悪の組織の幹部ですが、職場がクソ過ぎて辞めたいです 作:モブ怪人
「「「必殺!ジャスティスバースト!!」」」
「ぐわぁぁぁ!!」
獣と機械を混ぜて人型にした様な怪人が、赤、青、黄のスーツを着た三人組のヒーローの必殺技を受けて爆発四散する。
「くっ…必殺技を使わなければ倒せないとは…!」
「みんな、まだ動けるか?」
「何とか…」
しかし、ヒーロー達は疲労したのか膝を付いたり、肩で息をしている。
「…ほう、コイツを破壊するとは…」
そして、そのヒーローに対峙するのは、黒いフルフェイスのマスクを付けて漆黒の鎧に身を包む男だった。
「しかし、これでお前達の底が知れた、帰るとしよう」
「待て…!グランドロス!」
リーダーである赤がグランドロスと呼んだ男に、己の武器である剣を投げ付ける。
「ふん」
しかし、グランドロスは片手で受け止めると、その剣を赤へと投げ返した。
「コイツを破壊出来たからこそ、お前達を見逃してやろうと思ったのだが…甘かったようだな…!」
グランドロスは右手を3人へと突き出す
その手には即座に禍々しい色のエネルギーが集まり、ビームのように放たれた。
「くっ…!うわぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁ!!」
「ぐぁぁぁ!」
3人は回避する事も出来ず直撃し、スーツが光の粒子となって消え、3人の少年少女が地面を転がる。
「大人しくしていれば、余計なダメージを受けずに済んだ物を…やはりお前達ヒーローは、愚直過ぎる…」
そう言って踵を返し、離脱しようとしたその時
「はぁ!」
「せいっ!」
「喰らえ!!」
今度は、白銀の鎧に身を包んだ騎士と魔法使いの服装の女性、ウェスタンな服装の男が現れると共にグランドロスへそれぞれ攻撃を叩き込む。
しかし、その攻撃は鎧によって弾かれる
「邪魔だっ!」
グランドロスが声を上げると、漆黒の衝撃波が発生し、ヒーロー達と少年少女は吹き飛ばされる。
吹き飛ばされたヒーロー達が顔を上げるが、そこにグランドロスの姿はなかった。
ーーーー
そして、消えたグランドロスはと言うと
「すいませーん!フルフェイスの通気性の改善されてないんですけどー!めっちゃ息苦しくて辛いって装備改善の申請送りましたよねぇ!」
「うるさいなぁグランドロス君は、カッコよさの為の犠牲って分かんないかなぁ?」
「そのかっこよさの為に毎回自分が呼吸困難で死にかけるんですけどぉぉ!?」
悪の組織の拠点で、豊満な胸をほぼ隠さない服装をした博士に詰め寄っていた。
「大体ねぇ、君【ダークエナジー】の適正が高いんだから、息苦しかったらダークエナジーを代用にすればいいじゃないか」
「ダークエナジーが夢のようなエネルギーなら良いんですけどねぇ!最終的にアレとかコレとかになるでしょうがっ!」
そう言ってグランドロスが指差した先には
褐色肌に際どい服を着た狼人間やゴツゴツした岩に覆われた大男が居た。
「別に良いじゃないか、人間やめても」
「辞めたら新作映画見に行けないしスーパーで買い物も出来ないんですけど!?」
そんな口論をする博士とグランドロスを見て、周りの異形な存在達はまたか、という目で見つめていた。
「そもそもウチの組織の方針知ってますよね!?」
「ああ、知ってるよ『ダークエナジーで夢溢れる世界に』だろう、実際夢しかないじゃないか」
「夢は夢でも人によっては悪夢でしょうよ!」
数年前にダークエナジーと呼ばれるエネルギーが発見され、電気やガソリン、ガス等の様々なエネルギーの代用となる夢のようなエネルギーとして発表された。
技術はダークエナジーを使った物にシフトされ、数年の間に全世界に普及し人々の生活は豊かになった。
しかし、世界各地で異形の存在…【怪人】が現れ、社会が混乱に陥った。
そして、それに応化するように【ライトエナジー】が発生し、そのエナジーを得て怪人を倒す者達が現れた。
《ヒーロー》である。
そして、ダークエナジーを発見した者達の中でこの【ライトエナジー】に目を付け、怪人への打開策としてニチアサにやっている様な変身機能を得られる小型装置『ヒーローガジェット』を開発した。
『ヒーローガジェット』が普及し、それと同時に怪人達は数を減らしていた…のだが
突然、悪の組織【ダークネス・ワールド】が現れ、ヒーロー達と敵対を始めた。
更に数の少なかった怪人達が増え、それと比例するように社会からポツポツと人の消える事件が増え、更に【ダークネス・ワールド】以外にも悪の組織が現れ出した。
そして、今では
数多の悪の組織vsヒーロー達
という感じで日夜争いが世界各地で発生している。
「そもそも、我が【ダークネス・ワールド】は怪人になってからが本番なのに、君は幹部まで登り詰めたのに人間のままじゃないか、早く怪人になりなよ、色々とメリットあるんだしさ〜」
「嫌ですよ、怪人に変身する度に鎧とかフルフェイス弾け飛ぶとか戦闘用スーツ破れるとか…そもそも怪人になったとしても敗北した時どうするんですか」
そう言うと博士は不思議そうに首を傾げて
「別に怪人になってもちゃんと人に戻れるから、どさくさ紛れに離脱イケるよ?」
「そしたら半裸か全裸の人間が現れるだけで社会的に死んだでしょソレ」
グランドロスがそう返せば、博士は呆れた様に溜息を吐き
「だからそうならない為に、最近は戦闘用スーツとか改良してるじゃないか」
「だったら通気性の問題クリア出来ますよねぇ!?」
机を叩いて迫るグランドロスに、博士は手で押し戻して答える
「いや、君の要望に応えるべきなのは分かってるんだけど…戦闘員達の方が数多くてさ、君の要望通りにするのに後5ヶ月はかかるよ」
「なんで製造ライン出来てないんですか…」
その言葉に、博士の表情が曇る。
「ほら、戦闘員用であってもそれぞれ差があるからオーダーメイドだし、ウチの組織の製造班、フル稼働だよ?労基来たらアウトだよ?」
「ぐっ…強く言えない…!」
周りの怪人達も「製造班は大変だもんな…」とか「今度戦闘服受け取りに行く時に手作り料理持って行かなきゃ」と声がする
「そういう訳だからもう暫く耐えてね、グランドロスくん」
「……分かりました、幹部会議行ってきます」
グランドロスは溜息を吐いて、会議室と書かれた部屋へ向かった
扉を開けると、そこには
「おいおい、相変わらず重役出勤だな、グランドロスよー」
「仕方ないわよ。日本の方はヒーローがうじゃうじゃ居るのよ?ダークエナジーの採取に適してる国だけど、リスクもそれ相応に高いんだから」
「アメリカもそんなに変わんないでしょー?」
「アメリカは少ないけど個々が手強いのよ。ま、私にかかればすぐに無力化出来るけど」
「昨日女性ヒーローに負けたじゃん」
「アレは相性の問題よ!!」
気怠そうに椅子に座る死神の姿をした男と体のラインがはっきりしたボンテージに身を包んだ、悪魔の翼と尻尾を持つ女性、そして狐耳と尻尾を生やしたちびっ子が居た。
グランドロスの合わせたこの四人が、【ダークネス・ワールド】の幹部である。
「はい、遅れた身分ですいませんが、今回も定例会議の進行役を行います。ではまず、ダークライダーさんから」
そう言うと、ダークライダーと呼ばれた死神の姿をした怪人が座り直して答える
「うーっす、『他の悪の組織』の監視結果。最近は小悪党の寄り集まりが増えてるわ、その分狩りやすくて助かるけどよ。ま、俺達で大規模な組織壊滅させたから仕方ねーか……ただ、あの組織の残党達やボスは見つかってはねぇな…報告終わりー」
そう言うと、机に足を乗せてだらけ始めた。
「ダークライダーさん、机に足乗せる時はちゃんと土払って下さいね…それじゃあリリアスさん」
リリアスと呼ばれた女性は頷くと立ち上がって答える
「『海外ヒーロー』の方は、個々の質にはバラつきがあるけど…組織に真っ向から戦いを挑めるような奴はまだ出てないわね。それと…環境的には怪人に堕とせる人が多いから、戦力補充にはなるわ。ただ、アメリカが表立って方針として怪人殲滅を上げてるみたいね、他の国も賛同してるみたいだから、海外の方の活動はそろそろ潮時かもしれないわ…報告は終わりよ」
そう言ってリリアスは椅子に座った。
「それじゃ、タマモちゃん。報告お願いします」
そう言うとタマモと呼ばれたちびっこが椅子の上で立ち上がり、手を挙げて答えた
「はーい!報告しまーす!新しくヒーローを一人捕らえた事と〜、しっかり【
そう言うとストンと椅子に座り、満足げに尻尾と耳を揺らす。
「はい、皆さん報告ありがとうございます。それではボスに報告書として纏めてくるので…」
そう言ってグランドロスは退室しようとするが
「おい、グランドロス。お前の報告を聞いてねぇ」
ダークライダーが獲物である鎌をグランドロスの前に突き出して止める。
「そうねぇ、日本の方は新しいヒーローがまた出たんでしょ?どんな物だったの?」
「タマモも聞きたーい!」
三人から報告を聞いてさっさと書類に纏めようと思っていたグランドロスは足止めを喰らってしまった。
「つーかよ。前の幹部が殺されてお前が日本の担当になってから、日本のヒーローはほぼ減ってねぇ……お前、日本で何してんだ?」
ダークライダーのフードの奥で青い炎がゆらめく
「そうねぇ、幾ら日本が『世界で最もヒーローと怪人化しやすい国』だとは言え…グランドロスくんなら……殲滅くらい出来るはずでしょ?」
リリアスはグランドロスの背にもたれかかりながら…両手を首に添えている
「ねーねー、タマモとの約束。……忘れてないよね?」
いつの間に居たのか、グランドロスの懐に入り込んで抱き付くタマモは見上げながら、暗い瞳で見つめている。
重苦しい重圧が三方向から襲いかかってくるが、グランドロスは息を吸うと、微笑んで答えた。
「実は、自分と部下vsヒーロー戦隊で最初戦うのに、後からドンドンヒーローが来るし新顔ヒーローがポコポコ現れるし、何なら超危険ヒーローがそこら辺で一般人として潜んで不意打ちして来る…という感じで採取と撤退で手一杯になりまして……殲滅しようにも…ね?」
「「「ああ〜…それは仕方ない(よね!・奴だな)」」」
3人は綺麗に声を揃えて返した。
「じゃ、報告書作ってきます」
「おう…今度食堂行こうぜ、なんか奢るわ」
ダークライダーはそう言って肩を叩いて退室し
「そんな環境だとストレス溜まるわよね…うちの部下、貸しましょうか?夜に行かせればいいでしょ?」
「いやソッチの意味では要らないんで……」
心配そうに見つめて来るリリアスの提案をやんわりと断り
「…タマモの事、吸う?」
「事案になるからNGで」
「むー…」
つぶらな瞳で見つめてくるタマモの提案には即答でNGを出して、グランドロスは会議室を出て行く
そして、廊下を進み、途中にある休憩用のスペースにある自販機で缶コーヒーを買って空けると、一気に飲み干した。
「…はぁぁ…クソ環境過ぎて辞めてぇ…!!」
周りから怪人になれと催促され
ヒーローはポコポコ現れ、せっかくの新しい部下を失うし、場合によっては孤立した上で命の危機に立たされる。
定例会議では他の幹部から毎回色々な事で詰められる。
そんな環境に溜息を吐き
缶をゴミ箱に捨てて、グランドロスは思い出す。
〜〜〜
それはある時、食堂で部下とご飯を食べている時にボソッと『辞めようかな…』と口を滑らせた時の事だった。
「辞めないで下さい!!貴方が居ないと新作料理の味見を誰がするんですか!!!」
と食堂から声が聞こえ
「唯一の純人間枠がっ!!!無くなる!!!」
「グランドロスさんが放った"あの言葉"に感銘を受けたから【ダークネス・ワールド】に入ったんですよ!辞めないで下さい!!」
と周りの怪人に言われ
「同志ぃぃ!!それよりも今月のアニ○イトの新作フィギュア見て!!めっちゃ良いでしょ?この下半身の作りk「先輩になんてもの見せてやがるんですか!!」ぐぁぁぁぁ!?」
ムフムフと鼻息荒くスマホ片手にやって来た怪人は部下の鋭い一撃でKOされ
「アンタをダシにしてタマモ様の写真撮れるんですから辞めないでくださ「タマモ様を応援し隊、突撃!」ぐぁぁぁ!しまったぁ!!」
即座に自分の元にやって来て土下座をした怪人は、『タマモ様♡てぇてぇ』のハチマキを巻いた集団によって連れ去られてリンチされている。
「…聞こえなかったッス、先輩。何か言ったスか?」
ハイライトのない瞳で見つめてくる、"最古参の部下"にグランドロスは
「…あぁうん…ナンデモナイヨ」
そう返すしかなかった。
〜〜〜
そんな事を思い出しながら、グランドロスは呟いた。
「いや、うちのメンツ濃過ぎるな」
その後、報告書を書く時のお供として缶コーヒーをもう一度買い、グランドロスは自室へと歩き出した。