大会があってから大体半月後ぐらいの日。
元帥就任やらエイデクゥについてだとか、諸々の処理がある程度落ち着いた隙間を狙って、おれはヴァルムントと一緒にお兄様の執務室に来ていた。
大事な話だからと護衛の人達には部屋から出ていってもらっている。
正真正銘、おれ達三人だけの空間だ。
おれの隣にヴァルムント、正面にお兄様という位置でソファに座っている。
話す内容が内容だから緊張していると、まだ何も言っていないのにお兄様まで神妙な空気を纏っていた。
なおヴァルムントくんは平常運転である。
おれはひとつ息をついてから、口を一文字にして目をパシパシしているお兄様に声をかけた。
「お兄様、お時間ありがとうございます」
「……ああ。お前達の為なら俺はいくらでも時間を作るぞ。嘘じゃないからな、俺は本気だからな!」
どうしてそんな必死なんだお兄様? 完全に全身ガンギまっている。
戸惑っていると、ヴァルムントくんがすごく気まずそうな顔をしながら口を開く。
「ディートリッヒ様。解決すべき問題が解消されておりませんので、私はまだ時期ではないと思っております」
「ほっ、本当か? ……いや、まて、おおおおおおお俺は、俺は! 反対しないぞ! しない! だから遠慮なく言ってくれていいんだぞ!!」
「遠慮などではございません」
お兄様はその言葉にもう一度「本当に?」という視線を投げ、ヴァルムントが頷いたところで張っていた肩を撫で下ろした。
……と思ったら素早く立ち上がり早足でおれの真横に来て、座ると同時に強く抱きしめてきたのである。
「おおおおおおおおおお兄ちゃんはぁ!! おっ、お前達がそろそろ結婚をしたいと言うのだと思ってぇえええええ……」
ガラガラ声でえぐえぐとし始めたお兄様を抱きしめ返しながら、取り乱した様子に納得をした。
大事な話だって言ったから勘違いしたのか!
そう考えるのは当たり前だよなぁ。
けど結婚の前に対応しなきゃいけない問題が山ほどあるし、おれはまだお兄様の傍にいたいし、そもそもタイミングが今じゃないことは明白だし……。
ただでさえ忙しい中に結婚のアレコレぶっこむのは空気読めてなさすぎる。
……結婚なんて勢いでしょ、とかの意見は知らん。
結婚したいって言った時とは違って冷静になるとさ、立場とか行事とか考えるでしょ、そりゃ。
申し訳なさと恥ずかしさの感情がごちゃまぜになりながらも、お兄様を宥めてから本題に入ることにした。
「んん、すまんすまん。それで、大事な話とはなんだ?」
元々座っていた場所へ戻ったお兄様に、ヴァルムントの体に異変が起こっていること、おれの禁術のせいかもしれないから婆様に話を聞きたいこと、オプファン村に禁術に関する情報が残っていないか調査をお願いしたいのを話していく。
ちなみにゲームでの婆様は、黒龍イベント後に村へと戻らずどこかへいった……とかだった気がする。
トラシク2でも言及なかったはずだし、今も村にはいないんじゃねーかなぁ。
そうしておれとヴァルムントが話している間、お兄様は真剣な表情で聞いてくれた。
「……つまりだ。ヴァルムントに起こっている異変の原因が禁術のせいかもしれないから、禁術に関する情報を探りたいってことでいいな?」
「はい、お兄様」
「ん〜、そうだな〜……」
お兄様は背もたれに背中を預けながら、上を見上げながら片手で顎を触り始めた。
「カテリーネがかけた禁術が原因ではないかもしれないが、今探れるのはそれしかないか」
そうなんだよねー。
ヴァルムントに禁術などの類をおれ以外から掛けられた心当たりがない以上、探る手がかりはおれの禁術くらいしかない。
お兄様は眉を顰めながら、あまり言いたくなさそうな感じで言葉を続ける。
「その……、……カテリーネは、……」
「……どうかなさいましたか?」
「あー……。その、カミッラが恋しいか?」
これどういう意図で婆様について聞いてるんだ?
お兄様のことだから、おれが婆様のことを家族として恋しいんじゃないかって思ってたりする?
まー情がないかって言われたらなくはないけど、お兄様と比べたら天と地の差がある。
おれは頑張っているお兄様に報いたいし、家族としてすごく愛してくれるお兄様が大好きだ。
だからそこまで気を使わないで欲しいんだよな。
「今どうされているのかは知りたいです。ですが、わたくしの家族だと思っているのはお兄様ですよ」
「かっ、カテリーネっ!!」
お兄様は感極まって再び立ち上がりこっちに来ようとしてたが、違う違うと首を横に振って座り直した。
「すまんすまん。……とにかく、だ。俺の方にもカミッラやオプファン村についての報告は来ているが、一度情報を精査する必要がある。他の原因があるかも探らせてみるから、また後日に話をする方向でもいいか?」
「大丈夫です」
「私も問題ございません」
急に話をしたから準備ができていないのは当然だ。
出来る限りちゃんとした情報を話したいという気持ちも分かるし、なによりヴァルムント自身に関わってくる出来事なので、慎重に進めてくれるのはありがたい話である。
早くヴァルムントの体を戻してあげたい気持ちはあるけれど、ろくな手がかりがない状態では動くに動けない。
歯痒いけどな! どうにもならないものはどうにもならんし。
そうしてヴァルムントに起こった出来事は伏せ、お兄様から改めて後始末の為の調査という形で部下の人達へ命令が下ったのだった。