TS生贄娘は役割を遂行したい!   作:雲間

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十一話

 

「ルチェッテ、カテリーネは……」

「大丈夫、大丈夫よラドさん。カテリーネさんは死んだりしない」

 

 ラドさんの腕の中にいるカテリーネさんをできる限り治療した後、黒龍が将軍によって倒されて死んだ時のこと。

 

「このお方をこの場所に留まらせるのは危険です。すぐ村を出て行ってください。……ライモンド殿、カテリーネ様のことをよろしくお願いします」

「ああ、わしがこの子を必ず守ってみせる。必ず……!」

 

 将軍はわたしたちに近寄り、カテリーネさんを眺めてから言って、血塗れのまま先に出て行ってしまう。

 

 確かにあのお婆さんが何をするのか分からないからカテリーネさんを村に置いておけないし、わたしたちはさっさと村から出ることになった。

 ……ヘルトはずっと沈んだ顔のままだ。

 

 何かよく分からないもので死んじゃうのを防いだっぽくても、カテリーネさんは血を流し過ぎていたし、回復魔法だけじゃどうにもならない。

 それにカテリーネさんは道中で発熱もしちゃって、すごく苦しい状態になっていく。

 早くちゃんと休ませてあげないと危険だということで、みんな疲れてるけども急いで近くの街へと立ち寄って、無理を言って宿へと入って一室に駆け込んだ。

 

「わたしとジネでカテリーネさんを見るから、呼んだらすぐに応えて欲しいの」

「分かっておる」

 

 それでいて血塗れのままだったから、わたしとジネで服を脱がせて軽く拭いてから着替えをさたんだけどビックリした。

 

「傷が、ない……?」

 

 カテリーネさんが自分で自分を貫いたのは、血が大量に出てたことからも確かなはずなのに。

 

 ジネが言ってた通り、将軍がカテリーネさんに持たせた物──曇ってる赤い宝石のネックレスが『何か』をしたせいなの?

 

 

 わたしが回復について詳しく学んで、沢山戦場で使うようになってから深く心に刻まれたことがあった。

 致命傷を受けてしまったら、どんな回復魔法でも元に戻すことはできないということ。

 

 回復魔法というものは、使用者の魔力の強さと魔法を受ける者の体の状態によって変化する。

 もちろん、魔力の強さでどれくらい回復するかが決まってくるんだけど、受ける側も『その魔法を受け入れられる体力があるか』も重要になるの。

 致命傷を負っていたら、その魔法を受け入れることもできなくなってしまう。

 だから回復魔法を使える人は、できる限り早く回復に走らなきゃいけないし、……もうこの人はダメだって判断も早めにつけなきゃいけない。

 

 最初は辛くて辛くて、毎日泣いてばかりで。

 でも泣いている間にもっと人を助けることができるんだって、気付いてからは泣くのをやめた。

 

 沢山沢山『経験』をしてしまって、今のわたしは判断がつくようになってる。

 だからカテリーネさんが負っていた傷は、どうやっても助からないほどの血の量だったと分かったし、脱がせた服に残っている貫かれた跡でもそうだと確信が持てた。

 

 けれどもカテリーネさんは生きてる。

 

 服などを片付けていたジネが、カテリーネさんの手からネックレスを取って眺めながらつぶやいた。

 

「こ、この、ネックレスなんなんだろう? す、すごく気になる。宝石に魔力の残滓は、あるけど……」

「気になるのは分かる。でも今は置いておきましょ。カテリーネさんの看病の方が先」

「う、うん」

 

 カテリーネさんの意識はずっと戻らず、その体は不調を訴え続けてる。

 看病を続けてある程度安定したら、馬車を借りてわたしたちの拠点に移動して、しっかりとした診察と治療を受けてもらわなきゃいけない。

 いくら学んだとはいえ、わたしは付け焼き刃でしかないし医者じゃないから……。

 

 ジネにカテリーネさんを任せて服も一応綺麗に洗い直そうとしたら、服のポケットから血で汚れてしまったコンペイトウの袋が出てきて、わたしは苦しくなった。

 カテリーネさんはきっと『最後の幸せ』って思いながら、大切に、幸せそうに食べたんだと思う。

 ……生きていれば、もっと食べることができる。

 コンペイトウ以外にもある美味しいものを食べて、違う幸せを知ってほしい。

 生贄になる為だけに生きてただなんてこと、あっちゃいけないよ。

 

 そうしてカテリーネさんが多少安定したところで、ラドさんたちに馬車を手配してもらい、わたしたちは数日かけて紅翼将軍ファイクリングを倒した時に手に入れた、解放軍の砦へと戻ることになった。

 ラドさんにカテリーネさんを運んでもらって、わたしはカテリーネさんの着用していたものを持っていこうとした時のこと。

 

「ごめん〜、ちょっとコレ貸してもらっていい?」

「あっ、セベリアノ駄目でしょ!! それカテリーネさんのなんだから……!」

 

 例のネックレスをセベリアノが手に取って眺め始めた。

 将軍が勝手にカテリーネさんへ渡したものとはいえ、一応カテリーネさんの物だと思うし……。

 ネックレスについてはジネと一緒にもう効力を失っているのは確認済みだから、今更色々見てみても特に発見も何もないはず。

 

「解放軍の者として一応さ〜、帝国軍からのものは確認しないといけない立場なんだよ〜」

「……そう言われると、そうね」

 

 セベリアノの言い分も分かる。

 『何もない』ということを確認しなきゃいけないんだってことくらい。

 だからそれ以上は言えなくて、ネックレスはセベリアノ預かりになった。

 ……あの時の将軍は解放軍とか帝国軍とか、そういうのを関係なしでカテリーネさんのことだけを想ってたから、解放軍になにかしようとかはないとは思っているけど。

 

 何日も馬車に揺られながらも、解放軍の拠点に辿り着き、いまカテリーネさんは医務室の個室で見てもらってる。

 容態が落ち着いてきたら、普通の個人に割り当てられる個室で休んでもらう予定。

 

 わたしたちも、ようやく羽を伸ばせると各々休み始める。

 看病で気が休まらなかったわたしは、自分の部屋に帰ってじっくりと寝倒した。

 起きた頃には夕方になってて、寝過ぎて気持ち悪くなった体を解そうと、拠点の屋外訓練所へと歩いていく。

 次第に剣と剣が激しく打ち合っている音が聞こえてきて、目的地の訓練所ではヘルトとナッハバールが手合わせをしているところだった。

 ……手合わせにしては、ヘルトが必死すぎている。

 

「やああああああああああ!!」

「おい、軸がブレ過ぎだぞヘルト!」

「ッ……! てやあああ!」

「あ〜、だからお前よォ……。おら!」

「ぐっ!!」

 

 ヘルトがナッハバールの剣に振り払われて、地面に体が転がっていく。

 体は何度も土に塗れたようで、服がボロボロになっていた。何時間もここで訓練をしていたみたい。

 ヘルトは仰向けになったまま、荒い呼吸を繰り返してる。

 

「ヘルト、大丈夫……?」

「おールチェッテ。お前からも少しは休めと言ってくれねえか。ま、今のコイツにゃ無駄かもしんねーけどよ」

 

 ナッハバールが、ほとほと困り果てた様子を隠さないで言ってきた。

 

 ……今のヘルトの気持ちは分かる。

 将軍に負けて、黒龍にも勝てなくて、死ななかったとはいってもカテリーネさんが犠牲になって。

 しかもわたしたちが傷一つつけられなかった黒龍は、将軍が簡単に切り刻んでみせた。

 将軍はいつか戦わなきゃいけない敵なのに、自分たちの実力はまだまだなんだって思い知らされた形になったんだから。

 

「ヘルト……」

「……つよく、なりたい」

 

 腕で目元を覆ったヘルトの声は、震えていた。

 

「僕が、……僕が強かったら、姉さんがあんなことにはならなかった」

「ヘルト、それはちが」

「違くないんだ! ……違くなんかない。僕は……弱いんだ……っ」

 

 どう、ヘルトに声をかけてあげればいいのか分からない。

 ナッハバールが大きくため息をついて、左右に首を振っているのが見えた。

 ぎゅっと服の端を握りしめる。

 

 わたしも、無力だった。

 

「ここにおったかヘルト!」

「ラドさん」

 

 ラドさんは焦った様子でこちらへと駆け寄ってきた。

 どうしたんだろうと見ていたら、ラドさんはわたしたちが待っていた言葉を告げる。

 

「カテリーネが目を覚ましたそうだ、行くぞ!」

「……っ!」

 

 その知らせにヘルトは飛び起きて、医務室へと駆け出していく。

 わたしたちもその後ろを追うように向かっていった。

 

「大きな声を出さないで下さい。そして興奮をさせないで下さい。カテリーネさんの体に響きますから……」

 

 医務室に入って、奥にあるカテリーネさんのいる個室に入る前に、医者である眼鏡をかけた黒髪のブラッツさんからの注意事項を聞かされる。

 当たり前のことだけど、改めて心に刻んでからみんなで個室へと入っていく。

 

 中では看病をしていたらしい看護婦のゼリンダがベッドの傍に立っていて、そのベッドには横たわっているカテリーネさんがいた。

 カテリーネさんはボーッとした目をしていて、まだ夢を見ているような雰囲気をしてる。

 ラドさんは扉の近くで肩を撫で下ろし、ヘルトは恐る恐るカテリーネさんの近くまでいくと、小さな声で言葉をかけた。

 

「……リーネ姉さん」

「……、……へ、ると、く、ん?」

「う、うん。僕だよ、ヘルトだよ」

「ど、し……て、わた、……し、……?」

 

 カテリーネさんは生きているのが不思議だ、という感じだった。

 普通はあんなの生きてる訳ないから、当然の疑問だと思う。

 カテリーネさんが小さく咳したのを見て、ゼリンダが慣れた手つきでカテリーネさんに水を飲ませた。

 水を飲み終えたのを見てから、ヘルトが話を続けていく。

 

「姉さんは助かったんだ。助かって、黒龍も倒されたんだよ。……だから、だから姉さんが犠牲になることはもうない。姉さんは巫女に縛られないで、自由に生きていいんだよ……!」

 

 ヘルトがカテリーネさんの手を握り、事実を伝える。

 カテリーネさんはその事実を理解する為になのか、ゆっくりと瞼を閉じて開いてを繰り返した。

 一呼吸を置いてから、おもむろに口を開く。

 そして、彼女の口から放たれた言葉は。

 

「死ぬ……、べきでした」

「……え?」

「巫女と、して、生きている、のは、生き恥……う、く……っ」

「カテリーネさん! ゆっくり、ゆっくりしてくださいね〜。大丈夫ですから〜」

 

 苦しみ始めたカテリーネさんを抑えようと、ゼリンダが声をかけ始めた。

 それに合わせてナッハバールとブラッツさんが、衝撃を受けているラドさんとヘルトの肩を叩いて、部屋から出るのを促していく。

 わたしも足の感覚のないまま部屋を出て、全員出たところでブラッツさんが重苦しい雰囲気の中で口を開いた。

 

「……ラドさんから伺った状況を考慮すると、彼女は強迫観念状態にあるかと」

「強迫観念だあ?」

 

 ナッハバールが訳わかんねえ単語を出すなよと、ぼやきを入れてくる。

 

「我々からすると、彼女の儀式は成功しています。黒龍も倒されているのです、本来の黒龍を弱めるという目的を超えてすらいる。しかし彼女にとっては『死ぬまで』が儀式だと思っているんです」

「そんなんおかしいじゃねえか。黒龍が死んで、自分が生きてる方が一番いい結果だろ?」

「ええ、そうです。それなのに、カテリーネさんは自分が死ぬことこそが儀式の完遂だと思い込んでしまっている。……『そういう教育』をされていたからでしょう」

「過程と目的が逆転してんじゃねえか! なんで……ああ、ったくよ……」

 

 あのお婆さんのせいなのだとすぐに分かった。

 ずっとずっと使命なのだと、やるしかないのだと言われて、巫女としての役目なのだと言い聞かされて、秘密の儀式だから相談するにもできなくて。

 わたしが想像するだけでこんなにも苦しいのに、一緒に過ごした時間が多かった2人はもっと苦しい想いをしているはずで、ラドさんは目元を片手で覆い、ヘルトは医務室を走って出ていってしまった。

 

「少しずつ、意識改革を進めて行く必要があります。沢山話しかけて、生きる希望を本人が見つけられるように導いてあげなきゃいけません」

「わしが、わしが分かってやれば……」

「あ〜……。これからだろ、ラドさん。……こっからだ」

 

 気まずそうながらに、ナッハバールがラドさんを慰めている。

 

 どんな言葉を伝えるのが正解なのかは知らない。

 でもそのままでいられなくて、わたしはヘルトを追いかけることにした。

 

「ヘルト!」

 

 色んなところを駆け回り、色んな人に居場所を聞いてたどり着いた場所は、紅翼将軍が治めている街を一望できる丘で。

 ヘルトのお父さんは、ここで街を眺めるのが好きだったとラドさんから聞いていたからなのか、ヘルトもかつてのお父さんのように、街を眺めるように佇んでいる。

 

「……ヘルト」

「ルチェッテ、僕は。……僕は、……もう、ぐちゃぐちゃだ」

 

 わたしはヘルトの左側に立ってから、右手でヘルトの左手を取って握り、同じように街を眺める。

 もう辺りは暗くなっていて、街中では明かりがどんどん灯っていっていた。

 

「リーネ姉さんに、平和に暮らしていて欲しかった。それだけだったのに」

「……うん」

「僕がしてきたことは、間違ってたのかな」

「そんなことない! それだけは絶対にない!」

 

 ここまでヘルトが頑張っていたのは間違いなんかじゃない。

 隣でずっと見てきたわたしだから言えることだ。

 掴んでいた手をもっと強く握って、そうじゃないという気持ちを伝えていく。

 そして走り回っていた時に、まとまった考えを言葉にする。

 

「……わたし、分かったの。皇帝を叱りにいけばいいんだって」

「……え?」

「あのお婆さんが言ってたじゃない。『皇帝陛下の命により』どうたらこうたら〜って。つまり、あんなことになったのは皇帝のせいじゃない」

「う、うん」

「だからカテリーネさんが怒ることができない代わりに、わたしたちが怒ってやればいいのよ」

 

 将軍が黒龍を倒すことができたんだから、もっと他の人たちに助けを求めればよかった話だとわたしは思った。

 つまりこの件は、皇帝の怠慢なんだって結論付けたってこと。

 胸を張ってそう主張すると、ヘルトはわたしの手を握り返して大きく頷いた。

 

「……そうだね、そうだ。きっと姉さんは叱れないから、僕が代わりにやらなきゃ」

「そうよ、その意気よ! ……その為にもわたしたち、もっと強くなろう」

「うん。誰よりも強く、ならなくちゃ」

 

 わたしがもっと強く手を握ると、ヘルトも同じように強く握ってくれる。

 

「僕たちは、もう誰にも負けない人になるんだ」

 

 ヘルトは涙に濡れた声で、そう宣言をした。

 

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