ティンクルスターチューン   作:晴口 丸

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第五曲 you need passion and étude.

 転入生が星徒会長に下剋上を吹っかけた。その噂は半日足らずで学園の隅々まで駆け抜けた。

 

「ねえ聞いた? 転入生が会長と決闘するらしいよ」

 

「身の程をわきまえていらっしゃるのでしょうか?」

「そんな事より見て! 制服改造してみた」

「えぇかわいいー。それ教えて」

 

廊下を歩いていると、あちらこちらから話し声が聞こえてくる。

 

「良くも悪くも自由な校風って感じか」

 

「他人事みたいに言うんだね……」

 

 マトイが引き気味に俺を見る。

 

 気づけば俺は、入学早々にトップに果し状を叩きつける前代未聞な転入生として一躍時の人となった。

 

 トップか退学か。デッドオアグローリーって感じだな。……巧くないな。

 

「サキさんの言うとおり、やっぱり無茶だったんじゃないかなー」

 

「でもある意味幸運。いきなりトップを狙える」

 

 いやいや、と呆れるマトイ。

 

「確かにそうだ。いいこと言うな、アナ」

 

「ええー……」

 

 現実問題として、受けなければ退学だったのだから仕方ないだろう。至難とされる入学試験を潜り抜けたと思いきや、はいさようならなんて、到底受け入れられる話ではなかった。

 

「サキさんやサーシャさんに聞いたんだ。世界の危機に立ち向かうなら、プリマステラにならないといけないって」

 

 目の前で誰かが危機に晒されてるのに、誰かを待たないといけない身に甘んじられるかと言われたら絶対にノーだ。

 

「でもそれ以上の、星徒会長になれる道があるのなら、……逃げてる場合じゃない」

 

 マトイは心配そうな顔を浮かべる。

 

生徒二千五百四十五人の代表。まさに選りすぐりのエリート集団。

 

「もちろん簡単になれるなんて考えてはない。でも俺が俺自身を納得させるためにはきっとこうするべきだったのかもな」

 

「だからって、わざわざ……」

 

 少し呆れたように見つめるマトイに苦笑を返す。

 

「でもそう考えるとアナって凄いんだな」

 

「……まあそれなりに」

 

 俺の隣を歩く、アウレオラ(天使の輪っか)を頭上に浮かべた少女。

 

 彼女がつけている腕章は副会長である事を示している。

 

「凄いなんてものじゃないよ。一年生なのに副会長なんて歴代初だって聞いたよ」 

 

「現会長はデスクワークが苦手。適材適所」

 

「信頼されてるんだな」

 

 前代未聞の一年生副会長。その意味は、俺が考えてるより遥かに大きいのかも知れない。

 

「それにしても、ヴィーナスに勝つと言ってもどうしたらいいのやら」

 

「それはもう特訓しかないよ! アナ、地下って空いてたかな?」

 

「既に使用許可をもらってきてます」

 

「地下?」

 

 なんとなく不安に感じる単語だ。

 

「ついてきたらわかるよ」

 

 マトイに連れられ俺たちは地下へ向かった。

 

 

 

 

「ここが地下。地下訓練施設だよ。星騎士はみんなここで実践的な訓練を積んでいくんだ」

 

「普通なら授業でたまに使うくらいだけど、星徒会役員なら借りられる」

 

 広大な地下空間は、コントロール室とトレーニング室に分けられていた。

 

「とりあえずクロト君の能力を確認してみようか。トレーニング室に入っといて」

 

「わかった」

 

「まずはCランクモンスターでいいですね」

 

コントロール室で何か操作したのか、トレーニング室全体に大きな光の障壁のようなものが作られると同時に、ホログラムのモンスターが数体現れる。

 

 深呼吸をした後、セレスティアに触れ、変身する。

 

数もそんなに多くないので高速で接近し、前の敵から順番に処理していく。

 

 一体一体がかなり強く、意外と倒すのに手こずってしまう。終わった頃には肩で息をしていた。

 

「計測終了です。お疲れ様でした」

 

光の障壁が消える。アナ達のところに戻るとマトイが水を差し出した。

 

「お疲れ様。今やってもらったのは実践撃破訓練。入学時に誰もが受けるテストなんだよ」

 

「これで俺の能力が出るのか」

 

「はい。今映します」

 

 巨大なパネルをポチポチ押すと目の前の大画面にデカデカと「緋宮クロト さんの結果」と表示された。

 

『計測結果 

時間 二分四十五秒 

守護星 地球

適正属性 闇』

 

「時間は二分四十五……。守護星が……え?」

 

「これは……」

 

 どうしたのだろうか? もしかして結構凄いのか?二分台。詳細を尋ねようとすると、後ろから声をかけられる。

 

「こらー! そこの生徒達、勝手にトレーニングモードを起動するのはダメって言ってるでしょー!」

 

「トワちゃん先生?」

 

「あれ、星徒会? それと緋宮君」

 

「次期星徒会長のために必要になった。許可はもらってる」

 

「面倒みてもらってます」

 

 早とちりしたトワちゃん先生に事情を説明する。

 

「なるほど〜。それで、緋宮君の実力を測ってたんだね。せっかくだし、先生が見てあげよう」

 

 先生がモニターに目を向けると、ええっ、と声をあげのけぞった。

 

「先生もですか……。一体なんなんだ?」

 

「だってこんなのすごく珍しいよ。守護星が地球なんて」

 

「会長が気にかけるのはこれが理由でしょうか?」

 

「うーん、それだけじゃないと思うけどなぁ」

 

「……教師としてたくさんの生徒を見てきたけど、まさか地球とリンクしている生徒がいるなんて、びっくりだよ。主人公みたいだね!」

 

「主人公……いいな〜」

 

 マトイの切実な悩みは、申し訳ないが無視させてもらう。

 

 守護星――星騎士(スターナイト)一人一人が持つ星力を借り受ける星。

 

星騎士(スターナイト)はまるで恋人みたいに、宇宙にある星の一つとリンクを繋げるんだ。それで、その天体と交信することで星力を引き出すと言うわけ」

 

星騎士(スターナイト)がモンスター相手に使う力は全て星力。それを用いて空を飛んだり、星術を行使して戦う。

 

「勘違いしてる子も多いんだけど、星力の総量と星との距離にはなーんの関係もないんだよ」

 

「そうなんですか?」

 

 意外だ。近ければ近いほど強く交信できると思っていたのだが。

 

「そうだよ。私はペガスス座にあるオシリスって恒星が守護星だけど、殊更劣ってるってわけじゃないでしょ?」

 

「なるほど、マトイが言うと説得力あるな」

 

「ちなみに大きさも関係ないです。シリウスみたいにわかりやすく大きい星だとしても、火星のように比較的小さい惑星だとしても、最終的には個人としての星力の使い方に依存するんです」

 

「守護星、運命感じちゃうよね」

 

 うっとりしているマトイに先生は苦笑いする。

 

「私の守護星は水星なんだ。回復の星術が得意だから、怪我した時は治してあげるね」

 

そう言って俺のセレスティアに触れると俺の体が光って疲労が癒えてくる。

 

「私は火星で、適正は火です。……私は次期会長を燃やせばいいですか?」

 

「いや、対抗しなくていいから」

 

 ボケているのか本気で言ってるのか微妙にわかりづらい表情だ。

 

「でもこれだけ特別なら実は結構記録の方も凄かったり?」

 

「いやそっちは普通かも」

 

「でも新入生の平均記録は三分二十五秒。倒せない人も含めると明確に上位に位置すると言っても過言ではない」

 

「そっか……ちなみにヴィーナスはどれくらいなんだ?」

 

「二秒ですね」

 

「はい?」

 

「むしろこのレベルのモンスターなら逆に向こうが逃げる可能性もあるんじゃないかな」

 

星騎士(スターナイト)は良くも悪くも実力主義。その点において現会長はまさに別格。星力の強さだけで今の地位にいると言っても過言ではない」

 

「星徒会はみんな星力が凄まじいって事で間違いないんだな」

 

「まあ、概ね間違ってないかな〜なんて。あはは〜」

 

「えーっと、だいたい間違ってないんだけどね、一人例外がいて」

 

「サキさんですね。彼は現会長とは別の意味で別格」

 

「あの人、他の生徒に比べても突出して星力がないんだよ」

 

星力がほぼそのまま星騎士(スターナイト)としての実力のこの学園で、それがないと言うのがどういう意味なのか。

 

「でもサキさんは星徒会なんだよな?」

 

「そう。だからこその別格」

 

「剣に纏う少量の星力を除いて、ほぼ星力を使わずに戦ってるんだ」

 

「それで星徒会にも入っちゃってるからすごいよね〜」

 

「ともかく、それくらい壁は高い。たとえば現会長の最高記録はSランクモンスターを十秒」

 

「私でもCランクなら十秒かからないかも」

 

「そうか。……そんなに高い壁なんだな」

 

「クロト君……」

 

「まあ頑張るしかないって事だな」

 

「すごいポジティブだ!」

 

「もう勝負は受けてしまっています。今は打倒現会長を掲げて頑張りましょう、おー」

「応!」

 

「おー!」

 

「おー?」

 

 

 

 

 

 星徒会室からただ一人、帰路に着くクロト達を見下ろすヴィーナス。

 

「目覚めなさい――緋宮クロト。あなたこそ真の魔王に他ならないわ。……そして私も、これから全力であなたにぶつかる。それが私の使命」

 

 ずっと昔からこの時を待っていた。万感の思いを込めて日記を閉じる。

 

「世界を救うのよ、その力があなたにはあるんだから」

 

 誰もいない星徒会室で一人ごちた。

 




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