ティンクルスターチューン   作:晴口 丸

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第六曲 新たに始まるペルペトゥム・モビレ

そこからの日々は矢のように高速で過ぎていく。

 

「星体力学における星力とは……」

 前の学校ではそもそも存在しないような教科。

 

「緋宮君、本当に会長と戦うんだね」

「成り行きでね」

「前代未聞だよ〜。頑張れ!」

 ヴィーナスとの決闘のおかげでクラスのみんなとすぐに仲良くなれたのは、思いがけない幸運だった。

 

「そろそろ学園内の施設は覚えた?」

「ああ。おかげさまで。……あっちの方には何があるんだ?」

「あっちは大聖堂。ちょっと遠いから、今度時間がある時に案内してあげる」

 空いている時間を縫って学園の施設を覚えていく。

 

 そして放課後は修行。

「そういえばクロト君は装備を何も使わないんだね」

「そうだな。星騎士(スターナイト)になる前は日常的に襲われてたから。武器を携帯するよりかは殴った方がいいんだ」

「なかなかに重い話だ……」

「武器を持つかどうかはその人の自由。思い入れのある武器なら星力を込めやすいという考えもある」

「そうなのか」

 俺が持つとしたら……なんだろう、トンファーとか?

「みんな〜、やってる?」

「サーシャさん」

「ヴィーナスちゃんに随分な無茶振りされてたけど、大丈夫?」

「そのために今は特訓中なんです」

「へぇ〜」

 何処かふわふわとした雰囲気で、穏やかさを感じる。

「あっ! トレーニング用モンスターだ。懐かしいね〜。私もちょっとやりたーい、アナちゃん」

「一回だけですよ」

 許可を貰うや否やすぐに変身して獲物である大きな鎌を構える。サーシャさんの戦闘服はまるでパーティドレスのようだ。どこぞの令嬢のように綺麗で、少しばかり目のやり場に困る。

「先輩として、かっこいいところ見せちゃおっかな〜」

 先輩の前に出現する、今までに見た事ない大きな……

「って何だあれ⁉︎」

「……先輩、勝手にいじりましたね」

「いっくよー」

 あんな大きな敵に相対しても、気負う様子がない先輩に若干引きつつも、鮮やかに攻撃を加えていく先輩に目を奪われる。

 そのまま危なげなく戦いは終わった。

「記録は一分十二秒ですね」

 Sランクモンスター相手にここまで圧倒するとは。

「あら、もうちょっと早く倒せると思ったのだけど」

「いや……十分早いですよ。驚きました」

「サーシャさんはヴィーナスが会長になる前の会長なんだよ」

「どうりであの火力だ」

「クロト君、星騎士(スターナイト)として戦う上で大切なのは星力の量じゃなくてその扱い方よ」

 星力とは星術などを使う筋肉のようなものだ。いくら鍛えても巧く運用しないと意味がない。

「極端だけど、サキちゃんなんかは星力の使い方と技術だけで、少ない星力をカバーしてるわけだしね〜」

「サキ先輩はイレギュラー。参考にする必要はない」

 そう言われると少し気になるが

「私も協力するから、まずはお利口さんな戦い方を覚えてから色々試してみましょうか」

「はい!」

 

 その後、陽が落ちるまで特訓して、多少の星力の向上が見られたところでお開きとなった。

「アナ、マトイ、サーシャさん。遅くまで付き合ってくれてありがとうございました」

「いいよいいよ」

「気にしないで〜」

 そして全員解散……と思ったら、心なしかみんながついてきているように感じる。

「……えーっと、みんな帰る方向が一緒なんですね」

「え、違うよ?」

「次期会長の家はこっち……メモメモ」

「あ、美味しそうな屋台がある!」

「サーシャさん、この時間に買い食いはまずいですよ」

「……えっと、じゃあなんでついて来てるんですか?」

「まあまあ、せっかく一緒に特訓したんだから、そのままさよならなんて寂しいよ」

 サーシャさんやアナのような人間族以外の生徒は、大抵が天界や魔界からくる。

 もちろんそういう人たちは、こっちに来ても住む家がないので寮に入ることになっているはずだ。何が言いたいかというと、門限は大丈夫だろうか?

「門限なら大丈夫〜。私達はあくまで星徒会の仕事をしただけだから」

「……そういうことなら俺からは何も言いません」

「それより、あれが次期会長の家?」

「そうだ」

「すごい……タワーマンションだ……! ブルジョワジー」

「ここまで来て帰すのもあれなんで、上がって行きますか?」

 せっかくだしお礼の一つでもしておくべきだ。

 

「ただいま」

 みんなを連れて七階の自分の部屋に案内する。不思議なもので、異性を家にあげるというのは少なからずドキドキするものだと思っていたが、三人も連れてくるとなると、そういうのはないんだなーと新たな発見に、心の中でメモをする。

「あ、おかえりク、ロ……」

目を白黒させて俺を、正確には俺の後ろの三人を見つめる。

「初めまして、詠野マトイです。クロト君とは……」

「ソウルメイト」

「ただならぬ関係で〜す」

 ただならぬ自己紹介だった。

「クロトが彼女を三人も作って帰ってきた……」

 

「かくかくしかじかでちょっと家に呼んだだけ。別にそういうんじゃないよ」

「なんだ。学園のお友達だったのね。星徒会かー」

「その辺りも含めて結構特殊ですけどね」

 ようやく誤解が解けたところで今度は自分の置かれている特殊な状況を説明する。

「結構異例の事態なんですけどね。と言うか、お茶まで用意してもらってすみません」

「いいのよ。気にしないで。クロトも一言連絡くれれば、みんなの分のご飯も準備したのに」

「そんな、悪いですよ」

「成り行きだったから」

「そういえば、ちょうどお茶請けを切らしてたから下でお菓子でも買ってきてくれない?」

「別にいいけど、みんなを置いて?」

 このマンションの一階にはコンビニやクリーニング店など、ある程度このマンション内で完結するように店が準備されている。自分で言うのもなんだけど、結構豪華なマンションだ。

「まあまあ、ちょっとだけだから。大丈夫大丈夫」

 明らかに体のいい言い訳で俺を外そうとしているみたいなので、気になりつつも仕方なく乗っておく。

(粗方、息子をよろしくーとか、会長との決闘がーとかだろう)

 

 菓子を探しに下まで降りると、車道を介した先の道路に見知った顔が通った。すらっとした体格にサラサラと髪をたなびかせて歩く男。

「あれ、サキさん……だよな?」

 今はパトロール中ではないのかラフな格好で通りを歩いている。

「サキさん」

「ん? おお、クロト君。深夜徘徊は良くないぞー」

「いえ、俺は家がここなので。サキさんは?」

「私? うーん、まあこう言う立場だからさ、色々あってイライラしてその辺歩いてた」

 星徒会役員ともなると色々苦労が絶えないと言うことだろう。

「そっちも大変だと思うけど、マトイとかアナが協力してんだろ? 私は陰ながら応援してるから。頑張れ」

 クールに笑うサキさんに少し憧れを抱きつつ、昼間の話を思い出す。

「サキさんはどうやって強くなったんですか?」

「私? どうやってと言われてもねぇ……私はたまたま剣を握るのが人より少し早かっただけだよ」

「星力が他の人より少なくても、星徒会に入って活躍していますよね?」

「星力の多寡は星騎士(スターナイト)を始める理由にも辞める理由にもならないよ。まあ、そうだね……一つアドバイスするなら、守りたいものを強く思い浮かべな」

「守りたいもの……」

「はは、ありきたりって思う? でも強い奴らには何かしらそう言うものがある。守りたいものっていうか、目標? 矜持? まあそんな感じの」

 サキさんはここではない何処か遠くを見ているようだった。

「面白い話、新星学園は生徒間の恋愛を奨励してるくらいなんだぜ」

「そうなんですか?」

「守りたいものを作る。そうする事で生徒達の希望になるんじゃないか? 多少は打算的な側面もあると思うけどな」

 それだけ言うと、サキさんは手をひらひらと振りながら歩いていく。

「帰るんですか?」

「いや? 今日は帰らん。学校には行くから。また明日」

「サーシャさん呼びますよ」

「すぐには来ないでしょ。あいつも暇じゃないんだし」

「そうねぇ。私も暇じゃないし、困ったちゃんはさっさとお家に帰しておかないと」

「……」

 そのサーシャさんが目の前に居た。サキさんはと言うと、目を白黒させて動きを止めていた。

「サキさん……」

 マトイの呆れ半分哀れみ半分の目線が彼に突き刺さる。

「わぉ、しゅらば」

「アナ、母さんとの話は終わったのか?」

 サーシャさんに完全に捕まったサキさんを尻目にアナに話しかける。

「はい、先ほど終わったところです。急に大勢で押しかけてすみません」

「クロト君のお母さんがいい人で良かったよ」

「じゃあみんな帰ろっか。クロト君も、今日はありがとね」

「また学園でな」

「はい。サキさんも、気が向いたら修行手伝ってくれると嬉しいです」

「はは、まあ面白そうだったら顔出すよ」

 左右と後ろを囲まれ、サーシャさんに腕を絡められているサキさんは、不思議と「連行されている」という表現しか適さないものだった。

 




お読みいただきありがとうございます。
暇ができたので筆を執らせていただいた次第です。間をあけてしまい申し訳ございません。
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