化粧とは何だろうか。自らを虚ろに飾り立てるもの? それとも、自らの美しさを更に引き立たせるもの?
それもあるが、本来の本質は『魔除け』だ。
日本では古墳時代から呪術的意味合いの化粧が行われていたし、古代エジプトではラピスラズリのアイラインを引く事で虫除けを行っていたとされている。
化粧とは厄災を退ける
しかし、気をつけた方が良い。そういう人智を超えた力は、時として容易く人に牙を剥くのだから。
───
露伴の手元にはとある演劇のチケットがある。『特別招待券』と書かれたそれは、文字面とは裏腹に「必ず来い」という恫喝めいた執念の様な物を漂わせていた。そして露伴は今、劇場ホールの特等席に座っている。
露伴は冷めた目でチケットを見つめた。題材は自分の漫画、つまり露伴は原作者として招かれたのだ。しかし露伴自身はこういった舞台化だとか、実写化プロジェクトの類には興味がない。むしろ懐疑的だった。
──僕の漫画はインクで描かれた時点で完成品だ。アニメならまだしも、どうして『実写化』する必要があるんだ?
彼の作品は、画面構成、人物の表情、背景、全てが彼によって計算し尽くされた『漫画』という表現で完結している。故に露伴は誇りを持って自らを『漫画家』と名乗るのだ。
──僕の漫画は、『漫画』だからこそ存在する芸術だ。それを別の形で表現するだと? 滑稽だな
内心でそう吐き捨てながらも、露伴は仕方なく足を運んでいた。特別招待という名目で強引に送り付けられたチケットを無視することは、業界内での立場を考えると得策ではない。それだけの理由で、彼はこの場にいるのだった。要は打算だった。
劇場内は開演を待つ観客で賑わい、期待に満ちたざわめきがホールに満ちている。原作ファンらしき人々がパンフレットを手に興奮気味に語り合い、舞台セットに見入っている光景を、露伴は冷ややかな目で眺めた。
しかし、舞台がどのように原作を解釈し、表現するのかを確認することに、興味が全くないわけではない。
──まあいいさ……つまらなければ途中で帰ればいいだけの話だ
露伴がそう心の中でつぶやいたその時、場内の明かりがゆっくりと落ち、幕が上がり始めた。
舞台が動き出した瞬間、彼の冷ややかな視線にほんの少しの変化が生じた。
「……ほう?」
始まった演劇には、予想外の力強さがあった。原作の登場人物たちを演じる役者たちは、まるで彼の頭の中にいるキャラクターそのもの──いや、それ以上の存在感を放っていた。
「……まるで、魂が宿っているようだな」
岸辺露伴の興味が、ゆっくりと舞台の上へ向けられていく。
───
舞台は大団円で幕を下ろした。
客席には割れんばかりの拍手が響き、観客たちは熱気に包まれている。しかし、その熱気の中においても露伴はどこか冷静だった。
「構成や演出、その他の部分は予想通り凡庸な出来だった。ストーリーに問題はない。まぁ、僕が原作者なんだから当然か」
淡々とした口調で自分に言い聞かせる様に評価を下す。舞台化された漫画の解釈には、議論の余地があるが、全体的には悪くない仕上がりだと思えた。
「それにしても……役者たちの演技はただ事じゃあなかったな」
彼らの役作りは異様な程に生々しかった。特筆すべきところがあった。まるでキャラクターそのものが現実の身体を持って世界に存在している様なリアリティ。演技という枠を超えた、得体の知れない生々しさがあった。
「……さて、と」
露伴は拍手に未だ包まれている観客席から立ち上がる。役者やスタッフたちに挨拶をしなければと思ったのだ。正直面倒だったが、原作者として顔を出すのも仕事の内だ。
舞台裏は、些か度が過ぎるほど豪華な装飾が施された劇場ホールとは打って変わって、機能美を追求したシンプルな空間だった。舞台の幕が上がっている間は、ここを多数のスタッフや演者たちが行き交うのだから、当然ともいえる。普段なかなか見ることのない場所を観察しながら、露伴は目を細める。
ひと演目終えた後の喧騒──大勢の足音や、声が聞こえる。そんな中、一際異彩を放つ存在に気がついた。
そこでは1人の女性が黙々と作業を行なっていた。
舞台化粧に使われる道具を整え、手元のブラシを丁寧に拭いている。彼女の動きは、ただの職人の手つきではなかった。何か儀式めいた荘厳さすら感じさせる。
「……もしかして、君がこの舞台のメイク担当なのか?」
露伴がそう声をかけると、女性は手を止めてこちらを向いた。落ち着いた瞳で露伴を見つめたあと、穏やかな笑みを浮かべる。
「お疲れ様です。原作者の岸辺露伴先生ですね? 初めまして」
彼女の声は穏やかで柔らかく、それでいてどこか芯のある響きを持っていた。その佇まいからは舞台の喧騒とは無縁の、静けさと気品が漂っていた。
露伴は彼女を見つめながら、その外見だけでなく動きや雰囲気までも観察していた。緩やかにウェーブがかかった長い黒髪、それを丁寧に結い上げた彼女の顔立ちは、まるで舞台女優と見紛うほどに整っている。その静けさや気品、そしてその美しさはどこか『非日常』を纏った確かな存在感があった。
「その……随分と慣れているようだ。この慌ただしさの中で、黙々と作業し続けられるとは。僕でもうんざりしそうなんだが」
「そうですね、慣れていないと大変かもしれません」
女性は露伴の言葉に苦笑しながら答える。
しかし、その間も手が止まることはない。まるでその動きが体に染み付いている様に、淀みなく作業は続けられている。
「ほう? そのブラシやら何やらでメイクをするのか」
「はい、今回の舞台では特に『影』を引き立てる事を意識しています。作品の世界観がダークなので、それを少しで支える事ができれば……と」
「『影』を? シェーディングってやつか」
「お詳しいですね。でも少し違います。私のメイクはその役の持つ『影』を役者の方に纏わせる事で、感情とか存在感を強調するんです。ただ美しく飾るのではなく、見る者に印象を刻みつける……そういうメイクです」
嘘ではないと直感的に感じ取ることができた。彼女の言葉には確固たる自信と、長い年月をかけて築き上げてきた技術に対する誇りが感じられた。
そして露伴の視線は彼女の手元へと注がれる。手にしたブラシやパレットに、ただならぬ集中力を感じ取ったのだ。
「確かにな……。今日の舞台は見事だった。特に役者たちの演技は『まるで本物』って感じを受けたぜ。そこにはただのキャラクターというより、人間としての奥行きとか深みがあった。まさに、それが君のメイクの持ち味ってことだな」
「そうですね。そう思っていただけたなら幸いです」
「しかし……それだけに、ある種『異様』でもあった。たかがメイク一つであそこまで真に迫れるものなのか……、僕は君の『メイク』に俄然! 興味が湧いてきたぞ」
露伴の言葉に女性は手を止めた。これまで淀みなく動いていたブラシが、一瞬の静寂と共に停止する。その瞳には、何か言葉にしがたい感情が浮かんでいるようにも見える。驚き、戸惑い、あるいは──。
「……先生は、本当に鋭い方ですね」
女性は少しだけ微笑みながらも、どこか影を帯びた表情を浮かべた。その微笑みには、単なる喜びとも違う感情が混じっている。感謝、もしくは何かを悟られたような動揺にも似た複雑な表情だった。
「漫画家だからな、当然さ。でもそんなことはどうでもいい。ただ、僕の目にはそう見えた。それだけのことだ」
「……ありがとうございます」
その瞬間だった。
遠くから、誰かの叫び声が聞こえてきた。劇場裏の静寂を破るような甲高い声だった。怒声とも苦悶ともつかない音が、まるで空気を裂くかのように響き渡る。
「……なんだ?」
露伴が眉をひそめたのと同時に、廊下の奥から一人の役者が現れた。先ほど舞台に立っていた役者の一人──その目には焦点がなく、何かに取り憑かれたような不気味な表情を浮かべている。
「……あの人……どうして……?」
女性も困惑した様子で呟く。役者はふらふらと不安定な足取りで近づいてきたが、手には舞台で使われていた小道具のナイフが握られていた。その刃先が舞台の光を反射し、不気味に光っている。
「おい、あれは本物か?」
露伴の目がナイフに鋭く向けられる。その瞬間、役者が突然、激しく叫んだ。
「俺は……俺じゃない! 何かが俺の中に……俺を塗りつぶしていくッ!」
その声は、まるで別人のもののように低く歪んでいた。役者の体がぎくしゃくとした動きでナイフを振り上げる。
「チッ……!」
露伴は迷うことなく『ヘブンズ・ドアー』を発動させた。役者の体が急に静止し、後ろに崩れ落ちる。床に倒れ込んだ役者の額に、露伴の能力によって浮かんだ「文字」があった。
「……なんだこれは?」
露伴はその『本』を読み始めた。しかし、そこには想像を超える内容が綴られていた。
『冷たくて、寒い……』『気分が悪くなる……』『何かが俺から湧き出てくる』『俺が塗りつぶされていく……』
その断片的な文章には、彼が抱えていた得体の知れない恐怖が生々しく記されていた。そして──。
『この記憶は役ではない。俺の中に宿った何かが作り出した……』
「……ただの演技じゃあない、か」
露伴が冷静に呟いた瞬間、後ろから静かな声が聞こえた。
「……先生。これ、私のせいかもしれません」
振り返った露伴の前には、動じることなく立つ女性の姿があった。その表情はどこか覚悟を決めたような、静かな決意を秘めている。
「君の……メイクが原因だとでも?」
「……ええ、そうだと思います」
女性は一歩踏み出し、ナイフを握った役者を見下ろしながら小さく呟いた。
「私のメイクが、彼に『殺人鬼』の魂を降ろしてしまった……」
女性の様子は尋常ではない。そして露伴はその言葉から、それが冗談ではない事をすぐに感じ取った。これまで度々奇妙な出来事に出会ってきた露伴だからこそ感じ取れた、覚悟にも似た感情だった。
「……化粧のルーツは、呪術にあるという。古代の化粧は、人を守るための魔除けであり、時には霊を呼び寄せる降霊術だった。君のメイク術は『そういう事』なんだな?」
「……そうです。私はシャーマンの家系に生まれ、その
露伴の問いに女性は静かに答える。
「憑依することで役者は役そのものになる。でも……稀に、影の魂が強すぎて、憑依が抜けなくなることがあるんです」
「なるほど」と露伴は口元に手を当てて考えている。
『呪術』、確かに厄介そうな相手だ。しかし呪いとか祟りというものには必ず『ルール』があるものだ。露伴は長年の経験からそれに気づいていた。
「メイクが原因なら、それを落とせば良いんじゃあないか」
しかし、露伴のその言葉を彼女は首振って否定する。
そして仰向けに倒れている役者の顔を、持っていたタオルで静かに拭う。
「……メイクは既に落とされています」
「なるほどな、そう単純な話でもなさそうだ」
「先生、協力していただけませんか」
女性の瞳が露伴をまっすぐに見据える。それは決意に満ち、あまりにも力強かった。露伴はそこに同じ芸術を職とする者の誇りの光を見た。
「先ほど見せた、あの不思議な『能力』……。私の『呪術』などよりはるかに強力なものだと思います」
「……ほう?」
女性がヘブンズドアーを見ることができていたことに興味をひかれる露伴。ヘブンズドアーは普通の人間には見えない。それが見えるということは、彼女は少なからず普通ではないということだ。具体的に言うと、『スタンド使い』とか。
しかし今はそれを追求する時ではない。
こうして話をしている間にも、影の魂は役者の身を刻一刻と蝕んでいっている。
「で、何をするんだ?」
「私は彼に新しいメイクを施します。今度は影ではなく『光』のメイクを」
「『光』のメイク、だと?」
露伴が女性の言葉を繰り返す。興味を抱きつつも、慎重に彼女を見据えた。その瞳には、まるで人間を観察するような冷静さと探究心が宿っている。
「ええ。『光』は影を打ち消し、霊的な影響を払う力を持っています。ただし……これは非常に繊細な作業です。失敗すれば、彼の精神が完全に壊れてしまうかもしれません」
その言葉に、露伴は自然と口元を歪めた。
「随分と危険な賭けだな。それで成功の可能性は?」
「正直に申し上げますと、五分五分です。ですが、何もしなければ彼の魂は完全に『殺人鬼』に支配されてしまうでしょう」
女性の声には迷いがなかった。その静けさの中に確かな決意が感じられる。
「なるほど……。僕の『ヘブンズ・ドアー』で彼の記憶や精神の状況を確認しながら、作業すると言うわけだな」
「助けていただけるんですね」
女性が少し微笑み、静かに頭を下げた。その佇まいには、舞台化粧師らしからぬ荘厳さが漂っている。
「勘違いするなよ。僕はただ、この『殺人鬼の魂』とやらの正体を知りたいだけだ。僕の作品を台無しにしてくれたコイツの。それに……君の言う『呪術』には少なからず興味が湧いている。僕の漫画に使える題材になるかもしれない」
露伴は肩をすくめながら答えた。しかし、その目はすでに鋭く状況を分析している。
「……それで、準備はどうする?」
「ここで行います。道具は私の物で大丈夫。ただ、静かな環境が必要です」
女性はそう言いながら、そっと役者の顔を正面に向け、慎重にブラシを取り出した。露伴は、そのブラシがただのブラシではないということを直感的に感じ取ったが、同時に今はそれを追求する時ではない事を悟った。彼女の持つ、張り詰めた雰囲気は既にこの場を支配しつつあった。
彼女の動作はまるで儀式の始まりを告げるかのようだった。
「僕の能力で周囲の人間を気絶させる。これでしばらくは邪魔が入らないだろう」
露伴は短く指示を出すと、周囲にいたスタッフたちにヘブンズ・ドアーを使い、意識を飛ばした。喧騒は冷め、周囲に静寂が訪れる。
「……助かります」
女性は小さく礼を言うと、役者の顔に向かいブラシをゆっくりと動かし始めた。その動きは、まるで絵画に命を吹き込むかのような繊細さだった。
「……色彩と陰影のバランスを……感情の歪みを整える……」
彼女の口から漏れる言葉は、まるで呪文だ。作業に集中していて、露伴のことも見えていないようだった。露伴はその光景をじっと見つめながら、ヘブンズ・ドアーで役者の精神状態を確認している。
ページはジワジワと『殺人鬼』の記述が薄れ、役者本人の記憶に関する記述が増えつつある。
「ほう……確かに変化が現れ始めている。『殺人鬼』の記憶が少しずつ薄れていっているな」
露伴は興味深そうに観察を続けた。しかし、次の瞬間、異変が起きた。
役者の体が突然痙攣を起こし、目を見開いた。そして、低い声で呟いた。
「……誰だ……俺を追い出そうとするのは……」
その声は役者本人のものではなく、もっと禍々しい何かの響きを帯びていた。室内の空気が一気に重くなり、不快な湿度を帯びた冷たい風が吹き抜ける。
「……くるわね」
女性は冷静に呟いた。
「先生、ここからが本番です。彼を抑えていてください」
「……言われなくても分かってる」
女性の言葉には、先ほどまでの作業に伴う緊張とは別の緊張が乗っていた。
露伴はヘブンズ・ドアーを発動させ、役者の意識を再び制御しようと試みる。しかし、彼の中に潜む『何か』が、強い抵抗を見せ始めていた。
「さて……面白い展開になってきたじゃあないか!」
露伴の顔に不敵な笑みが浮かぶ。彼の好奇心は、恐怖を上回っていた。
「……俺はここに居座る……この体は俺のものだ……!」
役者の口から響く声はますます異様なものになり、室内の空気がまるで凝固したように重く感じられる。その目に浮かぶ光は、完全に人間のものではなかった。
「チッ……かなり根が深いようだな。これじゃあまるで獣だ」
露伴はヘブンズ・ドアーで抑え込もうと力を込めるが、役者の中に潜む存在がそれを跳ね返すかのように抗っている。額に現れた文字が一部消え、書き換えられようとしていた。
「……さすがに一筋縄ではいかないわね」
女性は眉をひそめながらも、動じることなく手元の作業を続ける。ブラシを滑らせ、光を象徴する明るい色を重ねていく。彼女の表情には覚悟と集中が宿っていた。
「この体に宿ったのは『殺人鬼』の魂そのもの。舞台の役柄と私のメイクが引き金になって、それを完全に降ろしてしまったの……」
「なるほどな。それで、役者本人の魂が押し込められている、ってわけか」
露伴は冷静に分析しながら、さらに「本」の内容を探る。殺人鬼の記憶が不気味なほど詳細に刻まれており、まるでその人物が今も実在しているかのようだ。
「……なるほど、名前は『レンツォ・グラード』。過去に数々の連続殺人を犯した実在の人物だな。死んだのは数十年前……だが、その凶悪な魂はこの役者に取り憑いている」
「それが舞台の役とシンクロしたのよ。私のメイクが引き金になった以上、私が責任を取らないといけない」
女性の声は静かだったが、その奥には強い決意が感じられた。嵐の中でも強く輝く星のような、強い意志だ。
「……だが、あいつは完全に憑依している。メイクだけでどうにかなるものか?」
「光のメイクは、影の魂を霧散させる力を持っています。ただし、それだけじゃ十分じゃない……」
「ほう? まだ何か必要だと?」
「はい。最終的に『本人の魂』が戦う必要があるんです。メイクはその手助けをするにすぎません」
「なるほど……つまり、ここからは僕の役目ってことか」
露伴は手元に浮かび上がる文字を睨みつけた。そして、意識の奥深くにいる役者本人に語りかけるように言葉を綴った。
『お前自身の舞台だ。あいつに主役を奪われるな』
その言葉が書き込まれると、役者の体が一瞬ビクンと反応を見せた。
「効いている……!」
女性が小さく呟いた。そして最後の一筆を終え、ブラシを置いた。
「先生、これで準備は整いました。後は彼次第です」
「面白い。見せてもらおうじゃあないか」
室内の空気が揺らぎ始める。光と影が交錯し、異様な霊気が役者の体を包み込む。やがて、彼の目に再び光が宿った。
「……俺は……!」
役者は低く叫びながら立ち上がり、自らを覆う「影」に向き合おうとしていた。その姿はまるで舞台の一場面のように、緊迫感に満ちていた。
「……俺は、殺人鬼なんかじゃあない! 俺は役者だッ! ただの『道具』にはならないッ!」
その瞬間、室内を包んでいた禍々しい霊気が弾け飛び、静寂が訪れた。
「……終わったか?」
露伴は腕を組みながら問いかける。役者は膝をつきながら深く息を吐き、明らかに正気を取り戻している。
「……ええ、影は払われました」
女性が静かに頷いた。彼女の顔には疲労の色が浮かんでいたが、その目には確かな達成感が宿っていた。
「……ふむ。中々興味深い体験だったな。君の『光と影のメイク術』、確かに僕の漫画に使えそうだ」
露伴は満足そうに微笑んだ。そして、女性に向き直る。
「そうだ。これだけのことをしておいて、君の名前をまだ聞いていなかったな」
露伴の言葉に、女性はかすかに微笑みを返した。
「──アイリン、そう呼んでください」
こうして、一連の奇妙な出来事は幕を下ろした。
露伴は新しいネタを手に入れ、アイリンと別れた。
彼女もまた得難い能力を持つものだ。いずれ時が来れば、再び出会う時もあるかもしれない。
「また会うことがあれば、次はあのメイクのルーツについて詳しく『取材』したいものだな」
いや、必ず出会うはずだ。何故なら、世界にはそういう『ルール』があるからだ。特殊な力を持つものは無意識に引かれ合う。露伴は劇場を去りながら、不敵に微笑んでいた。
サブタイトルは井上陽水の楽曲から