TS生贄娘は役割を遂行したい!   作:雲間

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 私とカテリーネ様がオプファン村に行くのは2週間後と決まった。

 城内にある私に割り当てられた部屋で、出発に向けた様々な調整対応をしていたのだが、気が付けば夜深くまで作業をしていたようだ。

 この時刻にカテリーネ様の下へ行くのは憚られ、凝り固まった体を解すべく訓練場と足を向けた。

 警備兵に声掛けをしつつ、最低限の灯りだけが照らす目的地へ辿り着く。

 普段ならば誰かしらが鍛錬をしている場であるが、今は静寂が全てを支配していた。

 真ん中辺りまで移動し、腕や脚を伸ばして適度に体を緩めてから剣を抜く。

 波立っていた精神を落ち着かせ、無心で剣を振るう。

 制御しにくくなっていた予想外の力も、完璧とまではいかないがある程度制御できるようになっていた。

 再び自分の体に異変が起こらないと限らないが故に、今後も気を引き締めていかなければ。

 そうして数分間ひたすら打ち込んでいると、このような時間にも拘らず訓練場へとやってくる人の気配を感じた。

 殺気などはないが、このような時間に来るのは誰かと出入口へと顔を向けると、予想外の人物が姿を現す。

 

「あっ、将ぐ……じゃなくて元帥。本当にいた」

「……ヘルトか、どうしたんだ?」

 

 愛嬌のある笑顔を浮かべながらヘルトが私の近くへと寄ってきた。

 最近のヘルトは領主となるにあたり、多種多様な対応に追われている。

 元からある程度の通りを理解している私よりも覚える物事が多く忙しないはずなのだが、一切疲れた様子を感じなかった。

 どこかで元気の糸が切れたりしないか心配ではある。

 

「あの、今度将……元帥は、黒龍について調べる為にリーネ姉さんと一緒に村へ行くんですよね?」

「……ここには誰もいない。公の場でない限りヴァルムントでいい」

「い、いいんですか?」

「変に畏まらない方がこちらとしては楽だ」

「じゃぁ……、ヴァルムント」

 

 はにかみを見せながらも素直に言ってくるところが人に好かれる所以であり、解放軍の主導者としても相応だったのだろう。

 そのようなことを思いながらも、話を聞こうと剣を収めた。

 

「村に行くが、どうした」

「ラハイアーって分かりますか?」

「ああ。戦闘に関して目を見張るものがある男だな」

 

 今回も同行予定の人物であり、穏和な雰囲気で人と仲良くなるのが早い人物だった。

 指示することはあれど会話という会話はしたことがない為、私からの印象はこれに尽きる。

 

「……うん。戦闘の才能はいいんだけどね。いいんだけど……」

「何か問題があるのか?」

「えーっと……。大丈夫だと思うんだけど、ラハイアーから変なこと持ちかけられても断ってね。絶対。その、持て余してる物がないかとか……」

 

 言っていることがあまり分からなかったが、不可解だと感じた提案は応えなくてよいという解釈をし頷きを返す。

 

「ありがとう。それとは別に、ラハイアーに関してお願い事があるんだ」

「なんだ?」

「大会以来、ラハイアーはずっと暗くなってて……。誰にも原因を話してくれないから、ヴァルムントから聞いてみて欲しいなって思ったんだ」

「何故私に? こういった役目は私よりもヘルトが適任ではないのか?」

 

 私は荒事や戦闘、歴史などは望まれている回答がしやすいと思っているが、それらに関連していない物事については相談相手として相応しい人間ではない。

 実際何度か似たような場面で対応をした時に、心底自分は向いていないと感じたからだ。

 渋い顔をしていると、ヘルトは重心を横にずらしながら腕を組んで口を尖らせた。

 

「僕からも聞いてみたよ。でも、話してくれなくて……。ラハイアーは僕をユッタと同じように扱っているから、余計に言えなかったんだと思う」

「ヘルトとあの子が同じ……?」

 

 ユッタはカテリーネ様の侍女をしている小柄な者だったはずだ。

 ヘルトとは到底結び付かずに首を捻っていると、追加の言葉が入った。

 

「うーんと、僕はユッタと年齢がそこまで変わらないから、かな」

「……言いたいことは分かった」

 

 年下相手には言いにくいのだと察した。

 ラハイアーの年齢は知らないが、容姿から十分な大人であることは分かる。

 

「確認だが、他の仲間ではいけないのか?」

「ナッハバールとかトレフェンでも駄目だったんだ。この二人が無理なら、僕達からじゃ話を聞くのは厳しいかなって」

 

 ナッハバールは粗野に見られがちであるが、面倒見が良く慕われている。

 トレフェンは貴族の身でありながらも前皇帝の非道さを止めるべく解放軍に入り、その誠実さで信頼を得ていった者だ。

 概ね相談事を受けやすい人間で対応できなかったのであれば、ヘルトが駄目だと言うのは無理もなかった。

 

「……私にできるのは率直に話を聞くだけになる。それでもいいか?」

「うん、それでいいよ。ありがとう」

「気にするな」

 

 同じ国を護る人間であり、心根の良い人間だ。

 そして、私が持ち得ない『良さ』がある。

 眩しさを覚えながらも、手助けをしたいという気持ちがあるからこそ受けることにした。

 

「そうだ、僕の方でもヴァルムントに起こった変化について調べてるからね。……僕だけで探してるから、あんまり進まなくって」

「秘匿しながら一人で調査をするのは難しい。その上、忙しい中で私の問題を解決しようと動いてくれている事実が何よりも嬉しい」

 

 そう伝えると、ヘルトは若干目を見開かせてから満足げな笑みを返した。

 

「……うん! あっ、そうだ。噂で危なそうな魔法使いが来てるかもってのを耳にしたんだ。セベリアノにも連絡したし、勿論ヴァルムント達は大丈夫だと思ってる。でも気をつけてね」

「情報を頭に入れておくだけでも違う。助かった」

「どういたしまして! ……最後にひとついい?」

「かまわない」

「一本戦わせて欲しいなって!」

 

 私は返事の代わりに剣を抜き、ヘルトを見据える。

 ヘルトも同様に剣を引き抜いて構え、合図もなく戦いが始まったのだった。

 

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