春の陽気な気温から夏に差し掛かる黄雀ノ月。
新星学園の制服に袖を通し、閑静な街並みを歩く少年がいた。闇さえ吸い込んでしまうような黒い髪をたたえた彼――緋宮クロト――は今日と言う転入初日に対し、期待に胸を膨らませていた。
(ようやく俺も星騎士としてモンスターと戦えるようになる……!)
子供なら誰もが憧れるヒーローのような存在で、モンスターと戦う姿は、クロトの胸を熱くさせるには十分だった。
もちろん誰もがなれる、と言うわけではない。力を借りる星は一人一つで、そもそも星に選ばれないと星力を行使する星騎士にはなれない。
「俺も守護星が付いて今日からスターナイトだ。変身とかできるようになっちゃうんだよなー」
(転入初日は挨拶が肝心だ。失敗しないようにしないと)
思いを馳せていると、後方から耳をつんざくような女性の悲鳴が聞こえて来た。
ギョッとしてそちらに振り返ると、子供を乗せたバスがモンスターに襲われているところだった。
それらはバスに齧り付き、破壊しようとしている。周囲の不安な顔や子供達の泣き顔を見て行動を起こすまでに、一秒も要さなかった。
「待て、モンスター! 俺が相手だ!」
俺が叫ぶと、それらは示し合わせたように一斉に振り返り、こちらに飛びかかってくる。
(大丈夫、この程度ならいつも戦って来た。……ちょっと数が多いけど)
肩から下げたカバンを道の傍らに放り投げ、構えをとる。
昔からモンスターに狙われやすい体質だった。ちっさい頃は逃げてたけど、今の俺なら……!
「まだ正式に
次の瞬間、爆音と共に周囲のモンスターが吹き飛ばされた。
「はいはーい、新星星徒会でーす」
土煙が晴れた中心には銀色の大剣を持った男が立っていた。呆気に取られていると、朱色の弓を持った小柄な女の子が空から降りて来た。
「サーシャさんにあれほど派手な攻撃は控えてって言われているのに」
「まあこれくらい大丈夫、大丈夫。街に被害はないから」
「それにしたって加減というモノがある」
コートを着た男はあっけらかんと対応する。整った顔立ちは憂いを帯びた雰囲気と合わさって、女性からの人気が凄そうだ。
「それは後。今は向こうのモンスターが先だ」
「そうですね……いえそれより、貴方、緋宮クロトさんですね?」
長いブロンドの髪を揺らして、少女はこちらに振り返る。
「え、は、はい」
突然自分の名前が呼ばれて驚いた。
「私はアナ。説明する時間がないので、とりあえずこれで変身してください」
手渡されたのは剣の形をした
「よくわからないけど、これで変身できるんだな!」
力を込めると身体が光り輝き、瞬きの後には漆黒の燕尾服に包まれていた。
「戦い方はそっちのアナって人が教えるから――」
「いえ、今までこいつらとは沢山やり合って来ましたので!」
「「え⁉︎」」
「ちょ……私がフォローにまわろう」
「手伝います」
今までにない星力を得た攻撃は、いとも簡単にモンスターを蹴散らしていく。いつもよりも何倍も早く重い一撃が炸裂していった。
「ふう、こんなものか」
見渡しても近くに残党は見当たらなかった。
「ばかやろー」
ガァンという金属音と共に頭部に衝撃が走る。
「モンスターがお前に寄ってたかってるかもしれないが、そうでない奴もいる。星騎士ってのは人々を守るためにいるんだ。浅慮な行動は控えろ」
男は不機嫌さを隠さない視線を向けて来た。
「ご、ごめんなさい」
もっともな発言に素直に頭を下げると、男は剣呑な雰囲気を解いてフッと笑う。
「まあわかればいいんだ。アンタ、結構強いんだな。今後も頼りにするかも。それに、ほら」
促された方に視線を動かすと、先ほどの女性と子供達が手を振っていた。
「にいちゃんとねーちゃん、ありがと〜」
「セーキシ、かっこいー」
「本当にありがとうございました」
「おう! 元気でな、わっぱども。ほらアンタも」
困惑しつつも手を振るとみんな嬉しそうに振り返してくれた。なんだか心が温まる。
「いい初舞台だったな」
「ちょっとー、サキくーん。こっちも手伝ってぇ」
「サキセンパーイ!」
声のした方から、大鎌を持った銀髪の女性と剣と盾を持った蒼髪のボブカットの女性が大量のモンスターを連れて走ってくる。
「わ、先輩達大変です。サキ先輩、行きましょう」
「了解。ほら、クロトも行くぞ」
「ええ? はい」
五人で合流し、改めて向き直ると三十程のモンスターがいた。
「ああもう、もう直ぐ学校始まっちゃう!」
「アステラがないのが救いだな。はじめに一発食らわせてから各個撃破と行こうか。サーシャ、頼む」
「はーい、行っちゃうよぉ〜」
サーシャ、と呼ばれた銀髪の女性が大鎌を振るうと共に、彼女の星術が発動した。途端に冷気が迸り、ここだけ冬になったのかと錯覚するほどに気温が下がった。前方にいたモンスターは凍り付き、他のモンスター達も動きを鈍くさせる。
男の、散開、と言う号令と共に四人が一斉に飛び出し、俺も一拍遅れてそれに続く。
モンスターの相手をしながら時折周囲を見渡すと、なるほど、中には
「……ふう、こんなものかしら」
全てのモンスターを倒し終え、周囲に新たな敵がいないことを確認する。
「オーケーみたいね。じゃあバイバイ!」
盾を持った少女が慌てて飛んでいき、アナがそれに追随する。
「おお、早いねー。じゃあ私たちも行きますかね。また後でね、転校生の緋宮クロトクン」
「ばいば〜い。また学校でね〜」
最後に名を呼ばれ、はい、と反応する頃には残りの二人の姿は見えなかった。
星の力を借りているからか、
「……どうやって飛べばいいんだ?」
俺は仕方なく変身を解除して歩いていくことにした。虚しい。
初めまして、晴丸です。拙文をお読みいただきありがとうございます。
序盤は主に本編と同じような内容で行きますが、少しずつオリジナル展開へ変えていくので、よろしくお願いします。