悪の組織の幹部ですが、職場がクソ過ぎて辞めたいです 作:モブ怪人
本の収められた棚と、木製の机と椅子、そして仮眠用と思われるベットがあるだけの質素な部屋で、グランドロスは報告書を書いていた。
「ふー…書類終わり…ってか纏めたら二ページにしか収まらないんだけど…いいのかこれ?
いや…追加する様な事もないからこれ以上増やせないけど…報告書で二ページだけってのもなぁ…」
定例会議の報告書を作っていたグランドロスは、二ページに収まってしまった報告書を見ながら唸る。
「まぁ…簡素な感じでも大丈夫だろう」
そう結論付けて、グランドロスは立ち上がると報告書と空になった缶コーヒーを持って【ダークネス・ワールド】のボスが居る所へ報告書を提出しに自室を出た。
ーーー
そのまま真っ直ぐ、ボスの部屋の前に辿り着いたグランドロスは
漆喰で黒く塗られただけのシンプルな扉を叩く
『入れ』
「失礼します」
ドアを開けると
「よく来たなグランドロス」
ボスの部屋は正しく悪の組織のボスらしい内装だった。
西洋の騎士の置物が部屋の両脇にズラリと並び
床にはホワイトタイガーの毛皮の敷物
天井には煌びやかなシャンデリアが吊るされ
壁には銃やシミター、サーベル等の武器が飾られていた。
そして、そんな部屋に居るボスは
「しかし、君は【ダークエナジー】の高い適性があるというのに未だに怪人化が起きないな」
胸元を見せつけるようにシャツをはだけさせ、黒いスーツに身を包み
片目に眼帯を付けて、その真紅の髪をポニーテールにして肩に垂らし
楽しい遊び道具を見つけた猫のような笑みをした女性だ。
「今回の報告書です」
ホワイトタイガーの敷物を踏まないように避けながら、グランドロスはボスに報告書を提出する。
「ああ…後で読むよ」
報告書を受け取ると机に流すように置き、そのままグランドロスの首を掴み、自らの方へと引き寄せる。
「……それよりも、『あの件』の成果は出たか?」
吐息がかかる程に顔を寄せ、グランドロスに問いかける
「あの件…自分の細胞を培養して優秀なクローン兵を作るって話でしたよね…了承してますし、後は実用段階に行くまでですよ」
そう答えるとボスは不快な顔を隠さずに言い返した
「違う、はぐらかすな。私が言っているのは…君の結婚の件だ。我が【ダークネス・ワールド】は組織内恋愛を良しとしているし、実際60%近くは結婚しているんだ、君はまだ若いが…もういい歳なんだ。そろそろ良い相手を見つけろ」
「職場恋愛はタブーだと思いますし…そもそもボスはどうなんですか?」
何度も言われているのか、溜息を吐いてそう返すグランドロス
「私は【ダークネス・ワールド】のボスだ。壊滅した時に責任を持たねばならん立場なんだぞ、恋愛にうつつを抜かして居られるか」
ふん、と手を離してそう言うボスに、グランドロスは口撃を叩き込む
「ボス、知らないんですか。ボスの結婚式の為にみんなでお金貯めてるんですよ。盛大にやるぞってみんなで貯めたのもあるんですけどもう目標金額到達してて、しかも目標金額から更に3周してるんですよ。
組織も昔と比べ物にならないほど大きくなったし、
みんなボスが幸せになるのを待ってるんですよ」
「そんな話今初めて聞いたが!?」
ガビーンという感じで両手で変な構えをしながら驚くボスに、グランドロスは更に追撃する。
「因みにボスの秘書さんがこの計画の発案者です」
「秘書ぉ!」
「あ、呼びましたか?」
叫ぶボスの声にキィ…と部屋の横の扉が開き、眼鏡をかけてツノを生やしてスーツに身を包んだ青肌の敏腕ウーマンがひょっこりと現れる
「私の世話をしてくれとは言ったがそんな事までしろとは言ってないが!?」
「ええ、組織の運営補佐や雑務はしっかり世話してますよ?
ですが、この件の発案をしたのは単純にボスの結婚式を盛大にやりたいのもありますが、暴動を抑える為でもあるんですよ?
もう配下の皆さん食堂に来る度に『ボス、早く結婚しないかなー』とか『ボスももうそろそろ幸せになって欲しい』とか言ってるんですよ。
中には『ボスに釣り合う人中々見つかんないから未だに独身な幹部のグランドロスさんってどうだろう?』とか『そうだ!我らが独身の星、グランドロスさんとくっ付けよう!』とか『いや、最初は強いヒーローを片っ端から【
ボスはよく祝電で色々言った後に毎回『私はお前達の幸せを願っているぞ』って締めてますけど、私達からすればボスがずっと独身な事が辛いんですよ、自分達は幸せを掴んでいるのにボスは掴んでないのが苦しいんですよ。分かりますこの気持ち?」
「その前になんで候補に自分が入ってる上に推されてんだよ、驚きなんだが??」
マシンガンの様に放たれた言葉の中に自分の名がある事に驚くグランドロス
「グランドロスさんが未だに独身なのが悪いんですけどね?」
「理不尽過ぎるんだけど」
そう言うと秘書はコホンと咳き込み、ボスを真っ直ぐ見つめて言った。
「…そういう訳なので、そろそろ婚活して下さい、ボス」
そう言うと秘書は扉を閉めた。
「……っ…!…っ!!」
ボスは顔を真っ赤にして、何かを抑えていた。
その感じに何か嫌な予感を感じたグランドロスは、踵を返してそそくさと部屋から離脱しようとする…が
背後からの圧に、身体が固まった。
「グランドロス……!」
ゴゴゴ…という音がピッタリな程、顔が赤いままのボスは眉間に皺を寄せてグランドロスを見つめていた。
(あ、これ死んだか)
心の中で最新版の遺書を準備して無かった事を悔やむグランドロスの肩に、ボスの手が置かれる
「…一級フラグ建築士と噂されている君に聞きたい!モテるにはどうしたらいい!」
「いや、一級フラグ建築士なんて初めて聞いたんですけど?」
その後、恋愛を知らないボスに、グランドロスは恋愛漫画と小説を秘書に持って来させ、ボスに読ませた。
「…は、破廉恥な…!?皆はこんな事を…!?」
「ボス、それ恋愛の先の方です…というか秘書さんのチョイスどうなってんの?」
「え?普通の百合モノですよ?」
「普通に百合って含まれるんですかねぇ…?」
「まぁ同性でも怪人なら子供作れますから」
「…生々しさを感じる」
「うふふ、実体験です♪」
「聞きたくなかった…!!」
その後、刺激が強すぎてオーバーフローしたボスは、秘書によって仮眠室に連れて行かれた。
次の日から【ダークネス・ワールド】の拠点にある図書館の自作の同人誌や小説を置いているスペースから、コソコソと"見知らぬ"女性が借りて行くのが目撃され始めた。
なお、図書館内で人気なのは『グランドロスvsつよつよ女性ヒーローズ』のシリーズ物の同人誌らしい
「なんですかこれ、解釈違いにも程があるんですが」
しかし、ある日に抹消された模様。