三日目の朝からいよいよ本戦だ。
たった三日間だったというのに長く感じてるし、ずーっとヴァルムントくんに会ってない気もする。
昨日どうしたの、大丈夫なの? って聞きたいし、気が立ってるんだったら話を聞いて労わりたい。
もやもやとした気持ちを抱えながら、今日もお兄様と共に馬車で闘技場へと向かっていく。
馬車内で隣にいるお兄様にヴァルムントについて話をしてみると、お兄様も聞いていたみたいだった。
「ヴァルがやっちまった件についてだろ? ちゃんと報告が上がってたぞ。おれはヴァルによくやったと言いたい! ……そんでもって不敬罪を消すのに賛成したが、お前に対してのものは残しておいてもよかったな」
「お兄様……」
「分かってる分かってる! ま、そのお前を侮辱してヴァルを怒らせたやつは、肩身が狭くなるだろうさ。いくら不敬罪がなくなろうと、とんでもないことを言ってた事実は消えない。仕事も何も受けにくくなるし、こっちも一切手助けもなにもしない。それが罰になるだろう」
相手についてはどうでもいいんだけどなー。
お兄様を侮辱してたとかなら別だけど。
おれが心配なのはヴァルムントくんなんだよ〜。
それが顔に出ていたのか、お兄様は「ん〜」と言いながら続きを言ってくる。
「確かにヴァルが怒ったからって、他の者に迷惑をかけるほどの技を撃つとは思えないな。……あー、本当に危なそうだなって思った時にはだな、お兄ちゃん目を瞑るからな。俺は妹が体調不良になったりして一時退席しても、大切な妹達の身が一番大事だから許せる男なんだぞ〜」
なんだかすごい遠回りなことを言ってるけど、要はヴァルムントがマジでやばそーって思ったら、体調不良なりなんなり言ってちょい席外しして会いに行ってもいいんだよ〜、と。
……で、いいんだよな? 妹『達』ってのも、おれとヴァルムントのことだろうし。
いくら身内しか聞いてないとはいえ、はっきり「行っていいよ」とは言えないんだろう。
とはいえ不安になってお兄様の顔を伺うと、お兄様はほんのり口角を上げて微笑んでいた。
多分、この解釈で大丈夫そう!!
おれはお礼代わりに、お兄様へギュッと抱きついた。
「……わたくし、過激な場面では席を外してしまうかもしれません」
「俺としてもそんな場面は見て欲しくないからな〜、席を外してくれた方が安心するな〜」
「ご迷惑をおかけするかもしれません。……ごめんなさい」
「カテリーネの為になるなら、迷惑もなにもない。それすら大歓迎だ」
お兄様もまたおれを抱きしめ返し、しばらくギュッギュとしているのであった。
「お兄様、大好きです」
「俺もだっ! カテリーネーッ!!」
◆
会場にたどり着くと、一日目よりも観客が熱狂し興奮している雰囲気が伝わってきた。
これだけ盛り上がってくれるとやっぱ嬉しいものがあるなぁ。
そして本戦開始前に、ちょっとした開会式のようなものが行われる。
本戦に出場する16名が一同並び、お兄様から言葉を受け取るのだ。
ヴァルムントにヘルトくんは勿論として、ラハイアーだったりホーウェもいた。
おれが知っている人は全員本戦への切符を勝ち取ったということである。
……予選でのヘルトくんの戦いも、見たかったなぁ。
ラハイアーやホーウェの戦いを見たことはないが、ゲームユニットキャラである以上は強いはずなので、本戦にいて嬉しかったりした。
それにラハイアーはユッタのこともあるからね。
階段のせいでぜいぜいしていたおれの息がととのってから席に入り、2人揃って手すり近くまで寄って立つ。
兵士さんが拡散の魔術を使った後に、お兄様が声を張り上げた。
「よく戦い、勝ち上がってくれた。ここまで戦い抜いた者達に、皆の者! 祝福の拍手を!」
お兄様の言葉によって会場の全員からワッという歓声と拍手が送られる。
おれも拍手しつつ出場者を眺めていたら、1番悪い意味で目についたのはツィールだった。
やっぱりおれ達のことを睨んでいるし結構不機嫌さが目立っている。
なんと言えばいいか……、キレキレしているオーラがすごいのだ。
そんな怒らないで、本当に許して……。
一方のヴァルムントくんはちょっと気難しそうな表情をしているくらいで、それ以外は普段通りだった。
こういう場だからピリピリしてるだけじゃない? って言われたらそう見えなくはない。
でも、でもなぁ。影差しているって言えばいいのかな。
深刻そうな様子に見えるから、出来れば会いたいんだけども……。
ガチでやばそうって判断したら会いに行くわ。うん。
多分兵士さん達もこっそり会いに行くのに協力して……くれるはず?
本当はいけないことなんだけど、それ以上にヴァルムントのことが心配だった。
勿論、行かないで大丈夫だってのが一番ではある。
そんなことを考えながらヘルトくんに視線を移すと、真っ直ぐにおれの方を見てニコッとしてくれたのでおれも微笑み返しした。
おれの癒し~~~!!
「これより、真の勝者を決める祭典を開始する! 栄光を手にする勝者の姿を、しかと目に焼き付けようぞ!」
そうしてお兄様の言葉が終わり、おれとお兄様は椅子に座っていく。
舞台上では、最初に戦う人物以外が全員捌けていった。
端にいる審判以外で残ったのはヴァルムントと拳闘士っぽい男性で、その人は拳にクローを装着していた。
ヴァルムントは魔術で遠距離攻撃ができるし、剣という拳よりもリーチの長い武器を使っているから一見有利そうではある。
けれどここまで勝ち上がってきた以上は、そう簡単にはいかないはずだ。
ゲームでも拳闘士いたしなあ。
スピードタイプの職で、結構くせのある性能だった記憶がある。
割と変な仕様してなかったっけ……?
2人は指定された位置に移動して審判による開始の合図を待つ。
それぞれ剣と拳を構え、審判の掛け声と共に動き出した。
「始めっ!」
「いざ参るっ!」
拳闘士が素早く駆け出し、姿勢を低くしながら真っ直ぐにヴァルムントへ向かっていく。
ヴァルムントは剣を振って氷の礫を飛ばして向かってくるのを妨害する。
予測していたのか拳闘士は礫が届く前に大きくジャンプをし、空中で拳から『気』のようなものを飛ばす連打をし始めた。
「烈打ァ!」
対してヴァルムントは後ろへと下がって避けると、拳闘士が着地するであろう部分へと氷を飛ばして上手く着地しにくい形をとる。
それにどう対処するのだろうと見ていたら、拳闘士は手から落ちる体勢にして氷にクローを刺し、倒立状態へともっていった。
腕でグッと勢いをつけて再び宙へ飛び、別の場所へと着地したのである。器用だ……。
ヴァルムントもいなされると分かっていたっぽくって、既に次の攻撃の準備をしていた。
自分とは反対側に氷の礫をいくつも作り上げ、左右同時に拳闘士へと襲いかかっていったのだ。
ヴァルムントを対処するよりも氷の礫を対処した方がいいと思ったのか、拳闘士は氷の礫に向かって『気』の砲撃をして打ち落とし、そちら側へと逃げ場を作る。
くるりと追ってくるヴァルムントへ体を向けて、再び拳の連打をして『気』を飛ばし始めた。
……な、なんか高度な戦いが始まりすぎて実況追いつかなくなってきたんですけど。
今までおれが見てたのは数分で終わったり、泥沼な戦いだったり圧勝だったりと、面白いには面白いけどここまで見応えのあるものではなかったんだよね。
達人同士の戦いってすげーと呑気に見ていたら、熾烈な争いの末ヴァルムントの勝利となる。
拳闘士の人は「我が身未だ至らず……」と悔しさを滲ませながらも、クローを外してヴァルムントに握手をしにいき、ヴァルムントもそれに応えていた。
ヴァルムントはまだピリピリとした雰囲気は纏っているものの、一応は大丈夫そうに見える。
一応ね、一応。なんかあったら爆発しそうな感じがしてならない。
不安に思ってお兄様を見ると、お兄様もう〜んという顔をしていた。
「お兄様……」
「確かにおかしく見えるな。……だが、今はまだ駄目だ。……分かるな?」
「……はい」
ものすんごく今行きたい。
でもギリギリ押し留めてる感じがするから、行ってもなぁなぁで終わる気がする。
ヴァルムントくん我慢しすぎなんだよ、も〜!!
なんだか大会中もやもやすることばっかりだと頭を悩ませながら、おれは椅子に座り直すことしかできなかった。