ティンクルスターチューン   作:晴口 丸

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第四曲 スケルツォに踊らされて

 階段を登り、長い通路を通って厳かな扉の前に着く。

 

「はーいヴィーナスちゃん、クロト君とサキちゃん、連れてきたわよ〜」

 

「案内ありがとう、下がっていいわ、サーシャさん、サキ。これで役者は揃ったわね」

 

 正面の大きな机と回転椅子。察するに、そこに座って向こうを向いているのが会長なのだろう。中々の演出家だ。

 

「全く、人使いの荒い会長さんですねぇ」

 

 サキさんも諦めたのか、空いているソファに座って話を聞く体制に入る。

 

いまいち状況が飲み込めない。傍を見ると、昨日の神族の小柄な女の子――アナ――が居た。目が合うとぺこりと頭を下げてきたので挨拶しておく。

 

反対を見るとマトイが立っており、俺と同様状況がわかっていないみたいだ。

 

「会長さん、ですね? お初にお目にかかります。俺は――」

 

「ああ、そういう姑息なモノはいいわ」

 

 椅子を回転させその姿を現す。彼女がこの新星学園の代表……。自然と身構えてしまう。

 

 ビビッドピンクのロングに、パッチリとした金色の瞳。勝気な表情は、内に秘めたカリスマを可視化しているようだ。

 

「心して聞きなさい。これはすでに決定事項……この私が命じる限りね」

 

 ハキハキと凛として喋る。この学校において、星徒会の決定は絶対と言っても過言ではない。この後の俺の処遇も胸三寸だったりするわけだ。

 

(勝手にモンスターを倒していたのがバレたのか……?)

 

 彼女は無言で俺のそばまで歩いてきた。そしてそのまま制服につけていたマントを外し、俺に着ける。

 

「……これでよし」

 

「? 何だ、これは?」

 

デザインがよく制服によくあっているマント。これが意味するのが一体何なのか。薄々察してきてもいるが、冷静な頭がそれを否定する。

 

「あなたを今日付けで、新星学園星徒会――星徒会長に任命するわ。そして――」

 

カッと目を見開き、勢いのまま続ける。

 

「緋宮クロト――あなたは魔王となって、この世界を救うのよ!」

 

「…………………は?」

 

 はぁ? と続けるのはサキさん。え? と続けるのはマトイ。きゃあ、と続けるのはサーシャさん。ぱおーん、と続けるのはアナ。……ぱおーん?

 

「いやいや、ちょっと待ってください。流石に話が分かりません。えっと……?」

 

「九浄ヴィーナス。新星学園に通う生徒なら、私の名前くらい覚えておきなさい」

 

「ヴィーナス会長」

 

「ヴィーナスでいいわ。もう会長じゃないもの」

 

「分かった、ヴィーナス。でも君の言ってることは理解できない。何で俺が星徒会長で魔王なんだ?」

 

「何でって、簡単な話よ」

 

そして机から一冊の分厚い本を取ってくる。

 

「これに書かれているからに決まってるじゃない!」

 

 表紙に綺麗な筆記体で「Venus」と書かれた可愛らしい装飾の施された本。察するに日記だろうか?

 

「緋宮クロト――あなたがこの新星に来ることも、私には全て見えてたわ!」

 

 ソファに寝転びながら、胡乱な目をするサキ先輩。まあ内心は概ね一緒だろう。

 

「えっと、つまり昨日の出撃は……」

 

 マトイもマトイで状況が理解できていないみたいでヴィーナスに問いかける。

 

「もちろん、クロトがいるってわかってたわ。だからアナにセレスティアを持たせていたじゃない」

 

「そんなの聞いてなかったんですけど!」

 

 マトイが抗議をし、後方でサキさんも声を上げる。

 

「話すと長くなりそうだったので」

 

 昨日の朝駆けつけてくれたのは、どうやら偶然ではないようだ。

 

「俺を星徒会長に任命しようとしてくれるのは光栄だ。でも転入していきなりなんて、他のみんなは認めないんじゃないか?」

 

「じゃあ示せばいいじゃない」

 

 ヴィーナスはさも当然かのように告げる。真意が掴めずに黙って先を促すと、

 

「簡単な話よ。一週間後、私と全校生徒の前で決闘しなさい。それで勝ったら、おめでとう。あなたが星徒会長だわ」

 

「いやいや、そんなの無理でしょ!」

 

「そうだぜ。クロト君はまだ星騎士(スターナイト)になったばかりだ。そんな奴がヴィーナスに勝つなんて――」

 

「星徒会長に任命されるより無理げ〜」

 

なるほど。なんとなく彼女らしい、ひどく明快でこれ以上ないほどに分かりやすい解決策。ただし一つ聞いていないことがある。

 

「……俺が負けたらどうなる?」

 

「負けたらもちろん退学よ。その方が本気になれていいでしょ?」

 

「なっ⁉︎」

 

 あまりに重いペナルティに驚き、のけぞってしまう。

 

「おいおい、そりゃあまりにも身勝手なんじゃないか? 職権濫用と捉えられても仕方ないぞ」

 

「関係ないわ。それを決めるのはクロトなんだから。ちなみに、会長の任命を断った場合も、退学よ」

 

 そんなのありかよ。抜き差しならない状況に心の中で吐き捨てる。

 

「仕方ないわ、これも決まりだもの。星徒会長による人事は絶対。従えないなら、この学園を去ってもらうことになるわ」

 

 星徒会の圧倒的な権力を前に言葉を失う。

 

「ちょっと会長。いくらなんでもそれはないでしょう」

 

「そうねぇ。時期的にも会長の交代時期から随分と早いわけだし」

 

「マトイとサーシャさんの意見も一理あるわ」

 

 二人の意見にヴィーナスは理解を示す。俺としても全面的に同意だ。

 

「だからこその決闘じゃない!」

 

「いや、何がだから、だよ。話が全然見えてこない」

 

「今のままだったら生徒たちは納得しないわ。だからこそ、私との決闘に勝って、その真の力を知らしめるのよ!」

 

 その言葉にサキさんは頭を抱える。

 

「……ありえない。何もかも馬鹿げてるし、破綻してる。クロト君、悪いことは言わない。辞退すべきだよ。誰も君を責めないから」

 

「そうね。言うなればこれは、私から彼へのお願い。でも彼はそれを裏切るような人じゃない……。そうよね、緋宮クロト?」

 

 あんたに何がわかるんだ、とか初対面で何を、とか。普通ならそう考えていてもおかしくはない。でも、まっすぐに俺を捉える彼女の瞳は、何処か悲しげで、すがるようで――。

 

「……わかった」

 

「なっ⁉︎」

 

仕方ないじゃないか。退学を天秤にかけられているなら。それに、よくわからないが彼女が俺をここまで買ってくれているなら、少なくともその厚意には応えるべきだろう。サキさんには悪いが……。

 

「九浄ヴィーナス――俺は君に勝って、星徒会長の座を貰い受けよう」

 

「そうこなくっちゃ」

 

 彼女は今日一番の笑みを浮かべた。

 

「ああーもう知らない、知らない。二人で勝手にやってな。私は帰る」

 

「まあまあ。最後まで話を聞いたらいいじゃない」

 

サーシャさんが無理矢理座らせ、お茶を前に置く。

 

「…………………どうも」

 

「粗茶ですが〜」

 

渋々と言った感じで口を付けるのを嬉しそうに眺めるサーシャさん。結構相性がいいのかもしれない。

 

「既に学園長には話を通しているわ。貴方が決闘を受けた場合、一週間後に『御前試合』を行う事をね」

 

「御前試合? そんなあつらえ向きなのがあったのか?」

 

「昔に流星の方であった一騎討ち制度みたいよ。数十年くらい前の話だけど」

 

 自分の分のお茶も準備した後並んで座るサーシャさんたち二人。やっぱり絵になる。

 

「そうか。何と言うか、頑張れ少年。月並みな言葉だが、明日をつかむんだ、ってやつだ」

 

「私からも、頑張ってください。先輩」

 

「まあヴィーナスの暴走は今に始まった事じゃないし……。できる限りのことは協力するからね?」

 

 こうして突然に決まった御前試合。俺の学園生活は波瀾万丈に始まることが確定した。

 

 




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