彩られた日々の中で、僕らは地に足着けて生きている。 作:晴口 丸
体育祭が終わって次の部活にて、作品の完成に向けて僕らは頑張っていた。
「先の体育祭、かなり盛り上がりましたね」
「ええ、私のクラスもかなり」
「僕らが作った旗、結構好感触でした。本当、一安心です」
「それは当然、この私がいたからですね」
ハカリ先輩は作業をしながら器用に胸を反らした。
「いやぁ、突然のことなのに対応してもらって本当に頭が上がらないです」
先輩はこと手芸に関しては本当になんでもできてしまうなと心の中で尊敬していると、
「いや、まあ今回は私も頑張っていたとはいえ、一番頑張ったのは他でもないミズノ君じゃないですか」
先輩は少し慌てて訂正する。
突然の持ち上げにびっくりして「いやいや」と反応し、少し気まずい沈黙が流れる。
そんな沈黙が可笑しかったのか、先輩は軽く吹き出し、
「ふふっ、貴方はもう少し自信を持っても良いのですがね」
僕はどう応えていいか分からず、
「もうっ、そういうのはいいですから、ほら、帰りましょう、こんな時間ですよ」
先輩のクスクスという笑い声に顔をしかめて立ち上がる。
「そんな風にからかってると、四回に一回くらい段差の時に何も言わずに前輪をあげちゃいますよ」
「あら、それでも車椅子を押してくれるのですね」
僕は内心、えも言われぬ敗北感を感じつつもその陽気で上品な笑みには敵わないなと思った。
※
優しさはいつまでも続くわけじゃない。それでも頼らないといけないというのは、申し訳ないという気持ちが身を焦がすように襲いかかる。そして何より怖いのは、優しさもめんどくささも無くなって、周りに誰もいなくなってしまうことであると、痛いほどわかっている。
※
学校も夏休みに入り、手芸部の活動は一時中止になる。
ハカリ先輩のこともあって、遠征をしにくい環境では特に目立ったイベントもなく、どうも退屈になりがちだ。
コハルの目が日に日に冷めてくるのを見ているとそろそろ重い腰も上げようかという気になってくる。
そんな折、自分も何かしないとまずいな、何かないかな、と思って少し遠くまで自転車を走らせていると、コンビニに見た顔がいるのを視界の端にとらえた。
店内は思いの外涼しく、心地いい冷気は体の心から体力を回復させるようだった。
ヒロ、と声をかけると一瞬反応が遅れて彼は振り返る。
「っああ、ハルミか。夏休み満喫しているか?」
「そのために外に出てみることにしたんだ。なんか面白いことある?」
そのままの流れで飲み物を買ってイートインコーナーに入り、軽く世間話をしつつ時間を潰す。
「ハルミの妹……コハルちゃんだっけ? あの子、本当にストイックになったよなぁ。あんまり無理させない様にな」
「わかってるよ。最近は結構落ち着いてるし、自発的に外に出ることも多くなってきてる。ほんと安心した」
肩肘をついてどこを見るでもなくただ外を眺める。
ヒロは、小さくそうかと呟いて頬を緩ませる。そのまま立ち上がり、予定があると言って出て行った。
僕はどこかに行く気も起きず、彼の後に続くように帰路についた。
「ねえ、本当に行くの?」
コハルは珍しく及び腰でそう尋ねる。
「一応だ、一応。最近は経過観察くらいだし、すぐ終わるだろ? たまにはお前も外に出ろ」
コハルは露骨に嫌そうな顔をしつつも渋々ついてくる。
ここらでは一番大きい総合病院に入ると、コハルの受診手続きを終え、待合席に並んで座る。僕の右に座ったコハルは不貞腐れたのか、僕の肩にもたれかかってきた。
数分して、コハルの名が呼ばれ、診察室に入る。
「はいこんにちは。じゃあ早速左肩を見せてもらおうかな」
コハルが診察を受けているところを僕は黙って眺める。
コハルの落ち着いた様子にホッとしつつ、ここまで来れて良かったとしみじみ思う。思えばもうこんなに経ったのか……。
……何よ、とコハルは座ったまま抗議の視線を送る。気づくと無意識に僕は彼女の頭に手を置いていた。
「ああ、すまん」と手を離し、医師の診察を待つ。
曰く、もう安定しているので定期的にくる必要はあるものの、特別な処置を必要とすることはないだろうとのことだ。
そのことにコハルは喜びを見せ、僕も胸を撫で下ろす。
先生に挨拶をして退室し、待合席に戻るため廊下を歩いていると、リハビリルームからハカリ先輩が出てきた。
反射的にコハルは僕の後ろに隠れる。見知らぬ人ということと、車椅子に乗っているということで、少しびっくりしているようだ。そう言えばコハルに話したことなかったな、と思う。
「ハルミ君ですか。こんなところで珍しいですね。そちらの女性は?」
「ハカリ先輩、ご無沙汰してます。妹のコハルです。今日はあくまで軽い診察のために来ただけですよ」
ハカリ先輩はそうですか、とできるだけコハルを安心させるように微笑む。
僕はコハルに、大丈夫と伝えると、コハルはゆっくりと僕の後ろから出てくる。
ある意味では先輩と初めて会った時の僕と同じ状況か、と思っていると、案の定先輩は目を丸くして固まった。
「コハルです。……これのことはあまり気にしないでもらえると嬉しいです」