを広げているのかと彼のコミュニケーション能力に舌を巻く。

 

ぼーっとしてると今度はユウが訝しむような顔をしながら話しかけてきた。

 

「ハルミ、昨日は何したんだい? 二年の間では一躍時の人だよ」

 

そりゃ面白いことだ、なんて答えられないので、困惑しつつ、問いただそうとすると、いつの間にかユウの後ろに立っていたソラは「まあ悪い意味で目立っているわけじゃないんだ。すぐにみんな気にしなくなると思う」と付け加えた。よかった。

 

 

 

 放課後、特に掃除や部活もないので帰ろうとするとヒロに呼びとめられる。朝の件だろうと黙ってついていくと、ファストフード店に連れられた。

 

適当に飲み物とポテトを頼み席に着く。とりあえずヒロが切り出すのを待っていると、

 

「いやー、別に茶化したいわけじゃないんだ。ただちょっと改めてハルミの真意を知りたくて」

 

長いポテトを加えて上下させながら切り出す。

 

「真意?」

 

意味がわからなくて聞き返す。

 

「中学校ではあんまり周りに対して積極的に行動する感じじゃなかっただろ? なのに高校に入って突然手芸部に入るなんて、こちらとしては気にならないと言う方が嘘になる」

 

ヒロの珍しく真面目な顔に少しギョッとしつつも一応理由には納得する。

 

「本当に大した理由はない」

 

と冒頭に加え、ことの経緯を話す。ヒロは真面目な顔を作るのがバカらしくなったのか、最後は運ばれたジュースを飲み、頬杖を突きながら聞いていた。

 

「ほーん。そう言うわけね。まあ納得したわ。そう言うことなら俺は茶化さないよ。頑張れって言っておく」

 

珍しく素直な反応に驚きつつもポテトでこちらを指してくる姿に呆れる。バカなことが好きなやつだが、根は真面目であるわけだしな。そう思って僕はジュースを飲み干した。

 

 

 

 

 少し遅くなった帰りに、怒り気味の「おかえり」が飛んでくる。苦笑いしながらリビングに入ると、眉の端を吊り上げたコハルが出迎えてくれた。彼女は特に何を言うでもなく夕食にテーブルにつき、僕と彼女自身の分の夕食を並べて待っていた。

 

「母さんは?」

 

「仕事だよ。パパも遅いからもう食べていいって」

 

「了解。待たせてごめんな」

 

早々に手洗いうがいを済まし、席につく。示し合わせたわけでもないが、寸分狂わず同時に「いただきます」の口上を述べる。もう何年も前からずっと続いていたので慣れたものだ。

 

しばらく食器が触れる音と咀嚼音のみが場を支配する。

 

唐突にコハルが、「で? うまく行ってんの?」とこちらも見ずに話しかける。その態度には気も止めず、

 

「ああ、まあコハルのおかげかな。色々と助言ありがとな」

 

素直に感謝の意を伝えると、小さく「別に」と返ってくる。それから

「まあ意欲があることはいいことね。せいぜい頑張りなさい」

とつっけんどんに言われてしまった。

 




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