TS生贄娘は役割を遂行したい!   作:雲間

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XIV

 

 待機場となっている部屋にある椅子に座り、大きく息を吸ってゆっくりと吐くことを繰り返していた。

 私以外誰もいない故に、呼吸音だけが部屋の中で響く。

 

 ──大丈夫だ、問題ないはずだ。

 

 先程ホーウェと戦った際も、自身の思うがままに力を使えていた。

 ……だが、油断をしてはならない。

 次も落ち着いて試合をする為に体の緊張をほぐしていく。

 そして拳を握り、力加減を確認していたところでノックの音が響いた。

 次の試合の知らせとしては早すぎる。

 そう思いながら返事を返すと、カールの声が返ってきた。

 カールはいつも通り僅かに口角を上げながら部屋へと入ってくる。

 

「失礼しますー。ヴァルムント様、調子はどないです?」

「……何故ここに来ている。カテリーネ様の護衛はどうした」

「そのカテリーネ様とディートリッヒ様からの御命令できたんですわー。堪忍してください〜」

 

 両手を合わせて首を傾げてくるが、私に対してする仕草ではないと毎回思う。

 眉を顰めつつも何故ここにきたのかを聞いていく。

 

「お二方から承った命は?」

「ヴァルムント様が控え室にいるかどうかを確認してこいと」

 

 どうしてそのようなことを確認するのか分からない。

 眉間の皺を深めていると、カールが話を続けていった。

 

「カテリーネ様がヴァルムント様にお会いしたいそうですー」

「……今か?」

「はい」

「気持ちは嬉しいが、万が一カテリーネ様とお会いした事実が発覚すると、カテリーネ様の名誉に関わる。非常に申し訳ないが、断っておいてくれないか」

 

 私がそう伝えると、カールは呆れた表情を返してきた。

 はぁ〜と言いながら首を振り手を振り、半目で私を見つめてくる。

 

「ヴァルムント様、カテリーネ様はリスクを承知の上でお会いしたいって言うてるんですわ。どうしてか分かります?」

「……分からない」

 

 思考を巡らせたが全く答えが出てこない。

 カテリーネ様が不名誉を被ることなどあってはならず、……私がカテリーネ様とお会いしたいと思っても我慢をしてしかるべきだ。

 今日の大会が終了すれば問題なくお会いすることができるのだから。

 私の回答にカールは目頭を指で揉んでから息をつき、顔を上げて言ってくる。

 

「ヴァルムント様のことが心配なんですわ。カテリーネ様にディートリッヒ様は、ヴァルムント様の様子がおかしいことに気づいとります。ボクだってゲオフだって分かってました!」

 

 口を曲げ、不機嫌な表情でカールは私を見ていた。

 ……そんなに分かりやすい態度が出ていたのか?

 皆に心配をかけさせてしまったという事実に後悔をしながらも、心配してくださった事実を噛み締める。

 しかしながら、なればこそ尚更お会いしてはならない。

 私の不甲斐なさで不安に思わせてしまったのも、また事実だ。

 

「心配をかけてすまない。そしてカテリーネ様とディートリッヒ様へ、私が深くお詫びしていると伝えてくれ。次の試合では問題ない姿をお見せする」

「意地を張らないでいただきたいですわ……」

 

 肩を落として苦い顔をするカールに、私は言葉を続けていく。

 

「意地ではない。これは私が自分自身で解決すべきことであり、カテリーネ様のお手を煩わせるような問題ではないからだ」

「そういう話やないんです〜……。あ〜、ど〜言ったら良かったんやろ……」

 

 落ち込むカールの肩を叩き、早急に護衛へ戻れと指示をする。

 私のことなどよりも優先されるべきはカテリーネ様だ。

 

「ヴァルムント様! 何をそんなに恐れとるんです? 帰国の道中から訓練増やしたことに関係あります!?」

「それは関係ない。カテリーネ様の御身を考えてより一層の訓練が必要だと思ったからだ。いいから行け」

 

 腕を組み、カールが出ていくのを見守る態勢に入ると、カールは深いため息を吐いてから最後にこう言葉を残した。

 

「絶対にカテリーネ様を心配させるような試合をしちゃあきませんよ。ディートリッヒ様とライモンド殿に叱られて、カテリーネ様に泣かれることになるんですから」

「分かっている」

 

 カールは私の返事に納得がいっていない様子のまま、元の持ち場へと戻っていった。

 

 部屋に1人になり静寂が訪れると、思いっきり自分の頬を両手で叩いて気合いを入れ直す。

 

 ──心を、強く持たねば。

 

 思っている以上に力が強くなっていることに困惑をするのではなく、カテリーネ様を守る為の力を得られたと考えればいい。

 無力であるよりも、ずっといい。

 

 今一度深呼吸をして精神を整えていく。

 そうして係員が次の試合だと呼びにくるまで、私は静かに待機をしていたのだった。

 

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