兵士さんからの報告を聞いたお兄様は、少しだけ考え込む仕草をしてからすぐに会場に向かって叫んだ。
「すまないが中止だ! 止まってくれ!」
会場全体が突然の中止命令にどよめいている。
一方当事者である二人は剣へと力を込めるのをやめ、冷静な態度でお兄様へと顔を向けていた。
「大型魔物の発生が確認された! 我が国では初めて見る魔物の為、万が一に備え二人の力を借りたい! 我が国の守護を担う人物を見つけ出す大会である故に、勝ち上がったこの二人が立ち向かうのは最適といえよう!」
大会をするにあたって国の護りを疎かにしてはいけない。
当然ながら大会に参加しない人達は国の警備をしているので、大型魔物が発生したとしても対応できなくはない体制のはずだ。
それでもお兄様が二人に要請をしたのは、国を護るという大会の主旨を考えてのことだと思う。
この大会の裏で大型魔物発生していて対応を裏がしてました〜って、何の為の大会だったの? って本末転倒になってしまう。
訓練されている兵士といえど、大型魔物に立ち向かうには怪我が避けられない常識だ。
ましてや初めて見る魔物だなんて弱点が全く分からないから、死んでしまう可能性がグンと上がってしまう。
他に有力な人も行った上で、それ以上に死傷者の数を減らせるはずのヴァルムントやヘルトくんが行く方がいいってのは当たり前だ。
二人が負けるヴィジョンが見えないし……って、なんかフラグ立てる言い方みたいで嫌だな。
おれは二人を信じてるって言いたいの!
「……二人共、話した通りだ。行ってくれるか?」
「無論です」
「はい、向かいます!」
しっかりと頷いた二人を見て、お兄様もまた頷きを返す。
「では案内の兵についていってくれ。……この場にいる全ての者達よ! 我らの為に敵へ立ち向かう。二人に激励を!!」
惜しみない拍手と応援の言葉が送られ、案内役として出てきた兵士さんに二人はついていく。
対しておれができるのは、ただただ名前を呼んで祈るだけだ。
「大会についてはここで終了とする! 後日に討伐した魔物を周知として一時的に展示する予定だ! その時に、二人や対応をした兵士達を讃えてくれないだろうか!」
お兄様の言葉に呼応して大きな声が上がっていく。
大会が中断されて結末を見られなくて不満がある人もいるだろうけど、誰しも安全が一番であると普段の魔物による被害や戦争で身に染みているからか、あまりそういう声はかき消されて聞こえなかった。
お兄様が下がっていき、観客を少しずつ退場させる為のアナウンスが入る。
一息をついたお兄様はおれに視線をやって手を伸ばした。
「そういうことだ。俺達には今ここで出来ることはない。帰って討伐隊の報告を待とう」
「……はい、お兄様」
お兄様もおれと同じように歯がゆい思いをしているのが伝わってくる。
差し出された手を握って立ち上がると、お兄様へぎゅっと抱きつきにいった。
「大丈夫です、お兄様。ヴァルムント様とヘルトくんがいるんですから」
「ああ、そうだな」
お兄様もまたおれを抱きしめ返してから、手を繋いだまま護衛や侍女さん達を伴って城へと戻ろうと一緒に歩いていく。
「……不確定の情報になるが、詳細を聞くか?」
「ここで聞いてもよろしいのですか?」
「あぁ。お前や他の者の意見も聞いておきたくてな」
おれが出せる意見はないと思うけどな~と思いつつも、聞いてみたいのは確かなのではいと返事をすると、お兄様は若干首を傾けながら語り始めた。
「お前達はゲンブルクの関所で、新種らしき大型魔物を討伐したんだよな?」
「はい。……まさか」
「報告にあった蜥蜴型っぽいやつだった。実際に同じかどうかは、ヴァルムントが見たら判別できるとは思うんだがな」
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決勝は確認しなくとも良いと思い『視ていた』のをやめ、自分の目の前にある光景を見る。
平原の遥か先に位置する帝都が見え、自身の横には試作品の中で一番出来の良いモノが静かにボクの指示を待っていた。
ほぼ黒と言っていいほどの鱗に覆われたソレの瞳は、どこを見ているか分からない淀んだ橙色をしている。
短い手足であるのに意外と速いところは気に入っていた。
──もっと完成したら近づいてくれるのだろうか?
そんな夢の先を思いながら、ソレの胴体付近に手をやる。
「さぁ、行っておいで。存分に暴れてきてよ」
ボクの命令に従ってソレは緩慢に一歩前へと動き出す。
二歩、三歩と歩数を重ねていく度に、歩く速度は走る速度へと変わっていった。
そうして帝都と同じく小さくなっていくソレを『視る』対象にする。
視界はあまり良くないが、結局のところ力試しでしかないので状況さえ分かればいい。
ソレの威力と相手方の実力が測れれば、何も問題はないのだ。
ボクは軽く笑い、ぶつかり合う時を静かに待ち望んだのだった。