城に戻っても落ち着きのないおれを心配してか、お兄様が休憩室で一緒に待機してくれることになった。
城の入口に程近い場所で、報告を早く受け取りやすい。
なんでそんなにそわそわしてるかっていうと、こんなのゲームになかった展開だからである。
根本的にゲームの大前提が崩れてるから、ないことが起こるのは当たり前だろうけどさ!
今までだってゲームにないことはあったのにね!
自分でも不思議だ、なーんでこんなに焦ってるんだか……。
待っている間、お兄様は代わる代わる来る兵士さんと色々な打合わせをテーブル席でしている。
一方のおれは何も出来ず、ソファに座り膝の上に両手を組みながら待つことしかできない。
しかもリージーさんがせっかくお茶を淹れてくれたのに、全く手が伸びなかった。
そうやって過ごしているうちに、慌てた様子の兵士さんが入ってきたのを見て席を立つ。
多分、おれが待ち望んでいた報告をする人だ。
その兵士さんは礼をした後、お兄様から了承を得て報告をし始める。
「報告いたします! 推定エイデクゥと見做される大型魔物は、ヴァルムント将軍とヘルト様によって討伐されました!」
「死傷者は?」
「大怪我した者が複数おりますが、死者は出ていません!」
「……そうか、それならよかった」
お兄様が深い安堵のため息をつくのと同時に、おれもため息をついた。
ほんとよかった……、死んじゃうだなんてことはない方がいいからね。
……へ、へっへー! 流石おれ達のヴァルムントとヘルトくんだわー! はーっはっはっは!
「将軍と共に向かった兵は、大型魔物の処理と怪我人の搬送を担当しております。怪我人は大会の為に待機しておりました衛生兵がおりますので、闘技場にて治療予定です」
不幸中の幸い……ってやつ?
頭回ってなくって考えが及ばなかったけど、おれだけでも残っておいた方がよかったな〜……。
なんて反省をしていたら、兵士さんがすごい気まずそうな顔をしておれの方を向いていた。
「……どうかされましたか?」
「あの……、信じていただけないかと思うのですが……」
「はい……?」
なんだその前置き。
小首を傾げながら兵士さんが続きを言うのを待っていると、本当に信じられない言葉を繰り出した。
「その、……ヴァルムント様も怪我を負っていらっしゃるのですが、カテリーネ様からしか治療を受けたくないと仰いまして……」
怪我をしたのは心配ではあるんだけれども……。
……ぱ、ぱーどぅん? ほわっつ?
それ本当にヴァルムントくん?
マジであのヴァルムントくんのことを言ってる?
呆然として口を開けたまま言葉を失っていると、お兄様が頭を掻きながら確認をした。
「あー……、あ? 俺の知ってるヴァルムントなら素直に治療を受けるし、カテリーネに治療を受けるのは畏れ多いってなるはずなんだが……」
「ま、間違いなくヴァルムント将軍です……」
「すまん、お前を責めたい訳じゃないんだ」
ごめんごめんと謝るお兄様の横で、ひたすらどういうことかを考えまくった。
いや、うん、え? いやいやいや?
恋人にしか治療されたくない! なんてあのヴァルムントくんが、え?
いやいやいやいや……。
噂みたいに変な尾鰭ついてないか?
そうでないなら絶対に何かある、何かあるって!!
背中に謎の汗をかきながら、おれは兵士さんに近寄っていく。
「分かりました、ヴァルムント様のいる場所に向かいます。案内をお願いできますか?」
「はっ、はい! 勿論です!」
お兄様にいいよね? と目線を送ると、困惑したままOKをしてくれた。
護衛と侍女さん達を連れて馬車に乗り闘技場へと戻っていく。
馬車内にはリージーさん、相談したくてカールさんも一緒に乗ってもらうことにした。
「……それホンマにヴァルムント様、なんでしょうか?」
話をしたら完全に調子を崩したカールさんになった。
やっぱそうなるよね……。
カールさんは何度も目をパチパチとさせてから少し考え込んだ後、「仮定になりますけど」と話し始めた。
「治療をされたくない『何か』が起こったんやと思います」
「治療されたくない……?」
「その『何か』を他に知られたくないんで、カテリーネ様にお願いをされたのかと……」
カールさんの考える仮定があっていれば納得はいく。
兵士さん達に知られるとまずい『何か』があるから、おれを呼ぶ形しかとれなかった。
治療を受けないって言い続けるのも不自然だし、おれ自体は丁度いい隠れ蓑にはなると思うんだけどもさ。
……もう少しまともな言い訳あったと思うよ!?
普段のヴァルムントくんを知ってる人からしたらどうしたの!? ってなるし! なってるし!
真相はすぐに明かされるであろうとはいえ、絶対コレ「ヴァルムント将軍は恋人にメロメロ☆」みたいな噂が立つ。
おれ流石に学んだよ……。
ツィールの時にした宣言も合わせて、バカップルみたいに思われるんだろうなぁと遠い目をするしかなかった。